ナタリー Power Push [POLYSICS]

「We ate the machine」完成記念! ハヤシが振り返るPOLYSICSの10年史

「カジャカジャグー」~「National P」~「POLYSICS OR DIE!!!!」

好き勝手にやらしてくれ、って言ったんです

そのあたりから、他のメンバーとかとも、これはまずい、どうしようかっていう話になりましたね。POLYSICSは、そんなね、型にはまったポップスをやるような、おりこうさんのバンドじゃない。もっととんでもない存在なんだから。ゼロ%から2000%ぐらいの振り切ったものを作んなきゃだめだなって思って。そんで、「次こそ好き勝手にやらしてくれ」っつって。で、「カジャカジャグー」と「National P」の制作に入るんですよ。

で、そんときにちょうど、それまで毛嫌いしてたロックレジェンドってものを聴いてみようかなって思って。で、タワレコとか行って。Aから「ロック名盤を聴こうキャンペーン」みたいなのを自分でやったんですよ。AC/DCとか。ディープ・パープルとかキング・クリムゾンとかイエス、ジミヘンとか。そういうの、ぜんぜん知らなかったから、ちゃんと聴いたんですよね。そしたらやっぱ、どれもよくて(笑)。今まで自分は自分が好きなことしかやってない。それもニューウェイヴの、くだらない頭デッカチな考えでしか音楽作れてねーじゃん、POLYSICS、ニューウェイヴの村でしか活動してなかったじゃん、って思って。自分がレコード出してる以上、そういう人になりたいと思ったんですよね。後々まで語り継がれるような存在に。連中のやってたことは新しくて面白かったね、とか。俺らそういう存在になってねえじゃんって思って。それで、名曲を作ろうと思って。「カジャカジャグー」ができた。

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カジャカジャグー
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でも「カジャカジャグー」のレコーディングしてるときに、モメたんですよ。歌詞で。スガイッチから「何?この歌詞」みたいなこと言われて。それボツった曲なんですけど。「これじゃあ、何言ってんのかわかんないよ」って。わかんなくてもいいじゃん。「いや、だめだよ。ちゃんとメッセージ伝えるものがないと。メロディもないし」って。メロディがなくたって別にいいだろうって話になって。俺は「カジャカジャグー」ができた時点で、もうバッチリだ、ポリの未来は明るいと思ってた。こんな曲ができただけでいいじゃん、これでもうバッチリだよ、俺ら、安泰、って。でも彼はおもしろくなかったみたいで。で、お互いたまってるのをパーンとぶつけたんですよ。朝方まで話してね。それまでポリって、そういうことやったことなかったんですけど、よしこれで大丈夫だ。お互い腹割って話して、「カジャカジャグー」って大傑作もできたし、これでもうバッチリだって思ったら、次の日にスガイッチが「やめる」って言い出した(笑)。スガイっち的には、やっぱずいぶん悩んでたみたいで。彼はもっとポップで、歌メロのいいやつをやりたかったんだけど。もう俺は、そんなレベルで音楽を作りたくなかった。歌メロとか歌詞とか、そんな次元のやつじゃない、そんな次元で語られたくない音楽を作りたくって、「カジャカジャグー」ができたんですよ。でも彼はそれがイヤだったみたい。それでイシマル君に頼んで手伝ってもらって、「National P」を作ったんです。

自分では自信があったけど、それまでで一番売れなかった

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National P
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でも「カジャカジャグー」「National P」ができて、これでもう大丈夫だと思いましたね。好き勝手やってるんですけど、ちゃんと自信があって。いけるだろう、お客さんにも受け入れてもらえるだろうと。でも結果、それまでで一番売れなかった(笑)。

「National P」は、ほんとに、僕のなかではすごい好きなアルバムで。いまだに、たまに聴くんですけど。こんなにイッちゃってる人間がいるんだって感じで。すごい楽しかったんですよね。イシマル君にはテクノとかニューウェイヴのドラムがどうこう、とか考えなくていいから、好きなだけ叩いてくれ、って言って。それでその暴れ太鼓がマッチしたんですよね。これはやべえだろう、みたいな。こんな面白い音楽は聴いたことない、みたいな感じで盛り上がってたんですけど。一番売れなかったですねー。

そこでようやく、自分のやってる音楽がここまで伝わらないのかって、初めて目の当たりにしちゃったんですよ。それまで自信満々で、今回はバッチリだろってノリノリで作ってて、たとえ結果が出なかったとしても「まぁこういうこともあるか、人生」とか思いながらやってたんですけど。そこで改めて、自分のやってることに疑問を持ち始めちゃったんですよね。自分がやってることって、こんなに喜んでくれる人が少ないの?って。自分がやってることは面白いから、それを多くの人が目にすれば、すぐブレイクするだろう、みたいな自信があったのに。

で、ある人に指摘されたんだけど、日本の音楽マーケットっていうのは、ロック好きだと言いながらも、8割9割ぐらいのほとんどの人が、歌聴いて応援されたり、元気づけられたり、自分の弱い部分を代弁してくれたりする音楽を好む人たちばっかなんだから、そこをわかってる?って言われて。ガーンって。じゃあ俺のやってることってダメじゃん、売れないんじゃんって。相当落ちましたね。やっぱそうなのかーって。

実は最近「National P」がめちゃめちゃ売れだしてきてるんだって、日本で。ポリのファンのなかで、“まず聴くなら「Naitonal P」”みたいなのがあるみたいで。ポリのレコードのなかでも、こんなに面白い、こんなにぶっ飛んでるアルバムはまずないから、まず聴いてみなっていうのがあるみたいで。それは嬉しいですけどね。でもそのときはとにかく売れなくて落ち込んでた。

過去の曲を録り直したくてベストアルバムを作った

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POLYSICS OR DIE!!!!
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で、そのときに、ベスト盤「POLYSICS OR DIE!!!!」の話があったんですよね。アメリカで出そうって。最初は出したくなかったんですよ。まだ早いし、そもそもベストアルバムって、あまり好きじゃないから。でも初期の「1st P」や「A・D・S・R・M!」の録音がほんとにひどくて、あの時代の曲を録り直したいってずっと思ってたから、じゃあ過去の曲を録り直してもいいなら、ベストアルバム出してもいいよって。5曲録り直したんだけど、それが過去の曲と並べたとき、新譜のようなフレッシュ感があって。アレンジも尺もまったく変えてないけど、今のメンバーで「BUGGIE TECHINICA」やったらこんなにカッコいいじゃん、っていうのは、出せたと思うんですよね。ベストアルバムでしたけど、俺のなかでは新譜として紹介するぐらいの感じで、取材も受けてましたけどね。

でも意外とシビアな現状で(笑)。ベストでなにかきっかけになればと思ったけど、そんなに数字は変わらなくて。やっぱダメかなーと思ってたんですけど。そっから、なんか海外でツアーやるようになったんですよね。海外ツアー回るために、ベストも作ったし。でも海外の状況が支えになったわけでもない。単に物珍しい感じで見に来てるだけなんだろうって思ってました。楽しいっちゃあ、楽しかったけど、そこに期待をかけるとか希望を持つなんてことはぜんぜんなくて。うん、「別に」って感じでした。

POLYSICSニューアルバム「We ate the machine」

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初回生産限定盤 [CD+DVD]
2008年4月23日発売 / 3360円(税込)
KSCL 1240~1241 / Ki/oon Records

通常盤 [CD]
2008年4月23日発売 / 3059円(税込)
KSCL 1242 / Ki/oon Records

CD収録曲
  1. Moog is Love
  2. Pretty Good
  3. Rocket
  4. 機械食べちゃいました
  5. DNA Junction
  6. Kagayake
  7. ポニーとライオン
  8. ありがとう
  9. イロトカゲ
  10. Mind Your Head
  11. Digital Coffee
  12. Boys & Girls
  13. Blue Noise
  14. Dry or Wet
DVD収録内容(初回盤のみ)

POLYSICS WORLD TOUR OR DIE 2008!!!! ~KARATE HOUSE!!!!~FINAL JUNE.2 日比谷野外大音楽堂

  1. ワトソン
  2. PLUS CHICKER
  3. サイボーグ彼女
  4. Tei! Tei! Tei!
  5. ハードロックサンダー
  6. AT-AT
  7. COMMODOLL
  8. PEACH PIE ON THE BEACH
  9. BUGGIE TECHINICA
プロフィール

POLYSICS(ポリシックス)

2007年で結成10周年を迎えた、日本が世界に誇るニューウェイブロックバンド。そのユニークなキャラクターと、ニューウェイブの神髄を自身のスタイルに昇華させたサウンドは海外からも熱烈な支持を受け、過去にも数回にわたるツアーを大成功させている。ボーカル・ギターのハヤシは飛び道具的魅力を持ったDJとしても引っ張りだこ。