ナタリー PowerPush - スペースシャワー列伝

きのこ帝国・佐藤×ハルカトミユキ・ハルカ 女性フロントマン対談

5月28日に東京・Shibuya O-nestでスペースシャワーTVが主催するライブイベント「スペースシャワー列伝~九十三巻 深更(しんこう)の宴~」が開催される。出演者にラインナップされたのは、きのこ帝国、ハルカトミユキ、ゲスの極み乙女。という濃厚な3組。

今回ナタリーは間近に迫ったこのイベントに向けて、きのこ帝国の佐藤とハルカトミユキのハルカによるフロントマン対談を実施した。同世代であり、ソングライターとしても多くの共通点を見受けられる2人の対話は、実に興味深いものになった。

取材・文 / 三宅正一(ONBU) 撮影 / 佐藤類

自分から話しかけられない

左から佐藤(Vo, G / きのこ帝国)、ハルカ(Vo, G / ハルカトミユキ)

ハルカ 緊張するなあ(笑)。

佐藤 緊張しますね(笑)。

──2人は同世代ですよね?

佐藤 何歳だっけ? 私は24歳です。

ハルカ 私は23歳です。

佐藤 じゃあ1コ違いだ。

──すでに何度かイベントで競演したことがあるんですよね?

ハルカ 2回ですね。このあと4月30日にも同じイベントに出るんですけど、それを入れると3回目になります。(※取材は4月中旬に実施)

佐藤 2年前くらいに、クガツハズカム(※佐藤のソロ弾き語り名義)と石井優也(MAGISCENE)の共同企画で初めて一緒になって。

──でも、今までは会話をしたことがなかった?

ハルカ そう、ないんです(笑)。

佐藤 うん(笑)。

ハルカ でも、私はずっときのこ帝国の存在を一方的に知ってたんですよ。かなり前に池袋ADMで初めてライブを観て。

佐藤 3、4年前ですね。かなりヤバかった時期だ(笑)。

──どうヤバかったんですか?

佐藤(Vo, G / きのこ帝国)

佐藤 轟音すぎてわけがわからないみたいな。あと、その日はマイクが感電してたのかパチパチしていて、めちゃくちゃキレてました(笑)。懐かしいな。

──ハルカさんは初めてきのこ帝国のライブを観たときに、何か引っかかるものはあったんですか?

ハルカ ライブのインパクトもあったし、素直にカッコいいなと思ったんですよね。そもそも友達に「たぶんハルカが好きだと思うよ」って誘われてライブを観に行ったんです。最初は男性か女性かもわからなくて。

佐藤 それ、今も言われる(笑)。

ハルカ ライブを観ている途中で女の子なんだと知って。いろいろ衝撃がありました。シューゲイザー的なサウンドにもメロディにも声にもすごみがあって。引っかかるものはかなりありましたね。でもそこからほとんど関わることもなく、初めて同じイベントに出たときも話せなくて。

──お互い積極的には声をかけたりしなさそうですよね(笑)。

ハルカ うん、私は自分から話しかけられないんですよね。

佐藤 できなそう(笑)。

ハルカ 佐藤さんはできますか?

佐藤 どうだろう? でもすごく好きだったら「ライブを観たことあります」とか言えるかなあ……。でも年が近いと話しかけづらいかもしれない。

結局戻ってくるところは怒り

──佐藤さんはハルカトミユキの音楽に対してどんな印象を持っていますか?

佐藤 音楽のトーンっていろいろあると思うんですけど、私は歌い方とか佇まいに“フォーク”を感じていて。しかも直球のフォークだなって。ハルカトミユキの歌に強い意思を感じました。

──それって佐藤さんにも当てはまると思うんですけど。

佐藤 いや、私はもっと卑屈だと思います(笑)。

──僕は2人のアーティスト性は近いものがあるなと思っているんです。歌の冷たい強さや歌詞における感情表現の鋭さに共時性を感じるんですね。

ハルカ 前に取材してもらったときに三宅さんから「きのこ帝国の佐藤さんとハルカさんが同時代にいる意味は大きいと思う」みたいなことを言ってもらってうれしかったんですよね。私自身、きのこ帝国の歌詞を最初に読んだときに1回では飲み込めなかったんですけど、引っかかるものがあったし。表現の仕方は違うにせよ、どこかで共通している部分はあるんじゃないかと勝手に思ってたんです。

──そう思います。僕はそれぞれのインタビューで、歌が生まれるきっかけの話をしたことがあるんですけど。ハルカさんは「怒りが曲を書く根源になっている」と言っていて。佐藤さんは「自分は生きるか死ぬしか歌っていないつもりです」と。あと「嘘を書きたくないからちゃんと生身を削って歌を書かなきゃいけないと思ってます」と言っていたんですね。今日は改めてそのあたりの話を交差できたらなと。

ハルカ(Vo, G / ハルカトミユキ)

ハルカ 私は怒りを覚えたときに一番筆が進むというか。衝動的に曲を書きたいと思う瞬間は、怒りと直結しているときがほとんどで。

──最初に曲を書きたいと思ったときは何に対して怒っていたんですか?

ハルカ なんだろう?

佐藤 掘り下げるなあ(笑)。

──貴重な機会だから掘り下げさせてよ(笑)。

ハルカ あはははは(笑)。最初はたぶん音楽を聴いていて「つまんねえ歌ばっかり歌いやがって」みたいなことだったと思うんですけど(笑)。

佐藤 カッコいい。

ハルカ 若いときのちょっといきり立った感じで。それが衝動と呼べるものだったというか。

──ソングライティングの方向性がポジティブなほうに振れることはなかった?

ハルカ もちろん、そのときどきで変化はしているんですけどね。怒りを出発点にして、そのあとちょっと明るいことを書いてみたりとか。でも、結局戻ってくるところは怒りなんですよね。自分が満たされたときに書く曲と、満たされないときに書く曲ってやっぱり全然違って。怒ってるときのほうが強いものが生まれますね。あと、怒りの種類もいろいろあるんですよね。虚しさに近いものもあれば、悔しさに近いものもあるし、誰かに怒っているときもあれば、自分自身に憤ってるときもある。それをまとめて私は怒りと捉えているんですけど、その思いをただのひとり言にしたくないという意識で曲を作ってるんだと思います。

スペースシャワー列伝

深い夜にいざなう様に自分自身の闇の現に向かい合う一夜に。

スペースシャワー列伝
~第九十三巻 深更(しんこう)の宴~
2013年5月28日(火)
東京都 Shibuya O-nest
OPEN 18:00 / START 19:00
<出演者>
きのこ帝国 / ハルカトミユキ / ゲスの極み乙女。
チケット一般発売中!
きのこ帝国(きのこていこく)
きのこ帝国

佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」発表した。なお佐藤はクガツハズカム名義で、弾き語りによるライブも行っている。

ハルカトミユキ
ハルカトミユキ

立教大学の音楽サークルで知り合った1989年生まれのハルカ(Vo, G)とミユキ(Key, Cho)によるフォークロックユニット。ライブを中心とした活動を展開し、2012年11月に初の全国流通音源となるミニアルバム「虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。」をリリース。静謐さと激しさをあわせ持つサウンド、刺激的な歌詞で大きな注目を集め、iTunes Storeが選ぶ2013年期待の新人アーティスト「ニューアーティスト2013」にも選ばれる。2013年3月、2ndミニアルバム「真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。」をリリースした。