Reolが人と交わる“交差点”を探し求めた「第六感」インタビュー

前作「金字塔」からおよそ2年。Reolがミニアルバム「第六感」をリリースした。

「BOAT RACE 2020」のCMソングとして広く浸透したタイトルトラックを含む全7曲入りの今作。収録曲の多くは、コロナ禍に見舞われた2020年から2021年にかけて制作されている。

このインタビューでは昨夏の無観客配信ライブ「Reol Japan Tour 2020 ハーメルンの大号令 -接続編-」や、ひさびさの有観客開催となった「Reol Installation Concert 2021 音沙汰」といったライブ活動を振り返りながら、彼女にとっての“交差点”を目指したという「第六感」完成までの歩みを聞いた。

取材・文 / 風間大洋撮影 / 斎藤大嗣

音楽があったから死ななかった人は絶対いる

──「第六感」は、前作「金字塔」から約2年ぶりの新作CDとなります。これまでかなりリリースペースが早かったReolさんにとって、ここまで期間が空いたのは珍しいんじゃないですか?

そうなんですよね。ただ「金字塔」を作っているときにはもう、次の作品の制作時間を少し長く取ろうと考えていたんです。それまでハイスピードでやってきたのは自分の意思ではあるんですけど、1回じっくり作ってみたかったし、「金字塔」を出したあとにコロナ禍に入ったというのも大きくて。全国を4本回ったところで頓挫してしまったツアーを、配信ライブの1回きりで昇華させなきゃいけないというのが、自分の中でどうしても満足できなくて。配信は配信でよかったんですけど、思い描いていたことと違いすぎたところはありました。思うようにライブができない状況も含めて、制作に2年の月日をかけた感じですね。

──コロナ禍の中の制限された活動を振り返って、Reolさんはどう感じていますか?

私はインターネットミュージックから出てきているので、最初の頃は知名度に対してライブの場数が足りてないという、実力不足を感じていたんです。それが2019年頃から「ROCK IN JAPAN」などのフェスに出させてもらえるようになって、自分のパフォーマンスの正解みたいなものをようやくつかめてきたところでコロナ禍になってしまって。でも、インターネットシーンでやっていたときは音源だけ作っていたから、あの頃に戻った感覚というか。あのときどういう感覚で作りたいと思ったんだっけ?とか、初心と向き合う時間になりました。だから大きなストレスはあまり感じなかったですね。

Reol

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──配信ライブは実際にやってみてどうでした?

たぶん、やれた時期もすごくよくて。私は中止になった3、4月のライブの振替公演を7月か8月くらいにやろうと計画していたので、それだけ時間があると配信のための演出に切り替えることができたんです。なおかつ「音楽や娯楽なんて不謹慎」「ライブやってる場合か?」みたいな批判を音楽業界が食らった時期を少し抜けて、みんながエンタメというものの尊さを見直し始めた頃で。音楽は衣食住のように生活必需品ではないかもしれないけれども、音楽があったから死ななかった人は絶対いると思うんですよ。

──間違いないです。

そういうことをみんなが思い出した時期に配信ライブをすることができたので、すごくいい経験になりました。

──配信でやるからこその課題はどのアーティストも直面したことだと思いますが、Reolさんはそういう工夫が得意そうなイメージがあります。

そうですね(笑)。私はゲームの縛りプレイと同じで、縛りがあったほうがいろんなアイデアが出やすいというか。特にこだわったのはリアルタイム感でした。生だということをお客さんに伝える手段として、生のコメントが必要不可欠だった。だとすると、コメントが表示される配信媒体を利用したい、YouTube LIVEがいいんじゃないかというところから、いろいろと作っていきました。もともとツアーで見せようと思っていた演出映像はちゃんと使いつつ、お客さんがいないからそこにステージを作って客席に降りたりとか、そういう普段できないこともできましたね(参照:Reol、インターネットと音楽で2万5000人と“接続”した「ハーメルンの大号令」)。

──今年に入ってからは1年半ぶりに有観客ライブも開催されました(参照:Reol、1年半ぶりに観客と共に“素敵な夜”を作り上げる)。ステージでの感じ方は以前と変わりましたか?

制約が設けられたライブではありましたけど、それもまさに縛りプレイで、今までやりたかったけど機を見計らっていたストリングスカルテットを入れることにしたんです。今回は音に特化したライブにしようということで、ライブとは謳わずに「インスタレーションコンサート」とタイトルを付けて、カルテットを入れた8人編成の生バンドを組みました。新しい形としてやったことで、今後も二刀流でやってほしいという声もいただきましたね。私のお客さんは男女比が半々で、スタンディングのライブだと女の子は見えなくなっちゃったりもするので。

──大きい男子が飛び跳ねた日にはもう。

私自身が小さいこともあって、花道だと観客に埋もれてしまって「どこにいるんだろう?」みたいな(笑)。そういうふうに見えづらい思いをしてきた方からすると、今回みたいなホールのライブはすごくよかったみたいです。

Reol

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一歩踏み出すのってすごく勇気がいる

──そんなコロナ禍の中のライブと並行して、今作の制作も進めてきたわけですよね。

そうです。「第六感」と「Ms.CONTROL」は同時期くらいに着手していて、完成は「第六感」のほうが早かったです。タイアップのCMのお話が2019年の終わり頃にはもう来ていて、2020年の夏から流れるということだったので、そこに合わせて先に出ました。「白夜」と後半の4曲にタッチしていた時期は同じくらいで、2021年の2、3月くらいから作り始めて。2カ月に1曲くらいのペースで作っていました。

──先に世に出た楽曲が前半に固まっているのは何か意図があってのことですか?

それは全体の流れを考えて、たまたまそうなりました。あと、収録曲の最後にタイトルトラックを置くとそこで完結!みたいな雰囲気になるから、最後に置くのは違うなと。最後の曲はその先を予感させるものにしたくて。だから今作で「第六感」を1曲目にするということは曲を作った時点で決めていました。

──最初に「第六感」というテーマの曲を作ったのは、そもそもどんなところからだったんですか?

私は全然ギャンブルをやらないので勝手なイメージですけど、ビギナーズラックの“勘”とか、CMの打ち合わせのときに聞いたボートレースのレーンが6レーンあるという話から「第六感」がすごくハマる言葉だと思ったんです。

──「第六感」からスタートした今作ですが、音としてどんなふうにしたいかはイメージしていましたか?

開けた作品にしようというのはずっと考えていました。だからタイアップものも多くお引き受けしたというのもあるし。「事実上」と「金字塔」はソロアーティストとしてのカラー作りというか、ユニット時代との差別化を明確に図りたかったので、わりとコンセプチュアルに「私とは、こうです」というアルバムを作った感覚なんですけど、「第六感」に関しては3枚目でもあるし、自分のできることで一番人と接する面が大きい部分を見せたいなと。2019年半ばくらいまでは自分がすごく閉じたモードだったんです。友達とかも全然作らない感じだったんですけど、そこから徐々につながる縁が増えてきたのが2020年から2021年で。そういう外の風を受けた作品作りを今までもしたかったんですが、一歩踏み出すのってすごく勇気がいるじゃないですか。

Reol

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──そうですね。

今までやってきたままでいいんじゃないかという自分もいるし……。ただ、少数精鋭で作ることで1人あたりのカロリーがめちゃくちゃ高くなっていたんです。私は自分の作品だからいいんですけど、周りにもそれを強いてるな、というのはずっと感じていたので、そこのバランスもちゃんと取りたかった。多少の無理は必要といえども、やっぱり楽しく作らないと意味がないし。

──それに新たに人と接することが増えると、改めて自分の立ち位置も見直せたりしますよね。

そうですね。Reolは「強いアーティスト」というイメージがあると思うんですけど、Reolと実際の私には乖離した部分もあって、私自身は自己肯定感も高いほうではないし。Reolは私の理想像なので、中身の私とすべて同じではない。今回制作に携わってくれているメンツが、「君とだったら作ってみたい」と言ってくれたことも大きかったかな。頼ることの必要性を学びました。「ああ、もっと早く声をかければよかったな」「そうしたらみんなあんなにしんどいスケジュールじゃなかったのかな」とは思いました(笑)。

Reol

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──「人と接する面が大きい」ものを目指すことは、ある種のポピュラリティと向き合うことだったりすると思うんです。だから今作は今まで以上にチルな雰囲気や優しい印象を受けるというか、先ほどおっしゃっていた強さや攻撃性だけではない魅力が出た作品になったのだと思います。

やっぱり20代前半の頃は「やり方を変えずに売れたい」と思っていたんです。それが一番理想的だし、みんなそうだと思うんですけど、長く続けていくと「それって自己満足なんじゃないか?」という気持ちがすごく出てきて。多くの人に作用するものが作りたいし、自分の人生において多くの人に作用するものを作る期間があってもいいんじゃないかと思って。私は始めた当初は“尖っていた”と言えば聞こえがいいくらい尖っていたから(笑)。

──(笑)。

絶対に私のやり方が正しい!っていう裏付けのない自信みたいなものがすごくあったんですけど、やっぱりそれだけでは通用しなくて。「第六感」はちゃんと人と交わる“交差点”まで出ようという気持ちでメロディを書いたし、それが世の中からの評価を受けると「やっぱりそうか」という納得もある。自分自分!っていうのも、それはそれでストイックでカッコいい部分があるのかもしれないけど、人に聴かせる音楽である以上はその人のためにもなってほしいから、歌詞の書き方とかも変わりましたね。

──それはやりたいこと自体が変わってきたということではなく?

それは全然ないですね。自分がやりたいことをやっている場所に人を引っ張ってきたいというか。「ここまでは譲れるな」という部分は譲って、徐々にこっちへ引き込みたい(笑)。