「ヒロアカ」チームの熱に導かれて
──「THE REVO」のボーカルレコーディングはいかがでしたか?
岡野 この曲のボーカルはスペインで、自分のオペレートで録りました。離れた場所で1人で録るという部分で若干の不安もあったので、Zoomをつないで新藤やtasukuくんと言葉の乗せ方みたいなことを相談したりしましたね。録ったボーカルをエンジニアさんに送って、いろいろアドバイスをもらったりもしましたし。そういう過程で自ずと歌い込むことになったので、自分の中の世界観がしっかり固まった状態で本チャンのレコーディングができたと思います。
──2コーラス目には言葉がグッと詰まったパートがあって。曲の中で大きなアクセントになっていますね。
岡野 あれはもう最近の僕の流行りです。1コーラス目と同じことはしたくないっていう(笑)。そういうことができるようになったのはソロをやったおかげだと思いますね。歌い手としてもね、そういう展開があるとテンションを上げてレコーディングに臨めたりもしますし。
──「神聖なMOVE」「SILENT VOICE」「THE DAY HAS COME」という3節が並ぶパートも気持ちがたかぶるポイントだと思いました。
岡野 あの3節のところはもともと、コール&レスポンスができるパートとして作ったんですよ。だから最初は「wow wow」的な言葉を付けてたんです。でも、そこにも歌詞が乗ったほうがいいという案が出た結果、あの形に着地しました。だいぶ高めのキー設定にしていたので、「これはライブで歌うのが大変だぞ」みたいな思いもありつつ(笑)。でも、あのキー設定だからこそ今までしてこなかったような表現ができたとも思うので、ボーカリストとしてはいいチャレンジになりましたね。そこで自分の中の火を起こすことができたのも、堀越先生をはじめとする「ヒロアカ」チームの熱に導かれたものだったような気がします。
──あとそうだ、先ほど聞きそびれてしまったんですけど、歌詞に「王」というワードが出てきますよね。それを聴いたとき、「女王」とか「百獣の王」というワードを使っていた「解放区」が思い浮かんだんです。晴一さんとしては、「王」という言葉にどんなイメージを乗せたんですか?
新藤 それね! 作詞をしている段階ではあまり意識していなかったんだけど、「THE REVO」は「レ・ミゼ(ラブル)」の世界だと思うんですよ。自分でもさっき気付いた(笑)。“革命”というキーワードが出てきた瞬間に、頭の中で自然と「レ・ミゼ」のシーンが出てきたんだと思う。そこからの流れで「王」を使ったっていう。
──なるほど。そのあたりも意識しながら聴くとまた面白いかもしれないですね。
新藤 うん。ちなみに「解放区」で「王」というワードを使ったのは、作詞中に「クラウン」が出てきたからだと思う。クラウンと言えば女王でしょ、みたいな。確かにこの2曲に「王」というワードで引っかかったっていうのは、ちょっとわかる(笑)。意図せずだけどね。
「ラブソングが書けてナンボ」
──ではシングル収録のカップリング曲のお話も。まずは晴一さん作詞、昭仁さん作曲の「風波」です。
岡野 これはいつ作ったか覚えてないんですけど。去年の夏くらいにはもうあったような気がします。「いっぱい曲を作りましょう」みたいな時期にできたんですよね。僕の中ではピアノとメロディだけでデモを作っていたので、じゃあアレンジはみなちん(皆川真人)にしようっていうことになりました。今までアレンジをお願いしたことがないし、「なるほど、その手があったか!」みたいな感じで。
──仕上がりにはストリングスも加わって、すごく素敵なピアノバラードになっています。切ないラブソングですよね。
新藤 自分の中にはポップスメーカーとして「ラブソングが書けてなんぼ」という思いがずっとあるんですよ。でも、タイアップではなかなかそこを求められることがないので、ラブソングの数を増やしておこうと思い、ひさびさにラブソングとして歌詞を書きましたね。みんなの背中を押すことも大事だけど、同じくらいラブソングというものはポピュラーミュージックに必要なものだと思うので。「こういうのも書けますよ」っていう(笑)。
岡野 新藤のそういう思いはずっと聞いていたので、ラブソングを書いてほしいという気持ちは僕にもあって。新藤が書いてくれた歌詞にどういうストーリー、情景、思いがあるのかを感じ取り、それをどう表現していくのか考えるのは、歌い手としてとてもやりがいのあることだなと思っています。
──この曲のボーカルはファルセットがとても効果的に使われていますね。
岡野 そうですね。僕のデモテープから受け取るものをみなちんがすごく大事にしてくれたんですよ。僕自身が気付いていないような部分まで汲み取ってくれて、「この曲にはこういう空間があるよね」「だからファルセットの優しさでこう表現するといいよね」みたいなことを話してくれながら完成に至る過程はすごくいい経験になりましたね。
新藤 歌入れのとき、隣の部屋でゆっくりしてたらみなちんが来て。「歌詞に出てくる手紙って、何年ぶりくらいに届いたものなの?」って聞かれたんですよ。レコーディングスタジオは音楽を鳴らす場所で、みんな音に集中しているから、文学的なことなんて基本、誰も気にしないんですよね。でも、みなちんはそこを聞いてくれて、その情景を拾ってボーカルトラックのチョイスとかもやってくれていたんです。25年活動してきて、そんなことは初めてだったので、すごく衝撃的でうれしい出来事でしたね。
仮タイトル「F明るい」
──シングル収録曲のもう1曲は、晴一さん作詞・作曲の「Shake hands」。宗本康兵さんとポルノの共同アレンジになっています。
新藤 この曲も、さっき言った「ラブソングを書きたい」という話と根本は一緒です。聴くことで賢くなった気になるとか、気持ちが浄化されるとか、今いる場所から一歩動けるとか、そういうタイプではない曲。言ったら、何もメッセージ的なものがない曲ですよね。そういうものもやっぱりポップソングには必要なので。そんなことを思いながら、康兵と一緒に僕のアトリエで作っていきました。だって最初の仮タイトルが「F明るい」ですから(笑)。Fコードを使った明るい曲だったので。
岡野 新藤は昔から一貫して、こういう聴き手に届きやすいポップソングをずっと作りたいと言ってますからね。僕の場合、自分で作るとどうしても小難しいというか、ちょっとダークサイドに寄ってしまいがちなので(笑)、ポルノのバランスとして新藤のこういう曲は本当に重要だなと改めて思いました。僕の中からは絶対生まれてこないタイプの曲ですね。
──こういったタイプの曲を歌うのは昭仁さん的にいかがですか?
岡野 もちろんすごく楽しいですよ。今回は康兵が「ポルノっぽく歌ってください」ってディレクションしてくれて。要はね、語尾をフォールさせる、落とすのが僕らしい歌い方なんですって。僕としてはそういう歌い方が実はキライで、語尾をビシッと止めたいんだけど、それができずにフォールしてしまいがちなんですよ。でも、そこをポルノらしさと捉えてくれるのであればありがたいことなので、ディレクション通りにやってみました。とは言え、やっぱり自分ではそういう歌い方が気に入らなかったので、ちょこちょこしか採用されてないですけど(笑)。
──皆川さんや宗本さんのように、長年ポルノを見てくれている人とのコラボは面白い発見がありますよね。
岡野 そうですよね。長く活動していく中で、自分では消してしまいがちな個性みたいなものに注目して、それをちゃんと残してくれるっていうのは、長く僕らのことを見てくれている人たちだからこそですし、本当にありがたい限りです。それによってリスナーが思うポルノ像みたいなものが守られているところもあると思うので。
待望のニューアルバムの構想は?
──本作のリリース後、年末には「みなとみらいロマンスポルノ'25 ~OVEЯ~」の開催が決まっています。12月28、29日、そして31日はカウントダウン公演です。
新藤 ひさしぶりの年末ライブです。ライブって宴みたいなものじゃないですか。宴と言えばやっぱり盆暮れ正月なので、暮れの宴として楽しいライブができたらいいですよね。
岡野 12月31日のカウントダウン公演はだいぶひさしぶりですから……どんな雰囲気になるのか忘れてますけど(笑)。楽しむ以外の気持ちがない状態で年を越せたらなと。
──そして、来年の予定として13thアルバムのリリースと、それを引っさげた20回目の「ライヴサーキット」の開催が発表されていますね。
新藤 ツアーはうっすらいろんな調整を始めてますけど、アルバムはまだ全然できないです。ここからですね。ミュージシャンとしてはアルバム出して、ツアーを回るっていうのが活動していることの証なので、がんばろうと思ってますよ。
岡野 アルバムはね、シングル候補として書いたものもたくさんあるし、大丈夫だと思うんですよ。新たにできる曲もあるだろうし。まだ具体的には見えてはいないけど、ここ最近はわりとシングルライクな強い曲がたくさん生まれているので、1曲1曲が強い色を持った、すべてが表題曲のようなアルバムになるような気がしてますね。そしてツアーはなんと20回目ですか! 1公演ずつ、がんばって楽しもうと思います。
公演情報
みなとみらいロマンスポルノ'25 ~THE OVEЯ~
- 2025年12月28日(日)神奈川県 ぴあアリーナMM
- 2025年12月29日(月)神奈川県 ぴあアリーナMM
- 2025年12月31日(水)神奈川県 ぴあアリーナMM(※「love up!」会員限定のカウントダウン公演)
プロフィール
ポルノグラフィティ
岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(G)からなるロックバンド。1999年9月にシングル「アポロ」でメジャーデビューし、2000年7月リリースのシングル「ミュージック・アワー」がポカリスエットCMソングに採用され大ヒットを記録する。続く「サウダージ」は初のミリオンセールスとなり、一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。その後も「アゲハ蝶」「メリッサ」「ハネウマライダー」「オー!リバル」などヒット曲を連発する。デビュー25周年を迎えた2024年9月にはアニバーサリーライブ「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」を広島・因島運動公園と神奈川・横浜スタジアムで行った。2025年にはNHK広島放送局「被爆80年プロジェクト わたしが、つなぐ。」のテーマソングとして、新曲「言伝 ―ことづて―」を提供。同年11月にテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON」のオープニングテーマとして提供した「THE REVO」をシングルリリースする。2026年には13作目となるオリジナルアルバムを発表予定。
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