三月のパンタシア特集|みあ×の子(神聖かまってちゃん)対談+みあ単独インタビューでニューアルバムを紐解く (2/4)

こんなに意思疎通できる制作があるんだな

──今回、アルバムの軸となるみあさんの書き下ろし小説「再会」の主題歌「花冷列車」の作曲をの子さん、作詞をみあさん自身が手がけています。みあさんがこのタイミングでの子さんに楽曲をオファーしようと思ったのはどうしてだったんでしょうか?

みあ もともとずっとの子さんとご一緒できる機会があったらいいなと虎視眈々と考えてはいたんです。今回アルバム制作にあたって、“再会”という大きなテーマのもと、メインテーマになる楽曲を2曲制作しようということになって。1曲はひさびさに大切な人と会えて幸せな気持ちに満ちた、再会の感動的な部分を描いた楽曲。もう1曲では再会に至るまでのなかなか会えなかった期間の切なさや苦しさ、あのときこうしていればもっと会えていたかもしれないのにという後悔、内省的な部分を疾走感あふれる曲調で表現したかったんです。後者はポップかつロックで突き抜けるような楽曲にしたいという漠然としたイメージがあって。そう考えたときに私の中で一番に思い浮かんだのが、の子さんのサウンドだったんですよね。それで思い切ってお声がけさせていただきました。

の子 本当にありがたいです。

みあ 三パシの音楽はいつも作家さんに小説をお渡しして、そこからご本人と会話を交えながら楽曲を制作しているんですけど、「花冷列車」に関してはの子さんご本人とやりとりをしないまま楽曲制作が進んでいく流れで。「主人公が思い人との出会いと別れ、再会を繰り返す中で、以前は勇気が出なくて乗れなかった電車に、勇気をかき集めて一歩を踏み出して飛び乗っていく」という疾走感やその瞬間のエモーショナルさを楽曲にしたいということだけ、スタッフを介しての子さんにお伝えさせてもらったんですけど、まさにこういう楽曲になったらいいなというデモを送ってくださってすごく感動しました。同じフレーズが頻出する曲で、前に進みたいけど同じ場所をループしてる感じがあって、そのもどかしさと、うまくいかない感じがすごくポップで明るいメロディで紡がれていて。ご本人との綿密な打ち合わせがなくても、こんなに意思疎通できる制作があるんだなと。

の子 お話をいただいて、三月のパンタシアの世界観を改めて自分なりに脳みそで考えて出てきた情景というか。みあさんが神聖かまってちゃんに対して言ってくれたように、僕も三月のパンタシアに青春を感じて。そういういろんな青春の切り抜き方みたいなものは自分にも通じるところがあるなと思ったんですよ。だから僕もスムーズに作れたのかもしれない。曲ができたときに自信はちょっとありましたね。

みあ の子さん節が炸裂してて、聴いた瞬間に一瞬で大好きになりました。

の子 みあさんの表現したい世界観を汲んだうえで、僕も自分の持ってる世界観を出す作り方がすごくやりやすかったです。僕の音楽はこれ!っていうメロディの感じや世界観があるんですけど、みあさんは神聖かまってちゃんを昔から聴いてくださっているので、そこらへんの情景がみあさんの中にあって、その情景が僕からパッと出たというか……そういうことなんですよね。ある意味、通じ合えるところがあって、お互い話すこともなくわかってたことがあったんじゃないかな。

みあ 「こんなにイメージが一致することってあるんだ」ってびっくりしましたよ。青春時代の情感を表現してきたというところは共通項としてあると思うんですが、三パシはこれまで色味で言うと淡かったり、甘い気だるさのようなものを描いてきたので、そこにの子さんの世界観が織り混ざることでどんな化学反応が起きるんだろうという楽しみな気持ちが大きかったんです。先日ミュージックビデオを公開したんですが、今回「新しい三パシを見た」という感想が多くて、それはこちらの意図通りでした。

の子 僕は上がってきた歌詞を見て、やはり素晴らしいなと思いましたよ。

みあ うれしい! もう一生この言葉を大切にします。

の子 「花冷列車」というタイトルからして素晴らしい。

みあ 「花冷」という言葉を最近知ったんです。花びらが冷えるくらいちょっと冷たい心地の春の情景のことらしいんですけど、この言葉が楽曲と物語にぴったりはまるなと思って、タイトルにしてみました。

の子 あと、歌詞に「神聖」という言葉を入れてくださってますよね。

みあ 「神聖な虚しさ光る」というところ、めちゃくちゃ意図的に入れました(笑)。

の子 フィーチャーしてくださってありがとうございます(笑)。

自分の人生をそのままインプット

みあ の子さんにお聞きしたいことがあって。これまでたくさんの作品を生み出してきたと思うんですが、自分の内側から出てくるものはもちろんありつつ、意識してインプットしているものはありますか?

の子 僕は普段から考えが止まらない人間で、日々自分と対話してるんです。だから自分の人生をそのままインプットしているというか。でも、それってちょっと狭いなと思うときもあるんですよね。メジャーデビューする前はバイトでも学校でもつらい経験が多かったんですけど、メジャーデビューしてからこの15年間くらいは外的な要因のつらい経験が減ってきたので。内的な要因で生まれるものは相変わらずあるんですけど。

みあ 感情がバッと湧き上がったその瞬間にギターを手に取って曲に昇華していくんですか?

の子 10代の頃にやろうとしたこともあったんですけど、泣き叫んで終わったっていう(笑)。やっぱりそういうときは感情がグワーッてなっていて。その瞬間にギターを持ってわーって歌うことはないですが、そのときの感情は残ったりするので後日……という感じです。

みあ 種があって、それが音楽になっていくんですね。

の子 そうですね。でも、さっき言ったように人って成長すると外的なものから影響されることってちょっと少なくなってくると思うんですよ。感受性も乏しくなっていって。歳を取るとそこらへんで葛藤するところがありますね。みあさんは感情的になるときはありますか?

みあ 「なんでこんなにうまくいかないんだろう」って1人でわーっとなっちゃうときは私もあって。でも誰にも吐き出せないので、めちゃくちゃな文章でもいいからそのときの悔しさや惨めに思った気持ちを日記みたいに言葉に残して、見るのも嫌だけど残すようにはしています。

の子 想像できますよ。今日話して、みあさんは思慮深い人だなと思いました。今日話すまでは謎なところがあったんですけど、実際に話して、普段からすごくいろいろと考えてる人なんだなと。考えてるからこそ言葉がいっぱい出てくるところもあるんでしょうし。みあさんはどういうときに歌詞や物語が生まれるんですか?

みあ 私はサウンドに引っ張られて言葉が出てくることが多くて。物語が先にあるなら歌詞を先に書いてそこにメロディを乗せるというやり方もあると思うんですけど、曲があるほうがイメージが膨らみやすいんです。「花冷列車」に関してもデモ自体がすごく好きだったので、言葉がポンポン浮かんできていつもより早く歌詞が書けました。

の子 僕はみあさんみたいな歌詞は書けないので、すごいなと思いましたね。

みあ ありがとうございます……! 今日お話させてもらうにあたって緊張もあったんですけど、考え方や音楽との向き合い方という部分でも尊敬できる大先輩だなと、改めて今感慨深い思いに浸っております。私、の子さんがTwitterで「作品を通して対話ができる」ということを書いてくださったのがすごくうれしかったんですよね。表現者として大先輩なんですけど、同じ目線に立って「対話」という表現を使ってくださって、三月のパンタシアの音楽性を汲み取ってくださったうえで書き下ろしていただいて。

の子 僕もこうしてオファーしてもらったことは本当に光栄ですし、作品上で対話ができたのは素晴らしいことだなと思います。話し始めたらいくらでも話せますね。また機会あるときにお話ししましょう!

みあ はい! よろしくお願いします!

プロフィール

神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)

の子(Vo, G)、mono(Key)、みさこ(Dr)からなる“インターネットポップロックバンド”。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ミュージックビデオの公開といったインターネットでの動画配信で注目される。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2017年4月から放送のテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」にエンディングテーマとして「夕暮れの鳥」を書き下ろし。2018年公開の映画「恋は雨上がりのように」では、鈴木瑛美子と亀田誠治によってカバーされた神聖かまってちゃんの代表曲の1つ「フロントメモリー」が主題歌となり、大きな話題を呼んだ。2020年1月、それまで10年間ベーシストを務めてきたちばぎんが脱退。同年12月にスタートしたテレビアニメ「進撃の巨人『The Final Season』」にオープニングテーマ「僕の戦争」を提供した。2022年3月より全国ツアー「伝説の猫とアヴァロン」を開催する。