僕の聴き方は間違ってなかったのかもしれない
──小西さんは中学生の頃からエルトン・ジョンの楽曲を聴かれていたそうですね。最初に買ったエルトンのレコードはなんですか?
3作目の「エルトン・ジョン3」です。それを手に入れたのが1971年の夏休みで、Pink Floydの「原子心母」と一緒に買って、夏休み中ずっと聴いていました。
──思い出の1枚なんですね。
今でも好きで聴いてます。ただ、いまだにエルトンの音楽のどんなところが好きなのか、説明がつかないんですよ。
──分析できない魅力がある?
そうなんです。だから「ロケットマン」をすごく観たかったんですけど、観たらますますわからなくなった(笑)。ただ面白いなと思ったのは、映画の中でエルトンが「75年からの自分はクソ野郎だった」って言うじゃないですか。僕がエルトンの音楽をちゃんと追いかけてたのも75年ぐらいまでだったんです。
──子供ながらに何か感じるものがあったのかもしれないですね。
映画で流れた曲は最後の曲を除いて全部知っていましたし、僕が好きな時代の曲が多かったですね。今回、エルトン自身が映画の製作総指揮をしていることを考えれば、やはりクソ野郎じゃなかった頃の曲が好きなんだろうなって思いました。
──ちなみに映画のエンディングで流れる「(I'm Gonna)Love Me Again」は、映画のためにエルトンとバーニー・トーピンが書き下ろした新曲なんですよ。
なるほど! じゃあ、オールクリアですね(笑)。すごく僕好みの選曲だったし、エルトンが自選ベストとして選んでいるのなら、僕の聴き方は間違ってなかったのかもしれない。こんなところで自分の話をするのは嫌なんですけど、PIZZICATO ONEで「わたくしの二十世紀」というアルバムを作ったんです。これは自分の中でもう一度やりたかった曲をセルフカバーしたアルバムなんですが、この映画はエルトンにとっての「わたくしの二十世紀」だったんじゃないかと思いましたね。アレンジもやり直していて、「本当はこんなアレンジでやりたかったんじゃないかな」と思ったりもしました。
誰かが曲を作る姿を見るのはとても高揚する
──歌のシーンで印象に残っているものはありますか?
この何カ月か「Crocodile Rock」をDJでかけたらウケるんじゃないかと思って聴き直していたんですけど、映画でバッチリ使われてましたね。見事な使い方で、「やっぱり、この曲最高だよな」と思いました。あとバーニーから歌詞をもらったエルトンが、それを読んでピアノに座って「Your Song」を歌い始めるシーンもよかった。僕はずっと、このコンビは歌詞が先なのか、曲が先なのか知りたかったのですが、それがわかったのも収穫でした。「Your Song」のシーンは途中からスタジオでレコーディングするシーンになりますが、そこでエレキベースが入ってくるんです。オリジナルはダブルベースなんですけど、エルトンがわざと変えているのか、そういうことはあまり気にしない人なのか(笑)。
──さすが細かいところまで聴かれてますね(笑)。この映画はエルトンとバーニーの友情の物語でもあったと思うのですが、2人の関係についてはどう思われました?
この2人はバート・バカラックとハル・デヴィッドのコンビみたいに、ほかの人に歌ってもらっていたら絶対成功しなかったと思うんですよ。エルトンが自分で弾いて歌ってるからヒットしたんじゃないかと思います。そこに何かがあるとしか思えない。だってエルトンの曲は簡単に歌えないような難しいものばかりですからね。
──エルトンとバーニーが特別な絆で結ばれていたということでしょうね。映画を観ているとエルトンがバーニーを本当に好きだったことが伝わってくるし、バーニーもそんな気持ちを知りながら歌詞を書いていただろうし。なんだか切ない関係ですが。
バーニーがエルトンに別れを告げるところで、バーニーが「Goodbye Yellow Brick Road」を歌い出すじゃないですか。あの演出は秀逸でしたね。ハッとさせられました。わりとキャリアの初期の頃にああいう曲を作ってるのはすごいですよね。仕事で頼まれて何気なく書いた曲が、あとになって「今置かれている状況って、あの曲と同じじゃないか」と思うことがあるんですよ。きっとバーニーとエルトンにも、そういうことがいっぱいあったんじゃないかと思います。
──今回、エルトンを演じたタロン・エガートンが全曲歌っていることも話題になっていますが、彼の歌声はいかがでした?
あまり似せていなかったですね。エルトンの歌い方ってすごくマネしやすいんですよ。特徴があるから。だからモノマネっぽくなるのを避けたのかもしれない。最初は違和感がありましたけど、悪くないと思いました。
──確かにタロン版のエルトンになっていましたね。ミュージカルシーンの演出はいかがでした?
「トミー」とか「ビギナーズ」といったイギリスのミュージカル映画を思い出しました。ハリウッドのミュージカル映画とはちょっと違って湿度が高いというか。ミュージカルシーンに限らず、全体的にすごくイギリスっぽい映画だと思いました。
──エルトン自身もイギリス的なミュージシャンですもんね。こうやって映画を通じてファンだったエルトンの半生をご覧になって、どんな感想をもたれました?
本当は公にしたくないだろうな、と思うような恥ずかしいところとか、スキャンダラスなこともさらけ出していて、そこはすごいと思いました。ディック・ジェイムスと契約するときに、彼がエルトンの曲に対してひどいことをいっぱい言うじゃないですか。僕も同じようにデビュー前はいろいろ傷つくことを言われたんです(笑)。
──その古傷が甦った?(笑)
でもね、ディックがエルトンの曲の最初の1小節を聴いて「暗い!」って言うけど、それは本当なんですよ。僕もそう思います。暗いし、わかりにくい。でも、それでも人の心を打って世界的にヒットしたのは、バーニーとの関係であり、エルトンのキャラクターの魅力なんでしょうね。やっぱり誰かが曲を作る姿を見るのはとても高揚する。昨年公開の映画「ボヘミアン・ラプソディ」でも、僕はスタジアムでの演奏シーンより、曲が生まれる瞬間を描いているシーンが好きだったんです。「ロケットマン」からは、そういう音楽が生み出されるときの高揚感が伝わってきました。だから音楽を愛する人にはぜひ観てほしい作品です。
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平井大 インタビュー
- 「ロケットマン」
- 2019年8月23日(金)全国公開
- ストーリー
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家に寄りつかない厳格な父親と、子供に無関心な母親の間で孤独を感じて育った少年レジナルド・ドワイト。彼は天才的な音楽センスを見出され、国立音楽院に入学する。寂しさを紛らわすかのようにロックに傾倒していくレジナルドは、自らを「エルトン・ジョン」と改名し、ミュージシャンを夢見るように。レコード会社の広告で出会ったバーニー・トーピンの詩に惚れ込んだエルトンは、バーニーの歌詞に曲を付ける共作活動を始める。2人が生んだ楽曲「Your Song」でデビューが決まり、LAの伝説的なライブハウス「トルバドール」でのパフォーマンスをきっかけに一気にスターダムへと駆け上がるエルトン。しかし真に求める愛情を得られないまま日々プレッシャーにさらされる彼は、次第に依存や過剰摂取に陥り、心身共に追い詰められていく。
- スタッフ
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監督:デクスター・フレッチャー
脚本:リー・ホール
製作総指揮:エルトン・ジョン / クローディア・ヴォーン / ブライアン・オリヴァー / スティーブ・ハミルトン・ショウ / マイケル・グレイシー
配給:東和ピクチャーズ
- キャスト
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エルトン・ジョン:タロン・エガートン
バーニー・トーピン:ジェイミー・ベル
ジョン・リード:リチャード・マッデン
アイヴィー:ジェマ・ジョーンズ
シーラ・フェアブラザー:ブライス・ダラス・ハワード
ディック・ジェイムス:ステファン・グラハム
ダグ・ウェストン:テイト・ドノヴァン
レイ・ウィリアムズ:チャーリー・ロウ
- 「ロケットマン」公式サイト
- 「ロケットマン」 (@Rocketman_JP) | Twitter
- 「ロケットマン」 (@rocketmanmovie_jp) | Instagram
- 「ロケットマン」 | Facebook
- 「ロケットマン」作品情報
©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
- ロケットマン オリジナル・サウンドトラック
- 2019年8月7日発売 / UNIVERSAL MUSIC
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[CD] 2700円
UICR-1146
- 収録曲
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- あばずれさんのお帰り(イントロダクション)
- アイ・ウォント・ラヴ
- 土曜の夜は僕の生きがい
- サンキュー・フォー・オール・ユア・ラヴィング
- 人生の壁
- ロックン・ロール・マドンナ(インタールード)
- ユア・ソング(僕の歌は君の歌)
- 過ぎし日のアモリーナ
- クロコダイル・ロック
- 可愛いダンサー(マキシンに捧ぐ)
- パイロットにつれていって
- ハーキュリーズ(ヘラクレス)
- 恋のデュエット(インタールード)
- ホンキー・キャット
- ピンボールの魔術師(インタールード)
- ロケット・マン
- ベニーとジェッツ(やつらの演奏は最高)(インタールード)
- 僕の瞳に小さな太陽
- 悲しみのバラード
- グッバイ・イエロー・ブリック・ロード
- アイム・スティル・スタンディング
- (アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン
- 僕の瞳に小さな太陽(タロン・オンリー・ヴァージョン)※日本盤ボーナストラック
- ブレイキン・ダウン・ザ・ウォールズ・オブ・ハートエイク ※日本盤ボーナストラック
- 小西康陽(コニシヤスハル)
- 1959年、北海道札幌生まれ。1985年にピチカート・ファイヴでデビュー。豊富な知識と独特の美学から作り出される作品群は世界各国で高い評価を集め、1990年代のムーブメント“渋谷系”を代表する1人となる。2001年3月31日のピチカート・ファイヴ解散後は、作詞・作曲家、アレンジャー、プロデューサー、DJとして多方面で活躍。2009年にはアメリカ・ニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル「TALK LIKE SINGING」の作曲および音楽監督を務めた。2011年5月に「PIZZICATO ONE」名義による初のソロプロジェクトとして、アルバム「11のとても悲しい歌」を発表。2018年5月にさまざまな小西作品を集めたコンピレーションボックス「素晴らしいアイデア 小西康陽の仕事1986-2018」がリリースされた。2019年9月には小西自ら選曲および監修した洋楽を7inchアナログでリリースしていくシリーズ企画「レディメイド未来の音楽シリーズ 7インチ編」が始動。同年11月、ピチカート・ファイヴの日本コロムビア在籍時の楽曲をコンパイルした作品集「THE BAND OF 20TH CENTURY: Nippon Columbia Years 1991-2001」が発売される。 またPIZZICATO ONEのライブが、10月11日に東京・Billboard Live TOKYO、15日に大阪・Billboard Live OSAKAにて行われる。
2019年8月22日更新