ナタリー PowerPush - 陰陽座
無天の誉れを叫ぶ
1999年の結成以来、和風な衣装や妖怪を題材にした楽曲で独自の世界観を作り上げてきた陰陽座が、通算16枚目となるニューシングル「青天の三日月」を完成させた。本作は伊達政宗をはじめとする戦国武将をフィクショナルに描いたパチンコ機「ぱちんこCR戦乱BurST!」の主題歌として書き下ろされた楽曲で、「ぱちんこCR戦国乱舞 蒼き独眼」主題歌「蒼き独眼」、「ぱちんこCR戦国乱舞 紺碧の双刃」主題歌「紺碧の双刃」に続くシリーズ第3弾となるナンバーだ。ナタリーでは瞬火(B, Vo)と黒猫(Vo)の2人にインタビューを行い、楽曲に込められた意図やシリーズへの思いを聞いた。
取材・文 / 土屋京輔
政宗×家康の“if”ストーリーと「青天の三日月」
──「青天の三日月」は、「蒼き独眼」と「紺碧の双刃」の続編となる新曲だという触れ込みになっていますね。
瞬火(B, Vo) 正確に言うと「ぱちんこCR戦国乱舞 蒼き独眼」と「ぱちんこCR戦国乱舞 紺碧の双刃」の続編となる「ぱちんこCR戦乱BurST!」の主題歌ということですね。つまり、バンドが続編を意図して作ろうとしたというよりは、元となるパチンコ台の続編が出ることを受けて制作したということです。
──もともとパチンコ台の制作側からの熱烈なオファーで「蒼き独眼」のタイアップが実現し、その好評を受けて第2弾が出た。今回は第3弾ですが、まずは「青天の三日月」に至るまでの物語的なバックグラウンドを改めて話してもらえますか。
瞬火 パチンコ台の中のストーリーということですよね。1作目が史実でいうところの“奥州仕置”にあたる時期の話で、仕置きの約定を覆して攻めてくる秀吉に政宗が抗う、という“if”のストーリーが展開されました。2作目では徳川家康と政宗が手を組み秀吉を再び退けます。今回の3作目では秀吉が去り、家康が天下を握らんとするところに……史実では政宗は地方の大名として生き座りつつ、江戸の脅威であり続けながらもあえて争うことはなかったわけですけど、このストーリーでは政宗が家康の天下人としての器を、刃を交えることで測ろうとするという物語です。
──そのストーリーをベースにしながら、まずどんな楽曲を書こうと考えたんですか?
瞬火 これは政宗が家康を討ち果たして天下を握ってやろうという戦いではなく、家康が天下を預けるに足る男かどうかを見極めるためのもので、血みどろの命の取り合いというよりは、戦国の武人としてある種の清々しさすら感じさせる戦いだなと思いました。だからひねくれたものではない、潔く直球を投げ入れるような曲というのを意識しました。この戦いにおける政宗の意図は、タイトルにそのまま表れているんです。“青天”が天下泰平の訪れたあとの世を象徴するとするならば、そこにある“三日月”は昼間の晴れた空に浮かぶ月、つまり“あってもなくてもいいもの”ですよね。侍としての武の力は、平和になるのならば必要ない。そういう世を望んでいるというのがこのタイトルなんですよ。
──すごく意味深なタイトルですよね。過去2作の“蒼”“碧”に続くもう1つの“青”ではあるかもしれませんが、それが“青天”と表現したところも巧みだなと。
瞬火 このストーリーにおける戦いが本当に終わったときに、それこそ青天を見上げるような清々しさがあるなと思ったんですよね。それと“三日月”は政宗の象徴でもあるんですけど、1作目の「蒼き独眼」は“独”が1を意味していて、2作目「紺碧の双刃」の“双”は2、今回は三日月だから3を意味しているんです。だからワン、ツー、スリーときて、どうだ!っていう(笑)。誰もわかってくれなくても、1人ほくそ笑むことができる作りになってますね(笑)。
“パワーコード is パワー”という合い言葉で
──メンバーには最初にメロディだけを聴かせたんですか?
瞬火 いや、タイトルも歌詞も全パートのアレンジもすべて仕上がった状態で聴かせました。
黒猫(Vo) 私も瞬火と同じように、ある種の潔さとか、清々しいものが込められた物語だなと感じていたので、まず曲を聴いたときに物語の情景が、本当にスーッと浮かんできたんですね。楽曲がまず陰陽座らしさにあふれていて、「戦乱BurST!」のストーリーとも完璧にマッチしている。オファーにふさわしい楽曲ができたと思うし、陰陽座の新曲としても胸が熱くなるものができたなと思いました。このタイトルをどんな思いで付けたかという話を聞いたときには「よく思い付いたなあ」って(笑)。
──力強いギターリフを押し出した陰陽座らしいヘヴィメタルチューンですが、そこは必然的にそうなったという感覚ですか?
瞬火 必然ですね。清々しさすら感じさせる真っすぐな戦いの曲ということで、間違っても入り組んだ難解な構成の楽曲というものではないなと。はっきり意図したのは、変な話ですけどパワーコードですね。ちょっとだけ専門的な話になりますが、パワーコードというのは和音の原則から言うと1音足りていないながらも屈強な印象を与えるのに最適なため、ヘヴィメタルというジャンルではほぼ主成分と言ってもいいものです。もちろん陰陽座でもこれまでほとんどの楽曲で使用していますが、といってもパワーコードだけという楽曲はそんなになくて、それだけで表現しきれない響きを求める場合は当然さまざまなコードを使いますし、ストレートな曲でもコードの持つボイシングで色を付けることは一応意識しているんですが、今回に限ってはそういうことはやめようと。“パワーコード is パワー”という合い言葉で(笑)。
──合い言葉ですか?(笑)
瞬火 そう(笑)。「パワーコードで押し切る」という清々しさを出そうと思って。ギターのことで具体的に言うと、曲の主成分を占めるリフとかメインのバッキングに関しては、弦は1度に2本しか押さえちゃダメというルール(笑)。もちろん、ストリングスなどの鍵盤の音は普通のコードで入ってきますし、歌のメロディのことも勘定に入れれば2つの音符しか存在しない場所は言うほどないので、言われなければこの曲を聴いて「パワーコードばっかりだな」とは感じないと思うんですけど、すごくストレートだなと感じてもらえるとしたら、パワーコードが要因としてあるんじゃないかと思ってます。
──黒猫さんの歌入れはいかがでしたか?
黒猫 私は陰陽座でいろんな感情を込めて歌ってきましたけど、今回はとにかくストレートに清々しさを感じる歌唱というイメージで。自分の目の前に見える青天の三日月の風景を脳裏に浮かべながら歌うとこうなった、という感じですね(笑)。
──イントロからAメロに至りサビに入った瞬間に、こんな広がり方をするのかという鮮やかさも感じられました。
黒猫 そうですね。瞬火の力強く熱い歌唱と、その後の広がる感じの対比というのも陰陽座ならではですけど、それがまたこの曲と「戦乱BurST!」の物語にすごくマッチしていて、私も歌っていて気持ちよく感じました。
- ニューシングル「青天の三日月」/ 2014年3月19日発売 / KING RECORDS / KICM-1509
- [CD] 1200円 / KICM-1509
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収録曲
- 青天の三日月
- ゆきゆきて青し
- 青天の三日月(インストゥルメンタル)
- ゆきゆきて青し(インストゥルメンタル)
- ベストアルバム「龍凰珠玉」/ 2013年12月4日発売 / KING RECORDS / 3200円 / KICS-1990~1
- [CD2枚組] 3200円 / KICS-1990~1
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DISC「龍」 収録曲
- 吹けよ風、轟けよ雷
- 紺碧の双刃
- 組曲「鬼子母神」~徨
- 蒼き独眼
- がしゃ髑髏
- 組曲「九尾」~玉藻前
- 組曲「鬼子母神」~鬼拵ノ唄
- 紅き群闇
- 相剋
- 生きもの狂い
- 鎮魂の歌
- 序曲
- 魔王
- 骸
- 喰らいあう
DISC「凰」 収録曲
- 甲賀忍法帖(龍凰Remix)
- 組曲「義経」~悪忌判官
- 黒衣の天女
- 組曲「鬼子母神」~鬼子母人
- ひょうすべ
- 組曲「鬼子母神」~月光
- 紅葉
- 道成寺蛇ノ獄
- 組曲「鬼子母神」~鬼哭
- 慟哭
- 焔之鳥
- 鳳翼天翔
- 悪路王
- にょろにょろ
- 生きることとみつけたり
陰陽座(おんみょうざ)
1999年に大阪にて瞬火(B, Vo)、黒猫(Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の4人で結成。“妖怪ヘヴィメタル”というコンセプトのもと、人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とした楽曲を男女ツインボーカル&ツインギターで表現するスタイルが高い評価を集め、2001年にキングレコードよりメジャーデビューを果たす。コンスタントに楽曲をリリースしながら精力的にライブ活動を行い、現時点で全都道府県を2周回っている。現在までに通算10枚のオリジナルアルバムを発表しており、2013年12月には2枚目のベストアルバム「龍凰珠玉」をリリース。2014年3月には16枚目のシングル「青天の三日月」を発表した。