ナタリー PowerPush - POLYSICS
爆音推奨! 新生ポリが放つ最強のアルバム
新生POLYSICSのニューアルバム「Oh! No! It's Heavy Polysick!!!」がついに完成した。カヨ(Syn, Vo, Vocoder)の「卒業」以来、あえてメンバーを補充せず、3人POLYSICSの可能性を探り試行錯誤を続けた成果が見事に結実した、「第2のデビュー作」と断言したい重要作であり、傑作である。
このアルバムは できうる限りの爆音で「体験」すべきだ。小さめの音で聴いていると、いつものポップで楽しいPOLYSICS。だが音量を上げていくと印象は一変する。おそろしく強力なバンドサウンド、タフでたくましい肉体性。電子音の切れ味の鋭さと、リズムセクションの音圧感とグルーヴがすごすぎて圧倒される。ポリのロックバンドとしてのポテンシャルの高さが恐ろしいほどの密度で詰まりまくっている。プロデューサーのアレックス・ニューポートのこだわりが結実した中低域のぶっとい音質も、爆音で聴けば快感度100%。インタビュー中でハヤシ(G, Vo, Syn, Programming)も語っているが、これを携帯プレイヤーや携帯電話でお手軽に済ませてしまってはあまりにもったいない。「BGM」にはなりえない、したくない、真正面から向き合う価値のある傑作である。
取材・文/小野島大
個々の楽器の音を太くして新しいポリを追求
──1年半ぶりの新作ですが、カヨちゃんの「卒業」もあって、ファンにとっては実際の年月以上に長く感じられたと思います。3人になって、曲作りに関する考え方ややり方は変わりましたか。
変わりましたね。まずは電子音のバランスみたいなものが変わりました。4人のときはギター、ベース、ドラム、キーボードがあって、その上にシーケンスが鳴ってたんですよ。で、3人になったときに、1個1個の音を太くしたかったんです。ドラムもベースもギターも、一から考え直したかった。
──1人減ったのをカバーするため?
そうですね。個々の楽器の音を太くして、聴いていて個々のプレイヤーの顔が浮かぶようなものを作りたかったんです。
──おお、まさにそういうものに仕上がってるじゃないですか。と、いきなり結論になってますけど(笑)。
あははは。で、電子音も、それまでは上モノとして扱っていたシーケンスを、もっとバンドに絡むような、ヤノ=フミ=オレ=シーケンスみたいな感じで、ギターやベースやドラムと同じ重要度でシーケンスも鳴るという位置づけにしたかったんです。
──それはカヨちゃんのキーボードとも違う位置づけになるんですか。
そうですね。手弾きのシンセサイザーみたいなものを考えなくなった。
──そうか、自動演奏になったから。
そう。だから前の曲も今の3人でやるように全部アレンジを作り直して。
──それはよりテクノポップ感が強まったということでしょうか。
……それはあまり考えなかったですね。自分がやりたい新しいPOLYSICSのサウンドが、これぐらい電子音が主張していて、バンドサウンドと同じテンションで鳴っているものにしたかったんです。そういう新しいPOLYSICSのサウンドにしたかった。
──電子音への執着みたいなものは元々強かったとは思うんだけど、それがメンバーが減ったことをきっかけに、さらに強く出てきたということですか。
そうですね。元々活動休止している間にソロをやろうと思っていたぐらいで。そこではギタリストのハヤシじゃなくて、プログラミングの個性みたいなものをアピールしたかったんですよ。今のエレクトロにはないようなものにしたかった。電子音だけどナマっぽいせわしなさがあったり。で、もっと上モノじゃなくちゃんと太い音で鳴ってるみたいな。でも結局なんのためにやるのかって言ったら、新しいPOLYSICSのためにやるわけだから。でもそのためにポリを休むのは嫌だったから。だったらその要素を混ぜて新しいPOLYSICSの音にしようよって話になって。
電子音がギターと絡み合ってツインギターみたいになる
──シンセを弾く人がいなくなったんだから、電子音の比重が減ってもおかしくないのに、逆にあえて拡大・強化するあたりがハヤシ君らしいですね。電子音がバンドサウンドと同等の比重で鳴るというバンド構造上の変化は、曲作りにも大きな影響を及ぼしたわけですか。
そうですね……作り方自体は……変わってきてるのかな。今までは音階では表せないノイズだったりパルス音みたいなものが飛び交う中でのパンクサウンドってものを意識してたけど、今はシーケンスのフレーズみたいなものをギターに絡めるようになってきた。
──それはカヨちゃんの手弾きとはまた違う感覚なわけですね。
そうです。キーボードって概念がないから、オレ(笑)。キーボード弾けないし。
──だからおよそ普通のキーボーディストとは違う発想になる。
仮にそこでオレが手弾きしてコードとか入れたりしたら、それは違うと思うし。手で弾けないクレイジーなサウンドやフレーズみたいなものをシーケンスでアピールしたい。
──なまじ弾ける人だと考えつかないような。
そうそう。それでオレのギターと絡み合ってツインギターみたいになるのは新しいと思ったし。
──ギタリスト的発想によるシーケンスの導入。
そうそう。それで電子音が主張するようになったし、電子音は(リズムなどの揺れがなく)スクエアだから、バンドサウンド自体もよりタイトになったと思うし。
CD収録曲
- Heavy POLYSICK
- Bleeping Hedgehog
- Let's ダバダバ
- Don't Cry
- Jumping Up and Clash
- Go to a Strange City
- Cough Cough
- Smile to Me
- サブリミナル CHA-CHA-CHA
- 3 Point Time
- Digital Dancing Zombie
- Much Love Oh! No!
- Have a Good Night
初回限定盤DVD収録内容
Live at LIQUIDROOM 2010.11.5
- シーラカンス イズ アンドロイド
- Mach 肝心
- Tei! Tei! Tei!
- How are you?
- 人生の灰
- Rock Wave Don't Stop
- First Aid
- カジャカジャグー
- URGE ON!!
- Shout Aloud!
POLYSICS(ぽりしっくす)
ハヤシ(G, Vo, Syn, Programming)、フミ(B, Syn, Vo)、ヤノ(Dr, Vo)からなるニューウェイブロックバンド。1997年、高校生だったハヤシを中心に結成。1999年にアルバム「1st P」をインディーズからリリースし、独自の音楽性と過激なライブパフォーマンスで人気を集める。2000年にキューンレコードからメジャーデビュー。2003年にはメジャー1stアルバム「NEU」をアメリカでリリースし、初の全米ツアーも実施するなど海外での活動も本格化させる。2010年3月には初の日本武道館公演を実施し、初期メンバーのカヨ(Syn, Vo, Vocoder)がこのライブを最後にバンドを卒業するが、約4カ月間の充電を経て復活。以降は3ピースバンドとして精力的な活動を行っている。