陰陽座「吟澪灑舞」インタビュー|覚悟と自負が刻まれたライブアルバムを語る (2/2)

改めて「黒猫の歌はすごいんだな」と

──ライブ前半は「深紅の天穹」「鬼神に横道なきものを」で陰陽座の濃密な世界観が打ち出され、「毛倡妓」「誰がために釡は鳴る」で艶やかさとメロディが鮮やかに広がっていく。そのコントラストの妙がとても好きでした。

陰陽座には実に幅広い楽曲がありまして。シリアスさや恐ろしさ、悲惨さを描く曲もあれば、突き抜けるような明るさや艶やかさ、洒脱さを打ち出す曲もある。その振れ幅を、とりわけ黒猫は縦横無尽に表現していて、それがライブになると、さらに1段2段とギアが上がる。黒猫の全身から放たれる表現や、声に宿る感情が、スタジオ盤以上に伸びやかに響いているんです。黒猫は女性ボーカリストということもあって、高音が美しく響くタイプだと思われがちですが、実はそれだけではない。一般的に“高い声は細く、低い声は太く”感じられるものですよね。でも黒猫は、高音であっても声そのものに圧倒的な存在感と太さがある。高い / 低いという次元を超えたところに、確かな芯があるんです。今回のライブ盤では、それを如実に感じていただけると思います。高音だから軽い、女性だから華奢、といった印象は一切ない。明るい曲でも声がうわずることはなく「本当に芯のある声なんだ」ということがはっきり伝わるはずです。スタジオ盤は作品としての整合性を保つために、どうしても整えられる部分が出てきますが、ライブ盤には、ステージ上で本人が放った音が、ある程度そのまま記録されている。改めて「黒猫の歌はすごいんだな」と実感してもらえると思いますね。

黒猫(Vo)

黒猫(Vo)

──どの曲も素晴らしかったですが、中でも「故に其の疾きこと風の如く」は、演奏の構成美と楽曲が描き出す世界観に強く惹き込まれました。この曲は、2014年の作品なんですよね。

「故に其の疾きこと風の如く」をここに入れるというのは、「吟澪御前」に収録されている「紫苑忍法帖」と「地獄」をどうつなぐかを考えたとき、「これしかないな」とすんなり決まりました。今回のツアーは新作の楽曲を中心に構成していますから、ある意味この曲は異物とも言える。それでも実際に並べてみると、まるで最初からこの流れに組み込まれることが前提にあったかのように、ぴたりとハマった。構成の中で違和感どころか、むしろ必然性を感じましたね。

──11thアルバム「風神界逅」リリース時のインタビューを拝見すると、「故に其の疾きこと風の如く」は“時間の流れる早さ”がキーワードになっているとお話しされていました。あれから約12年が経った今、この曲に対してどのような印象をお持ちですか?

タイトルには“風のように早い”という意味を込めているんですけど、では何が早いのかと言えば、まさしく時間のことなんです。時間の流れは“絶対的なもの”とされていますよね。1秒は誰にとっても1秒で、1年の進む早さも同じ。でも、日々の生活の中ではどうでしょう? 地獄のような3分間は、それが体感としては10年に思えたりする。逆に、ほんの2秒のように感じる3時間もありますよね。

──わかります。心理的な時間の感覚は人によってさまざまですよね。

一定の時間経過でも、楽しい時間ほどあっという間に過ぎていくし、地獄のようにつらい時間はとても長く感じられる。だから“風の如く早く過ぎる時間”というのは、無情でありながらも「充実した幸せな時間」ということになりますよね。実際、この曲を書いてから12年が経っていると聞くと、少し信じがたいくらいあっという間に感じます。ということは、それだけ時の流れを早いと感じるほど幸せな時間を過ごすことができたんだな、と思います。

非常にわかりやすい2部構成

──DISC 2は、2004年に3部作シングルの1つとして発表され、長らく親しまれてきた人気曲「組曲『義経』~悪忌判官」で始まります。陰陽座にとって、どのような位置付けの楽曲ですか?

発表当時から、ライブにおける絶対的なマテリアルとして数多く演奏してきまして。お客さんとも阿吽の呼吸で盛り上がれる曲ですし、ライブが終盤に差しかかる寂しさはありつつも、「ここからさらに燃え上がっていこう」という局面で送り出すことの多い、非常に重要な楽曲ですね。おっしゃる通り、DISC 2はこの曲で始まりますけど、構成としては「三千世界の鴉を殺し」までが本編なんです。本来は本編ディスクとアンコールディスクできれいに分けたかったのですが、ディスク1枚あたりの収録時間の問題があって、本編の途中でディスクが分かれる形になりました。いずれにしても、「三千世界の鴉を殺し」以降はライブの定番曲が次々に繰り出される流れになっていて。大きく捉えれば、DISC 1は「吟澪御前」の世界観をそのまま体現するパート。DISC 2からは「四の五の言わずにおなじみの曲で盛り上がろう」というフェーズに入っていく構成になっています。

──ディスクごとの役割が、結果的にはっきり分かれたわけですね。

はい。「吟澪御前」をライブバージョンでじっくり味わいたいならDISC 1。よく知っている楽曲をライブならではの熱量で楽しみたいならDISC 2。奇しくも、非常にわかりやすい2部構成になったと思います。

狩姦(G)

狩姦(G)

──ちなみに、ライブで印象に残っている楽曲はどれでしょう?

本編で言うと、DISC 1の最後「鈴鹿御前 -神式」ですね。この曲を演奏しているときは、黒猫が完全に鈴鹿御前そのものになっていて。僕もハモったりしながら演奏していますけど、心境としては一番の特等席で、鈴鹿御前の舞を見ているような気分になっていました。そんな黒猫の鈴鹿御前っぷりは、音にも表れていると思います。アンコールで言うと、DISC 2「鳳翼天翔」が印象深くて。これも昔から演奏している陰陽座の定番楽曲で、ライブで何回やってもバンドとお客さんが熱くなれるんです。特に、今作に収められているライブでは、黒猫が曲のアウトロでスタジオ盤にはないシンガロングをぶわーっと伸ばすんです。それがとてもすさまじいので、このアルバムの聴きどころの1つかなと思います。全体を通して言えるのは、1回聴いて終わりではなく、音像とかバランスを含めていろんな意味で長く聴けるライブアルバムだと自負しています。2、3曲聴いて「迫力はあるけど、しんどくなるからもういいや」となるものではなく、気付いたらDISC 1が終わっていた、というように長時間聴ける1枚ですし、末永く手に取りたくなるという意味で長く聴ける作品でもあると思っていますので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。

「このバンドはまだ生きている」という証明として

──インタビューの前半でも触れましたが、「吟澪」ツアーについてもう1つお聞きします。黒猫さんの不調がわかった際、瞬火さんは体調を最優先に考え、ツアー中止を進言されたそうですね。しかし黒猫さんは「各地で待っている人がいる」と、その提案を退けたと。率直にどう感じましたか?

各地に陰陽座を待ってくれているお客さんがいることは、改めて言うまでもなく共通の認識だという前提で、「変則的な状況で万全ではないステージを見せるくらいなら見送る選択肢もある」というのが僕の本心でした。それもちゃんと伝わったうえで、黒猫は覚悟を決めて「ファンの皆さんが待っているからやりたい」と言った。それが本気の決意であることもまた、僕にはしっかり伝わりました。僕自身、状況を鑑みた自分の提案をなんら恥じてはいません。ただ、当事者である黒猫がいろんな思いを抱えながら「とにかくやるんだ」と言えたのは、自責の念も大きかったのかもしれませんが、とにかくステージに立つことへの責任と意思の強さの証ですので、その意気を受け取りました。それに「そういう気持ちでやっていなかったら、ここまで来れてないよな」とも思いましたね。心のどこかでは「やると言うだろうな」と予想していたところもありながら僕の立場としては「大事を取る勇気」も示す必要があると思って中止を進言したわけですが、そのうえでステージに立つ決意を表明した黒猫は、やはり格好いいというひと言に尽きますね。

「陰陽座ツアー2025『吟澪』」の様子。(撮影:小松陽祐)

「陰陽座ツアー2025『吟澪』」の様子。(撮影:小松陽祐)

──抽象的な質問になりますが、瞬火さんにとってライブはどんな場所でしょうか?

ライブを直訳すれば「生きる」ですよね。「生き様です」と言えば格好いいのかもしれませんけど……あえて格好つけない言い方をするなら「生存確認」です。

──生存確認というのは?

ライブをやっていなかったら、生きているかどうかわからないと思うんです。それは人間として、という意味でもそうですし「このバンドはまだ生きている」という証明としても。「生の証明」と言えば格好いいですけど……やっぱり“生存確認”でいいんじゃないですか(笑)。

──あえてその言い方を選ぶのは、どうしてなんですか(笑)。最後に、今年の展望を聞かせてください。

決してガツガツしたペースではないですけど、かと言ってもたもたするつもりもなくて。バンドが生存していることを示すには「作品を作ること」と「ライブをやること」しかありませんから。その両方にまだしっかり意欲がある。だから2026年も、その2つに向かって進んでいく1年にしたいと思っています。

プロフィール

陰陽座(オンミョウザ)

1999年に大阪にて瞬火(B, Vo)、黒猫(Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の4人で結成。“妖怪ヘヴィメタル”というコンセプトのもと、人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とした楽曲を男女ツインボーカル&ツインギターで表現するスタイルが高い評価を集め、2001年にキングレコードよりメジャーデビューを果たす。コンスタントに楽曲をリリースしながら精力的にライブ活動を行っている。2024年に結成25周年を迎え、翌2025年8月にアルバム「吟澪御前」をリリース。2026年3月に、アルバムツアー「吟澪」から北海道・Zepp Sapporo公演の模様を収めた約20年ぶりのライブアルバム「吟澪灑舞」を発表した。