ポルノグラフィティのライブ映像作品「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」が9月3日にリリースされる。
2024年夏に広島・因島運動公園と神奈川・横浜スタジアムで開催されたデビュー25周年記念ライブの模様を収めた本作。メンバー2人の故郷・因島で行われた郷愁と25年にわたるキャリアの重みを兼ね備えたライブ、晴天に恵まれたハマスタに約3万人が集まる中で行われたデビュー記念日の大々的なライブと、同じアニバーサリーライブでもタイプの異なる2公演の魅力がたっぷりと楽しめる作品となっている。初回生産限定盤には特典映像として、これらのライブに至るまでのドキュメンタリー映像「Story of ロマンスポルノ'24 ~解放区~」と、2023年に広島・嚴島神社で行われTikTokで配信された奉納演奏「25th SPECIAL LIVE at 嚴島神社」の模様も収録。ポルノグラフィティのライブに懸ける真摯な思いは、これらの映像からも感じ取ることができる。
今回の特集では、音楽ライターもりひでゆきが本作の見どころを徹底解説。「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」が25周年においてどのような意味を持った公演だったのかを改めて振り返る。
文 / もりひでゆきライブ写真撮影 / 上山陽介
嚴島神社から始まった25周年イヤーの軌跡
2023年9月8日、広島県の嚴島神社にて行われた奉納演奏「TikTok LIVE at 嚴島神社」をもってデビュー25周年イヤーに突入したポルノグラフィティ。翌年1月からは全10会場16公演の全国ツアー「19thライヴサーキット“PG wasn't built in a day”」を開催し、“ポルノグラフィティは1日にして成らず”というツアータイトルの意味を回収するように、デビューからの軌跡を数々の名曲たちとともに振り返った。3月にはツアーで先行披露されていた新曲「解放区」をリリースし、7月からはポルノのメンバーである岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(G)の故郷である因島にて、島全土を使ったプロジェクト「島ごとぽるの展」を展開。さらに9月4日にはキャリアの中でリリースされた全シングル曲54作を4枚のディスクに収めたベスト盤「ポルノグラフィティ全書 ~ALL TIME SINGLES~」発表と、さまざまなトピックが次々と届けられ、多くのファンを歓喜させた。
そして、大きな盛り上がりを見せるアニバーサリーイヤーを締めくくるスペシャルライブとして用意されたのが「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」だ。2024年8月31日と9月1日の広島・因島運動公園、9月7日、8日の神奈川・横浜スタジアムという全4公演が用意されたものの、因島公演の初日は西日本に停滞していた台風10号の影響でやむなく中止になり、結果として計3公演が行われることとなった。前置きが長くなったが、今回リリースされるライブBlu-ray / DVD「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」は、唯一の公演となった因島でのライブと、横浜公演の2日目の模様を余すことなく記録した作品となっている。
因島公演は凱旋ライブならではの距離感と幸福感
まずは因島公演から観ていこう。冒頭、会場となる因島運動公園を上空から撮影した映像にいきなり目を奪われる。広大な海と山に囲まれた自然豊かな小さな島。そこで生まれ育ち、音楽で成功する夢を抱いた昭仁と晴一という2人の少年が、時を経て日本を代表するロックバンドとして凱旋し、大規模なライブを実現したというストーリーにグッとくる。初日を中止にした台風により2日目の開催も危ぶまれたというが、多くの人の願いが届き、空は眩しいほどに晴れ渡っている。セットを組むことができず鉄骨がむき出しになったステージにも悲壮感はなく、会場全体に開催できたことへの喜びがあふれているのが画面越しにも伝わってくるようだ。
故郷でのライブということもあり、昭仁と晴一の表情がいつもよりリラックスしているようにも見える。楽しそうに笑顔を浮かべながら、会場を埋め尽くす約7000人のオーディエンスに向けて、最高のパフォーマンスを届けていく。因島で過ごしていた時代のエピソードを盛り込んだMCや、夢を抱いて島を出たときの思いを描いた「前夜」、因島の空気を詰め込んだという「Aokage」といった楽曲はまさにこのライブでこそ強い意味を持ってファンの心を震わせたはず。また、アンコールでは因島のご当地キャラ・はっさくんや因島高校の生徒らとともに、ポルノが書き下ろした「はっさくんのテーマ」をプレイ。そんなレアなシーンが映像化されたことも純粋にうれしい。
25周年を迎えることへの感謝と、自らの故郷に多くのファンが集ってくれたことへの喜びに満ちたハッピーなライブ。そのステージに立つ昭仁と晴一の心の距離感がいつも以上に近く、まるで音楽を通して出会い、友情を育んだ“あの日”に戻っていたように感じられた。後半のMCで昭仁がかつてのメンバーへの思いを語っていたことも含め、因島公演はいつもとは異なる空気をまとっていたような気がする。
横浜公演はド派手な祝祭に、新曲「ヴィヴァーチェ」で次の一歩も見せる
一方の横浜公演は天候による不安もなく、ポルノが思い描いていた形での開催となった。ステージ後方にはドドンと立派なセットがお目見えし、ライブタイトルにも掲げられることとなったこの時点での最新楽曲「解放区」の世界観が圧倒的なビジュアルを伴ってファンに提示されている。ちなみにポルノはキャリアの中で横浜スタジアムでのライブを何度も経験しているが、この2日間ほど晴れ渡った中で開催できたのは初めてのこと。かつての公演で味わったゲリラ豪雨のすごさについてはMCで語っているので確認してほしい。
このライブはデビュー記念日、9月8日の開催ということもあり、ポルノが放つ感謝の思いはより強く、祝祭的な意味合いが色濃い印象。だが、それ以上に感じるのはポルノの持つ音楽性の多彩さと、25年の歩みの中で磨き上げてきたライブバンドであることへの矜持だ。約3万人のオーディエンスを前に、息もつかせぬ展開を見せながら、猛烈な盛り上がりを生み出していく。絶妙な曲順による緩急も心地いい。ゆったりとしたリズムを持つ「カメレオン・レンズ」のような曲があったかと思えば、ヘビーなロックを鳴らす「Zombies are standing out」のような曲もあるし、「ひとひら」のような切なく優しい表情もある。明るい状態でスタートしたライブは時間の経過とともに日が傾く中で、暗くなっていく。そんな自然の演出と相まって繰り広げられるめくるめくポルノワールドにどっぷりと浸ることができるはずだ。
アンコールではリリーフカーに乗ったメンバーがスタジアムのバックネット付近に設置されたサブステージに移動するシーンも。スタジアムという広大な会場を活かした演出の数々は、オーディエンスとの心の距離をしっかりと縮めるのと同時に、25周年の集大成的な意味合いをも感じさせてくれるものだった。昭仁と晴一がビールで乾杯し、おいしそうにグイッと飲み干すエンディングでのひと幕も必見だ。
記念すべきデビュー曲「アポロ」やライブでのキラーチューン「ミュージック・アワー」「ジレンマ」などを織り交ぜたり、新たなアレンジによる「ギフト」を披露したりと、基本的な軸は共通しつつも、曲順を入れ替えたり、曲を差し替えることで、因島公演と横浜公演ではまったく異なるライブを生み出したポルノ。だが、その中で大きなテーマとなっていたのは、やはり「解放区」に込めたメッセージだろう。25周年を経てもなお、いや25年歩んできたからこそポルノは、迷い悩み、苦しんでいる人たちはもちろん、日々を楽しく幸せに過ごしたいと欲するすべての人にとっての救いの場所──“解放区”となる存在でありたいと強く願っている。それをこのライブで改めて強く宣言したのだ。画面に映し出されるオーディエンスたちが浮かべる笑顔や喜びの涙は、その場所が紛れもない“解放区”となっていることを鮮明に物語っていた。
そしてポルノの真摯な思いは、このライブで初披露された「ヴィヴァーチェ」で紡がれた、解放の合図を打ち鳴らすのは自分自身であり、そんな自分を強く信じろというメッセージにまっすぐつながっていく。過去の軌跡を噛みしめながら周年を盛大に盛り上げつつも、次の一歩をしっかりと見せてくれているのが実にポルノらしいところ。「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」の開催から、早いもので1年が経とうとしている。あの日にポルノが伝えようとしたこと。それを今回リリースされる映像作品を通して、改めて感じてみてほしい。横浜スタジアムでのMCで昭仁が発した「これからもこの解放区を大切に大切に、一緒に進んでいこう」という言葉を胸に抱けば、きっと日々を力強く生きていけるはずだ。
ドキュメントと嚴島神社の映像で感じるポルノの未来
また本作の初回生産限定盤には特典ディスクも同梱される。まず収録されているのは、「Story of ロマンスポルノ'24 ~解放区~」と題された映像。そこにはポルノの2人をはじめ、チーム全員が一丸となって大切なライブを作り上げていく過程がリアルに詰め込まれている。試行錯誤しながらセットリストを組み上げていく姿や、真剣な表情でリハーサルに向き合う表情からは、このライブに懸ける強い気持ちを感じることができるだろう。因島公演においては、台風の動きを注視しながら万が一中止になってしまった際に何をすべきかのアイデアをメンバーとスタッフが話し合うシーンも。このドキュメント映像を観たうえで本編であるライブ映像を楽しめば、また違った感動を抱くことになるはずだ。
さらに25周年イヤーのスタートを飾った奉納演奏「25th SPECIAL LIVE at 嚴島神社」の映像も収められている。そもそもこのライブは2023年に開催されたG7広島サミット(第49回先進国首脳会議)の応援ソングとしてポルノが作った「アビが鳴く」に端を発する。ポルノとしては初めて平和への願いをテーマに紡いだ楽曲であり、歌詞には「朱い大鳥居をくぐれば / あらわれる水上の神殿」という嚴島神社を想起させるフレーズが盛り込まれていた。それが嚴島神社での奉納演奏につながっていたという流れになるだろう。このライブはシンプルなアコースティック編成で行われている。厳かなライブシチュエーションと相まって、おなじみの楽曲の新たな魅力を感じることができるはずだ。もちろん「アビが鳴く」も披露されている。
そして、このライブは今の、最新のポルノの動きにも密接に影響している。ポルノは今年の4月11日に「言伝 ーことづてー」という楽曲をリリースした。これはNHK広島による被爆80年プロジェクト「わたしが、つなぐ。」のテーマソングとして書き下ろされたもの。戦争、被爆といったテーマに対し、広島県出身である昭仁と晴一が深く踏み込んで紡がれた楽曲だ。そこに至るには迷いや葛藤があったことは想像に難くないが、彼らの背中を押した一因に「アビが鳴く」という楽曲の存在があったことは間違いないだろう。25年を超えるキャリアを持つアーティストとして、広島出身のアーティストとして心に固めた使命。その発端がにじんでいるとも言える嚴島神社での奉納演奏は、ポルノの未来を感じるうえでも、今改めて見返すべきものだと思う。
プロフィール
ポルノグラフィティ
岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(G)からなるロックバンド。1999年9月にシングル「アポロ」でメジャーデビューし、2000年7月リリースのシングル「ミュージック・アワー」がポカリスエットCMソングに採用され大ヒットを記録する。続く「サウダージ」は初のミリオンセールスとなり、一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。その後も「アゲハ蝶」「メリッサ」「ハネウマライダー」「オー!リバル」などヒット曲を連発する。2022年8月に5年ぶりとなるオリジナルアルバム「暁」を発表。デビュー25周年を迎えた2024年9月にはアニバーサリーライブ「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」を広島・因島運動公園と神奈川・横浜スタジアムで行った。2025年4月にNHK広島放送局「被爆80年プロジェクト わたしが、つなぐ。」のテーマソングとして、「言伝 ―ことづて―」をリリース。9月より全国10カ所を廻るファンクラブツアーの開催を控えている。11月19日にはアニメ「僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON」オープニングテーマに決定した新曲「THE REVO」をリリースする。
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