ナタリー PowerPush - スペースシャワー列伝
きのこ帝国・佐藤×ハルカトミユキ・ハルカ 女性フロントマン対談
喜びの側面を見たくなってきた
──さっき僕が持ち出した佐藤さんの発言は「渦になる」のインタビュー時のものだから、1年前の話になるんですけど覚えてますか?
佐藤 うん、覚えてますよ。あれから根本的には変わってないと思いますね。
──あのとき「これからはちょっと明るいものが生まれそうな気もする」と言っていたんですね。
佐藤 うん、確かに当時よりはちょっと明るくなってきてると思います。明るい側面も生きてるうちの一部だと思うし。
──そうですね。いくつも過去の発言を引っ張り出して申し訳ないんですけど、忘れられない言葉がまだあって。「自分にはどうしても許せない人がいて、ずっとその人に向けて曲を書いていたんだけど、だんだん許せるようになってきた」と。
佐藤 そうですね。
──で、今年2月にリリースした「eureka」に収録されている「春と修羅」という曲は、まさにその感情を清算するために書いたんじゃないかと思ったんですね。
佐藤 そうですね。確かに時間が経って……怒りというのはある側面から見ると自己中心的な考えからきてるものもあるじゃないですか。でも、時間が経つと相手だけが間違っていたわけじゃないかもしれないと思うところもあって。「退屈しのぎ」みたいな、人を責めるような曲をライブでやると安心していた自分がいたんですけど、今はそこに多少のズレも生まれてきていて。なるべく人を責めないで生きられたら楽だなと思ってます。だから「春と修羅」では「なんかぜんぶめんどくせえ」というフレーズですべてを片付けてしまって、そこからほかに目を向けたほうが有意義な時間が過ごせるんじゃないかと思ったんですよね(笑)。もっといろんな景色を見たいとも思うようになったし、それを曲にしていけたらいいなと思って。
──今はどんな曲を書いてるんですか?
佐藤 それが今は全然書けないんですよ。曲の断片はあるんですけど。それを部屋で録っていて。最近は宅録ばっかりしてます。
──それはオケだけ?
佐藤 歌もテキトーに乗せたりはしてるんですけどね。前は一気にガーッと作ることが多かったんですけど、今は実験的というか、1人でいろいろ試していて。なかなかバンドにもっていけない状態が続いている感じですね。
──新たな歌の像を模索している時期なのかな?
佐藤 書きたいことはすごくあるんですけど、もしかしたら、リスナーには「渦になる」や「eureka」と比べると飛躍したと思われるかもしれないという不安が若干あって。
──そんなに違うんだ。
佐藤 いきなり「平和だなあ」みたいになっちゃうのはどうなのかなって(笑)。
ハルカ それ、聴きたいです!
──うん、聴きたい。穏やかなモードなんだ?
佐藤 なんですかね? ちょっと力が抜けた感じはありますね。でも、わからないです。いざ聴いてもらったら「あんま変わってねえよ」って言われるかもしれないし(笑)。でも、自分的には劇的な変化を感じてはいて。今までは悲しみの側面みたいなものばかり見すぎていたので。たぶん喜びの側面を見たくなったんだと思います。
満たされたりすると「あれ?」って
──ハルカさんはどうですか? 現在進行形で生まれている曲については。
ハルカ 私も全然曲が書けなくて。1年以上曲ができなくて、最近そこからちょっと抜け出した感じはあるんですけど。すごく苦しい時期を過ごしていましたね。書きたいことがなくなったわけじゃないし、自分の中にあるものが枯れたわけじゃないんですけど、水道が錆びちゃっていた感じなんですよね。蛇口をひねっても、ひねっても出てこないっていう。いろんなものが詰まっちゃっていたと思うんですよね。評価してもらったり、少しずつ多くの人に曲を聴いてもらえるようになった状況とかも関係していると思うんですけど。自分の個人的な変化もあるだろうし。でも、あるとき開き直ったんです。とにかく水道を掃除したいから、どんなクソみたいな曲でも書いてやると思って。
──すごいフレーズだな(笑)。
佐藤 でも、すごくわかる。試しに書くみたいな。
ハルカ そう。とにかく蛇口をひねりまくって、錆ばかりみたいな曲を吐き出して。それをひと通りやったら、やっと水が出てきたみたいな感覚が今あって。ホントについ最近なんですけど。
──水滴が出始めた。
ハルカ そうそう。
佐藤 いいなあ。私も早く出したいですね。
ハルカ 出ないと苦しいですよね。
佐藤 でも、私はこのまま毎日こういう感じでもいいんじゃないかという気分にもなってきちゃうんだよね(笑)。毎日穏やかだし、曲ができなくてもそれでいいかなあって。
──そこが今までと劇的に違うところなんでしょうね。
佐藤 そうそう。
ハルカ ああ! なるほど。わかります。さっきの怒りの話と通じるけど、誰かに認められたり、満たされたりすると「あれ?」っていう感じになってきて。満たされているのに「じゃあなんで悲しいこと歌ってるんだろう?」ってなってくる感じはありますね。
佐藤 そう。評価されたり、認めてもらうと悲しくなくなっちゃうもんね。
ハルカ うん。それもいいことなんだろうけど。
──それが今のホントなんだから、そのまま歌にしてみたらいいんじゃないかな。
佐藤 うん、そうですね。それもいいと思いますね。その状態が続くわけでもないですしね。
ハルカ 佐藤さんの書く幸福感のある曲を私はすごく聴いてみたいです。
佐藤 うん……がんばる(笑)。
スペースシャワー列伝
深い夜にいざなう様に自分自身の闇の現に向かい合う一夜に。
- スペースシャワー列伝
~第九十三巻 深更(しんこう)の宴~ - 2013年5月28日(火)
東京都 Shibuya O-nest
OPEN 18:00 / START 19:00 - <出演者>
- きのこ帝国 / ハルカトミユキ / ゲスの極み乙女。
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きのこ帝国(きのこていこく)
佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」発表した。なお佐藤はクガツハズカム名義で、弾き語りによるライブも行っている。
ハルカトミユキ
立教大学の音楽サークルで知り合った1989年生まれのハルカ(Vo, G)とミユキ(Key, Cho)によるフォークロックユニット。ライブを中心とした活動を展開し、2012年11月に初の全国流通音源となるミニアルバム「虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。」をリリース。静謐さと激しさをあわせ持つサウンド、刺激的な歌詞で大きな注目を集め、iTunes Storeが選ぶ2013年期待の新人アーティスト「ニューアーティスト2013」にも選ばれる。2013年3月、2ndミニアルバム「真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。」をリリースした。