“再会の幸福”は目の前にあるライブだった
──メインテーマのうちの1曲「幸せのありか」はもちろん小説の物語に沿って書かれた楽曲だとは思うんですけど、今の三月のパンタシアの物語に重なっている楽曲のようにも受け取れました。「もう私 おそれない 素顔の声聞いてほしいの」というフレーズもあったり。そういう意図はありましたか?
そうですね。「幸せのありか」は昨年11月のワンマンライブの1カ月くらい前に歌詞を書いていたんです。小説のメインテーマの1つとして、再会の幸福をテーマにした楽曲をイメージしながら書いていく中で、私の中でそのテーマと結び付くのが目の前にあるライブだったんですよね。1年10カ月ぶりにファンのみんなとやっと再会できるんだっていう、その喜びを歌詞に書きたくなってきちゃって。再会というテーマにいろんな意味合いがあってもいいじゃないかと思って、小説のテーマソングであると同時に、今の私のみんなに対する再会の喜びを受け取ってもらえるような曲にしようと思いました。アレンジもよりキラキラと幸福感があふれる感じにしてもらって。
──「幸せのありか」では“再会”に向かって走っていく主人公の弾む気持ちや衝動が描かれていると感じました。「つまずいたって知らない」っていう。
「花冷列車」の最後に「せーので飛び乗って この最終列車 しんと燃える想い乗せて」って、電車に乗れなかったけど今度は勇気を出して飛び乗ってみようという意思だけが書かれていて。それが「幸せのありか」につながって、主人公が駆け出しているようなイメージですね。小説の中にも、息を切らしながら転んだっていいからとにかく走り続けるという主人公の描写があって。そういったところを私自身の人生に重ねて、「この選択がどう転ぶのかは正直やってみないとわからないし、もしかしたらつまずくこともあるかもしれない。でも、みんなと一緒にこの道を歩いていきたい」という気持ちで歌詞を書きました。
──そしてエンディングテーマ「春に願いを」につながっていくわけですが、この曲では主人公たちが落ち着いて幸せを噛み締めている様子が浮かびました。
「春に願いを」では1人だった子たちが2人になったその後の情景をイメージしていて。ただ、2人でいるからといって、この幸せが永遠ではないことを主人公は自覚しているんです。この先どうなるかはわからないけど、それでも私は今目の前にある幸せや手のひらにある温かさを大事にしていきたいということを歌いたかった。それって自分の音楽活動にもあてはまるなと思って。サビの頭で「運命は偶然で 偶然は奇跡で」と書いているんですけど、三月のパンタシアの音楽を聴いてくれてるファンのみんなも、それぞれの三パシとの出会い方があったと思っていて。私はたまたま観た「KOTOKO」という映画でCoccoさんの音楽に出会い、その表現に思いがけず圧倒されて、魅了されて、Coccoさんが自分の人生自体を救ってくれるような存在になった経験があるんです。
──偶然の出会いだったわけですね。
そう。たまたま私がいろんなことに対して傷付いて疲れていて、どうしていいかよくわからなかった時期で。気分的に落ち込んでいたときに出会ったからこそ、落ち込んでる気分を拭い去られるくらい感動したんです。そういうふうに、出会いって偶然が積み重なって起こることなんじゃないかなと思っていて。「三パシの音楽に救われました」という言葉をたくさんもらう中で、それはたまたまそこに流れていたのが三パシの音楽だったからかもしれないし、ほかの人の曲だったらその人のファンになっていた可能性もある。でも、そこで三パシの音楽が流れて出会ってくれたことがすごく運命だなと思ったんです。その運命がつないでくれた絆で今一緒にいられるんだとしたら、それってものすごく奇跡だなということを考えながら、歌詞を書いていました。小説のエンディングテーマでありながら、今三パシの音楽を聴いてくれているファンのみんなに伝えたい思いも色濃く表れている曲になったなと思います。
──作編曲は水野あつさんですが、どういう経緯で提供してもらったんですか?
水野さんの楽曲も私はリスナーとして聴かせていただいていて。幅広い楽曲を作っている方なんですが、中でも温かみがあって飾りすぎない感じの音楽が素敵だなと思っていました。私は特に水野さんの「ソノラ」という曲が好きで。素朴なギターサウンドがベースになっていて、静かな夜に聴きたくなるような楽曲なんですけど、ああいった雰囲気がエンディングテーマのイメージにぴったりだなと思ったんです。お声がけさせていただいて承諾してもらった際も、「ソノラ」のイメージなんですということはお伝えして。アルバムの最後の曲ということもあって、映画のエンドロールみたいにこれまでの思い出を温かい音楽とともに振り返るような楽曲になったらいいなと思っていました。
ギラついた太陽の印象を受けました
──小説「再会」から生まれた楽曲のほかにも新曲が2曲収録されていますが、そのうち「閃光」は昨年発表された長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」の主題歌「夜光」のアンサーソングで、作曲をフジファブリックの山内総一郎さん、編曲を山内さんと金澤ダイスケさんが手がけています。これまでの小説にフジファブリックの曲名が登場する場面もあったので、みあさんのルーツの1つにフジファブリックがあるのかなと思っていたんですが、どういう経緯で書き下ろしてもらうことに?
フジファブリックはまさにリスペクトを込めて小説の中でちょこちょこお名前を出させてもらっているくらい、ずっとファンとして聴かせていただいているバンドです。小説「さよ花」は音楽好きの内気な主人公がシンガーソングライターになるという夢を追って田舎から上京するという話で、今回はその少女が都会に上京した数年後の姿を楽曲にしてみたいと思ったんです。「夜光」が田舎の海辺で夜の儚い月明かりを浴びながら希望を見い出すような歌だとしたら、その対となる楽曲では都会的な風景の中で太陽の光のもと滅入ったりしながらも負けずにまだまだ音楽を奏でていきたいという気持ちを描きたくて。小説が高校生バンドを題材にした物語だったので、バンドサウンドの曲にしたいというのが大前提としてありつつ、そのイメージを合わせて想像したときにフジファブリックのアッパーかつサビでバーッと開ける感じと、ちょっと奇をてらったあまのじゃくなサウンドが思い浮かんで、今回勇気を出してお声がけさせていただきました。
──まさにそのイメージ通り、イントロのギターから鮮烈で、サビで光が広がっていくような曲になっていると思いますが、山内さんとは直接やりとりをしたんでしょうか。
リモートで1回だけデモの制作前にやりとりをして、色味や情景のイメージを共有させていただきました。私はフジファブリックの「徒然モノクローム」という曲が好きで、それをお伝えしたときに山内さんが「明るくてサビでバーッて開けていくイメージね!」とすごく納得されていて。そのあと最初にいただいたデモがまさにこれ!という感じで、こっちのスタッフがみんな大納得する名曲だったので、そこからの制作はスムーズに進んでいきました。デモからアレンジが進んでいくにつれて、フジファブリックっぽくなっていくのが個人的にはすごく楽しかったです(笑)。
──曲調やサウンドに引っ張られて歌詞のイメージが湧いた部分はありましたか?
1番Aメロの「ぎらつく日差しがうっとおしくて目を細める」というフレーズとかはそうですね。最初は燦々とした夏の太陽のキラキラ感をイメージしていたんですけど、そこまでは山内さんにお伝えせず、“昼の太陽”とだけテーマを共有させてもらったんです。いただいたデモを聴いたら、ギラついた太陽の印象を受けて。そういうふうにサウンドによって自分の中のイメージが塗り替えられて生まれ出てきたフレーズがいっぱいありました。
──歌入りの音源を聴いて山内さんや金澤さんから何か言葉はありました?
「ロックに歌ってもらってありがとうございます」と丁寧におっしゃってくださり、私もホッとする思いでした(笑)。サウンドに合わせてロック調の歌唱にしたほうがカッコいい曲になるなと意識してレコーディングしていた部分もあったので、それに気付いてもらえてうれしかったです。
繰り広げられた文学バトル
──「あのね。」は昨年5月に配信リリースされた楽曲「幸福なわがまま」のその後を描いた楽曲ということですが、なぜアフターストーリーを作ってみようと思ったんでしょうか。
アルバムを作るにあたって、小説に付随する新曲5曲を制作するというのがまず決まっていたんですが、もうちょっと新曲が欲しいという思いがあって。でも無理やり小説からひねり出して曲を制作するのは違う気がするし、かといってアルバムのテーマに沿わない新曲がポンと出てくるのも違う。アルバムの中で浮かない曲にしたい。じゃあどうすればいいんだろうと考えたときに、このアルバムに収録されるシングル曲「幸福なわがまま」はリスナーに物語の行方を委ねる曲でもあったなと思ったんです。あの曲は、今は幸せだけど、最終的に一緒にいられないことをお互いにわかってるうえでそばにいる2人の歌で。最後は別れることになってしまった2人がどうなったのかという物語を描いたら、アルバムに統一性と深みが出るんじゃないかなと思って、制作していきました。この曲は澤田空海理さんが作曲して、歌詞は澤田さんと私で共作させてもらって。
──澤田さんとはご親交があったんですか?
いや、初めましてでした。澤田さんから共作のご提案をいただいて。打ち合わせの場で「幸福なわがまま」の物語の続きを楽曲にしたいというお話をしたんですけど、お互いの考えが歌詞の中で混ざり合う形にしてみたいということになって、こういう方向性の歌詞にしましょうということはあえて決めませんでした。でも、物語のその後をバッドエンドと捉えているかハッピーエンドと捉えているかで大きな解釈の違いが起こったら収集がつかなくなっちゃうなという恐れもあったので、2人は別れることになって再会するかもしれないけど、最終的にはやっぱりそばにはいられないというざっくりとした道筋だけは決めて。それをもとに澤田さんが虫食いみたいな状態で最初に歌詞を書いてくださいました。
──Aメロ、Bメロみたいな分け方ということですかね。
はい、ブロックごとに。埋まっていないところを私が補完するように物語を書いていくという形でしたね。
──ちなみに「幸福なわがまま」はテレビ朝日系ドラマ「あのときキスしておけば」のオープニングテーマで、松坂桃李さん演じる桃地のぞむと、麻生久美子さん演じる唯月巴のストーリーに寄り添った曲でもありました。「あのね。」でもあの2人のことは意識しているんですか?
私は意識していましたね。こうなってほしいなというドラマに対する希望も込めつつ。そこは自由に聴いてもらえたらいいなと思うんですが、私的にはお互いに別々の場所で生きながらも心ではずっと大切に思っているというイメージで書いていました。
──歌詞の最初から最後までずっと句読点が使われているのも印象的でした。「あのね。あの日々は大切で。何でもない一瞬ですら、私には光だった。」と。
澤田さんがご自身の楽曲で普段から句読点を使われていて、最初にいただいた歌詞からそういう形だったんですよね。それで私も続きの歌詞を書いていくときにそのスタイルを踏襲しました。トラックダウンでお会いしたときに思ったんですが、澤田さんは文学としての表現をものすごく大切にされている方で。句読点の位置や改行の場所も最終的に綿密に話し合いました。私は歌詞をそういう視点であんまり捉えたことがなかったので、新鮮でしたね。
──でも、みあさんの歌詞も、いつも小説を書いているからか文学的な表現で面白いなと感じることが多々あります。そういうお二人がコラボして歌詞を一緒に作ったのは素敵ですね。
句読点の位置に関して「こっちが適切じゃないですか?」「でも、こういう意図があります」というやりとりをしていたんですけど、澤田さんが「文学バトルみたいになってきましたね」とおっしゃっていて面白かったです(笑)。
表現は“自分の枠”の中でやるもの
──お話を聞いていくと、「邂逅少女」というタイトルの通り、まさにいろんなクリエイターさんとの出会いのアルバムという感じがしますね。
再会や出会いがアルバムのコンセプトになっているので、作家さんやコンポーザーの皆さんとも新たに出会いたいという意図はありました。小説も含めて、このアルバムではコロナ禍で感じてきた出会いの尊さや今そばにいられることの素晴らしさ、幸せな気持ちをファンのみんなに音楽を通して伝えたくて。まさにそういう思いがギュッと凝縮された作品になったなという手応えはあります。
──みあさんは「変わらないまま変わっていきたい」とよくおっしゃっていますが、素顔を明かして物語を届けるようになったり、新しいクリエイターさんと出会って表現の幅を広げていたり、今まさに三月のパンタシアはターニングポイントを迎えているように見えます。2022年はどういう年になりそうですか?
最近、表現は“自分の枠”の中でやるものだなといろんな本を読んだりしながら考えることがあって。その枠を自分でどれだけ広げていけるかによって表現できることが変わってくると思うんです。今はその枠を広げようとしているところですね。失敗するかもしれないけど、そうやってチャレンジを繰り返しながら枠をどんどん拡張していったときに見せる三月のパンタシアの新しい表現というものに今年は期待していただけたらうれしいです。
──まずは3月に大阪・なんばHatchと東京・Zepp Haneda(TOKYO)でライブがありますね。
アルバムで描いた「再会」の物語のさらに深くてエモい部分に触れられるライブです。ぜひ三月のパンタシアの世界をライブハウスで体感してもらいたいです!
三月のパンタシア ライブ情報
三月のパンタシア LIVE2022 / 邂逅少女
- 2022年3月18日(金)大阪府 なんばHatch
- 2022年3月27日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
プロフィール
三月のパンタシア(サンガツノパンタシア)
「終わりと始まりの物語を空想する」をコンセプトに、ボーカルのみあを中心に結成されたプロジェクト。2015年8月に活動を開始し、2016年6月にシングル「はじまりの速度」でメジャーデビュー。2018年8月にはみあが書き下ろした小説とイラストレーターのダイスケリチャードが手がけたイラスト、クリエイター陣による楽曲を連動させたプロジェクト「ガールズブルー」が始動した。2019年3月に「ガールズブルー」を軸に思春期の女の子の感情を描いた2ndアルバム「ガールズブルー・ハッピーサッド」をリリース。その後も小説、イラスト、楽曲を掛け合わせて独自の世界観を築き上げ、2020年9月に3rdアルバム「ブルーポップは鳴りやまない」をリリースした。5月にテレビ朝日系ドラマ「あのときキスしておけば」のオープニングテーマ「幸福なわがまま」を配信リリース。7月に両A面シングル「101 / 夜光」と、みあによる初の長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」を発表した。11月に東京・チームスマイル・豊洲PITで行ったワンマンライブ「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」で素顔を解禁。2022年3月に4thアルバム「邂逅少女」をリリースし、大阪・なんばHatchと東京・Zepp Haneda(TOKYO)でワンマンライブを開催する。
みあ(三月のパンタシア) (@3_phantasia) | Twitter