「いつだって、ヘヴィメタルは素晴らしいんだ」と言いたかった
──「吟澪御前」の制作を通して、発見できたことや再確認できたことはありますか?
これだけいろんな表情の楽曲がある中で、ほとんどの曲でリードボーカルを務め上げている黒猫が素晴らしくて。どういう世界観の曲であっても、歌詞を読んでメロディを聴けばすぐに情景を把握できるし、きっちりと各曲の配役をまっとうできるというか、しっかりと演じ切る。それぞれ曲調や空気感が違うのに、すべて違和感なく楽曲の登場人物になっている。有り体に言えば“表現力がすごい”ということになるんでしょうけど、単に音符の配列を声に出しているとか、歌詞をただ発しているわけではない。「今、この人物はこういう状況なんだ」というのを歌に昇華する力が本当にすごいなと。これだけ長く活動して、たくさん作品を作っていても、毎回すごいなと思いますね。
──今作は陰陽座が結成25周年を迎えて一発目のアルバムです。大きな節目を迎えた心境はいかがですか?
1つのバンドが時代性もまったく考えず、己がやりたいこと、やるべきことだけを愚直にやって存続するのは、簡単なようで非常に難しいと思いますが、少なくとも陰陽座にとっては、それを実現したのはバンドではなくファンの皆さんだと思っています。極端な話をすれば、素晴らしい音楽を作って「これを仕事にするんだ」と言っても、誰1人そのバンドのCDを手に取りもせず、配信しても試聴回数がゼロで、ライブにも誰も来なかったとしたら、やっている本人がそれでも満足ならいざしらず、もしも目標が音楽で身を立てる、ということである場合、その状態では成立しているとは言えませんよね。陰陽座はもともとメジャーデビューしたくて結成したバンドではないですが、結果としてデビューしてここまでやってこれて思うのは、自分たちがやっている音楽を選んでくださったファンの皆さんが、その魂の炎を絶やさずに25年も愛し続けてくださったということが本当にすごいな、ということだけですので、ただひたすら感謝しかないですね。
──僕が高校生のとき、ヘヴィメタルはマッチョイズムの音楽だと思って敬遠していたんですね。そんな中「え、こんなヘヴィメタルもあるんだ! 面白いじゃん」と価値観を覆してくれたのが、人間椅子と陰陽座の2組でした。
なるほど。そんなすごいレジェンドと並べていただいて光栄です。
──だからこそ聞きたいのですが、陰陽座の結成時って周囲の反応はどうだったんですか?
1999年に陰陽座を結成した頃、現役で続けている先達の方々もいらっしゃったので、シーン自体は消えてはいなかったんですけど、世間一般の認識としてはヘヴィメタルは過去のものという扱いでした。おっしゃった通り、マッチョイズムを発揮したようなヘヴィメタルに対して「いつの時代だよ」みたいな扱いを受けていた。今でもはっきりと覚えていますけど、99年頃にヘヴィメタルバンドの代表格であるIron Maidenのブルース・ディッキンソンが雑誌のインタビューで「ヘヴィメタルと呼ぶのはやめてくれ。ヘヴィロックぐらいにしてほしいな」と発言していて驚きました。本当にこのジャンルは死にかけていて、ヘヴィメタルなんて名乗っていたら世間から相手にされないから、ヘヴィメタルをやってるバンドがそれを伏せたくなっているんだ、と。それがすごく印象的だったんです。
──シーンの代表格がヘヴィメタルの看板を下ろしたがるほど、下火の状況だったんですね。
今はまた盛り上がってきてるからそんなことはないですけど、当時はそれぐらい「ヘヴィメタル」というものが時代遅れの扱いを受けていました。インディーズバンドもたくさんいましたが「ヘヴィメタルをやっていて、メジャーデビューなんてできるわけがない」という状況でした。僕たちとしては、ヘヴィメタルが持つマッチョなイメージというのはむしろどうでもよくて、ただ漠然と「いつだって、ヘヴィメタルは素晴らしい音楽なんだから、それが消えてしまうのは我慢ならないな」と思っていただけです。だから、メジャーデビューなんて一生できるわけないだろうけど、自分たちがやりたいからただやるという気持ちで陰陽座を結成しました。今は、シーンとしては息を吹き返したような感じですが、結成当時は掛け値なしに逆風の状態。それでも当時、LOUDNESSさんや人間椅子さんなどが現役で生き抜いておられました。あきらめなかった先達のおかげで、僕たちもそれに続くことができたとも言えますね。
陰陽座はこのまま行くと思ってもらって間違いない
──バンドを続けていく覚悟が決まった決定的な場面はありますか?
そもそもメジャーデビューをしようと思っていたわけではなくて、最初から自分たちがいいと思うことだけをやろうと決めていた。「陰陽座を続けられるな」と思った転機のようなものは特にないですね。結成した時点で趣味だとしてもずっとやるつもりでした。ただ、今はありがたいことにそれを生業にできていて、こんなに長く続けさせてもらえている。まあ、ifは想像するしかないですが、仮にメジャーデビューをしていなかったとしても、このアルバムを作っていたんじゃないかなって。それぐらい結成当時から、自分たちのやりたい音楽に取り組んできたんです。
──揺らいでいないというか、一喜一憂することなく愚直に続けてきたと。
一喜一憂はないですね。ありがたいことに、やりたいことしかやってないので。「ここでこんな曲をやったら世間にウケるんじゃないか」とか「これはどうかと思うけど、得をしそうだから作るか」とか、そういうことがない。そう考えるのが悪いと言っているんじゃないんです。本来はそうやって戦略を立てないと、サバイブできない世界ですから。我々は本当に自分がやりたいことだけをやってきた25年だから、まだメジャーにいることがおかしいと思っていますし、だからこそこの状況をありがたいと思っています。
──自分の好きなことを突き詰める陰陽座に憧れを持っているアーティストは、ヘヴィメタルシーンだけでなく、ロックやJ-POPシーンにもたくさんいると思います。
そう思われている自覚はないですけどね。同じヘヴィメタルのバンドですら、別に陰陽座にはなりたくないと思いますよ(笑)。
──なろうと思ってもなれないですしね(笑)。
申し上げた通り、結成当時はヘヴィメタルは時代遅れと認識されていたし、そうじゃなくても女性ボーカルのヘヴィメタルは1段下に見られていた。つまり僕たちには負の要素しかなかったんです。女性ボーカルで、着物を着て、化粧をして、日本語で歌っている。マッチョなメタルバンドから見たら、ダメな要素しかなかったんですね。そこに黒猫というボーカルが「本気の歌に性別なんか関係ない」と風穴を開けた。黒猫本人がそう思ったというのではなく、陰陽座が奮闘した結果として「女性ボーカルのヘヴィメタルはアリなのだ」ということを示したと思います。今現在は女性ボーカルのヘヴィメタルバンドがものすごくたくさんありますが、そのことに黒猫の存在がまったく関係ないとは言えないのでは、というのが僕の個人的な気持ちです。
──逆境の中でも陰陽座の音楽を吟じ続けたからこそ、ヘヴィメタルの新たな扉を開けることができたんですね。
でも、ほかの方への影響力はわからないというか、憧れられるようなものだとは思っていません。自分たちのやりたいことを25年間も続けているのを見て、「あの人たちはいいな」というふうに思われることはあるかもしれませんが、自分の信念を曲げずにひたすら歩むということ以外はすべてファンのおかげですから、「ああいうファンがいていいな」ということですね。とにかくここまで来たら今さらブレようもないですから、陰陽座はずっとこのまま行くと思ってもらって間違いないと思います。
公演情報
陰陽座ツアー2025「吟澪」
- 2025年9月11日(木)神奈川県 KT Zepp Yokohama
- 2025年9月14日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2025年9月16日(火)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
- 2025年9月18日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2025年9月22日(月)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
- 2025年9月27日(土)宮城県 SENDAI GIGS
- 2025年9月30日(火)北海道 Zepp Sapporo
プロフィール
陰陽座(オンミョウザ)
1999年に大阪にて瞬火(B, Vo)、黒猫(Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の4人で結成。“妖怪ヘヴィメタル”というコンセプトのもと、人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とした楽曲を男女ツインボーカル&ツインギターで表現するスタイルが高い評価を集め、2001年にキングレコードよりメジャーデビューを果たす。コンスタントに楽曲をリリースしながら精力的にライブ活動を行っている。2024年に結成25周年を迎え、翌2025年8月にアルバム「吟澪御前」をリリースした。