音楽ナタリー Power Push - レキシ

乱れそめにし世に放つ平安からのメッセージ 9年目の1stシングル完成

レキシがソロデビュー9年目にして初となるシングル「SHIKIBU」を本日11月25日にリリースした。

2014年6月に4thアルバム「レシキ」を発表した彼は、2014年8月に初の東京・日本武道館公演を成功させ、以降はオシャレキシこと上原ひろみとがっぷり組んだジョイントツアーや、かねてからの夢だったという青森・三内丸山遺跡でのコンサートと、大きなライブを立て続けに実施。さらにはNegiccoや関ジャニ∞といったアーティストへの楽曲提供と充実した音楽活動を展開するだけでなく、MCを務めるフジテレビ「アフロの変」をはじめとするバラエティ番組への出演や映画「海街diary」での俳優デビューなど、八面六臂の活躍を見せている。活動の幅をますます広げるレキシこと池田貴史に、新作についてじっくりと話を聞いた。

取材・文 / 宮内健 撮影 / 小原泰広

もともとロックも好きなんだよ

──「SHIKIBU」は意外にも1stシングルになるんですね。

レキシ

そう。「1stシングル」って響きの面白さだけで出したからね。アルバム4枚出してるのに、ここに来て1stシングルっていう(笑)。でもなんだろうね。ここ最近はシングルを出す意味合いもわからなくなってきてるじゃない? 極端に言ったらCDを出す意味すら……っていう時代に、あえて堂々とCDで「1stシングル発売!」っていうね。

──そのシングル曲に、紫式部をモチーフにした「SHIKIBU」を選んだ意図は?

紫式部を題材にしたいっていうのは前から考えていたことで。やっぱり歴史の中ではポピュラーな存在だから。「♪シキシキブンブン」っていうサビの部分だけは4thアルバムの「レシキ」を作ってた頃にはすでにあったんだけど、曲としては形になっていなくて。実はもう1曲ポップな候補曲があったんだけど、今年はわりとほかのアーティストに曲提供をさせてもらうことが多くて、ずっとポップな曲を書いてきてたからね。ポップ路線じゃない方向にしようかなと思って。

──とは言え、この「SHIKIBU」も十分にポップな曲だと思いますよ。

まあそうなんだけどね。でも自分の中ではわかりやすく明るめなポップスっていうよりも、マイナーキーのちょっと渋めのロックンロールにしてみたいなと思ったんだよ。フェスに出ると、モッシュとかダイブが起こるようなガチンコのロックバンドと一緒にやるじゃない? この間長崎のフェス(「Sky jamboree 2015」)に出たときも、レキシ以外のバンドのアクトは全部モッシュが起こってたんだよね。レキシの出番はちょうど真ん中だったんだけど、ほかのバンドのライブでモッシュが起きてる中、レキシだけ稲穂が揺れてるっていう(笑)。もちろんそれはそれでうれしいんだけど、ロックバンドっぽいノリも憧れるっていうか。MAN WITH A MISSIONとか10-FEETとかthe HIATUSとか……カッコイイじゃん? BRAHMANとかさ。ああいう感じに憧れてんの。あ、憧れるのはサウンドね(笑)。もちろんファンクやブラックミュージックも好きだけど、今回の曲にはもともとロックも好きなんだよっていうのが現れただけ。自分の中にあるものとして、自然と出た感じなんだよね。

「SHIKIBU」は“サザン”だ

──サウンドとしては、イントロで1950~1960年代のロックンロールの影響を感じさせながら、歌に入るとちょっと歌謡曲のような妖しげな湿っぽさもあって。1990年代あたりのサザンオールスターズの楽曲に相通じる雰囲気を感じました。

レキシ

ああ、なるほどね。じゃあ、サザンだ。サザンソウルだ!

──サザンソウルっていうと、また全然違うジャンルになっちゃいますけど(笑)。

自分の音楽遍歴でサザンはあまり通ってきていないんだけど、言葉遊びを楽曲に採り入れる感じは通じるところがあるかもね。

──それに古い言い回しなんかも織り交ぜながら、ユーモアや艶っぽさをベールにして、さりげなく普遍的なメッセージを伝えようとしているところとか、サザンとレキシって意外と共通する部分があると思うんですよね。

うんうん。レキシもそういうメッセージを“レキシワード”に置き換えて、クサくならないようにうまくメロディやサウンドに乗っけるっていうコンセプトがもともとあるからね。ナンセンスなようでいて、そこから深い意味が出てきたり。そういう部分に関しては、意識してないって言ったら嘘になるし。だからその指摘はうれしいね。

普遍的な男と女の関係を書いていた

──「SHIKIBU」の歌詞は、どのように作っていったんですか?

最初は「源氏物語」に寄せて作ろうとも思ったけど、あれはあくまでも物語だから。なので、それよりも「書いてる側の心情に触れてみよう」と。今の女流作家でも、過去にいろいろな経験をしてきて身を削るようにして作品を書いている人も多いじゃない? 俺にとっては、紫式部もそういうイメージなの。藤原道長と親密な関係だったっていう説もあるし、清少納言との確執もあったみたいだし、けっこうこじらせてたんだろうな……とかいろいろと想像して。

──池田さんの想像では、紫式部は恋多き女性というイメージなんですか?

いや、どっちかと言うと、1つの恋に没入してものすごく妄想を膨らませるタイプかな。恋愛経験はそんなに多くないんだけど、妄想はハンパねえよっていう(笑)。

──現代の言葉で表現すると紫式部は腐女子で、清少納言はブログ女で……なんて言い方ができるのかもしれません。

レキシ

なるほどね。今回、チャットモンチーにレコーディングに参加してもらったんだけどさ、そのときはまだ歌詞がちゃんとできあがってなかったの。だからチャットの2人と一緒に紫式部について妄想トークしてたんだけど、きっと紫式部が現代に現れても、今の女子と恋バナができちゃうんじゃないかって話になって。そういう妄想をしながら歌詞を書いてるうちに、結局内容としては紫式部も関係なくなってきたというか。普遍的な男と女の関係を想像して書いたところはあったね。歌詞を書いていく上で現代っぽい歌詞になりすぎちゃうのを、ちょっと歴史寄りに戻したぐらい。「おじゃれない」っていうフレーズがなければ、今どきの歌の歌詞だから(笑)。

──今までのレキシの歌詞も昔から変わらない普遍的な心情やテーマを歌ってることが多かったけれど、そういうテーマが特に色濃く出てるのが、今回の「SHIKIBU」だと。

そう。それと、前からそういう歌詞に挑戦してみたかったっていう思いもあって。一旦普通に歌詞を書いて、ところどころにフレーズをレキシワードに置き換えたらどうだろう? っていうのも最近考えてたことでさ。今年ずっとレキシの作品以外の歌詞を書いてきたのも大きく影響してるのかもしれないね。

──確かに、池田さんが楽曲提供したNegiccoの「ねぇバーディア」も一聴すると現代の純粋なポップソングだけれど、「床の間置いてた愛の兜」っていうフレーズがさりげなく盛り込まれていたり、随所に遊び心が感じられる歌詞になっていました。

関ジャニ∞の「侍唄(さむらいソング)」もそうだし。その流れが、今回の「SHIKIBU」にも出てるのかもしれない。作詞の手法のバリエーションが増えたというかね。わからないよ? もしかしたら次からはもう歴史のことを書かなくなるかもしれないし(笑)。歴史じゃないのよレキシは。あ、帯に使えるフレーズ出た!

1stシングル「SHIKIBU」2015年11月25日発売 / 伽羅古録盤
初回完全生産限定盤 [CD+グッズ+ランダムジャケット] 1620円 / VIZL-904
通常盤 [CD] 1080円 / VICL-37121
収録曲
  1. SHIKIBU feat. 阿波の踊り子(チャットモンチー)
  2. Takeda' 2 feat. ニセレキシ(U-zhaan)
  3. キャッツあつめ ~CATS LIVE SELECTION~
レキシ「レキシツアー IKEMAX THEATER」
  • 2015年12月1日(火)北海道 Zepp Sapporo
  • 2015年12月3日(木)宮城県 仙台市民会館 大ホール
  • 2015年12月4日(金)新潟県 新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)
  • 2015年12月7日(月)石川県 金沢市文化ホール
  • 2015年12月10日(木)兵庫県 神戸国際会館
  • 2015年12月11日(金)福岡県 福岡市民会館
  • 2015年12月14日(月)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2015年12月16日(水)東京都 両国国技館
  • 2015年12月21日(月)大阪府 オリックス劇場
  • 2015年12月23日(水・祝)広島県 アステールプラザ 大ホール
  • 2016年1月11日(月・祝)沖縄県 ミュージックタウン音市場
CM出演情報
dヒッツ「意外な出会い」篇

放映:2015年11月26日(木)より全国でオンエア
出演:レキシ / 小林竜樹
音楽:レキシ「SHIKIBU feat. 阿波の踊り子」

レキシ
レキシ

1974年福井県生まれの池田貴史によるソロプロジェクト。池田は1997年にSUPER BUTTER DOGのキーボーディストとしてデビューし、2004年からは100sのメンバーとしても活躍。その日本史マニアぶりを生かし、2007年にレキシとしての1stアルバム「レキシ」を発表した。レキシでは日本史の登場人物や史実をソウルフルなサウンドに乗せて歌う独自のスタイルで注目を集め、2011年3月に2ndアルバム「レキツ」、2012年12月に 3rdアルバム「レキミ」をリリース。2014年6月に4thアルバム「レシキ」を発表した。同年8月には初の日本武道館公演を開催。12月には上原ひろみを迎えた東名阪ツアーを実施した。2015年9月には青森・三内丸山遺跡でのワンマンライブを成功させる。同年11月25日に、初のシングル作品である「SHIKIBU」を発表する。