オレンジスパイニクラブ「タイムトラベルメロン」インタビュー|あっという間、紆余曲折のバンド活動の中で見えてきたもの

スズキユウスケ(Vo, G)、スズキナオト(G, Cho)、ゆっきー(B, Cho)、ゆりと(Dr)からなる茨城県出身の4人組バンド・オレンジスパイニクラブ。彼らが中学時代に結成した前身バンド・The ドーテーズの頃から数えるとキャリアは10年を超える。メンバーが「オリジナル曲を作っても聴いてもらえない時期があった」と語るように不遇な時代を過ごしてきたオレンジスパイニクラブだが、2020年1月リリースの1stミニアルバム「イラつくときはいつだって」の収録曲「キンモクセイ」がSNSを中心に話題に。その後の精力的な楽曲制作やライブ活動が実を結び、じわじわと知名度を拡大している。

音楽ナタリー初登場となる今回は、10年の活動を振り返ってもらいつつ、結成当時からの心境やスタンスの変化、メンバー同士の関係性、最新曲「タイムトラベルメロン」の制作秘話などについて話を聞いた。

また特集の後半ではオレンジスパイニクラブというバンドの魅力を探るべく、メンバーのルーツとなった楽曲プレイリストをそれぞれのコメント付きで紹介する。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 草野庸子取材協力 / 熱田屋

あっという間の10年

──オレンジスパイニクラブは改名前を含めると10年を超える活動をしているわけですが、こうして長くバンドを続けてきたことに感慨などはありますか?

スズキユウスケ(Vo, G) 今年の3月で11年目に入ったんですけど、本当にあっという間でしたね。こんなにたくさん曲を作ってみんなで演奏できるなんて、バンドを始めた当時は思っていなかったです。

スズキナオト(G, Cho) バンドの結成当初から出演していたclubSONICiwakiというライブハウスがあるんですけど、そこの店長さんに「10年は続けてみろ。10年続ければ、変わってくるぞ」と言われていて。結成10年が経って、確かに周りの環境も変わってきているので、続けることができてよかったと思います。

ゆっきー(B, Cho) 俺もあっという間でしたね。あんまり年数は意識していなくて、気付いたら10年経っていたという感じです。ずっと本腰入れてやってきたわけじゃないんですけどね、学校に行ったりしていた時期もあったし。とにかく、あっという間でした。

ゆりと(Dr) 僕はこの10年は重かったなと思っていて。もともと物事が続かないタイプで、バンドもけっこう辞めてきているんです。なので、いつもギリギリというか、切羽詰まってやってきた10年間という感じがあって。「もう10年か」という感じはなく、「やっと10年か」みたいな……。挫折癖があるので、このバンドはよく続いているなと思います。

オレンジスパイニクラブ

オレンジスパイニクラブ

ゆっきー まあ、ゆりとは途中で加入したし、辞めたりもしているから10年いないし。

ナオト 8年くらい?

ユウスケ 8年でもすごいよ。

──ゆりとさんは、どういったときに精神的にギリギリになってしまうんですか?

ゆりと まさにこの間、対バンをひさしぶりにやったんですけど、そのバンドに対して「すげえなあ」と思って。「もっとがんばんないとな」という気持ちになるんですけど、それと同時に「続けるのが嫌になるな」と思ったりするんですよ。ライブや制作が仕事なので、そうは言ってもやらないといけないんですけど。

──ほかの3人は活動の中でストレスを感じることはありますか?

ナオト ありますね。僕は移動がめちゃくちゃ苦手で。車の中で「新幹線で移動したいな」とか(笑)。でも、ライブは好きなんですよね。

ユウスケ 僕は歌詞を飛ばしたりするとめっちゃ引きずりますね。でも、なんだかんだライブになるとリセットされるんです。特に最近はお客さんが目の前にいると、うまく切り替えられるようになったと思う。前ほど後ろ向きじゃなくなりました。そこは、改名してから変わったのかな。

──そもそもバンドを始めた頃に、皆さんの中に野心や目標などはありましたか?

ゆっきー 具体的な目標はそんなになかったです。メジャーデビューしたいとか、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」に出たいとか、漠然としたものはありましたけど、具体的に「こうなりたい」というのはなくて。

ユウスケ 今は勢いを落とさずに、大きなフェスとかに毎年出れるようなバンドになりたいと思っています。落ちないように、徐々にまっすぐ進んで行って、そのまま死んでいく人生がいいですね(笑)。

──なるほど(笑)。裏を返せば、「この感じが続けばいい」と思えるくらい、バンドをやって生きている今が幸福だということですよね。

ユウスケ もちろんです。新曲を出したときの反応も楽しみだし、ライブでお客さんが楽しんでくれている姿を見ていると、特に思いますね。結成した頃は、お客さんの反応もあまりなかったし、改名前は特にフロアがスッカラカンの状態でライブをやっていたんですよ。でも、最近はツアーにもお客さんが入ってくれるようになって、「バンドやってきてよかったな」と思います。やっぱり「キンモクセイ」が注目されるようになってメンバーのモチベーションも絶対に変わったと思うんですよね。「マジでやらなきゃいけない」って、音楽としっかりと向き合うようになったと思う。

オレンジスパイニクラブ

オレンジスパイニクラブ

バンドをやることの幸せ

──「キンモクセイ」のタイミングでの変化というと、実際にはどうですか?

ナオト 初めて自分たちが注目されたことに対して喜びはあったけど、そのときだけだった気がします。今は普通の仕事ができないからバンドを続けていられるのがうれしいという感じで(笑)。

──リアルですね(笑)。

ナオト 今ももちろんモチベーションはあるし(笑)、改名前に比べると違うなとは思うんですけど、バンドで食えているということだけで、めちゃくちゃうれしいんですよ。バイト生活をしていた頃はものすごく貧乏だったので。そうじゃないだけで幸せだなと思う。

──ゆりとさんは、バンドをやっていることの幸せはどんなところにあると思いますか?

ゆりと 僕、音楽があまり好きではなくて。

──それはなぜですか?

ゆりと 例えば、レコーディングとかを缶詰になってやらなきゃいけなくなると、「もう、やりたくない!」となるんです。でも、音楽的に新しいことに興味が出てきて、それを自分の中で噛み砕いて実際にできるようになると、モチベーションは上がっていく。なので好きじゃないというよりは、好きになったり嫌いになったりが激しいという感じなんです。それが自分にとっては喜びだと思います。

──ゆっきーさんは、バンドで活動する喜びをどんなときに感じますか?

ゆっきー やっぱりライブですね。改名前はオリジナル曲を作っても聴いてもらえない時期があったので、ちゃんと自分たちで作った曲がいろんな人に聴かれている今の状況はうれしいです。あと僕らって音源だけだとあんまり伝わらないと思うんですけど、けっこうバカなんですよ(笑)。

一同 (笑)。

ゆっきー こうしてインタビューしてもらうとわかると思うんですけど(笑)、めっちゃバカなんです。この感じって曲だけだと伝わらないんですよね。

ユウスケ 曲のイメージで見られたりするからね(笑)。

ゆっきー 話すと意外と面白いバンドだと思うんです。何言ってるかわかんないときもあるかもしれないけど、そういう人柄まで知ってもらったうえで音楽に触れてもらえるのがライブだと思う。MCとか見た目とか、ライブってバンドの全部を知ってもらえる。それはやっぱり喜びですよね。

オレンジスパイニクラブ

オレンジスパイニクラブ

ライブ、ファンとの向き合い方の変化

──ライブ会場のBGMも、皆さんご自身で選曲されていると聞きました。

ユウスケ そうですね。メンバーそれぞれで好きな曲を詰め込んでプレイリストを作っていて。そういうところでも、メンバーの人柄を知ることができると思います。

ナオト 今度のワンマン、俺は全曲、暗い曲にした(笑)。中谷美紀さんの「砂の果実」とか……。

ユウスケ なんでだよ(笑)。

ナオト 1回暗い気持ちにさせて、俺たちのライブで明るい気持ちにさせようかなって(笑)。

──(笑)。ライブへの向き合い方は、昔と今とで変わりましたか?

ユウスケ 昔は「お客さんなんてどうでもいい。自分たちだけ楽しければいい」という感じでやっていたんですけど、今は「お客さんを退屈させないためには、どうライブを運んでいけばいいのか?」と考えるようになりました。曲のつなぎ方をどうしていけばいいのかということを、メンバーやスタッフと話し合ったりして。

──なるほど。

ユウスケ 僕の場合、お客さんから目を逸らさないようにしています。目は絶対に逸らしちゃダメだと思う。基本的に自分は恥ずかしがり屋なんですけど、「恥ずかしがってちゃダメだろ」と最近思うようになって。自分たちに自信がないと、それがお客さんに伝わっちゃう。カッコつけすぎないように、自分たちのスタイルは貫いたままで、お客さんに「こいつらカッコいいな」と思われるようなステージにしたいと思っています。

スズキユウスケ(Vo, G)

スズキユウスケ(Vo, G)

──目を逸らさないというのは「何かを伝えたい」とか、そういう意志にもつながることなんですかね?

ユウスケ そうですね。「ただ歌う」ということはやめようと思ってます。

ナオト 僕はお客さんの人生を想像して曲を作ることがあります。ライブだけじゃなくて、SNSとかで反応をもらえると、それが活力になったりもしていて。だからこそ最近のライブは、昔みたいに暴れて「引かせたもん勝ち」みたいなことはやらなくなった。すごく変わったと思います。

──そうやってお客さんを想像して生まれる曲は、ある意味では「その人に向けた曲」とも言えるんですかね?

ナオト そうですね、ピンポイントに「これは私の歌だ」と思ってもらえるような曲作りを意識してます。

2022年12月9日更新