ナタリー PowerPush - おおたえみり
赤い公園・佐藤千明に聞く“理解できない”すごさ
私がえみりちゃんを好きすぎて津野は嫉妬してるみたい
──同じボーカリストとして、刺激を受ける部分も大きいんじゃないですか?
刺激はものすごく受けてますけど、それを取り入れようみたいな感じはないんですよね。ほかのアーティストさんのライブを観たときに、「こういうアプローチはいいな」って無意識のうちに取り入れようとしているところはあると思うんですよね、たぶん。でも、えみりちゃんはまったく別の次元にいるというか、自分のライブや歌には反映できないと思っていて。私にとっては別格の存在というか、ホントにファンなんですよ(笑)。いい意味で理解できないし、理解したくないって思ってるところもあって。1人のファンとして、ずっと見ていたいなって。
──理解できないけど、すごく惹かれる。
そうですね。ちょっと恋みたいな感じもあるかも。片思いしてるんだけど、ずっと背中を追っていたっていう気持ちもあって……なんだろう、これ(笑)。「理解しなくてもいい」っていうのは、決して投げ出してるわけじゃないんですよ。わかってしまうことで、何かが変わってしまうような気がするというか。でも、えみりちゃんという人間に対してはものすごく興味があります。メンバーが(「月のレヴェル」の)PVの撮影に参加したとき、「えみりちゃんが何を食べてたか見てきて」ってお願いしたんですよ。メンバーには「気持ち悪いねー」とか「ちぃちゃん(佐藤)はえみりちゃんとどうなりたいの?」って言われましたけど(笑)。別にどうかなりたいわけじゃなくて(笑)、単純に興味があるんですよね。目が覚めてから夜寝るまで、どんなことをしてるのか知りたいっていう。
──確かに興味がありますよね。どういう生活をしてたら、ああいう規格外の音楽を生み出せるんだろう?って。メンバーの皆さんは何か話してくれました?
PVの撮影が終わってからまだ会ってないんですよね。でも、最近はえみりちゃんの話をしてもあんまり答えてくれないんです。たぶん津野はちょっと嫉妬してるみたいなんですよね。私がえみりちゃんを好きすぎて(笑)。移動してる車の中でも、いつも「えみりちゃんの曲かけてー」って言ってるし。
本当に同じ時代の同じ国に生きてる人なのかな?
──新作の「ルネッサンス」についてはどんな印象を持ちました?
西洋チックというか、すごく不思議な違和感があるなって。えみりちゃんの楽曲を聴いていると、「本当に同じ時代の同じ国に生きてる人なのかな?」って思うんですよね。例えば今回のアルバムに入っている「踊り子」(オーセンティックなジャズを取り入れつつ、1950年代あたりの場末のダンスホールを想起させるナンバー)にしても、その時代を実際に見て、本当に知っている感じがするというか。あと、ピアノもすごいですよね。ほとんど独学だって聞いたことがあるんですけど、ちゃんと音楽理論をわかった上で、あえて崩してるんだろうなって。歌のバックで鳴ってるアレンジもすごくて、それも違和感につながってるのかも。
──単にアバンギャルドなだけではない、と。しかもすごくポップですよね。
うん、そうですよね。「うでの毛」(小西康陽プロデュースによるラブソング)とかも「ポップやなー」って思うし。私、「かごめかごめ'12」(2013年1月にリリースされた3rd DVD+CDの収録曲。ある女の子の1日を描いたポップチューン)が大好きなんですけど、ライブでものすごく深い世界観の曲をやったあとに「かごめかごめ'12」が始まると、幸福感に包まれるんですよ。すごくポップなのに泣ける感じがあって。
おおたえみりちゃんは近付けない天才
──もし、赤い公園とおおたえみりでコラボレーションすることになったら、どんなことをやりたいですか?
いやー、何も想像できないですね……。もし実現したら、とりあえず3日くらいごはん食べなくてもいいかも(笑)。「えみりちゃんと一緒にやるんだ」っていうだけで、やっていけそう。
──ハハハハハ!(笑)
もし何かやるとしたら、とりあえずえみりちゃんに指揮を執ってもらいたいですね。“えみりちゃん節”のピアノを弾いてもらって、その中で歌えたらいいですよね。1小節の中に言葉を詰め込んでいく感じが好きなので、自分もそれをやってみたいなって。あと、赤い公園の曲をえみりちゃんに歌ってもらったら、すごいことになるだろうな……。「塊」とか合いそう。
──改めて、佐藤さんが考えるおおたえみりの魅力とは?
誤解を恐れずに言うと、“心に寄り添う曲を書く天才”と“絶対に近付けない天然の天才”があるとして、おおたえみりちゃんは“近付けない”天才だと思うんですよ。私はもともと寄り添ってくれる系の曲を好んで聴いてて、「全然理解できねえ!」みたいなのはまったく聴いてなかったから(おおたえみりの音楽に傾倒しているのは)自分でも不思議なんですけど。津野の曲は、どちらかと言うと寄り添うタイプかなって思うんですよね。えみりちゃんの曲には、彼女という人間の奥深さ、面白おかしさが出てると思うんですよね。それにすごく惹きつけられるんじゃないかなって。同い年なんですけど、すごく憧れがありますね。どこかに“悔しい”っていうのもあるんですけど。
──なるほど。最後に、まだ彼女の音楽に触れたことがない人に向けて一言もらえますか?
まず、とにかく聴いてほしいっていうのが一番ですね。何度聴いても、何を聴いても「理解できない、満足できない」っていう感じにになると思うので。あとは、できればライブに行ってほしいなって思います。えみりちゃんの音楽を肌で感じることで、絶対に何かが残ると思うので。
CD収録曲
- 月のレヴェル
- ぼっちはハイ
- 舟の人
- 踊り子
- うでの毛
- ルネッサンス
- カーテン
- 赤い公園 1stアルバム「公園デビュー」/ 2013年8月14日発売 / EMI Records Japan
- 「公園デビュー」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3500円 / TOCT-29184
- 通常盤[CD] 2800円 / TOCT-29185
おおたえみり
兵庫県出身。1992年9月14日生まれのシンガーソングライター。幼少期からピアノを弾き始め、小学生の頃から曲を作るようになる。15歳で関西を中心に定期的なライブ活動を行う傍ら、次々とオリジナル楽曲を制作。ほぼ関西のみの活動にも関わらず、エキゾチックな容姿とぶっ飛んだパフォーマンスが噂を呼び、じわじわと話題になり始める。2012年8月、DVD+CD作品「セカイの皆さんへ / 集合体」でcutting edgeからメジャーデビュー。その後2作のDVD+CD作品をリリースしたあと、2013年8月に1stミニアルバム「ルネッサンス」をリリースする。
佐藤千明(さとうちあき)
津野米咲(G, Piano, Cho)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr, Cho)との4人組バンド・赤い公園のボーカル兼キーボード。高校の軽音楽部の先輩後輩として4人が出会い、2010年1月に赤い公園が結成される。さまざまなジャンルの音楽を内包したサウンドと、予測不能なアグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。東京・立川BABELを拠点に活動をスタートさせ、自主制作盤「はじめまして」「ブレーメンとあるく」を経て、EMIミュージック・ジャパン(現ユニバーサルミュージック内EMI Records Japan)からミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューする。2013年8月に1stフルアルバム「公園デビュー」をリリースした。