RADWIMPSのメジャーデビュー以降の楽曲が、Apple Music、Spotify、LINE MUSICなどの各サブスクリプションサービスで配信された。
各サブスクリプションサービスでは、2006年にリリースされた「RADWIMPS 3 ~無人島に持っていき忘れた一枚~」から2018年発表の「ANTI ANTI GENERATION」までの7枚のオリジナルアルバムのほか、2005年発売の「25コ目の染色体」以降のシングル、さらにはサウンドトラック「君の名は。」「天気の子」の配信がスタート。音楽ナタリーではこれを記念して、メジャーデビュー15周年を迎えたRADWIMPSの歩みを振り返ると共に、彼らを愛する11名がそれぞれのテーマで選曲したプレイリストを掲載する。
文 / 三宅正一
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RADWIMPSがついに全楽曲をサブスク解禁。2005年11月にリリースされたメジャーデビューシングル「25コ目の染色体」から2020年5月に配信リリースされたばかりの最新シングル「新世界」まで、彼らが作り上げてきた音楽の軌跡をつぶさに堪能できる。新型コロナウイルス感染症の影響により全公演の開催を一旦見送り、振替公演の調整を進めている全国ツアー「こんにちは日本 ~KONNICHIWA NIPPON~ TOUR 2020」。3月20日の大阪・京セラドーム大阪を皮切りに5月24日の東京・東京ドームでファイナルを迎える予定だったこのツアーはRADWIMPSにとって初の4大ドーム公演を含む記念すべきものだった。また本来であれば東京オリンピック・パラリンピックの開催年になるはずでもあった2020年の春から初夏にかけて、この日本でどんな音楽を鳴り響かせることがリアルなのか? ツアータイトルや日本各地の観光名所が描かれたイラストのコラージュによって構築されたメインビジュアルからも察するに、このツアーではRADWIMPSが掲げる“2020年のステートメント”を体現しようとしていた(る)のではないかと思う。
キャリア=作品を重ねるごとにその片鱗をどんどん拡張していったが、今やRADWIMPSの音楽性は“ロックバンド”と言われて想起するサウンドアプローチの範疇をゆうに飛び越えている。バンドの存在をさらに高いステージへと押し上げた新海誠監督の「君の名は。」の劇伴制作以降はクラシックの意匠にも接近し、“総合音楽”と言っても過言ではない音楽像を今のRADWIMPSは手に入れている。
「25コ目の染色体」からすでにRADWIMPSの特異な音楽像は際立っていた。「RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~」に収録されている「有心論」や「いいんですか?」にも共通して言えるが、野田洋次郎(Vo, G)があるたった1人の女性に向けてつづったラブソングが、彩り豊かなバンドサウンドと歌唱やラップと共に独立独歩の哲学性を帯び、極めてミクロな視点がマクロな視点へと拡大し膨張していく。こういった歌詞の構造はラブソングに限らず、ときに時代や社会の暗部を浮き彫りにするそれ以降の楽曲にも通底していく。「RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~」はオリコン初登場5位を記録し、ライブ会場もアリーナへ進出。そして、「おしゃかしゃま」や「DADA」などに顕著であるように、5thアルバム「アルトコロニーの定理」と6thアルバム「絶体絶命」でロックやヒップホップ、ファンク、ジャズの意匠を昇華したハイブリッドなバンドサウンドを一層研ぎ澄ませていく。飽くなきクリエイティビティによってラディカルさとポピュラリティを高い次元で両立するRADWIMPSの音楽性を強固なものにした前者は30万枚以上のセールスを記録。2011年3月9日にリリースされた後者は前出の「DADA」や「狭心症」などダークかつセンセーショナルな楽曲と、そこから突破口を切り開くような「億万笑者」のような楽曲、あるいは前述した野田が描くミクロからマクロへの視点が極まったラブソング「救世主」などが濃厚に折り重なり、直後に発生した東日本大震災以降のこの国のムードと図らずもシンクロする様相があった。7thアルバム「×と○と罪と」は“新しい歌のあり方”を希求した野田のデモをもとにメンバーがPro Tools上で音と戯れ、同時に肉体性に満ちたアンサンブルを交わしながら約24曲をレコーディングし、厳選された全15曲が収録された。「五月の蝿」というRADWIMPS史上もっともショッキングな楽曲も収録されているが、その実、フレッシュなポップネスが浮かび上がる「アイアンバイブル」や「パーフェクトベイビー」、そして「ドリーマーズ・ハイ」「会心の一撃」などが象徴的なように全体像は向光性が強い。
2015年、RADWIMPSはデビュー10周年を迎えた。しかし、アジアおよびヨーロッパを回る海外ツアーとバンドにとって初の対バンツアーの開催前に山口智史(Dr)の無期限休養が発表された。野田、桑原彰(G)、武田祐介(B)の3人はこの危機を刄田綴色と森瑞希という2人のサポートドラマーを迎えることで乗り切る。そして新海誠監督との出会いを果たし、さらに自由な制作方法論をもって「君の名は。」の劇伴と、8thアルバム「人間開花」を完成させた。「君の名は。」の主題歌である「前前前世」と「スパークル」も収録されている「人間開花」は1曲目の「Lights go out」から、現在のRADWIMPSへと続くオープンマインドな精神に満ちあふれている。このタイミングでバンドは初めて能動的に不特定多数のリスナー=大衆であり世間と向き合うようになったと言っていいだろう。現時点での最新オリジナルアルバムである「ANTI ANTI GENERATION」でもやはり「洗脳」や「PAPARAZZI~*この物語はフィクションです~」などドラスティックに毒を吐き出す楽曲も存在しているが、それ以上にタフなポジティビティがアルバム全体に漲っており、RADWIMPSの作品としては初にして豪華かつ多彩なコラボレーション楽曲も「IKIJIBIKI feat. Taka」「泣き出しそうだよ feat. あいみょん」「TIE TONGUE feat. Miyachi, Tabu Zombie」と、一気に3曲も実現したのである。2019年は新海誠監督と再びタッグを組み映画「天気の子」の劇伴を制作する。映画は「君の名は。」に続きまたもや社会現象となる大ヒットを記録し、その主題歌である「愛にできることはまだあるかい」もまた時代を代表する歌となり、女優の三浦透子を客演に迎えた「祝祭 feat. 三浦透子」と「グランドエスケープ feat. 三浦透子」が放っているみずみずしいダイナミズムも印象的だった。
名実共に比肩なきロックバンドになったからこそ打ち出せるバンドミュージックの可能性がある──。近年、インタビューの場で野田洋次郎と話しているとほとんど毎回自然とそういった話題になる。国内外の音楽シーンでラッパーを含むソロアーティストが時代の寵児としての存在感を際立たせるようになってひさしい。しかし、野田は確信している。さまざまなフィールドを横断しながら記号性にとらわれない音楽性を追求し、最近ではkZm(YENTOWN)の作品に客演した「追憶 feat. Yojiro Noda」も記憶に新しいが、野田のソロも含め多種多様なアーティストやファッションブランドと共振するコラボレーション、そして新海誠作品との大仕事を経て、RADWIMPSの音楽表現と立ち位置はオーバーグラウンドとアンダーグラウンドの接続点となる巨大なカルチャーのハブになり得ると。さらに野田のソロプロジェクトであったillionで試みていた実験的なサウンドプロダクションの要素も今ではナチュラルにRADWIMPSの中に取り込むことができていると彼は明言している。そんなRADWIMPSの現在地をライブによって体感できるはずだった全国ツアー「こんにちは日本 ~KONNICHIWA NIPPON~ TOUR 2020」の開催見送りは残念でならない。それでもこのタイミングでのサブスク解禁によって既存のファンには改めて、また新規のリスナーにもRADWIMPSがたどってきた音楽性の変化や進化の変遷をじっくり味わってもらう絶好の機会になるのは間違いない。そして、ツアーの延期公演を迎えるそのときと、バンドミュージックの希望を照らすであろう新たな楽曲たちを待ち望みたい。
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