ヘヴィメタルは「どこまででも行ける音楽」
──今回のアルバム「覇道明王」は、バンドの意志とコンセプトを改めて示した作品だと思います。1人のリスナーとしても「これこそがヘヴィメタルだよな」と実感しました。
瞬火 ただ古きよきヘヴィメタルをやればいい、というわけではないですからね。ヘヴィメタルの音楽性をさらに豊かにして、必要であれば、新たなアプローチも取り入れる。そうすることで、単に懐かしいだけではない、2018年のヘヴィメタルになると思っているので。「これこそがヘヴィメタル」と捉えてもらえたのであれば、それが達成できたのかなと思います。
──決して伝統芸でも懐古趣味でもない、と。
瞬火 はい。クラシック音楽は、昔の作曲家が作った楽曲を解釈しながら演奏しますよね。それはそれで素晴らしいですが、ヘヴィメタルはそうではないので。もしそうなったとしたら、今バンドをやる意味はないし、昔のヘヴィメタルのアルバムを聴けばいい。新しいものを生み出すためには、先人たちが築き上げたヘヴィメタルのよいところを受け継ぎ、敬意を持って進化させていくことが必要だと思います。それこそが、陰陽座が新作を作る意味だと思いますね。
──ヘヴィメタルは形式が完成された音楽という印象もありますが、まだまだ追求すべき可能性が残されていると。
瞬火 そうですね。ヘヴィメタルは一定の枠を出ないジャンルだと思われていますが、それは違う。実はヘヴィメタルは、芯をしっかり残したまま、どこまでも広げられる音楽なんです。どんな音楽を取り入れても、どんなアプローチを施しても「これはヘヴィメタルである」と言い張れるというのが陰陽座の信念です。皆さんが“枠”や“壁”だと思っているのは幻であり、ヘヴィメタルはどこまででも行ける。それを証明するのが陰陽座だとも思っています。
黒猫 陰陽座というバンド名には変幻自在という意味も含まれているんです。アルバムごとにさまざまなアプローチに挑戦していますが、どの時期のどの作品も「陰陽座らしい」と言ってもらえるものになっていて。それが14作目まで続いている理由だと思います。
黒猫ならやれるとわかっていたので
──アルバム「覇道明王」の中で、音楽的に新しい領域に行けたと実感できる楽曲は?
黒猫 衝撃を受けたのは1曲目の「覇王」、5曲目の「隷」ですね。洋楽的でモダンなアプローチの楽曲なのですが、陰陽座らしい和の絢爛、妖美さがしっかりあって。こういう融合は初めてだったし、また新たなステップに進めたと感じました。
招鬼 存在感と強さではやはり「覇王」ですね。「覇道明王」というアルバムのテーマ性、そこに込めた意気込みが一番詰まっている楽曲ですから。今回はバラードが入っていなくて、音楽的な要素をかなり絞っているんです。それでも陰陽座らしさは一切失われていない。それもこのアルバムの手応えにつながっていますね。
──「覇邪の封印」をはじめ、ギターソロも充実してますね。
招鬼 基本的な楽曲のアレンジは瞬火がすべてやるんですが、ギターソロのパートは各自の色を出せるように空けてくれているんです。そこはギタリスト2人で話し合って、掛け合いやハモリを作っていて。
狩姦 普段は僕がテクニカルなプレイを担当することが多いんですが、「鉄鼠の黶」では僕が泣きのソロを弾いていて。ニュアンスやタッチを大事にして弾いたのですが、今後はそういう部分もさらに磨いていきたいです。
──表現力を問われる楽曲が多いですからね。
黒猫 そう思います。全体的には屈強だし、ヘヴィメタル然としたアルバムなんですが、メロディの美しさもさらに進化しているので。曲に込められた思い、物語をどう伝えるか?ということも常に意識しています。今回のアルバムでは8曲目の「飯綱落とし」は挑戦でしたね。この楽曲は女忍者が主人公で、このシリーズは以前から継続していて。今回の楽曲では物語が大きく動くので、主人公の心情の変化を表すためにファルセットを生かしているんです。これは瞬火の希望だったんですが、弱々しいファルセットではなく、痛切に胸に響くような強い歌い方を目指して。思い描く理想的な歌い方ができて、本当によかったです。楽曲の世界を伝えるために歌があるということを、改めて感じましたね。
瞬火 金切り声で叫ぶのではなく、地声からファルセットに上がっていって、どんどん強くなる思いを表現してほしかったので。こういう歌い方は非常に難しいですが、黒猫ならやれるとわかっていたので、「やって」とわりと簡単に言いました(笑)。
黒猫 そうですね(笑)。
「堅苦しくてしんどいやり方」は当たり前
──当然ですが、陰陽座の音楽はメンバーの技術、表現力によって支えられているんですね。作品を作るたびにメンバー間の信頼度も上がっているのでは?
瞬火 今各人が持っている技術、センスはもちろん信頼しています。ともすれば、一定のレベルに達した時点で「これでいい」という考えに陥りがちな音楽でもあるんですが、新しい楽曲を作るたびに、今持っているものだけでは表現できないものを提示しているんですよ。自分も含めて「この高さに挑もう」と言うか。
──楽曲を通して「さらに高みを目指す」メッセージを送っている?
瞬火 そうですね。例えば「今まで以上のパフォーマンスをしないと、このギターパートは弾き切ることはできない」というような。それを言葉で伝えるのではく、あくまでも僕が作るデモの中で示しているんです。4人で一緒にギリギリのラインを超えるような感覚がありますね、毎回。それはメンバー全員がわかっていると思います。現状維持を狙うとしたら、水平ではなく少しでも上を向いていないと無理だと思うので。
──鍛錬、精進の日々ですね。
瞬火 「これで大丈夫」とあぐらをかけば、すぐに落ちますから。プレイヤーとしても、そのことは常に実感しています。20年前よりはうまくなってるでしょうけど、上達したことを感じるたびに、いかに自分が取るに足らない存在であるかということを知るんです。若くて未熟なときほど、自分が“できる”という部分しか意識しないものですが、少しでも上達していくと“できない”部分の多さに気付いていくという気がします。そう思えるからこそ、その“できないこと”を1つでも減らすことであったり、“できること”をできなくなったりしないよう、日々鍛錬を怠らず、向上心を持ち続けることができるのではと思います。そういうことも自然と反映されていると思いますね。歌唱、ギター、ベース、作詞、作曲を含めて。
──8月からはアルバム「覇道明王」を携えた全国ツアーがスタートします。陰陽座そのものと言っても過言ではないアルバムの世界を表現するには、さらに高いハードルが待ってそうですね。
瞬火 どこにも逃げ場がなく、ごまかせないのがライブですからね。楽曲が向上するにつれて、当然、実演するときの重圧は強まりますが、それを乗り越えなければ次の一歩はありませんからね。
黒猫 ファンの方々はアルバムを聴き込んできてくれるでしょうし、ライブでどう再現されるのか期待してくれてると思うので、それに応えられるステージを見せたいです。立ち姿、動き方、歌唱を含めて「CD以上だな」と感じてもらえるように精進したいですね。
狩姦 ステージアクションはあらかじめ決めていないので、本番でどんな動きになるかはまだわからないんですよね。お客さんの反応や、その場のテンションによっても変わってくるだろうし、ライブでしか出せないものもあるので。とにかく熱量の高い楽曲が多いから、自分たちもすごく楽しみです。
招鬼 もちろん努力も必要ですが、壁が高いほど、乗り越えたときの喜びや手応えも大きいんですよね。今回のアルバムも演奏しがいがある楽曲ばかりだし、挑めるのが楽しみです。
──求道的というか、本当にストイックなバンドですね。
瞬火 こういう話をしていると「堅苦しくてしんどいやり方」と思われるかもしれませんが、それは当たり前だと思っています。モノを作って、それを披露することを生業としている限り、苦しい思いをせずにいられるわけがないですから。できるだけいい楽曲を作り、できる限りいいライブをやって、ファンの皆さんに喜んでもらうことで口に糊しているわけですから、そのための努力や苦労をことさら誇るつもりは毛頭ありません。取材として質問されればありのままに言葉にして答えますが、話している内容は至極当然のことでしかないと思います。
- 陰陽座「覇道明王」
- 2018年6月6日発売 / KING RECORDS
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初回限定盤
[CD+ブックレット]
※特製スリーブケース仕様
3456円 / KICS-93715 -
通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3715
- 収録曲
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- 覇王(はおう)
- 覇邪の封印(はじゃのふういん)
- 以津真天(いつまで)
- 桜花忍法帖(覇道MIX)(おうかにんぽうちょう)
- 隷(しもべ)
- 腐蝕の王(ふしょくのおう)
- 一本蹈鞴(いっぽんだたら)
- 飯綱落とし(いづなおとし)
- 鉄鼠の黶(てっそのあざ)
- 無礼講(ぶれいこう)
- 初回限定盤仕様
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- カラーフォトブックレット封入
ライブ情報
- 陰陽座全国ツアー2018「覇道」
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- 2018年8月24日(金)
福岡県 DRUM LOGOS - 2018年8月26日(日)
佐賀県 SAGA GEILS - 2018年8月29日(水)
愛媛県 WStudioRED - 2018年9月1日(土)
大阪府 なんばHatch - 2018年9月8日(土)
青森県 青森Quarter - 2018年9月11日(火)
宮城県 Rensa - 2018年9月14日(金)
北海道 札幌PENNY LANE24 - 2018年9月21日(金)
富山県 MAIRO - 2018年9月23日(日・祝)
愛知県 DIAMOND HALL - 2018年9月25日(火)
岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM - 2018年9月29日(土)
東京都 TOKYO DOME CITY HALL
- 2018年8月24日(金)
- 陰陽座(オンミョウザ)
- 1999年に大阪にて瞬火(B, Vo)、黒猫(Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の4人で結成。“妖怪ヘヴィメタル”というコンセプトのもと、人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とした楽曲を男女ツインボーカル&ツインギターで表現するスタイルが高い評価を集め、2001年にキングレコードよりメジャーデビューを果たす。コンスタントに楽曲をリリースしながら精力的にライブ活動を行っている。現在までに13枚のオリジナルアルバムを発表しており、2018年6月には14枚目のアルバム「覇道明王」をリリースした。