ナタリー PowerPush - Predawn

100%ハンドメイドの初フルアルバム

伊豆まで音探し

──今回のアルバムでは使っている楽器が前作よりも増えてますよね。

ギター、ベース、ドラム、グロッケン、いろんなパーカッション、リコーダー、ピアニカ、コルネット……そうした楽器を使って実験してみようと思って、思いついたら予算の範囲内で買ってみたり。あと、録音した音を1回レコードに彫ってもらって、プレイヤーで再生した音を作品のあちこちにコラージュ的に散りばめたりもしました。

──レコード独特な音の質感が欲しかったということですか?

Predawn

そうですね。あと、音を一度物体に変換することで異物感を生み出したり、作品全体を通じて、別の時間や空間が同時進行しているような、物語の伏線のような感覚が欲しかったんです。

──アルバムの3曲目の「Tunnel Light」にはドローンのような持続音が入っていますよね。

あ、それはクラシックギターの6弦だけをバイオリンの弓で弾いた(ボウイング奏法)ものですね。

──つまり、普通に楽器を弾いて出る音とは違う音も頭の中に鳴っていたと。

そうですね。そういう音も自分にとっては曲の一部なので、水とか鳥の声とか、レコーディングしているとき、意図せずして入ってしまった音とか、なるべく頭の中のイメージに近い音を探して、試行錯誤して録りました。

──ちなみに今回のアルバムは、4曲目の「Breakwaters」に使う音を伊豆まで探しに行ったのが制作の最初の作業だったとか?

そうですね。曲の最初に入ってるキーキーした音がずっと記憶に残っていて、それがなければレコーディングが始まらないという思いがあって。その音を録るためにブランコを揺らしてみたり、いろいろ試してみたんですけど、あるとき、「これはきっと海のほうで鳴っている音だ」と思って、温泉に入りがてら伊豆まで探しに行ったんです(笑)。そうしたら、とある漁港で漁船へ乗るためのちっちゃい階段に錆びた車輪が付いていて、それが波で揺れながら、あのキーキー音を出していたんですね。それをiPhoneで録音したんですけど、見つけたときはホントにうれしかったですね。

──この曲はメインのリフがループしていて、その上でAメロ、Bメロ、サビっていうような定型に縛られないメロディが自由に動いていますよね。

そうですね。いつも裏に違う曲が潜んでいるような曲が多いと思います。

日本語は距離が近すぎる

──さらにいえば、歌詞が英語詞である点もPredawnの特徴ですよね。

聴いてた音楽が英語のものが多かったこともあってか、曲を書いてるときに自然と出てくるのが英語の響きだったり、あと、英語で歌詞を書くことで客観的になれるというのもあります。

──日本語だと客観的になれない?

そうですね。日本語で歌詞を書くこともあるんですけど、距離が近すぎて、客観的になるのは難しいですね。

──あとシャガールの絵に触発されたという「Free Ride」や、ジャン・ポール・サルトルについて歌った「JPS」、ご自身の楽曲解説でルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの言葉を引用している「Keep Silence」など、音楽以外のものから触発されることも多いようですね。

そうですね。私は音楽が別のなんらかのものに連なっていくのが好きなんです。音楽は自分の手段ではあるんですが、だからといってほかの芸術とわけて考えてはいないですね。

──Predawnの歌詞世界は、絵本のようなシンプルな言葉に求道的で哲学的な奥深さがあるように思いました。

歌詞のタッチとしては、子供に語りかけるような、自分の子供の部分と対話をするような、そういうものが好きですね。それと同時に私はあれこれ考えてしまう癖があって。高校、それから哲学を専攻していた大学時代は、ほかの分野の人からすると考えてもしょうがないことばかり考えていたんです。

──例えば?

「心はどこにあるのか?」とか「死ぬとはどういうことなのか」とか。「そんなこと考えても就職に役に立たないじゃん」ってよく言われていましたね。

──そうした哲学的な問いが曲に変換されることもあるんでしょうか?

それは昔からありますね。今さら哲学を研究し直したくはないし、論理より五感に頼るのが性に合っていると思ったりするんですけど、やっぱり答えが出ていない問いなのでたまに考えてしまうし、それが曲に反映されることもあります。

──歌詞はどんなときに書かれるんですか?

曲と同時か、もしくはあとからですね。そのとき、考えていたことがあったとすると、無意識に引っかかっていた言葉が音に触発されて表に出て、完成してみるとその問いに対する答えになっていたりして。「こんなこと考えていたんだ」とか「あ、もう大丈夫なんだ」って思ったり、作詞ってちょっとセラピー的なところがあったりするんですよね。

──そうやって作るとなると曲やアルバムのテーマがあるわけではなさそうですね。

そうですね。全体像はあとから見えてくる感じなので。ただ、曲自体はかなり前に作ったものだったので、その曲にまつわるイメージを具現化することを念頭に、「作り上げるまでは死ねないなあ」と思いつつ(笑)。今回は前作よりも地に足が付いたリアルなものになったように思いますし、前作と比べるとより大人っぽい感じになったかな、と。

気分次第でいろんなことをやりたい

──ご自分にとって理想的な音楽とはどういうものなんでしょう?

Predawn

もちろん、自分が満足できるということが大前提で、そのうえで聴く人に音だけじゃなく、絵であり、風景であり、匂いであり、感情とか言葉とか、いろんなことを思い起こさせる音楽が作れたらいいなと思いますね。あとは聴く人がそれぞれに想像してもらえたらいいし、自分も歌ったときや聴いたときにも作ったときのことを思い起こしたり、リアルに感じられるところが音楽の美しさなのかなって思ったりするので。

──今後、どんなことをやってみたいですか?

私が今やっているのは、わりと普遍的な音楽だと思うんですけど、それにこだわらなくてもいいと思ってるんですよね。例えば、絵を描くとして、そこに何かを貼り付けてもいいわけじゃないですか。布を張ってもいいし、油絵なのに途中から水彩にしたり、その辺のゴミを貼り付けたり、そのまま飛び出して、映像や彫刻になってしまってもいいし。そういう型にはまらない表現は今の時代の必然というか、行き当たりばったりな感じもいいんじゃないかなと(笑)。音楽でもアートでも、そういうものが私は好きですね。気が向いたら、人の力を借りて作品を作ってみるのもいいですし、もしかしたらパンクバンドをやるのもいいかもしれないし(笑)。Predawnって名前はニュートラルな感じがするじゃないですか?

──Predawn、つまり夜明け前って意味ですから、1日が始まる前のまっさらな感じということですかね。

インターネットで検索すると、PREDAWN HOURっていうアメリカのゴリゴリなバンドが出てくるんですよね(笑)。自分もPredawnって名前だし、何をやってもいいのかなって。今後も気分次第でいろんなことをやりたいと思っています(笑)。

ニューアルバム「A Golden Wheel」/ 2013年3月27日発売 / 2400円 / Pokhara Records / HIP LAND MUSIC RDCA-1028
収録曲
  1. JPS
  2. Keep Silence
  3. Tunnel Light
  4. Breakwaters
  5. Free Ride
  6. Milky Way
  7. A Song for Vectors
  8. Drowsy
  9. Over the Rainbow
  10. Sheep & Tear
Predawn(ぷりどーん)

1986年生まれの清水美和子によるソロプロジェクト。2008年からPredawn名義で活動を始め、同年に完全自主制作盤「10minutes with Predawn」をライブ会場および一部店舗限定で販売する。繊細なサウンドメイキングとやわらかな歌声が反響を呼ぶ。Eccy、andymori、QUATTROらの作品に参加したり、「FUJI ROCK FESTIVAL '09」「ap bank fes '09」に出演するなど多角的に活動。2010年6月に初の全国流通作品となる1stミニアルバム「手のなかの鳥」をリリースする。2013年3月に満を持して初のフルアルバム「A Golden Wheel」を発表。