Reol×小田さくら(モーニング娘。'23)が“歌い手”として語り合う

Reolがニューアルバム「BLACK BOX」を10月18日にリリースする。本作は2020年に発表した「金字塔」以来、彼女にとっておよそ3年9カ月ぶりとなるフルアルバム。テレビアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」のエンディングテーマ「切っ先」やケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)とタッグを組んだ「綺羅綺羅」といった既発曲に加え、新曲が多数収録されている。

音楽ナタリーでは今作の発売を記念し、かねてからReolのファンを公言するモーニング娘。'23の小田さくらとの対談をセッティングした。Reolが“歌い手・れをる”として活動していた時代には、自身の素性を隠して彼女の生配信にコメントをするほどに熱烈なファンであった小田。キラキラと目を輝かせながらラブコールを送る小田に、Reolは何を語るのか。本稿では、終始お互いへのリスペクトに満ちた対談の模様をたっぷりとお届けする。

取材・文 / 小松香里写真 / 斎藤大嗣

実在しないと思ってた

──小田さんは中学生の頃からReolさんのファンということですが、Reolさんと出会ったときのことを覚えていますか? 

小田さくら 当時Reolさんは歌い手で、素性もまったくわからなかったので、実在しないと思ってました(笑)。先ほど一緒に撮影をさせていただいたときに、Reolさんの体に触れるタイミングがあって、「触れるんだ!」と。

Reol (笑)。私はリスナーからSNSを通じて「Reolのアルバムをモー娘。のメンバーが買ってる」っていう情報とともにアメブロのリンクが送られてきて、そこで初めてさくらちゃんが私の曲を聴いてくれてることを知りました。ブログを見たら「極彩色」を買ってくれていて。

左からReol、小田さくら。

左からReol、小田さくら。

小田 そうです! (Reolが参加した)「ぎがばなな ざ べすと ~NORISHIO味~」(2013年リリースのギガPとおればななのアルバム)も「No title」(2014年にあにょすぺにょすゃゃ名義で発表された「No title+」「No title -」)も買いました。

Reol ヤバい!(笑) ありがとうございます。私はモー娘。のド世代なんですよね。ミニモニの3点セットのグッズとか買ってました(笑)。

小田 絶対似合う!

Reol だからハロプロメンバーの小田さんが私のことを好きだと言ってくれていて、すごく不思議な気持ちになりました。

「小田さくら」だとバレてはいけない

──Reolさんの歌と出会ったときのことを覚えていますか?

小田 中学時代の私はニコニコ動画に住んでるような状態で。“歌ってみた”や“踊ってみた”を中心に観ていたんですが、その中で自然とReolさんに出会いました。私は曲から好きになるというより、声や歌い方の癖で歌手を好きになるタイプなので、1つの曲をいろいろな人が歌う“歌ってみた”は自分に合っていたんですよね。その中で一番刺さったのがReolさんでした。私、変声期前の男の子の声がすごく好きなんですが、そういう声って時間が経つと声変わりして聴くことができなくなってしまいますよね。でも、Reolさんの歌声からは少年味を感じつつ、「女性だからずっとこの声は変わらないままでいてくれるんだ」と思ったんです。あとボーカロイドをよく聞いていたこともあって、人間味がありすぎる歌は自分にはしっくりこなくて。その点、Reolさんの声は人とボーカロイド両方のいいとこ取りに聴こえて、しかもリズム感重視で音程もブレないところがなかなかほかにはいらっしゃらないなと思いました。モーニング娘。はとにかく「リズムに気を付けて」と言われて育つので、どんどんリズムにシビアになっていくんです。

小田さくら

小田さくら

Reol モーニング娘。の方にリズム感を褒めてもらえるなんて、すごく光栄です。歌い手はカバー曲が主流だったので、私がオリジナルアルバムの「極彩色」をリリースしたことは珍しかったんですよね。それを買ってくれて、わざわざブログにも投稿してくれて「大好き」って書いてくれたことは驚きましたし、すごくうれしかったです。

小田 自分の中にあるいろいろなこだわりを満たしてくれるのがReolさんだったんです。「極彩色」のあとはしばらくリリースがなかったので、動画を追ったり、生配信を観たりしてました。当時もReolさんは実在しないと思っていたので、生配信を観ていくうちに「あっ、Reolさんって“人”なんだな」と思いました(笑)。コメントもたまに読まれてたんです。

Reol え、コメントを打ってくれてたんだ? かなりのアクティブユーザーだったんですね。

──読んでもらえたコメントがどのようなものだったのか覚えていますか?

小田 ……ちょっとおかしい中学生が書いたコメントだと思って聞いてくださいね?(笑) Reolさんに読んでもらえるならなんでもよかったので、「人間って、顎と肘がつかないって知ってますか?」とか送ってました。そうしたら読んでもらえて、「今コメント欄の人もみんな、本当に顎と肘がつかないかやってるんだろうね」という話になったのを覚えてます。

Reol めちゃくちゃ鮮明に覚えてる(笑)。でも、目の付けどころがいいですね。

Reol

Reol

小田 当時はすでにモーニング娘。のメンバーだったので、どんなことがあってもコメントしてるのが「小田さくら」だってバレてはいけないと思ったこともあり、そういった変わった内容のコメントを送ってました。だから、コテハン(固定ハンドルネーム)も絶対付けなかったです。

Reol 私はモー娘。のほかにもJuice=Juiceとかハロプロの曲をいろいろ聴いてるんですが、つんく♂イズムが継承され続けているなと感じています。モー娘。は誕生25周年を迎えましたが、このまま宝塚みたいな独自の文化になっていくんだろうなって。あと、最近モー娘。が出した「Wake-up Call~目覚めるとき~」がめっちゃいいなと思いました。

小田 うれしい! ありがとうございます。

Reol どの曲もいいんですが、私はあんなメロディラインをアイドルソングで聴いたことがないのですごくびっくりして。サビの展開はキャッチーだけどひねりがあって、モー娘。以外がやったら微妙なんじゃないかなって思いました。歌うのは難しくないですか?

小田 自分としてはあまりそうは感じていなくて。つんく♂さんの曲って変な転調をする曲が多いんですよね。1文字だけ転調するとか、そういう曲を歌い続けてきたので、どこが特殊なのかがだんだんわからなくなってきました(笑)。難しいんですかね……。

Reol 難しいと思いました。歌詞の中に精神性や世相を斬ってる描写があるのもモー娘。という確固たるブランドだからこそできる芸当だとも思って。すごくいいなと思いました。最近聴いた曲の中で一番ハマってます。

小田 ありがとうございます。めっちゃ最新情報でびっくりしました。私たちは本当に制作陣に恵まれているんです。

王道の歌い手ではなかった

Reol 私はステージに立つ演者としてはまだちょっと自信がないところがあるんですよね。それこそボカロで“歌ってみた”をやっていた頃は歌だけで自分を表現しなきゃいけなかった。でも私の声は、裏声に変わる音程が人より高い位置にあったりして、歌い手の王道にはあまりいないタイプだったので、「歌というフィールドだけでこれ以上活動できるんだろうか」「自分の個性っていったいどこにあるんだろう」と葛藤することが多かったです。思春期の頃から「自分は人と違う」という感覚が強くあったから、インターネットにいれば浮かないんじゃないかと思っていたけど、だんだんそこでも浮いてきた。それで、歌以外の”言葉“とかにも表現を広げていきたい、と表現の欲求が膨らんだ結果、オリジナル曲の制作に向かったんです。歌い手だとカバーのほうが数字が見込めるので「オリジナルなんてやめときなよ」と感じる人もいたと思うんですが、そこでとどまっていると自分がどんどんすり減っていく。だからこそ、ずっと演者に徹してステージに立ち続けているさくらちゃんに対して憧れがあります。でも、さくらちゃんはダンスという身体表現がついてくるので、歌だけだった私とはまた違いはありそうですよね。

Reol

Reol

小田さくら

小田さくら

小田 そういうふうに葛藤されていたんだというお話を聞けてありがたいです。ニコニコ動画はコアな人たちが集まる場所で、狭くて濃い印象があったんですね。でも「極彩色」を聴いたときに、「この人はたくさんの音楽を聴いている人なんだろうな」と思ったんです。その後も作品を聴くごとに、Reolさんがご自身を表現することでどんどん世に出ていって、ファンとしてすごくうれしかったです。2021年に「第六感」がリリースされたときは、それまでReolさんの話をしてなかった友達もこの作品のことを知ってて。先ほどお話しされていたReolさんの葛藤があったおかげで、私の好きなReolさんの楽曲が世に広まっていった。才能があるだけでなく、たくさん悩まれたうえで活動されてるところもカッコいいなと思いました。

Reol 私の楽曲がどんどん広まっていくことを喜んでくれるなんてファンの鑑じゃないですか! 世の中がこういうファンの方で埋め尽くされてしまえばいいのに(笑)。

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つんく♂ロイド

2023年10月17日更新