「Mela!」の大ヒット、初の日本武道館公演の開催、「NHK紅白歌合戦」への初出場……ここ数年で順調にステップアップを重ねてきた緑黄色社会。かねてから目標に掲げる“国民的存在”への道のりを着実に歩み続け、リョクシャカという存在はすっかり世間に定着したかのように思える。しかし4人の存在や音楽性が広く知れ渡ったこのタイミングで発表されたアルバム「pink blue」は、バンドが持つパブリックイメージを覆すような野心に満ちた意欲作だった。長屋晴子(Vo, G)曰く“革命”というほどのチャレンジングな作品がなぜこのタイミングで世に放たれたのか。4人へのインタビューを通して、「pink blue」という作品の在り様を紐解いていく。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 竹中圭樹
革命ってこういうことだと思う
──新作「pink blue」は、1曲目の「ピンクブルー」からして複雑かつ遊び心満点の80's風ポップという感じで、非常に驚きました。それ以降もアルバム全体を通して、これまでの緑黄色社会像を刷新するような斬新さと冒険心を感じさせます。まずはお一人ずつ、本作を作り上げた今の気持ちを聞かせてください。小林さんはいかがですか?
小林壱誓(G) 僕ら自身も「挑戦したな」と思うアルバムですね。例えば「ピンクブルー」のような曲をリードにするって、今まではやってこなかったことなんですよね。こういう長屋のパーソナルな部分を出した曲は、これまでもアルバムに入ってはいたけど、自分たちでそれを押し出すことはしてこなかった。でも、今回は自信を持ってそれをまっすぐ世の中に届けたいと思ったし、そういう挑戦も含めてすごく自信があることをやったアルバムです。だからこそ聴いた人の反応は本当に未知数だし、どういうリアクションがあるか楽しみです。
──長屋さんはいかがですか?
長屋晴子(Vo, G) 作品を出す前はいつも緊張するものですけど、今回はいつも以上にドキドキしています。どういうふうに聴いてもらえるんだろう?とか、あの曲はどういうふうに捉えられるんだろう?とか、もはや想像できない。そのくらい挑戦が詰まったアルバムだし、どの曲も鮮度が高いんですよ。制作期間が今までのアルバムに比べて短かったので、作ったときの記憶も新しいし、新鮮な気持ちで届けることのできるアルバムです。
──穴見さんはいかがでしょうか。
穴見真吾(B) これは僕の個人的な見解ですけど、マスの層になんとなく定着しつつある「リョクシャカっぽさ」というものを潜在意識の中で覆そうとしている、そういうアルバムだと思います。そもそも僕たちは欲張りなバンドで、いろんな表現をやりたいんです。そういう部分が出ているのが、今回のアルバムなのかなと。アルバム全体として前作より時間は短めだし、その中で上げる曲は上げて、下げる曲は下げるというダイナミクスの大きさもあるので、今まで一番聴きやすいアルバムにもなっていると思います。
──最後に、peppeさんお願いします。
peppe(Key) ……「攻めてない」なんてひと言も言わせない(笑)、そのくらいの攻め方をしたアルバムだと思います。新しいレコーディングの仕方や楽器の録り方も見えてきたし、作っていく中で、まだまだ自分たちの中に引き出しがあることを知ることができたアルバムでもありますね。
──皆さんがおっしゃるように、聴き手としてもすごく挑戦を感じる作品で、それはやはりリード曲である「ピンクブルー」からも感じられることだと思います。
長屋 「ピンクブルー」がリードになるのって、新しいリーダーができた感じなんですよね。今までの私たちのアルバムはリーダー気質の人たちがリーダーをやってきたんですよ。でも、今回は誰かの推薦でリーダーになっちゃったみたいな(笑)。もちろんポテンシャルはあるけど、こういう人材がリーダーになるのは初めてという感じ。
小林 そうだね。あまり自分で前に出るタイプじゃないけど、「お前ちょっとやってみろよ」と言われて前に出てきた、みたいな(笑)。
──なるほど(笑)。
長屋 でも、革命ってこういうことだと思うので。「自分たちらしさ」を変えたかった、そういう時期だったのかなと思います。
新しく見せたい部分ってなんだろう?
──緑黄色社会にとって、2022年は初の武道館公演や「紅白歌合戦」出場という大きなトピックがありましたよね。そうした経験は、今回のアルバムの挑戦的なスタンスに影響を与えていると思いますか?
長屋 結果的にですけど、影響は大きくあるのかなと思います。曲を作っているときはそこまで考えていなかったんですけど、ツアーから始まって、武道館があって、紅白があって……去年はいろんな区切りをつけることができるタイミングだったんですよね。聴いてくれる人も増えて、固めてきた自分たちらしさもちゃんと広まっている感触があった。だからこそ、自分たちのベースにあるものを新しく塗り替えられるような気がしたんだと思います。「今までと違うことをしても、私たちだと思ってもらえるよね」っていう余裕ができたのかなと思います。
──「pink blue」というアルバムタイトルを知ったとき、「すごくいいタイトルだな」と思ったんです。「blue」という色は、時に青春性を表したり、あるいは憂鬱な感覚を表したり、ブルースというジャンルもあるくらいで、ことポップミュージックにおいてすごく特別な存在感のある色ですよね。でも、緑黄色社会はそんな「blue」に「pink」を混ぜて、新しい色彩を生み出している。そこに強いオリジナリティを感じました。
長屋 「ピンクブルー」という曲のデモ自体は3年くらい前にはあったけど、その頃から自分たちの中では「ポテンシャルのある曲だね」という話をしていて。今回のアルバムのタイトルを考えたときも、みんなから「pink blue」がいいんじゃないかという声が上がったんですよね。パッと目に飛び込んでくる言葉だし、いいんじゃないかって。
穴見 僕的には、今の時代にフィットするワードなんじゃないかと思って、「pink blue」をタイトルに押しました。大げさなことに醒めるのが今の若者なのかなと思うんです。例えば今はショート動画が流行っているじゃないですか。最初の10秒くらいで「なんだ、これは?」と思えないと、もう見る気を失くしちゃう。それが今の若者たちの感覚なのかなと思うんですけど、そう考えると「pink blue」くらいの軽やかな感じって、けっこう今っぽいのかなと思う。「ピンクブルー」の歌詞の世界観もそういうものだと思うし、届く人には届いてくれるんじゃないかなと。
──「ピンクブルー」の作詞作曲には長屋さんがクレジットされていますが、曲を書かれた当時は、どういった思いからこの言葉が出てきたんですか?
長屋 どうだったんだろう……本当にラフなタイミングで出てきた気がします。最初にコード感から決めて作っていった気がするんですけど、そこから先のことは覚えていなくて。詞とメロディが同時に出てくる感覚で、ぼそぼそと独り言を言うように言葉が生まれていった曲だと思います。「ピンクブルー」というテーマを最初から決めていたわけでもなく、曲を作っていく流れの中で、自分の言葉がポロっと出てきた。いい意味で深く考えずに出てきた曲だと思いますね。
──そうやって出てきた独り言のような曲がアルバムの顔になっているというのがいいですよね。
長屋 そう思います。メッセージ性の強い曲って、どうしてもアルバムのリーダーになりやすいと思うんですけど、私たちは今まで自信を持ってそういう曲を打ち出してきたし、届けたいメッセージは届けてきたつもりなんです。さっき「いろんな区切りがついた」と言いましたけど、じゃあ次に私たちが新しく見せたい部分ってなんだろう?と考えると、もっと気を抜いた部分なんじゃないかなと思って。それは歌い方もそうなんです。「ピンクブルー」は口先だけで歌っているような雰囲気を出しているし、歌詞の内容も、意味があるようでないような、ないようであるような感じのものだし。だからこそ私たちの日常に近い感じがあると思う。もっとみんなの目の前にある日常のようなものを歌ってもいいんじゃないかと思うんですよね。
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相対性理論のようなカオティックさとキュートさ