レキシ|超強力両A面シングル完成! 西郷どんなの? ゲゲゲなの? どっちが好きなの?

レキシが7月18日に両A面シングル「S & G」をリリースする。

今作にはフジテレビ系で放送中のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」のエンディング主題歌「GET A NOTE」、NHK大河ドラマ「西郷どん」のパワープッシュソング「SEGODON」、そしてレキシがノスタルジックなサウンドに乗せて自作の昔話を朗読する「BANASHI」の3曲が収められる。音楽ナタリーではシングルの発売に合わせてインタビューを実施。タイプの異なる各楽曲の制作背景についてレキシに語ってもらった。

取材・文 / 宮内健

ボブ・マーリー「Get Up, Stand Up」からのインスパイア

──今作はフジテレビ系アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」のエンディング主題歌「GET A NOTE」と、NHK大河ドラマ「西郷どん」パワープッシュソングの「SEGODON」を収録した両A面シングルとなっています。まず、「GET A NOTE」について聞いていきますが、レキシとしてはアニメの主題歌は初ですよね。

そう、初めて。レキシって、ただでさえ「日本史」っていう縛りがあるのに、そこにもう1つ縛りを入れるなんてアホか!っていうね。それは、先方に「やります」って返事をしてから気付いたんだけど(笑)。

──自動車のCMソングだった「KATOKU」を作ってるときも、CMコンセプトと日本史縛りの擦り合わせの大変さに、うんうん唸ってたはずなのに。

そうなのよ。今回は「ゲゲゲの鬼太郎」のエンディング主題歌だけど、妖怪っていうテーマで曲を作るのは無理だなと。だって歴史で妖怪って言うと、柳田國男的な民俗学の世界に入っていっちゃうから。それに加えてこれは子供が観るアニメでしょ? 「妖怪」「鬼太郎」「子供」って縛りがいくつもあるから。これはさすがに厳しいなって一旦はあきらめかけたけど、何か歴史と共通項があるかなと考えてみたら「あ、下駄か!」と。

──だいぶ無理のある連想ゲームですけどね。

江戸時代とか、侍が下駄履いてそうなイメージあるじゃん? でも調べてみたら、当時はやっぱり草履が主流なんだよね、お察しの通り(笑)。せいぜい農作業に使う田下駄とか、位の高い人が雨の日に足元が濡れないように履く高下駄とか、あとは花魁下駄ぐらいで、これは無理やなと(笑)。だけど、考えてるうちに「下駄の音がしたんだ」ってフレーズが浮かんで、これはいけそうだなと思って。ちなみに、このフレーズは、ボブ・マーリーの「Get Up, Stand Up」からインスパイアを受けたんだけど。

──なるほど! それは全然気付かなかった(笑)。

「下駄、したんだ」だと作り言葉みたいになっちゃうけど、そこに「の音が」って言葉をハメてみて。いとうせいこうさんとタイトルについて話してたとき、「下駄の音」をローマ字にして並べてみたら「NO OTO」が「NOTE」になるってことに、せいこうさんが気付いたんだよね。で、「GETA」の間を切ったら「GET A」になるじゃん!って気付いたのは俺。

──単なる当て字じゃなくて、ちゃんと別の意味も生み出してるのがすごいですよね。

そう。「NOTE」には音符って意味もあるじゃない? すごいよね(笑)。

──いや、この発見は天才的です。しかし、この曲を最初に聴いたとき、「レキシもついに日本史を離れたのか?」って思いましたよ。2番になって、ようやく「お城に行く」ってフレーズが出てくるぐらいですし。

レキシ

そういう意味では「ねぇバーディア」(池田が提供したNegiccoの2015年発表シングル)寄りなんだよね。無理やり2番に“レキシワード”を入れたっていう、あの手法(笑)。俺は常々「レキシが日本史のことを書かなくなったら終わるよ」って自分で言ってたのに、それがついに来たんだよね(笑)。

──とは言え、レキシワードや設定がここまでミニマムだったとしても、楽曲としては完全にレキシの音楽になってるのはさすがだなと思いました。

逆に言うと、レキシの存在や楽曲がある程度は浸透したから、ここまで振り切ってもいいんじゃないか?ってのはあるけども……いやいや、それは過信しすぎだろ!(笑) まあ、この曲を聴いた人がどう思うか。そこに委ねてみようってところもあるよね。「レキシ終わったな」って反応が起きたとしても、それはそれでよしって言うか、そこを逆手に取れるし(笑)。

──ところで、アニメの主題歌とかエンディング主題歌って、子供にとっては音楽に触れる入り口みたいなところがあるじゃないですか? 実際に自分が作る側に立ってみると、どんな思いが生まれてくるんでしょう?

それがまた縛りの1つでもあったんだけど、アニメの世界観とまったく離れた内容の曲を書いて、それを強引に主題歌にするのもちょっと嫌だったんだよね。オファーを受けたときは、「鬼太郎とまったく関係なくてもいいし、歴史がテーマの曲でもいい」って言われたんだけど、それは自分が許せなかった。

──昭和40~50年代にアニメを観て育った世代としては、アニソンは作品の世界観やキャラクターが反映された、オリジナルのものじゃないと物足りないっていう感覚はありますよね。

やっぱりそこは連動しててほしいじゃない? で、鬼太郎のエンディングで一番印象に残ってるのは「カランコロンの歌」だったから、それに対するリスペクトを込めて書こうと思って。

鬼太郎のエンディングの物寂しい雰囲気を出したかった

──池ちゃんはリアルタイムで「ゲゲゲの鬼太郎」は観てたんですか?

俺らがリアルタイムで観てたのは80年代の第3期? 吉幾三さんが主題歌を歌ってたときだから、小6ぐらいかな。でも一番印象に残ってるのは、70年代にやってた第2期のちょっとおどろおどろしい感じ。あの雰囲気が好きだね。もともと俺は、水木しげる先生が大好きで、マンガ作品もいろいろ読んだし、「ねぼけ人生」みたいなエッセイも好きだし、妖怪の画集も持ってたから。だから今回オファーをもらえてめっちゃうれしかったわけ。でも、好きだからゆえに下手なものは書けないっていうプレッシャーもあったんだけど。

──ちなみに、池ちゃんが好きな妖怪は?

レキシ

リアルタイムで観てたのが80年代の鬼太郎だから、その当時の敵方のボスだったぬらりひょんかな。だからぬらりひょん贔屓なところはあるかも。もちろんほかの妖怪も好きだよ。小豆洗いとか。SUPER BUTTER DOGをやってた頃は「影になって見えないだろうけど、今、キーボードを弾いてるんじゃなくて実は小豆を洗ってます」とかMCで言ってたし(笑)。あと、子泣き爺に似てるとは言われるな。今回曲を作るにあたって、最初は子泣き爺をクローズアップした「おんぶしてくれよ」的な曲とか、あとは「ゲゲゲの下克上」とか、実はいろいろアイデアを考えてたんだよね。だけど、自分の中でピタッときたのが「GET A NOTE」だった。鬼太郎のエンディングって、ちょっと物寂しいイメージもあるから、その雰囲気を出したかったし。妖怪に関係なく、レキシ側の視点で見ても、丑三つ時に侍が提灯を持って歩いてる情景って、なんかちょっと怖いじゃん? 

──夜っていうのは怖いものだって子供に伝える意味も、妖怪や怪談にはあったでしょうしね。

そうだね。まあ、妖怪の概念が生まれたのは古い時代なわけだから、その時点でもう“レキシ”だね(笑)。ちなみに「お城に行くあいつは誰だろう」ってフレーズは、吉田東洋っていう幕末の土佐の家老の暗殺シーンからの連想。彼は真夜中に暗殺されてるんだけど、そのときに履いてたのが下駄なのよ。そのイメージも入ってる。一応、ちゃんと歴史も踏まえてるんですよ!

──各所の意向をきっちり汲み取ってるじゃないですか(笑)。

だから俺は真面目なんだって! いろんな要望を取り入れて作りたくなっちゃうから、そのプレッシャーで悩むんだよね。曲を書く前にスタッフから資料をもらったんだけど、今回の鬼太郎はわりと醒めてると言うかクールと言うか。よくも悪くも現代っ子的な鬼太郎っていうキャラクター設定があったから、曲にもクールさを出したいなと思って。

──仕上がった楽曲は、サウンド的にも夜の寂しさとか禍々しさみたいな雰囲気が感じ取れるようなものになっています。

サウンドについて最初にイメージしたのは、ボブ・マーリーの「Iron Lion Zion」だった。けっこうレゲエ寄りの曲になるかもなと思って作ったら、結果そうはならなかったんだけど。

──全体的に緊張感のあるサウンドは、まさにボブ・マーリーであったり、どこかルーツレゲエに通じるところがあるかもしれないですね。

そうそう。でも、俺もそうだし、レコーディングに参加したミュージシャンも、あまりそこを通ってきたわけじゃないから、ガッツリとレゲエにならなかったのは面白いなと思った。そういうジャンルレスみたいなサウンドは、レキシの強みでもあるかなとも思う。とは言え、この曲は俺の中ではやっぱりレゲエのイメージなんだよね。ちなみに曲を作ったあとに知ったんだけど、水木しげる先生はジャマイカに行ってレゲエにハマって、それ以来ずっとレゲエが好きだったんだって。まったく知らずに作ったけど、またしても「あ、つながった!」って。すごいでしょ?(笑)

レキシ「S & G」
2018年7月18日発売 / 伽羅古録盤
レキシ「S & G」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
1620円 / VIZL-1393

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レキシ「S & G」通常盤

通常盤 [CD]
1080円 / VICL-37402

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CD収録曲
  1. GET A NOTE
  2. BANASHI
  3. SEGODON
初回限定盤DVD収録内容
  • ライブドキュメンタリーすんのか~い、せんのか~い
レキシ
1974年福井県生まれの池田貴史によるソロプロジェクト。池田は1997年にSUPER BUTTER DOGのキーボーディストとしてデビューし、2004年からは100sのメンバーとしても活躍。その日本史マニアぶりを生かし、2007年にレキシとしての1stアルバム「レキシ」を発表した。レキシでは日本史の登場人物や史実をソウルフルなサウンドに乗せて歌う独自のスタイルで注目を集め、2011年3月に2ndアルバム「レキツ」、2012年12月に 3rdアルバム「レキミ」をリリース。2014年6月に4thアルバム「レシキ」を発表した。同年8月には初の日本武道館公演を開催。12月には上原ひろみを迎えた東名阪ツアーを実施した。2015年9月には青森・三内丸山遺跡でのワンマンライブを成功させる。同年11月25日に、初のシングル作品である「SHIKIBU」を発表。2016年6月に5thアルバム「Vキシ」をリリース。2017年4月にはニューシングル「KATOKU」を発売する。同年10月には大阪・大阪城西の丸庭園にて初の野外公演、東京・日本武道館で初の2DAYS公演を実施し、それぞれ成功に収める。2018年1月に放送が開始されたNHK大河ドラマ「西郷どん」のパワープッシュソングに新曲「SEGODON」を提供。4月には地元福井県鯖江市で凱旋となる野外公演を開催した。5月にリリースされた椎名林檎のトリビュートアルバム「アダムとイヴの林檎」に参加し、「幸福論」をカバー。2018年7月に初の両A面シングル「S & G」を発表する。