ナタリー PowerPush - POLYSICS
爆音推奨! 新生ポリが放つ最強のアルバム
ヤノの「Oh! No!」がレコーディングの山場だった(笑)
──一番時間がかかった曲は?
なんだろう……「Much Love Oh! No!」かな。アレンジが複雑で変則的だし、クセで歌えないように作り込んだから、そこでも時間かかったんですけど、これ、ヤノが「Oh! No!」って言うじゃないですか。あれ録るだけで3日かかった(笑)。アレックスが、英語には聞こえないなあって、いきなり発音チェックが始まって(笑)。アレックスがお手本を録って、それをヤノがスタジオの隅でヒアリングして練習してるっていう(爆笑)。
──(笑)そんなにアレックスの指示は細かいんだ。
ま、それは一番極端な例だけど、もちろん細かいですよ。弦の鳴りだったり、チューニングのちょっとした狂いだったり、ドラムの意図しないヘンな鳴りとか、あとで直すとかしないで、その場で徹底的に直すんです。あとでコンプをかけるために今切っておきたい、という明確な意図があって。そういう風に細かいところも絶対ないがしろにしない。ヤノが「Oh! No!」って延々とやってるのを見て、これが今回のレコーディングの山場だなって思いましたもん(笑)。アルバムタイトルは元々「It's Heavy Polysick!!!」だったんだけど、それもあって「Oh! No!」は絶対入れなきゃなって思って。だからアルバムタイトルの「Oh! No!」はそこからきてるんですよ。
──あ、そう? DEVOのアルバム(「Oh! No! It's Devo!」)からじゃないの?
違うんですよ。それ決めたときDEVOのことは忘れてて。あとで思い出して、まあいいやって。
──へえ。でもヤノ君いいやつだねえ。よく我慢したねえ。
ほんとほんと! 俺らもう、途中で「なんでこんなことやってるんだろう?」って(笑)。アレックスが言えばいいんじゃないか、とか思って(笑)。でもそこでヤノががんばったんですよ。だから一音一音大事にするっていう今回のコンセプトを一番象徴してると思う。
──まんざら冗談じゃなくてね。細かいところも妥協せず、徹底的に追い込む姿勢があったから、爆音で聴いても音が崩れないし、汚くならない。
そうです。今回はいろんなところでヤノに神が降りてるんですよ。「Let'sダバダバ」の「Let's」のところとか。「サブリミナル CHA-CHA-CHA」のCMのところとか。
──あれはやっぱりYMOですか?
そうです。「U・T」です。わかります?
──わかるよ普通(笑)。話題がドラムのことってとこまで同じだし(笑)
だって全然違うものになっちゃったし(笑)。あれも全然ノープランでやったんですけどね。でも結果的にすごくヤノらしいものができた。
──すごく骨太で尖ったバンドサウンドなんだけど、随所でゆるーいユーモアを忘れない。どんなにハードでハイテンションな音でも、どこか笑えるところがある。POLYSICSらしいバランスですね。
うんうん、そうですね。
機械と人間がぶつかりあうのがポリらしさ
──今回は、創作のインスピレーション源になったような特定のアルバムや音楽はあったんですか。「ABSOLUTE POLYSICS」のときのインダストリアルみたいなもの。
それがなかったんですよ。あえて意識したとすれば、「POLYSICS」ですね。「Heavy POLYSICK」って曲ができて、この「Heavy POLYSICK」て言葉をテーマに作ったアルバムではあるかな。
──それは、今までのポリにない新しい境地をどんどん開拓していこうというより、従来のポリらしさを徹底して掘り下げていく、ということですか。
と思ったんですけどね。そういうつもりで「Heavy POLYSICK」をテーマに作ったんだけど、でも実際は曲調はバラバラだしリズムもカラーも全然違う、すごくヘンで新しいものになった。でもPOLYSICSらしさは残ってる。つまり「Heavy POLYSICK」って言葉にこだわってとことんやれば、なんでもポリになっちゃうんじゃないかと。新しくて刺激的なPOLYSICSにね。
──POLYSICSらしさってなんですか。
電子音かな。電子音とバンドサウンドのバランス。オレの電子音の使い方って、人間じゃできないようなフレーズを機械にやらせることなんですけど、それと人間が同じテンションで、ガチでぶつかりあっているのが面白いと思うんですよ。機械とはりあって闘って、それでどんどんテンションが上がっていくような、そういうのがポリらしさだと思うんですよね。
──まさにそういう音ですね、今回は。
うん。で、自分はDEVOが好きなんですけど、DEVOみたいなシンセの使い方してるバンドって、後にも先にもいないんですよね。自分たちもそうなりたいんです。
──DEVOの真似するんじゃなく、独自の使い方をするという意味で。
そうです。それを改めて自覚したことが、自分たちを見直すきっかけになったんですけど。だから機械とバンドのバランスでしょうね、POLYSICSらしさって。機械に支配されてるわけでもなければ、電子音を装飾音代わりに使ってるだけのバンドでもない。もっと真の部分で、バンドサウンドと電子音が拮抗しているという。
最近フミやヤノと話すのが楽しいんですよ
──このアルバムはどこを主体に聴くかによって、いろんな聴き方ができると思うんです。ベースとドラムのアンサンブルを聴いてると、そこらのハードコア顔負けのグルーヴだし、電子音とかボーカルなど上モノを聴いてるとすごくポップに聴こえる。小さめの音で聴くのと爆音では印象が変わる。いろんな面があっていろんな聴き方ができるし、いろんな見方を許容する幅と多面性がある。それでいてPOLYSICSらしさはちゃんと濃厚に漂ってる。再出発のアルバムとしては理想的なんじゃないですか。
うんうん。ポリって14年やってて、来年15周年なんですよ。でも今作は1stアルバムみたいな感じで──実際、3人POLYSICSの1stなんだけど──フレッシュな気持ちで作れたのが良かったなと。
──結成15年も経つバンドがこれだけ勢いがあってエネルギッシュでテンションの高いアルバムを作れるのはたいしたものだと思いますよ。
一気に聴いて、また繰り返して聴けるようなアルバムになってると思いますね。
──これもまた40分ないんだよね。
……はい(笑)。また40分の壁を超えられなかった(笑)。本当はあと何曲かあって、入れようと思えば入れられたんだけど、それ入れると終わっちゃうんですよね。ああもうおなかいっぱい、次は別の聴こう、ってなっちゃう。それよりも、ちょっと物足りないからもう一回聴いてみようと思わせるほうがいいと思うんです。それでいていろんなアイデアが詰まってるし。あのね、音楽以外のものもいろいろ興味を持つようにしたんですよ。映画とか本とか。それまでオレってレコードばっか聴いてたんです。そのなかでいろんな出会いがあって。でももうちょっといろんなものを知ろうと思って。例えばね、最近はホラー映画を観ようと思って。それまでホラー映画って苦手で、お化け屋敷とか大嫌いなんだけど、観ることで刺激されて新しい自分が出てこないかなと思って。
──どうだったんですか。
……怖かったです(爆笑)。
──ダメじゃん(笑)。
いろいろ勉強したいんですよ。音楽面でも、今まで感覚的にやってたことも、理論を学びたいし。
──「この音とこの音がぶつかると、気持ちよく聴けない」とか、そういう音楽理論を気にしないで、これまではやっていた?
ですね。だからこそ面白いものが作れたということもあったと思うんですけど、でもこれからは、そういうこともわかった上で作ると、もっと面白いものができるんじゃないかなと。そうすればこの先、10年20年とできるかなと思う。今のままじゃ……。
──いずれ壁に当たるかもしれない。
うん。実際今回ギターソロも手癖で済まさないでパターンを変えたし。東川さん(マネージャー)からスティーヴィー・レイ・ヴォーン(主に80年代に活躍したアメリカの白人ブルース系ギタリスト。故人)とか借りて。そういうこと、今まではやったことなかったから。
──スティーヴィー・レイ・ヴォーン? なんでまた?
3コードのバリエーションを学ぶために。CREAM(エリック・クラプトンが60年代にやっていたバンド)のベスト盤買ったりとか。だから現状にアグラかいてちゃダメだなと。ぬるま湯に浸かってちゃダメだと思うんですよ。常に新しいものを取り入れていって。キーボードもちゃんと弾けるようになりたいし。そういうことでやれることの幅が広がるなら、トライしたい。そのほうが面白いし。最近3人で飲みに行って話し合う機会が増えたんだけど、この3人でしか作れないPOLYSICSのサウンドを作りたいという思いが強くなった。話すことでいろんなアイデアも生まれてくるし。だから最近フミやヤノと話すのが楽しいんですよ。
──ハヤシ君1人で考えてるより、幅も広がるよね。
ほんとそう思う。それでできたアルバムだから。だからこれからどんどんバンドとして伸びる余地はあるし、ポテンシャルも引き出せると思う。もっと自由な発想で曲を作れるし、もっとメンバーのパーソナルな部分を出していきたい。ヤノとか本当に面白いんで、みんなにそこを知ってもらいたい!(笑)
CD収録曲
- Heavy POLYSICK
- Bleeping Hedgehog
- Let's ダバダバ
- Don't Cry
- Jumping Up and Clash
- Go to a Strange City
- Cough Cough
- Smile to Me
- サブリミナル CHA-CHA-CHA
- 3 Point Time
- Digital Dancing Zombie
- Much Love Oh! No!
- Have a Good Night
初回限定盤DVD収録内容
Live at LIQUIDROOM 2010.11.5
- シーラカンス イズ アンドロイド
- Mach 肝心
- Tei! Tei! Tei!
- How are you?
- 人生の灰
- Rock Wave Don't Stop
- First Aid
- カジャカジャグー
- URGE ON!!
- Shout Aloud!
POLYSICS(ぽりしっくす)
ハヤシ(G, Vo, Syn, Programming)、フミ(B, Syn, Vo)、ヤノ(Dr, Vo)からなるニューウェイブロックバンド。1997年、高校生だったハヤシを中心に結成。1999年にアルバム「1st P」をインディーズからリリースし、独自の音楽性と過激なライブパフォーマンスで人気を集める。2000年にキューンレコードからメジャーデビュー。2003年にはメジャー1stアルバム「NEU」をアメリカでリリースし、初の全米ツアーも実施するなど海外での活動も本格化させる。2010年3月には初の日本武道館公演を実施し、初期メンバーのカヨ(Syn, Vo, Vocoder)がこのライブを最後にバンドを卒業するが、約4カ月間の充電を経て復活。以降は3ピースバンドとして精力的な活動を行っている。