ナタリー PowerPush - Predawn

100%ハンドメイドの初フルアルバム

懐かしさを感じるオールドタイミーなアコースティックギターの響きとファンタジーへ誘うようなチャーミングな歌声の魅力が口コミで広がり、じわじわと支持を集めているPredawn。彼女が初のフルアルバム「A Golden Wheel」をリリースした。

2010年6月にリリースされた1stミニアルバム「手のなかの鳥」から約3年の歳月を要して完成した「A Golden Wheel」は、作詞作曲からアレンジ、演奏まですべてをたった1人で作り上げた豊かな音楽が広がっている。よく耳を澄ませると、想像力を刺激する色とりどりの世界がそこに現れる。

今回は待望の新作を発表する彼女にインタビューを実施。Predawnのルーツや新作の制作エピソードについて聞いた。

取材・文 / 小野田雄 インタビュー撮影 / 福本和洋

ギターは自分にとって“あまりに当たり前なもの”

──アコースティックギターとボーカルが表現の核にあるPredawnにとって、ギターはどんな楽器ですか?

Predawn

ギターは持ち運んだりもできるし、自分にとってはニュートラルな楽器なんですよね。響いた音が消えていく感じもいいし、自分にとってはあまりに当たり前なものです。

──前作「手のなかの鳥」をリリースした頃のライブでは、Jamesのミニギターという変わったギターをお使いでしたよね。

今はYairiのもうちょっと大きなギターを使っているんですけど、ミニギターは音が独特で、木の箱が鳴っている質感なんですよね。ミュージシャンだと「とりあえず、ビンテージのいいギターを持っておこう」って感じで高いギターを買うじゃないですか。でも、私は好きな音が出せればそれ以上のこだわりはなかったりして。ギターって、本来は自由な楽器だと思うんですよ。叩き割ってもいいですし(笑)。

──(笑)。初めてギターを手にしたのは?

姉が習っているのをまねして小さな頃からピアノを習っていたんですけど、ギターは中学生くらいからですね。ちょっと年が離れている兄や姉が弾くのに飽きて家にあったギターを、なんとなく「カッコよさそうだな」って思って。こっそり弾くようになったのがきっかけです。そうしたらアメリカンロックを聴いていた兄から「じゃあ、お前、これ弾けよ」って、Mr.BIGの譜面を手渡されて。

──Predawnのアコースティックな音楽性はMr.BIGのハードロックな音楽性とは似ても似つかないものですよね。

(笑)。そうですね。

──当時はどんな曲を聴いてたんですか?

私はローファイな、ざらっとした感じの音楽が好きで。当時はテレビをほとんど観なかったので、ラジオをよく聴いていたんですけど、なかでも米軍のラジオを通じて、アメリカやイギリスのオルタナティブロックを知ってよく聴いてましたね。

どれだけイメージを具現化するか

──最初に自分で曲を作ったのはいつ?

曲を初めて作ったのは6歳のとき。ピアノ教室の宿題でピアノ曲を作りましたね。歌は小学校2年のときに作った合唱曲をはじめとして、その後も曲を作ってはいたんですけど、実際に歌おうと思ったのは高校生くらい。RADIOHEADを聴くようになって、曲を作って歌うことの可能性や影響力を感じて、自分でもできるんじゃないかと思ったんです。それでなんとなく1人でギターを弾きながら歌うようになって、高校の部活でギターをやってたので、そこから弾き語りをする回数が増えましたね。

──バンドを組むようなことはなかったんですか?

友達が企画したライブに出るために友達同士でバンド編成のライブはやったことはあるんですけど、本気でオリジナルバンドを組むことはなかったですね。こちらからああして、こうしてって言うのはなんか悪い気がしたし、そうは言っても自分の曲は思い通りにやりたかったし。当時、ボサノバを聴いていて、ギター1本ですべてできてしまうところがいいなと思ったので、1人でやってみようと思ったんです。

──ローファイな音楽がお好きとのことですけど、そうした音楽は自宅で録音したものが多かったりするじゃないですか。それで自分でも自宅で音楽を作るようになったんですか?

というか、最初は予算もないし、できる範囲でやった結果がそういうローファイなものになった感じなんですけど。できた曲を人に聴かせたら、「これでもぜんぜんいけるんじゃない?」って言われて自信も出てきたので、「このやり方でちゃんと流通させる音源を録ろう」と思ったんです。

──自宅録音を始めたときの機材は自宅録音の定番、MTR(マルチトラックレコーダー)? それとももっと制約のないハードディスクレコーディングですか?

Predawn

Pro Toolsを使ったハードディスクレコーディングです。機械にはあんまり強くないんですけど、それだったらいくらでも音を重ねたり、やり直しもできるし、やっているうちに使い方もだんだんわかってきて。

──リズムの打ち込みはいかがですか?

常々、生の楽器が持っているパワーを実感することが多いので、Predawnではあんまりやりたくないんですよね。最初のデモには打ち込みを使ったんですけど、なるべく打ち込みに聞こえないように、ちょっと不完全にしたり、ずらしたり、歪ませたり。音楽の人間らしさや生き物みたいな部分に私は惹かれるんです。

──ただ、そうやって1人で音を重ねて作り上げていくPredawnの音楽は、ライブでは再現できませんよね。

私のライブは、いかにギター1本に集約して、そこでどれだけ多くを語るかという表現だと思うんですけど、音源はどれだけ自分の中のイメージを具現化するかという表現ですからね。

気が付いたら3年近く経っちゃった

──初のフルアルバム「A Golden Wheel」は前作の1stミニアルバム「手のなかの鳥」から3年近い歳月が経っていますが、イメージを具現化する作業に時間がかかったということですか?

そうですね。なかなか制作モードにならなかったりとか、周りからプレッシャーをかけられて、やる気が出なかったりとか。レコーディングのとき、よく知らない人がいる中で作業するなんて、自分は絶対いやだなって思っちゃうので。

──はははは(笑)。

あと、みっちり作業をするのも得意ではないので、自分のいいタイミングでいいテイクを録りたいんですよね。リラックスして歌う歌、弾くフレーズが一番いいと思うので、気が付いたら3年近く経っちゃったんだと思います。

──どんなときに曲を作ることが多いですか?

いつも、ふとしたときですね。ギターをずっと手にして、「さあ、曲作るぞ」っていうようなことはまったくなくて、散歩しているときだったり、電車に乗ってるときだったり、日常の中でいきなりアイデアが湧いてくることが多いですね。そういうアイデアを、ちっちゃい頃は授業中に五線譜に書き留めたりしてたんですけど、今は文明の利器を活用してiPhoneなんかでぱっと録ったりします。

ニューアルバム「A Golden Wheel」/ 2013年3月27日発売 / 2400円 / Pokhara Records / HIP LAND MUSIC RDCA-1028
収録曲
  1. JPS
  2. Keep Silence
  3. Tunnel Light
  4. Breakwaters
  5. Free Ride
  6. Milky Way
  7. A Song for Vectors
  8. Drowsy
  9. Over the Rainbow
  10. Sheep & Tear
Predawn(ぷりどーん)

1986年生まれの清水美和子によるソロプロジェクト。2008年からPredawn名義で活動を始め、同年に完全自主制作盤「10minutes with Predawn」をライブ会場および一部店舗限定で販売する。繊細なサウンドメイキングとやわらかな歌声が反響を呼ぶ。Eccy、andymori、QUATTROらの作品に参加したり、「FUJI ROCK FESTIVAL '09」「ap bank fes '09」に出演するなど多角的に活動。2010年6月に初の全国流通作品となる1stミニアルバム「手のなかの鳥」をリリースする。2013年3月に満を持して初のフルアルバム「A Golden Wheel」を発表。