緑黄色社会アルバム「Actor」インタビュー|4人が思い描くハッピーエンドとは (3/3)

脳みそよりも上にあるイメージを落とし込む

──peppeさん作曲の「アラモードにワルツ」は、長屋さんのボーカリストとしての新しい表情を感じられる曲だなと思いました。

peppe これは、ある曲を作っている途中に息抜きで作ったんですよね。「最近、3拍子の曲をやっていないから、3拍子で作ろう」というくらいの気持ちで作り始めたんですけど、そこで思い浮かんだのが、中世ヨーロッパのお屋敷のような雰囲気で。女の子がドレスを着ていて、クマのぬいぐるみを持っているようなイメージ。

長屋 仮タイトルは「ワルツとクマ」だったもんね。

peppe  そうそう。なぜかそういうイメージが湧いて。この曲を演奏するときにライブで流す映像まで考え込んで……妄想なんですけど(笑)。それをそのまま曲にしました。

──妄想から曲が生まれることは多いんですか?

peppe なんて言ったらいいか難しいんですけど(笑)、脳みそよりも上にあるイメージを落とし込んで、曲を作りますね。

peppe(Key)

peppe(Key)

小林 「脳みそよりも上にあるイメージ」って素敵な表現だね(笑)。

長屋 この曲は、peppeの妄想がデモの時点ですごく明確にあったし、個性が強かったので、歌詞もその雰囲気を生かして書きました。その時点で完成していたアルバムの収録曲を聴いて、「女の子視点の曲が少ないな」と思ったんですよ。「みんな」に向けられた視点だったり、「僕」という視点が多かったけど、女の子がいなかった。なので、アルバムに新しい主人公を入れるという意味でも、女の子視点の曲にしようと思って。peppeのイメージも具体的だったからこそ、私も入れたいワードがいろいろ出てきて。その分作詞には悩みましたね。結局、歌入れの直前まで悩みながら書いたんですけど、そのくらいやりたいことがあふれすぎた曲でした。結果として、peppeの作曲だったからこそ書けた歌詞だと思う。あと、私個人としては「Bitter」の雰囲気を引き継ぎたいという気持ちもありました。

──なるほど。「Bitter」もpeppeさん作曲で長屋さん作詞ですもんね。

長屋 「Bitter」はチョコレートをテーマに書いたんですけど、「アラモードにワルツ」も女子2人だからできる曲にしたいという気持ちがありましたね。

──「S.T.U.D」は作曲が穴見さん、作詞が小林さんですが、この歌詞にある「位置につけ“Re”スタート」という一節は、1stアルバム「緑黄色社会」の1曲目が「Re」であることにかかっているのかなと思ったんです。

小林 それは完全にその通りです。「Re」は僕が緑黄色社会で一番好きな曲なので、そのタイトルを歌詞に入れ込みたくて「Re」という表記にしました。あと、物語性のある曲を最近書いていないなと思って、歌詞はストーリー仕立てにしてみましたね。故郷を離れた息子が言葉をくれた母に向けて何かを思う、という場面をイメージして。

──それは小林さんの実体験ではないんですか?

小林 ほかの取材でそれを聞かれて、そのときは反射的に「想像です」と言ったんですけど、よくよく考えると、この歌詞を書いたのは上京したタイミングだったんですよね。なので、故郷に置いてきた言葉を思い出しながら書いたような気がしないでもないんですけど……定かじゃない(笑)。

peppe 私はそうだと思うよ。

長屋 私もそう思う。上京していなかったら、この歌詞は書けなかったんじゃないかな。

小林 でも、僕が頭の中に浮かべていたこの曲の“母”のイメージは、全然僕の母ではないんですよ(笑)。温かい穏やかな母を思い浮かべていて。僕の母は、こんなにいいことは言わないので(笑)。

小林壱誓(G)

小林壱誓(G)

4人にとってのハッピーエンドとは

──アルバムの最後を飾る「スクリーンと横顔」は、まさにアルバムを締めるにふさわしい曲だと思いました。落ち着いたトーンがありつつ、続きを感じさせる終わり方だと思うし、歌詞の中にある「映画館」というモチーフは、アルバム全体のテーマとマッチしていると思うし。

長屋 でも、この曲も実は昔からあったんですよ。

──そうなんですか。

長屋 「Actor」ありきでできあがった曲のように思われるかもしれないですけど、1コーラス目は4、5年前からあったんです。その部分の歌詞も当時から変えていなくて。スタッフも含めて「いつかリリースしたいね」と言っていたんですよね。今回、アルバムのタイトルが「Actor」になって、運命的にピースが合わさってベストタイミングで出せたなと思います。この曲ができた当時は、できるだけたくさん曲を作ろうと思っていた時期だったんです。私がバーッと歌詞を書いていた中の1つで、そこにpeppeが曲を付けてくれて。なので、珍しく詞が先の曲ですね。今回フルで作るにあたって、当時の感じを崩したくないなという気持ちがあって。4、5年前にこの1コーラス目の歌詞を書いた頃の自分を想像しながら作りました。

──「ハッピーエンドの物語ばかり夢見ていた」という歌詞が印象的で。アルバムのラストを飾る曲なのに、決してすべてが報われる結末を想像しているわけではないんですよね。

長屋 世の中はハッピーエンドであふれている気がしていたけど、意外とそんなことないなって、生きていると思います。でも、だからといってバッドエンドが用意されているわけでもないんですよね。結局エンディングなんて自分次第で。用意されているものではなく、自分で作るものだと思うんです。

──それは、今の長屋さんのリアルな感覚としてそう思うということですか?

長屋 そうですね。例えば、私たちはずっと「国民的な存在になりたい」という目標を掲げて活動を続けてきたんです。その目標を達成するのがハッピーエンドだとすると、自分たち次第でそこにたどり着けるという感覚に、この1、2年でなれたんです。それまではもっと漠然としていた夢だったけど、今はもっと「自分たち次第なんだ」と思えているんです。

──ちょっと乱暴な質問ですけど、それこそリョクシャカにとってのハッピーエンドって、ほかの皆さんはどんなものなんだと思います?

小林 どうだろう……このバンドの始まりを考えると、メンバーみんなそれぞれが幸せになって、子供を連れて飯食ったりできていたら、美しいかもしれないですよね(笑)。その関係が続いているのだとしたら、音楽も続けているのだろうし。

長屋 それは幸せだね。

──peppeさんはどう思いますか?

peppe うーん……そういう質問をされてもピンとこないということは、ハッピーエンドもバッドエンドも考えたことがないんだと思います。基本的に私は「なんとかなるさ」というタイプの人間で。“エンド”というものを、真剣には考えたことがないような気がする。

穴見 うん、まだエンドに向かってないからね。急にメンバーが飛んでやむなく終わるとかじゃなくて(笑)、みんなが納得して終わればそれがハッピーエンドなのかもしれない。でも、終わりを考えても仕方がないと思う。

穴見真吾(B)

穴見真吾(B)

──確かに「スクリーンと横顔」という曲自体、明確な結論としてアルバムの最後に配置されているというより、続きを感じさせる、余韻のある終わり方ですもんね。でも、それが意図せずとも今の時代に対してのメッセージになり得ていると思うし、すごくリアルでいいなと思います。

長屋 「明日からも続いているよ」と明言したいわけでもないんです。ただ、感じてもらいたいというか、アルバムの終わりの曲として、ちょっとだけでも、前を向いてほしいなという気持ちがある……規模感としては、そのくらいのイメージの曲なんです、個人的には。「明らかなことは言わないけど、ヒントを置いていくね」という……そういう感覚ですね。

緑黄色社会

緑黄色社会

公演情報

緑黄色社会「Actor tour 2022」

  • 2022年3月20日(日)群馬県 ベイシア文化ホール
  • 2022年3月21日(月・祝)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2022年3月25日(金)北海道 旭川市民文化会館 大ホール
  • 2022年3月27日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2022年4月1日(金)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
  • 2022年4月3日(日)岡山県 岡山市民会館
  • 2022年4月9日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2022年4月10日(日)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
  • 2022年4月16日(土)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2022年4月17日(日)埼玉県 三郷市文化会館
  • 2022年4月22日(金)岐阜県 長良川国際会議場
  • 2022年4月24日(日)福島県 けんしん郡山文化センター 中ホール
  • 2022年5月1日(日)福岡県 福岡サンパレス
  • 2022年5月3日(火・祝)鹿児島県 川商ホール 第2ホール
  • 2022年5月7日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年5月8日(日)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年5月15日(日)石川県 本多の森ホール
  • 2022年5月28日(土)新潟県 新潟テルサ
  • 2022年6月4日(土)愛媛県 松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
  • 2022年6月6日(月)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)

プロフィール

緑黄色社会(リョクオウショクシャカイ)

高校の同級生だった長屋晴子(Vo, G)、小林壱誓(G)、peppe(Key)、小林の幼なじみの穴見真吾(B)によって結成された愛知県出身の4人組バンド。2018年11月にミニアルバム「溢れた水の行方」でメジャーデビューした。フルアルバム「SINGALONG」を2020年4月に配信、9月にCDリリース。12月には有観客・配信ライブ「SINGALONG tour 2020 -last piece-」を開催した。2021年2月にテレビアニメ「半妖の夜叉姫」1月クールエンディングテーマ「結証」を表題曲としたシングルをリリース後、「たとえたとえ」「ずっとずっとずっと」「アーユーレディー」と配信シングルを立て続けに発表。8月にはドラマ「緊急取調室」の主題歌を収録したシングル「LITMUS」をリリースした。9月には2020年発表の「Mela!」のストリーミング再生回数が1億回を突破。翌2022年には3rdアルバム「Actor」を発表する。