ナタリー PowerPush - WWW1周年記念対談 臼田あさ美×前野健太
「錆とチョコレートと臼田あさ美」ができるまで
弦の錆びた匂いとチョコレートに似た木の匂い(臼田)
──今回のイベントには「錆とチョコレートと臼田あさ美」という印象的なタイトルがついています。
臼田 今回のイベントに携わっているスタッフの皆さんと話しているときに「フォークってなんだと思いますか?」という質問をされたことがあって。私はそのときまずアコースティックギターがパッと浮かんで。趣味で弾いているアコースティックギターがあるんですけど、それを持つと弦を替えていないからか(笑)、弦の錆びた匂いと、チョコレートに似た木の匂いがするんです。それで「錆とチョコレート」って答えたんですね。
前野 すごくいいタイトルですよね、「錆チョコ」。
──このタイトル自体がひとつの歌のようにも感じられますよね。
前野 そうそう。臼田さんは歌詞を書きたいと思ったことはないんですか?
臼田 ないですね。前に日記を書いていた時期があったんですけど、日記の文章がおかしくて、ちょっとポエムみたいになっちゃってて。ホントに恥ずかしいので誰にも見せられないし、二度とそんなことはしないほうがいいと思っています(笑)。
前野 僕は詩ってその人の本質がすごく出ると思っているので。臼田さんのポエム、気になりますね!
臼田 ポエムとも呼べない内容です(笑)。
前野 それを「錆チョコ」で朗読するのはどうですか?
臼田 絶対ダメです(笑)。
前野 残念です(笑)。
WWWは音の良さがすごい(前野)
──このイベントはWWWのオープン1周年を記念するものでもあります。前野さんはWWWというハコの魅力をどのようなところに感じていますか?
前野 「ファックミー」というアルバムのレコ発もWWWでやらせていただいて。このハコはすごいですよ。まず、音がいい。これはホントにぜひ多くの人に体感してもらいたいです。いいライブをしてこっちが「よっしゃ!」ってなっていると、お客さんがそれ以上に喜んでくれている。それは出ている音の良さによるところも大きいと思います。あとは、ライブハウスとして贅沢なムードがありますよね。清潔感があるのに、ちゃんとロックな感じのライブをやれる。フロアが段々になっているから、お客さんと向き合うプレッシャーはすごいんですけどね。でも、そこに向かって歌を打ち込んでいくという、お客さんとの闘いもできるのがいいですね。
──では、おふたりにとって弾き語りならではの魅力とは?
臼田 なんだろう……私も前野さんに聞いてみたいです。1人でやる弾き語りとバンドでは感覚が違いますか?
前野 全然違いますね。バンドは楽しいんですよ。でも、歌にグーッと入っていけるのは1人のときかもしれないですね。1人でギターを持って歌うっていうのは、歌というものの本質にすごく合っていると思います。そういうライブをパッとどこかのお店に入って観られたらすごく贅沢なことだと思うんですよね。だから、俺は1人でいい歌を歌う人がもっといっぱいいたらなって思う。ふと今日誰かの歌を聴きたいなと思ったときに、あそこに行けばあの人の歌が聴けるとか、そういうことがもっとあってもいい。
臼田 ああ、素敵ですね。
前野 1人で歌う人には孤独な色気がありますよね。僕もお客さんとして金を払ってそれを味わいたいと思う。そういう意味でも「錆チョコ」はホントにいい企画だと思うので、ぜひシリーズ化してほしいって思う。臼田さん……偉いね!
臼田 いやいや(笑)。
歌を聴きながら自分自身を観ることができる(前野)
──ホントにこれ、すごく貴重なイベントだと思います。
臼田 そうですね。私もこの3人の弾き語りを一度に観られるのはすごく贅沢なことだと思います。一概には言えないですけど、弾き語りライブって、学校の友達とかとみんなで「行こうぜ!」ってなる感じではないと思うんですよ。
前野 うんうん。
臼田 だから、興味があっても行くきっかけがない人もいると思うし。そういう意味でもこのイベントが、何かしらのきっかけになればうれしいですね。でも、やっぱり一番シンプルな動機としては、私が純粋にこの3組のライブを観たいということに尽きるんですけど(笑)。
前野 いや、それが一番大事なことだと思いますよ。
──前野さんはどんな夜にしたいと思っていますか?
前野 当日はもちろん、ちょっと錆らせた弦を張っていきます。前日のリハでガンガン汗かいて、そのまま錆らせて、そこにチョコもちょっと塗って。
臼田 あはははは(笑)。
前野 でも、今ね、話しながら、たった1人でステージに立つ歌い手のライブを観る良さを思い出していたんですけど……お客さんも歌を聴きながら、自分自身のことを考えることができると思うんですよ。自分自身を観るというかね。で、歌い手は、語り部のようにお客さんに向かって歌う。あの時間って、僕は大事だなって思いますね。「錆チョコ」もそういう夜になればいいなと思います。
──では、臼田さん、最後にナタリー読者に一言お願いします。
臼田 はい。ぜひ遊びに来ていただいて、静かないい夜を過ごしていただければなと思います。友達もいなくてもいいし、何も持ってこなくていいと言いたいですけど……お金は必要ですよね(笑)。でも、手ぶらでもいいと思うんです。このイベントに来たら、1対1で向き合える歌があるので。
前野 ああ、手ぶらっていいですね。「手ぶら特典」みたいなの考えましょうか?(笑)
WWW 1st Anniversary「錆とチョコレートと臼田あさ美」
前野健太(まえのけんた)
1979年埼玉県生まれ。2000年頃より作詞作曲を始め、都内を中心にライブ活動や自宅録音を精力的に行う。2007年9月に1stアルバム「ロマンスカー」、2009年1月に2ndアルバム「さみしいだけ」、2011年2月に3rdアルバム「ファックミー」をリリース。2009年には松江哲明監督のライブドキュメンタリー映画「ライブテープ」で主演を務め、同作品は第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞する。2011年12月には同じく松江監督・前野主演による新作映画「トーキョードリフター」が公開。