ツーマンライブは今のWurtSに必要なもの
──WurtSさんはツーマンライブを精力的に行っていますが、ツーマンライブという形がお好きなんですか?
ツーマンって、フェスとは違ってワンマンライブのような空気感があるというか、アーティストの世界観をしっかり伝えられる場なんです。そこから感じ取れるエネルギーはフェスよりも濃密ですし、ライブでのアプローチの仕方なども細かいところまで勉強させていただける機会だなって。しかもワンマンとは違ってお互いが刺激し合ってライブが作られていくので、お相手のアーティストさんの空気をまとってライブができるという魅力もあります。
──ワンマンとフェスのいいとこ取りみたいな。
そうですね。その化学反応じゃないですけど、そういうのをすごく楽しみにしています。なのでツーマンが好きというよりも、今のWurtSにすごく必要なものなのかなっていう感じです。
──WurtSさんと04 Limited Sazabysが出演する「音楽と行こう」は、「未来へつなぐ、2マンライブ!」というテーマが掲げられています。オファーを受けた際、どんな印象を持ちましたか?
WurtSとして作っている音楽って、今だと「ロックとダンスミュージックを融合させて新しいことがしたい」みたいな感じで……自分で言うのもアレなんですけど、けっこう前のめりな音楽をやっていると思っているんですね。自分で道を切り開いてきた感覚があるので、そのイメージとすごく合っているというか、目指すものが合致している部分もあるんじゃないかなと感じました。
──「俺が出ないで誰が出るんだ」くらいの。
そうですね(笑)。ライブ作りに関しては、もちろん変わらない部分もありつつ、どんどん変化させていきたい気持ちがあるんです。それこそ対バンでいろんな刺激をもらいながら、先の先を見据えたライブ作りというものを考えているので、「音楽と行こう」とはそこがすごく方向性として共通しているような感じはしています。
──対バン相手であるフォーリミはキャリアのあるバンドなので、WurtSさんの進むべき道の1つを示してくれる存在でもありますよね。
もちろん、やっている音楽がジャンル的に近いかというとそうではないかもしれないですけど、これまでに何度もフェスなどでご一緒して、ライブも観させていただいて、僕がやっているライブ以上のエネルギーをいつも感じてきました。フォーリミさんのステージはお客さんを巻き込んで一緒に作り上げている感じがあって、それは今後の僕の課題になってくるものだと思っています。フォーリミさんのライブは勉強させていただけることがすごく多いなと感じますね。
──フォーリミとご自身の間に、何か共通するものを感じたりはしますか?
やっぱりライブ活動をがっつりやられているところですね。フェスでよくお会いするということ自体がその証明になっているかなと思うんですけど、活動の中心がライブにあるという意味では近いものがもしかしたらあるのかなと。
ライブと音源で一貫した世界観を表現したい
──それだけライブ活動を重視しているWurtSさんにとって、改めてライブというものの意味合いを言葉にするとどういう感じになりますか?
僕は“ネット発のアーティスト”的な言われ方をよくしてきたんですけれども、事務所に所属した最初の段階で「ライブをどんどんやっていきたい」とは言っていたんです。この前、その事務所の先輩である[Alexandros]さんと対バンさせていただく機会がありまして、そのときに(川上)洋平さんが「自分たちの最前線はライブハウス、ライブ会場なんだ」ということをおっしゃっていて、確かにそうだなって。僕もそのマインドではあって、発想を具現化する実験の場みたいなものとしてライブというものを捉えています。音源はあくまでそのあとに出てくるもの、という感じですね。
──おっしゃるように、一般的なイメージとしてWurtSさんといえば“家にこもって音楽作りを突き詰めている人”というふうに思われがちだと思いますが、それが核ではないんだと。
どちらかというとリアルな声が聞きたい人間ではあるので、ネットを通じた一方通行の発信には不安も大きかったんです。今はライブ活動がどんどん増えてきたことで、自分のあり方にやっと自信が持てるようになってきました。ライブはリスナーのリアルな声も聞けるし、自分の純粋にやりたい音楽をそのまま実験できる、一番のコミュニケーションの場所だなと思っています。
──WurtSさんは高校生くらいの頃はバンドをやりたかったというお話も以前されていましたし、「音楽とはライブの場で表現されるものだ」という思想がもともとあったわけですね。
ありました。音源は加工されて整ったキレイさを目指すものですけど、ライブの場合は不完全であることがカッコよかったりもするんです。そこに魅力を感じますね。
──そういう意味では、バンドの人たちってライブの場数を踏むことで力を付けて、その過程を経てから音源を作り込むほうへ進む場合が多いですよね。その“ライブハウスで育つ”みたいなところに憧れがあったりもするのでは?
そうですね。作った音楽を、音源として出すときとライブで演奏するときのギャップをなくしたい思いはあります。もっと両方で築き上げていくものがあるんじゃないかと……その点、バンドの人たちはライブと音源がリンクしているというか、壁がない感じがするんですよね。フォーリミさんもそうですけど。
──音源とライブのギャップというのは、具体的にはどういうところに感じているんですか?
世界観というか、メッセージ性みたいなものの統一感ですかね。例えば「音源ではこう言ってるけど、ライブだとちょっと表現の仕方が違ってしまう」みたいな矛盾が、ライブと音源を別軸で考えていると起こりやすい。そこをもっと一貫したものにしていきたいんです。音源とライブが合わさって1個の作品になる、みたいなものを目指してはいますね。
──逆に言うと、現状ではそれがうまくできていない感覚がある?
今まではどちらかというと、楽曲は楽曲で作って、その楽曲をライブでどう表現するべきかで悩むことが多かったです。最近は自分の中で作品に対する向き合い方が変わって、ライブも念頭に置きながら作品を作るようになってはきたんですけど……これまでは音源とライブどころか、シングルとアルバムの考え方の違いとかもあまり区別できていなかった。今やっと、最終的なアウトプットの形によって最適な作り方が変わってくるんだということが理解できるようになってきて。
──言うなれば、同じ作品のマンガ版とアニメ版とゲーム版をそれぞれ別々に考えて作っていたことで齟齬が生まれていた、みたいな?
そうですね。以前までは原作マンガをマンガとしてだけ考えて作り込んでいたので、アニメ化するときに無理が生じてしまっていた(笑)。それが今は、アニメ化も視野に入れた原作作りに変わってきた感じだと思います。
“音楽を所有する喜び”を提示していきたい
──フォーリミとの対バンでは、どんなことが楽しみですか?
まずフォーリミさんとの対バン自体が初めてなので、光栄だしうれしいなという気持ちです。フェスよりも濃厚なツーマンのステージであのエネルギーを浴びられるのが楽しみですし、フォーリミさんのライブってMCから演奏への流れがすごく美しいんですよ。当日は特にそのあたりを勉強させていただきたいなと思っています。
──ご自身のステージについてはどうですか?
対バンの場合、お相手のスタイルやテイストに合わせてなるべく近いイメージのセットリストを組んで挑むやり方もあると思うんですけど、僕は逆に、自分にしかできないものを届けられたらと思っています。これまでにワンマンライブで培ってきたものを、見せられるだけ見せられたらなと。WurtSとして活動を始めたのがコロナ禍だったこともあって、WurtSのお客さんは「ライブとは?」っていうところから一緒に手探りで成長してきてくれた方が多いんです。それに対してフォーリミさんとファンの皆さんはコロナ禍以前からライブという場を共有し続けてきた方々なので、僕もそうだし、WurtSファンの皆さんもすごく学ぶところが多いんじゃないかなって。そんな方々の前でライブできるのが、今からすごく楽しみです。
──では最後に、「未来へつなぐ」というテーマにちなんで「未来の音楽シーンがこうだったらいいな」という理想像がありましたら教えてください。
そうですね……これは本当に個人的な願望でしかないんですけど、音楽の聴き方、聴かれ方として今はサブスクが主流になっていますよね。もっと作品を手元に残すことの価値が認められるようになったらいいな、と思ったりはします。アルバムが1枚手元にあるだけで、仮にそれを聴かなかったとしても所有する喜びは得られるので。
──サブスクやSNSでしか音楽を聴いたことがない人たちは、“音楽を所有する”という概念自体が発想にないかもしれないですね。
僕はもう本当にサブスクがあったからこそ自分の音楽世界が広がりましたし、それはそれで素晴らしさはもちろんあります。とは思いつつ、今の僕のマインドが、さっきの話で言うと原作マンガとアニメを包括的に考えて作り出すようなコンセプチュアルな方向に向いていることもあって、そこだけで消化されずに、そこから派生したものも含めて所有してほしいというか。最近だとCDプレイヤーを持つ人がまた増えてきていたり、アナログレコードも根強い人気があったりして、“今の聴き方”と“昔の聴き方”という対立構造ではなく、聴き方の多様化みたいな感じでフラットに楽しんでいる人たちも多いと思うんです。そういう感じで、所有する喜びをもっと感じてもらえたらなと。
──極端にどっちかじゃなくていいんですよね。いろんな楽しみ方を選べるのが一番いいという中で、“所有するという選択肢”が存在することをもっと知ってもらいたいと。
はい。そのためにどうしたらいいのか、何ができるのか、WurtSサイドとしても考えなきゃいけないことだなと思っていますね。
──特にWurtSさんは音楽に付随するいろんな要素をトータルで考えることが得意な人ですしね。
そうですね。これまでにもアルバムごとにコンセプトを変えて、音楽の聴き方や楽しみ方をいろんな角度から提示してきました。これからはそれに加えて、所有する喜びをどんなふうに感じてもらえるかを考えながらアルバム作りをしていくことになるのかなと思っています。そういう意味では、グッズデザインやアルバムのアートワークに並々ならぬこだわりを持ってらっしゃるフォーリミさんにも、勝手ながらシンパシーを感じてますね。
プロフィール
04 Limited Sazabys(フォーリミテッドサザビーズ)
2008年に愛知県名古屋市にて結成された、GEN(B, Vo)、HIROKAZ(G)、RYU-TA(G, Cho)、KOUHEI(Dr, Cho)によるロックバンド。2013年5月に発表した2ndミニアルバム「sonor」より日本語詞を多く取り入れ、楽曲の幅を広げる。メロディックパンクやギターロック、ラウドロックなど、さまざまなジャンルのバンドと競演を重ね、2014年9月に1stシングル「YON」をリリース。2015年4月に1stフルアルバム「CAVU」を日本コロムビアから発売し、メジャーデビューを果たした。2016年から主催フェス「YON FES 2016」を開催している。2019年9月には埼玉・さいたまスーパーアリーナで単独公演「YON EXPO」を開催して成功に収めた。2022年10月にアルバム「Harvest」、2023年10月にセルフカバーアルバム「Re-Birth」をリリースした。2025年1⽉29⽇にEP「MOON」を発売。3⽉から4月にかけてワンマンツアー「MOON tour 2025」を行い、6⽉21、22⽇には主催フェス「YON FES 2025」を開催する。
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WurtS(ワーツ)
2021年に本格始動を果たしたソロアーティスト。作詞、作曲、アレンジはもちろん、ジャケットやミュージックビデオなどのビジュアルプロデュースも自身で手がける。2021年にTikTokに投稿したオリジナル曲「分かってないよ」が大ヒット。同年12月に1stアルバム「ワンス・アポン・ア・リバイバル」を発表した。2022年1月放送の日本テレビ系「バズリズム02」で「今年コレがバズるぞ!BEST10」第1位に選出。以降さまざまなCMソンや企業タイアップソングなどを手がけ、注目を浴びる。2024年10月には初の東京・日本武道館でワンマンライブを開催。このライブの映像を収めたBlu-ray / DVDが2025年4月にリリースされる。