ナタリー PowerPush - POLYSICS
爆音推奨! 新生ポリが放つ最強のアルバム
3人で作るニューPOLYSICSを一から始めようと思った
──メンバーがいなくなったマイナスを、プラスに転じているわけですね。3人で作っているという実感は前よりも強いわけですか。
そうですね。もともとセッションして曲を作ることが多くて、その課程で、自分のイメージしてるドラムパターンやベースフレーズをヤノやフミに伝えるんですけど、今回はそれもほとんどなかったですね。自然と3人で作っていった。曲はだいたいの骨組みのやつを持っていくんだけど、「Bleeping Hedgehog」と「Have a Good Night」、「サブリミナル」とか「Let'sダバダバ」とかは、ほとんどまっさらな状態から作ったんですよ。打ち込みもなく、普通に3人の生バンドがセッションして作って、ある程度曲の骨組みが固まってきたところで打ち込みを始める。打ち込みができたら、それにあわせてまた3人で演奏して、またそこでアレンジを変えて……という。
──前は違う作り方だった?
前は僕が作ってきた打ち込みにあわせてセッションをしてたんです。
──つまり2段階や3段階ぐらい余計に手間をかけている、と。
そうですね。
──そのぶんバンドのコンビネーションが良くなっているという手応えがある?
ああ、それはあるかもしれませんね。前と比べるわけじゃないけど。
──その成果は今作にはっきり出てると思いますよ。バンドとしてのグルーヴがすごく強力になってる。
今回は手間──とも思ってないんだけど──もかけたし、あとレコーディングにめちゃくちゃ時間をかけましたね。プロデューサーのアレックス(・ニューポート)が日本に来てくれて。どうしても彼と一からやりたいと思ってたんです。今まではTD(トラックダウン)だけだったんですけど、そのときしょっちゅう訊かれるんですよ。「このドラム、マイクは何で録った?」とか「スタジオはどんなとこ使ったか?」とか。だったら彼が初めからマイクを立てて録った音でTDすれば、もっと良い音で録れるに違いない、と。
──なるほど。その成果が出てますね。今回、音が太くて、今までとは全然違うと思いました。
彼は1曲1曲、自分の中で録りたい音のビジョンがあるんですよ。例えば「Don't Cry」では、これを録るには(スタジオの)部屋が広すぎるからもっと小さいところで録ろう、とか。「Bleeping Hedgehog」とか「Digital Dancing Zombie」みたいな、ラウドなガレージのりの曲なら、広いところでドッカンドッカン鳴ってたほうが気持ちいいんだけど、「Don't Cry」みたいな、ディスコっぽいタイトなドラムを録りたいときは、狭い部屋で録ったほうが、余計なアンビエンス音が鳴らない分、加工がしやすいんですね。で、ドラムだけ録るときも、音決めは必ず3人でせーので演奏して録るんですよ。それを聴いてマイクを直したりピッチを変えて、また録る。そういうのを1曲の中でずーっとやるんですよ。それで音が決まったら、ようやく本格的にレコーディングがスタートするんです。それで何テイクか録って……。
──ああ、それはバンドの録音の仕方としてはすごく古典的ですよね。以前ロンドンでアンディ・ギルとやったときは、ドラムでも、スネアだけとかハイハットだけとか、全部バラバラに録ってたでしょう。あれは音のかぶりがなくなるから、すごくクリアな音で録れるんだけど、バンドっぽい録り方とはちょっと違うよね。
パズルみたいだもんね(笑)。あれはあれで面白かったんだけど。うん、だから今回は「ああ、昔はこうやってレコーディングしてたよなあ」って思った。
──うんうん。だから今回のレコーディングは楽しかったでしょう。
楽しかった! ものすごい大変なんだけど、出てくる音がそれ以上に良いから。それだけでオッケー!みたいな。
──音も良いし、演奏者がノリノリで楽しみながら作ってるのが、演奏からよく伝わってくるのが良いと思った。
おー、それはすごくうれしい!
──すごくグルーヴがあるし、バンドサウンドの良さがよく出てる。
うんうん、そこはもう一番大事にしてるところだから。演奏してて楽しいかどうかっていうのは。作る上でも、ライブする上でも。実際このときもノリノリの状況だったし。ツアーもやって、3人POLYSICSに自信もついていたしね。最初不安はいっぱいあったけど、ツアーやって3人の間合いみたいなものを掴んできたというのもあるし、ファンの反応も自信になったし。カヨっていうポップでキャッチーな存在はいなくなったけれども、だからこそ4人時代と同じことしてちゃダメだなと思ったし。そこで3人でできるニューPOLYSICSをゼロから始めようって気になったから。
今回はデカい音で聴いてもらいたい
──そこでロックバンドとしての骨太な存在感を強化していく方向を選んだのは、すごく頼もしいですね。しかも小さな音で聴くと普通にポップなPOLYSICSだけど、爆音で聴くとまるで印象が変わって骨太なロックバンドとしてのPOLYSICSが出現するというのは、意識したかどうか知らないけど、すごくうまいやり方だと思った。
うんうん。今回はやっぱりデカい音で聴いてもらいたいですね。すごいこだわりましたから。全部アナログで録ったんですよ今回。やり直しが効かない、昔ながらのやり方。焦らずいいものを作ろうというのは今回テーマだったんですよ。時間かかってもいいから、一音一音集中して妥協せずに録って、その積み重ねでこれができたと思うんです。これはぜひ良いオーディオ……じゃなくても、普通にCDで聴いてほしい。
──パソコン付属のスピーカーや携帯電話でちまちま聞いても、真価はわからない。
それは言えますね! 毎回録り音にはこだわって作ってるんだけど、今回は特にそれが強いかな。そこの危機感っていうのがあって。みんな簡単にMP3にいきすぎだろっていう。もちろん自分もiPod聴くけど、それがすべてになってる風潮が大丈夫かなあと。自分はちゃんと聴くときはCDやアナログで聴くし。そこをなんの躊躇もなくMP3で取り込んで、携帯プレイヤーばかりで聴いてる風潮はちょっと怖いなあと思いますね。だから小野島さんみたいに、CDで聴いて「すげえな!」と思ってほしいんですよ、若い子に。今回のPOLYSICSは違うな!と思ってくれる人が多いとうれしい。CDとMP3じゃ全然音が違うじゃないですか。「これ良い音だなあ、ほかのもCDで聴いてみよう」って思ってくれる人が少しでも増えてくれたらうれしい。すごくこだわりをもって、時間をかけて良い音にしようとがんばってるから。
CD収録曲
- Heavy POLYSICK
- Bleeping Hedgehog
- Let's ダバダバ
- Don't Cry
- Jumping Up and Clash
- Go to a Strange City
- Cough Cough
- Smile to Me
- サブリミナル CHA-CHA-CHA
- 3 Point Time
- Digital Dancing Zombie
- Much Love Oh! No!
- Have a Good Night
初回限定盤DVD収録内容
Live at LIQUIDROOM 2010.11.5
- シーラカンス イズ アンドロイド
- Mach 肝心
- Tei! Tei! Tei!
- How are you?
- 人生の灰
- Rock Wave Don't Stop
- First Aid
- カジャカジャグー
- URGE ON!!
- Shout Aloud!
POLYSICS(ぽりしっくす)
ハヤシ(G, Vo, Syn, Programming)、フミ(B, Syn, Vo)、ヤノ(Dr, Vo)からなるニューウェイブロックバンド。1997年、高校生だったハヤシを中心に結成。1999年にアルバム「1st P」をインディーズからリリースし、独自の音楽性と過激なライブパフォーマンスで人気を集める。2000年にキューンレコードからメジャーデビュー。2003年にはメジャー1stアルバム「NEU」をアメリカでリリースし、初の全米ツアーも実施するなど海外での活動も本格化させる。2010年3月には初の日本武道館公演を実施し、初期メンバーのカヨ(Syn, Vo, Vocoder)がこのライブを最後にバンドを卒業するが、約4カ月間の充電を経て復活。以降は3ピースバンドとして精力的な活動を行っている。