「REDLINE ALL THE BEST 2019 ~10th Anniversary~」特集 鈴木健太郎(JMS)×渡辺旭(THE NINTH APOLLO)対談|インディーズシーンから音楽業界に物申す! 打ち上げまで気合いの入った“異種格闘技”イベント

いい意味で違う

──そのような刺激的な出会いを経て、お二人は共同レーベルsmall indies tableを立ち上げられるまでの間柄になっていったんですね(参照:FOMARE「If I stay」発売記念 small indies table座談会)。

鈴木 はい。当時ナインスに所属していたSHANKが大好きで、どうしてもSHANKのディストリビューションを担当したかったんです。それで、旭さんにお願いして断られてというのを何度か繰り返して。

渡辺 自分としては、いろんな流通会社にお願いしたいと考えていて。当時はパインフィールズ所属のEGG BRAINとかもJMSで。だからあえてSHANKは違う流通さんにお願いしていたんです。でも健太郎が熱心に声をかけ続けてくれたので、「じゃあやろうか」となりました。

鈴木 SHANKは別の流通会社のときからすでに売れていたので、別にうちにする必要もなかったんだと思います。でもどうしても好きだったので諦められなくて。そのあと2人で立ち上げたsmall indies tableは、yonigeのCDを出すために作ったレーベルなんです。それが2016年頃ですかね。

yonige

渡辺 まだ3年しか経ってないんや。small indies tableを立ち上げるまでは、ガールズバンドを扱ったことなかったんですよ。言い方が悪いですけど女の子には寿命があると考えていて。ただ「この年齢までにある程度形にしてあげたら大丈夫」みたいなラインはあると思っていたんです。そんなことを考えているときにyonigeに出会って、今の自分のやり方だとyonigeを形にするのに4、5年はかかる気がしました。それで、「俺が持ってないアイデアを持ってるやつって誰やろ」と考えたときに健太郎が思い浮かんで。彼が大阪に来たときに、yonigeに会わせて、本人たちから健太郎に直接音源を渡させました。その音源を聴いて気に入ってくれて、一緒にレーベルを立ち上げることになったんです。

鈴木 旭さんは、クラシックな人なんです。THE NINTH APOLLOはレンタルも配信もしていない。うちはあくまでディストリビューションが主だから、レーベルのほうが配信したいと言えば配信することもあります。でもナインスは今の時代になってもずっとブレていない。ちょっと古臭いと思うこともあるんですけど、僕とは違うアイデアを持っている人なので一緒にいて面白いんです。話していてワクワクする人ってあまりこの業界にいないんですよ。

渡辺 僕と健太郎は、いい意味で違う。違う発想を、お互いのために生かせているんだと思います。

サブスク解禁のタイミング

──渡辺さんがTHE NINTH APOLLO所属アーティストの楽曲を音楽サブスクリプションサービスで解禁しないのはなぜですか?

渡辺 さっき健太郎が言ったように、そのやり方は古いとか時代錯誤と言われることもあるんですけどね。サブスク、俺は面白いとはまだ思えない。音楽が大事にされていない気がして。過去の宝物を引っ張り出すという点ではすごくいいと思いますけどね。でも新しい音源とサブスクで出会って、そこからライブハウスへ行くことにつながるイメージができない。CDを買って、歌詞カードを見ながら音源を聴いた人はライブハウスに来る気がするんです。この考えがたぶん時代錯誤って言われるんでしょうね。

鈴木 ダウンロードはありですか?

渡辺 うーん、ダウンロードも違うかな。

鈴木 サブスクもですけど、アーティスト側からやりたいと言われません?

渡辺 言われるね。解禁するにしても、タイミングを教えるのがおっさんたちの仕事かなと思ってます。正直に言うとそのタイミングが来る前に、サブスクというシステムが廃れると思ってたんですけど、なくならないですね。

鈴木 それどころから主流になりつつありますよね。

渡辺 世界で主流になるのはわかるんですけど、日本でもそうなるとは思わなかった。

Crystal Lake

鈴木 うちの所属アーティストでいうと、Crystal Lakeなどの海外を主軸に活動しているバンドは、プロモーションの一環としてサブスクがマストになっていますね。そういうバンドは逆にサブスクに力を入れるようにしてます。個人的にもサブスクを使ってますし、あまり抵抗はないですね。とはいえCDを買って育ってきた人間なので、パッケージならではの魅力や楽しさを若いバンドやリスナーに伝えるのは大事な仕事かなと思ってます。small indies table所属バンドに「サブスク解禁したいです」って言われますけどね。

渡辺 こちらにも解禁しない理由はあるんですけどね。なんで解禁しないか、本人たちには説明してる?

鈴木 してないですね。僕が黙っていると、彼らは「あ、違うんだな」という空気を察したのか何も言わなくなります(笑)。でも何カ月か経つと明るい口調で「そろそろじゃないですかね?」とまた言われるんですけど。

渡辺 本人たちにはきっと理由がわからないんですよね。

鈴木 彼らにはお客さんの「なんでサブスク解禁しないんですか?」という声がダイレクトに届いている。そういうこともあるからだとは思うんですけどね。どうしてもやりたいというか、お客さんの声を反映してほしいという思いもあるんだと思います。

渡辺 俺はサブスクってヒップホップの文化だと思っていて。サブスクとCDでは、レコーディングの方式がまったく違うんです。いくらキレイに楽器の音を録ろうが音が劣化する気がするんですよ。語弊があるかもしれないですけど、ヒップホップの音はバンドの音源よりも劣化がしづらいことが多い。しかもリリックさえできればすぐにレコーディングできてサクサク新曲が出せるから、いちいち盤にするよりもサブスクのほうが理にかなっていると思うんですよね。

鈴木 あと基本的にヒップホップは深夜のクラブでパフォーマンスすることが多いですよね。デイタイムにライブハウスでやっても人が集まらないから。そういった部分でもロックバンドとは違うかもしれないですね。

──「REDLINE」には、初年度からヒップホップアーティストも出演されていますよね。

鈴木 はい。僕自身がヒップホップも好きで。初期の頃はハードコアとヒップホップを組み合わせたイベントが多かったですね。「AIR JAM」に行っていた世代なのでヒップホップとパンクのアーティストを組み合わせてブッキングすることもありました。

恵比寿みるくのようなハコを作りたい

渡辺 健太郎は、恵比寿みるく(2007年に閉店したクラブ)には行っていたタイプの人?

鈴木 けっこう行ってました。

渡辺旭(THE NINTH APOLLO)

渡辺 俺も若い頃よく行っていて。みるくのスタッフと付き合っていた気がする。おへそ出してバーカウンターに立ってた子。

鈴木 あはは(笑)。そういうおへそ出した子がいるみたいなアッパーな感じがありつつ、パンクバンドとかもめちゃめちゃ出演してましたよね。

渡辺 BRAHMANとかも出てたよね。

鈴木 そうそう。S☆CREATERSとかも。すげえ楽しかったんですよ。みんないい意味でチャラくて。

渡辺 地下3階まであって、下の階にいくほど少しずつディープな雰囲気になっていく感じね。地下3階で女の子と付き合いましたもん(笑)。みるく、今あったら楽しそうやね。

鈴木 そうなんですよ。

渡辺 あ、だからこの前の話?

鈴木 そうなんです。今一緒にライブハウス作りましょうと旭さんを誘っていて。みるくみたいなハコを作りたいと思っているんです。

渡辺 今の時代は、へそ出した女の子がバーカウンターに立ってたらアウトかな。

鈴木 へそ出しは大丈夫な気がします(笑)。旭さんはみるくに出演したことあります?

渡辺 あるね。みるくは俳優が組んでるバンドもけっこう出演してたし、遊びに来てたよね。

鈴木 そう思うとあの頃のみるくは芸能人の方がパフォーマンスされていることも多かったですよね。

渡辺 うん。いい時代だったな。

鈴木 とにかくジャンルが混ざってましたよね。オーバーグラウンドからアンダーグラウンドまでという感じで、面白かった。そういうハコが今はない気がします。

渡辺 確かに。

鈴木 恵比寿みるくの“混ざっている”ところが大好きで、あの頃の経験が「REDLNE」のブッキングにもつながっていると思いますね。