ReoNA|「月姫」に寄り添う孤独や絶望

ReoNaの新作「月姫 -A piece of blue glass moon- THEME SONG E.P.」が9月1日にリリースされる。

TYPE-MOONによるビジュアルノベルゲーム「月姫」のテーマソング4曲で構成される本作。収録曲はすべて、「月姫」のファンでもあり、ほかのTYPE-MOON作品にも楽曲提供している毛蟹(LIVE LAB.)が手がけている。ReoNaは「月姫」の物語とどう向き合い、歌唱表現に落とし込んだのか。音楽ナタリーではReoNaに各収録曲に込めた思いを聞いたほか、8月11日にライブBlu-ray / DVD化された神奈川・パシフィコ横浜公演を振り返ってもらった。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作

私が発する歌詞や言葉を“自分事”にしてほしい

──まず映像作品「ReoNa ONE-MAN Concert Tour "unknown" Live at PACIFICO YOKOHAMA」について聞かせてください。ReoNaさんは「ライブは一対一の空間」であるとおっしゃっていて、面白い表現だなと思っていたのですが、それも含めてライブという場をどのように捉えていますか?

“一対一”という言葉で表せるようになる以前から、感覚的に、観てくれている方に対して「自分事にしてほしいな」というのが私の中にずっとあって。私がステージの上から発するお歌の歌詞や、語りかける言葉が一方通行になってほしくなかったんです。私自身も、観客としてライブを観るときは、アーティストがステージから発する言葉を自分のこととして受け止めたいし、それが自分に向けて、あるいはこの場にいる1人ひとりに向けて発信されているものであってほしくて。そういう思いが“一対一”という言葉にたどり着いたんです。

──いいですね。

その日、その会場にいる人たちにはそれぞれまったく別の日常があって、その中の1日を使ってライブに足を運んでくださっていると思うんです。私は、そんな1人ひとりが今日、どんな思いで来てくれたのか、すごく想像するんです。「もしかしたら就職する前の最後のライブかもしれない」「勇気を出して来てくれた人生初のライブかもしれない」「がんばってアルバイトでお金を貯めて来てくれたのかもしれない」、はたまた「友達に連れられて『ReoNaって誰?』みたいな状態かもしれない」とか。そこにいる人の数だけストーリーがあるはずで、その1人ひとりに「自分に向けてReoNaの言葉が紡がれているんだな」と思ってもらえたらいいなって。

──お客さんと“一対一”の関係でありたいというスタンスは一貫していると思いますが、デビューから約3年を経て場数も踏んだことで、パフォーマンスにおいて何かしら変化はありますか?

やっぱり経験を重ねるにつれ、必要以上に緊張しなくなってきたというか。以前はどちらかというと無我夢中だったり、ふわふわと夢見心地だったのが、特に今回の「unknown」ツアーでは地に足を付けて、現実味を持ってお歌をお届けできた感覚がすごくあって。自分が今、どんな言葉を伝えようとしているのかをより意識できるようになってきたと思います。

──この「unknown」ツアーに至るまでに、2020年の5月から7月にかけて行われる予定だった全国ツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2020 "A Thousand Miles"」が中止になってしまったという経緯があります。普段とは異なる感情もあったのでは?

2020年は、本当に何に対して不安や苛立ちや悔しさをぶつけていいのかわからない、出口の見えない苦しい時間を私も含めたくさんの人が過ごされたでしょうし、まさかこんなに人と会えなくなるとは、こんなに「次、いつライブができるんだろう?」と悶々とする日々を送ることになるとは……。顔を合わせてお歌をお届けできることの特別さ、大切さというのは自分でもわかっていたつもりではいたんですけど、それがより一層身に染みたというか。それもあって、会場に入って客席にいる1人ひとりの顔を見たら「ああ、あの時間を乗り越えて、ここまで来られたんだな」と込み上げてくるものがありました。

ReoNa

あなたのこと、すごく見てます

──ReoNaさんにとって、今回のツアーにおけるすべての瞬間が特別だったと思いますが、その中でも特に印象に残っている曲、あるいは出来事などはありますか?

「絶望年表」(2020年10月発売の1stアルバム「unknown」収録曲)という曲があるんですけど、この曲だけバンドの皆さんと横並びになって、イスに腰かけて歌ったんです。しかも、1コーラスはほぼ私のアコースティックギターの弾き語りで。あんなに長い時間、自分のギターと声だけでお歌をお届けするのは初めてだったんですけど、いざ座ってギターを抱えて歌ったら、もう顔が体ごと客席側を向いているので、お客さんの目線だったりうなずいている表情だったりをすごく感じることができました。この「絶望年表」は自分自身の人生年表みたいな楽曲でもあるので、そんな特別なお歌を特別な形でお届けできたことは、とても印象に残っています。

──先ほど「現実味を持ってお歌をお届けできた」とおっしゃっていた通り、映像からも充実度の高いライブであったことがうかがえます。

ReoNa

1公演1公演、お客さんと私の双方の「待ってました」という気持ちが会場を包み込んでいるような雰囲気があって。待っていてくれたあなたがいるから、私も1曲1曲、1分1秒余すことなく集中することができたんじゃないかと思います。それが今回映像化されるにあたって、会場に来られなかった方はもちろん、あの場にいてくださった方も、また違ったものとして受け取ってくれるんじゃないかという期待もあって。会場で座っていた場所からは見えなかったかもしれない私の表情や、会場全体の空気を感じられるカットもあったりして、まさにそれは、私が観てほしい映像集とも言えるんです。録音も、普段レコーディングをお願いしているエンジニアさんに入っていただきました。

──そう、音もいいですよね。

「Null」(2019年8月発売の3rdシングル)以降のReoNaの楽曲を全部録ってくださっている方であり、ReoNaの届けたい音やお歌というものをすごく深く理解してくださっている方なので、会場では体で感じていたであろう細かな息遣いだったりニュアンスだったり楽器の音色だったりが、より一層クリアに聞こえるんじゃないかと思います。

──映像に収められているReoNaさんの笑顔にはいくつか種類がありますが、例えば2曲目の「ANIMA」(2020年7月発売の4thシングル表題曲)で見せたような不敵な笑みが特に印象的でした。

あれは、自然とああなっています。たぶんニヤリとしていたのは、誰かとすごく目が合ったり、誰かがすごくうなずいてくれていたんでしょうね。目線の先にいるあなたに対してお歌を届けるということだけに集中している自分の顔を見ることはなかなかないので、「ああ、こんな表情してるんだ」と思う瞬間はかなりありました。

──お客さんのこと、よく見てます?

すごく、見てます。たまに「ReoNaさんと目が合った気がしました」と言ってくださる方がいるんですけど、間違いなくあなたと目が合っています。


2021年9月2日更新