陰陽座「吟澪御前」インタビュー|結成25周年を経て、改めて示す“己が音” (2/3)

現代人にも通ずる“鬼の話”

──恒例となっている“妖怪曲”についてもお聞きします。「星熊童子」は演奏や歌から凶暴さと強靭さを感じました。

有名な鬼・酒呑童子の下には腹心の茨木童子がいて、その下に大江山四天王と呼ばれる鬼が4人いる。その内の1人が星熊童子です。3曲目「鬼神に横道なきものを」は酒呑童子が成敗される瞬間を切り取った楽曲で、その酒呑童子が倒されるときに配下の鬼も全滅させられるんですけど、その中にいるのが星熊童子。かいつまんで説明すると、酒呑童子が源頼光に討伐されるときに、謀略を用いて騙し討ちをされるんです。本来ならそんな騙し討ちは食らわなかったはずなのに、腹心である茨木童子が変装した敵を砦内に招き入れたことがきっかけで謀略が成功する。普通に考えれば人間が小賢しかったからだ、ということになる。一方で、茨木童子の行動を、意図的に敵を引き込む行為だったのではと疑い始めると、実は人間と内通していたんじゃないかと邪推することもできる。「それさえなかったら、あんな目に遭ってないのに」と恨もうと思えば恨めるし、実際に内通していたとしたら……それは酒呑童子も配下の鬼たちも、茨木童子のことを裏切り者として恨むでしょう。

──そういう想像もできると。

ええ。そういう見方をした場合に、仲間を売るような行為を働く者に対して、とんでもなく怒りが湧くだろうという。シンプルに言うと、裏切りに対しての憤怒を歌った曲ですね。

──それが終盤の「寝返る(断罪) / 不義理など(斬罪) / 下らぬ(大罪)」という歌詞につながるわけですね。

そうです。鬼の伝承の奥深い重箱の隅に妄想を馳せたのが、この曲で。一般的な人間が、人生でする必要のない想像を働かせた曲でもある。でも、現実に過去の手ひどい裏切り行為や寝返り行為にあったことを忘れられない人もいるでしょう。「まさか、あいつにこんな目に遭わされるとは」という経験は、普通の人間だって日常で出会うかもしれないものですから、題材はマニアックな鬼の話ですけど、内容自体は現代人にも共通するかなと思います。

狩姦(G)

狩姦(G)

鬼の悲しいエピソード

──「大嶽丸」も同じく鬼をモチーフにした曲ですね。

知名度は酒呑童子に劣りますけど、強力な鬼という点では勝るとも劣らない存在、それが大嶽丸。「鈴鹿御前 –鬼式」「大嶽丸」「鈴鹿御前 –神式」は、実は連作になっているんですよ。この3曲は鈴鹿御前と大嶽丸という、男女の鬼の悲しいエピソードを紡いだものです。

──鈴鹿御前について調べたら「女神であり鬼」と書かれていて。どんな存在なのかがはっきりと理解できなかったんですけど、何者なんですか?

おっしゃる通り、鈴鹿御前は調べれば調べるほどわからなくなっていく存在なんです。というのも、鈴鹿御前には伝説や伝承が無数にあって、最後まで鬼だったという説もあれば、最初から女神だったという説もある。その中で一番メジャーな伝承をできるだけシンプルに説明すると、鈴鹿御前はもともと偉い鬼の娘として生まれ、「人間を滅ぼして日本を転覆させろ」という命を受けて日本に潜んでいた。それを退治しに来たのが、征夷大将軍をモデルにしたと言われている坂上田村丸。その田村丸が鈴鹿御前を討ち取ろうとしますが、鈴鹿御前のほうが圧倒的に強くて倒せない。でも、なぜか鈴鹿御前が田村丸にひと目惚れをして「私と結婚するか、ここで死ぬか」の二択を突きつける。田村丸は「殺されるわけにはいかん」と結婚を選ぶんです。田村丸は「結婚する」と言って油断させて、どこかで隙を突いて殺そうと企んでいるんですけど、鈴鹿御前はそれをお見通しなのでまったく隙を見せない。かつ、自分から惚れて結婚したからという理由で田村丸に「鬼を退治して人間の味方をします」と宣言し、田村丸では退治できないような強力な鬼も、鈴鹿御前の力で退治していくんですね。

──鈴鹿御前は田村丸に協力して、本来は味方のはずの鬼を退治していくと。

ええ。その退治される鬼の1人が大嶽丸。最終的に多くの鬼を退治するんですけど、鈴鹿御前は生まれたときから25年しか生きられないことが決まっているんです。あっさり25年が経って、夫に添い遂げたまま亡くなってしまう。要するに25年しか生きられない鬼の娘が人間に惚れて結婚し、人間の味方となり鬼を倒して、そのまま死んでいくという話なんです。

──なんとも純愛な話ですね。

ただ、重大なところが“はてな”じゃないですか?

──重大なところ?

田村丸に惚れたと言っても、なんで急に立場を変えて最期まで従順に添い遂げたのか。

──確かに、間を端折っている感じがしますね。

そこが謎すぎて、いったいどういう人なのかわからないんですよね。なので想像するしかない。確固たる意思があって大胆な行動を取ったのなら、どんな理由があったのか? そこに想像力を働かせて自分なりに考えました。

──瞬火さんが考えた説はなんでしょう?

これは個人的な想像です。生まれてから年端もいかずに亡くなる人もいれば、90歳まで生きる人もいますけど、人間はいつ死ぬかわからないから希望を持って生きられるわけで。「25歳でお前は死ぬからね」と言われたら「え!?」と思うじゃないですか。「25年しかないんですか?」って。しかも「25年間好きに生きなさい」と言われたならまだしも「その間に日本を転覆させるんだ」と言われたら、「そこまで決められるの?」と思うはず。自分の境遇にめちゃくちゃムカつくと思うんですよ。そんな中、とある侍が自分を殺しに来た。鈴鹿御前のほうが圧倒的に強くて、簡単に返り討ちにできる。でも、その男に惚れてしまった。25年で死ぬのが決まっているのなら、決められた役目に従うんじゃなくて、自ら道を選択すれば短い命だとしても“自分なりの人生を生きた”ことにできるんじゃないかと。

瞬火(B, Vo)

瞬火(B, Vo)

──それで鈴鹿御前は鬼として日本を転覆させるという使命を放り投げて、好きな人と生きることを自分の意志で決めたと。

強制されたことを嫌々やった25年ではなく、自分で選んで決めたことに費やした25年だとしたら、自分自身を肯定できる。それだけを胸に25年の生涯を閉じたのではないかと。あくまで個人の見解ですけどね。僕なりに鈴鹿御前の思いを想像して、曲に落とし込みました。

「毛倡妓」が保つバランスのよさ

──そのほか、日本舞踊の要素を取り入れた「毛倡妓」も非常に魅力的でした。

名前の通り妖怪・毛倡妓のことを歌っていて、艶と妖しさが混ざった聴きやすい曲だと思います。“倡妓”という商売で男の相手をする女性がいまして。男性がなじみの倡妓に似た女性を街の外で見つけて、後ろから声をかけて前に回ったら、後ろ髪と同じくらい前髪が長くて驚きのあまり気絶する、という言い伝えがあって。

──落語みたいですね(笑)。

なんとも勝手な話じゃないですか? 勝手に声をかけておいて「ギャー!」だなんて。とっても失礼なことをしているし、そもそも仕事で男性の相手をする女性に、仕事以外の場所で声をかけるのはマナー違反。そういう男性に対して、毛倡妓と呼ばれる女性が「あんたは粋じゃないね」と文句を言っている曲です。

──ははは、カッコいい。

コミカルさと艶っぽさがあるので、ストーリーと関係なしに楽しめる曲だと思います。空気が読めない男性に対して、あきれて怒っている女性の姿を思い浮かべてもらったら、より面白いかもしれないですね。シリアスな曲が多い中、キャッチーで明るい「毛倡妓」があることで、アルバム全体のバランスがさらによくなったと思います。