結局、西郷さんの人柄を歌ってるんだよね
──そして、もう1曲の「SEGODON」は、大河ドラマがはじまる前から、パワープッシュソングとしてテレビでもたくさん流れてましたよね。
みんなに言われたんだから。「レキシが大河ドラマの主題歌! おめでとうございます!」って。いやいやいや、違うって(笑)。パワープッシュソングだから。
──この曲は、どういう経緯で作ることになったんですか?
主演の鈴木亮平くんがMCを務めたフェス(2017年9月に開催された「宗像フェス ~World Heritage Munakata~」)に出たことがあって、前の晩に一緒にメシを食いに行ったんだよね。ちょうど亮平が「西郷どん」の主演を務めることが決定した頃で、「主演決まったね!」みたいな話をしてるときに、亮平のほうから「俺もレキシとコラボしたいです」って言ってくれて。「『西郷どん』の主演俳優とコラボするなんて無理だから!」なんて笑いながら話してたら、その後NHKから正式にオファーが来たんだよ。もちろん亮平がその話をドラマのスタッフにしたわけでもなく、本当にたまたま現実になったっていう。
──レキシがこれまで作った曲には、西郷隆盛をテーマにしたものはなかったですよね。
西郷隆盛の曲は、レキシを始めた頃から書こうと思ってたんだけど、なかなか書けなくて。一度「西郷さんとツンの銅像になるための10の法則」ってタイトルだけ思い付いたんだけどね(笑)。
──なんですか、そのミニシアターでかかってる恋愛映画みたいなタイトルは(笑)。
そうそう、ちょっとおしゃれ系の映画のタイトルをモジって、みたいな(笑)。西郷さんの曲はずっと書けずにいたんだけど、今回のオファーで背中を押された感じ。
──池ちゃんの中で、西郷さんの人物像はどういったものだったんですか?
それは「西郷さんの曲がなんで書けなかったか?」ってことにもつながるんだよね。たぶん西郷さんに対して、すごい人だってイメージをみんな持ってると思うけど、具体的に何をやったかみたいなことが、あまり世間に伝わってないのかもなって。それは俺も一緒で。だから今回の曲でも、何をやったかじゃなくて、結局、西郷さんの人柄を歌ってるんだよね。西郷さんは、誰からも好かれた、すごく人望が厚い人っていうイメージがあって。悪く言うと人たらし的な感じがあったのかもしれないけど、豊臣秀吉よりはピュアなんだろうなって印象があるね。ドラマでも描かれてたけど、1回死んだつもりになって、開き直ったんだろうね。何も惜しいものはないって気持ちになってからの開き直り方が、またすごかった。
──なるほど。
今回曲を作るために紙資料や1、2話分の台本ももらったけど、何よりイメージしてたのは西郷さんじゃなくて、亮平なんだよね。ドラマのメインビジュアルでジャンプしてる亮平の写真の印象が一番強かった。西郷さんの人柄と亮平の人柄をダブらせて、歌詞を書いていったところはあるね。だから本当のタイトルは「SUZUKI RYOHEI」かもしれない(笑)。そう言えば、こないだ渡辺祐さんに言われたんだけど、この曲の歌詞、1行目の「キミの名前呼べば 空飛べるような気がして」ってとこだけ見たら、スピッツの曲みたいだよね。
──確かに!(笑)
言われるまで全然気付かなかったんだけど(笑)。
歴史の大きな出来事の影には、絶対に恋愛ごとが絡んでる説
──歌詞に関して言えば、サビで登場する「幕末させていこう」ってフレーズは素晴らしいですね。
このフレーズに関しては、誰かを思うワクワクする気持ちを爆発させようっていう意味合いがあるの。幕末ってエモーショナルな時代だったから、「幕末させていこう」って言葉をかけたんだけど。あとは俺が常々言ってる「歴史の大きな出来事の影には、絶対に恋愛ごとが絡んでる説」ね。国のためとか言ってるけど、いやいや絶対あの女にいいとこ見せたいとか、振られた女への腹いせみたいなのが原動力になってるんだろうなっていう。あと、殿様と家臣の関係も恋愛に似てるみたいなところがあるじゃない? 西郷さんって人から慕われるけど、自分も島津斉彬とか明治天皇とか、忠誠を誓った人に対しての思いが強いんだよね。
──忠誠心と恋愛って、人を思うメカニズムとしては紙一重みたいなところがあるかもしれないですね。
そう。そういうエモーショナルな気持ちみたいなものも、この曲の歌詞には込めてる。「キミ」とか「あの子」とか歌詞の中では女子っぽく聞こえるところを男同士に捉えてもらってもいいし。俺の中では、LGBTであったり現代社会の多様性が裏テーマになってる感じもあるね。100人中1人が気付くかどうかだけど(笑)。まあ、そういうところもイメージして書いたかな。
──いろいろ深いところまで思いが巡らされてますね。
でもね、俺はこの曲を書いたときに1、2話分の台本しかもらってなかったんだけど、けっこうこの歌詞の感じでドラマが進行してるよ。毎週観てて「あれ? この展開……歌詞見た?」って思うぐらいに重なる部分が多い。とくに2番の歌詞とか。
──サウンド面は「KATOKU」に通じる、80年代の産業ロックっぽい曲調ですね。
「KATOKU」から80年代づいてるよね。あまり80'sポップスって通ってきてないから、自分ではなんでそうなったのか全然わからない(笑)。さっき話題に挙がった、亮平が青空をバックに跳んでる「西郷どん」のメインビジュアルから影響を受けて、カラッとしたサウンドになったのかもね。実は候補曲を2パターン作ってて、片方はブラックミュージック寄りだったの。で、もう1つはスタジアムでみんなが手を挙げてるような映像が浮かぶイメージの曲。爽快感とか突き抜けてる感じから、そっちのバージョンになったんだよ。
最終的には「レキシBANASHI集」で1枚アルバムを出せる
──そして「GET A NOTE」と「SEGODON」の橋渡し的に収録されているのが、曲と言うか語りと言うか、なんとも言えない「BANASHI」。日本の昔話をモチーフにしたオリジナルのストーリーを池ちゃんが朗読するという不思議なナンバーです。
各所で物議を醸し出しそうなやつ(笑)。これね、1人で部屋に篭って声色を変えながら、通しでツルッと録音したの。お婆さんの声は市原悦子さん、吾作の声はえなりかずきくんをイメージして。最初は怪談をやってみようと思ったんだよ。日本史のことを怪談ふうに話すってやつに挑戦したんだけど、これが難しくて……。
──お話的には、昨年のツアーで登場した稲穂の妖精につながる内容ですよね。
ちなみに稲穂の妖精が出てくるシーンのSEは、ツアーで使った音源をそのまま使ってる。本当はいじわるじいさんとかも出そうかと思ったけど、そうすると話も長くなるし、また声色を変えなきゃいけないし。だからあきらめた(笑)。今回、「BANASHI」っていうフォーマットを見つけたから、「BANASHI2」「BANASHI3」と続けて、最終的には「レキシBANASHI集」で1枚アルバムを出せるね。
──さだまさしさんのMCトーク集的な感じで。
そういうの作りたいなー(笑)。次のアルバムのタイトルは「BANASHI」かも。
──いや、それはどうなんでしょう(笑)。
ウソウソ! でも、新しいアルバムは今作ってる途中。まだ告知の解禁はできないけど。もしかしたら、俺がいきなり解禁日前に情報漏らしちゃうかも? 今後はそういうプチ炎上的なこともどんどんやっていかないと! 幕末させていこう!(笑)
- レキシ「S & G」
- 2018年7月18日発売 / 伽羅古録盤
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初回限定盤 [CD+DVD]
1620円 / VIZL-1393 -
通常盤 [CD]
1080円 / VICL-37402
- CD収録曲
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- GET A NOTE
- BANASHI
- SEGODON
- 初回限定盤DVD収録内容
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- ライブドキュメンタリーすんのか~い、せんのか~い
- レキシ
- 1974年福井県生まれの池田貴史によるソロプロジェクト。池田は1997年にSUPER BUTTER DOGのキーボーディストとしてデビューし、2004年からは100sのメンバーとしても活躍。その日本史マニアぶりを生かし、2007年にレキシとしての1stアルバム「レキシ」を発表した。レキシでは日本史の登場人物や史実をソウルフルなサウンドに乗せて歌う独自のスタイルで注目を集め、2011年3月に2ndアルバム「レキツ」、2012年12月に 3rdアルバム「レキミ」をリリース。2014年6月に4thアルバム「レシキ」を発表した。同年8月には初の日本武道館公演を開催。12月には上原ひろみを迎えた東名阪ツアーを実施した。2015年9月には青森・三内丸山遺跡でのワンマンライブを成功させる。同年11月25日に、初のシングル作品である「SHIKIBU」を発表。2016年6月に5thアルバム「Vキシ」をリリース。2017年4月にはニューシングル「KATOKU」を発売する。同年10月には大阪・大阪城西の丸庭園にて初の野外公演、東京・日本武道館で初の2DAYS公演を実施し、それぞれ成功に収める。2018年1月に放送が開始されたNHK大河ドラマ「西郷どん」のパワープッシュソングに新曲「SEGODON」を提供。4月には地元福井県鯖江市で凱旋となる野外公演を開催した。5月にリリースされた椎名林檎のトリビュートアルバム「アダムとイヴの林檎」に参加し、「幸福論」をカバー。2018年7月に初の両A面シングル「S & G」を発表する。