「『劇場版ポケットモンスター ココ』テーマソング集」特集 岡崎体育×矢嶋哲生対談|ポケモン世代クリエイター2人がすべての親子に贈る、愛とメッセージを詰め込んだ6つのテーマソング

子供たちの背中を押す「Show Window」

──3曲目は体育さん自身が歌唱を担当している「Show Window」です。

岡崎体育 この曲は僕がテレビシリーズのほうで書かせてもらった「キミの冒険」に近いイメージの曲ですね。新しい場所に飛び込んでいくとき、恐怖や不安よりも楽しむ気持ちを持ったもん勝ちだぜ、という前向きなメッセージを伝えたくて、こういう歌詞になっています。四つ打ちのビートで展開する楽しげな曲で、映画の途中で使ってもらうことで、気持ちが1回切り替わるような役割を持たせられればな、とも考えました。

矢嶋 「Show Window」がかかるシーンでは音楽以外の音を全部引いているんです。体育さんが込めてくれたメッセージが、映画ではココの気持ちに寄り添っていて。本当はフル尺を映画で使いたかったんですが、どうしてもシーンの尺の問題でフルはかけれなかったんです。だからこの曲が気になった方はぜひCDを買っていただいて、フルサイズも堪能してもらいたいですね。

「劇場版ポケットモンスター ココ」より。

岡崎体育 でも映画の「Show Window」は作品にとって一番適切な尺になっていますから、それはそれで味があると思います。フル尺も好きですけど、映画の尺感もすごくよくて、グッとくるものがありました。

──各テーマソングは映画館でかかることを意識して作った部分があるんでしょうか?

岡崎体育 ありますね。5.1chで聴くことに最適化したミックスにしています。僕も映画で鳴らす音楽は専門ではないので、すごく意識してディレクターと入念に音の調整をしています。

矢嶋 「Show Window」に関して言えば、映画館だとかなり重低音が効いて、映画を観ながらすごくノレると思います。

岡崎体育 家で聴くよりも音が体全体を包み込んでくれるイメージが映画館にはあって。これは前からだけでなく、背中からも音が届くということなんですよね。試写会で映画を観ながら、「Show Window」は子供たちの背中を押すような曲になればいいなと、改めて感じました。

左から岡崎体育、矢嶋哲生。

劇伴の要素を持った挑戦の曲「森のハミング」

──次の曲は岡崎体育さんの曲でおなじみとなりつつある東京都日野市立七生緑小学校合唱団が歌唱する「森のハミング」。この曲は、ほかのテーマ曲と違って劇伴に近い形で使われているのが印象的でした。

「劇場版ポケットモンスター ココ」ビジュアル

岡崎体育 詳しくは話せないのですが、非常に重要なシーンでかかる1曲です。この曲はタイトル通り「ハミング」で進行するので歌詞がなくて、曲が映像の中に入り込んでいるイメージなんですよね。

矢嶋 体育さんに曲を書いてもらうか、劇伴として曲を用意するか悩んだシーンですね。悩みに悩んだ結果、せっかくなら体育さんにお願いしちゃえ、と思って(笑)。ただ、このシーンはどうしても子供たちの声で録りたかったんですよ。Beverlyさんに歌ってもらった「ココ」が森の化身の歌だとしたら、こちらの曲は森の精霊たちが歌うようなイメージで。

岡崎体育 だったら合唱団にお願いするのがいいな、と。この曲が完成して、監督から「もう40秒だけこの曲をかけたい」という要望があって……。

矢嶋 いやあ、無理を言ってしまいました。体育さんに追加のお願いをしたとき、映像もある程度見せられる状態だったので、「このシーンをこれぐらい伸ばしたい」とオーダーしたんですよ。そうしたら、セリフのシーンでちょっと静かになるような調整までしてもらい、「え、そんなことまでしてくれるのか!」と。ここまでやったら劇伴じゃん!と驚きました。

岡崎体育 40秒の追加、ムズいけどやってみよう!と思って。ただ劇伴ライクな曲を作るのは初めてで、いろいろ勉強しながらようやく完成したのが「森のハミング」なんです。苦労した分、達成感もあったんですが、やっぱり劇伴のプロはすごいなあと痛感しました。昔、インタビューで「映画の劇伴とかもやってみたいですね」みたいに簡単に言っていたんですが、生意気言ってすみませんでした!とプロの方々に伝えたいです。

「ふしぎなふしぎな生きもの」は人生最高の1曲

──5曲目は映画のメインテーマ曲でもある「ふしぎなふしぎな生きもの」。先ほども少し話に出ましたが、ボーカルはトータス松本さんが担当しています。

「劇場版ポケットモンスター ココ」より。

岡崎体育 「ふしぎなふしぎな生きもの」は、僕が今まで作ってきた何百という曲の中で一番いいと思える曲になりました。

矢嶋 え!? 一番ですか?

岡崎体育 はい。僕の人生でのキャリアハイかなと思っています。不思議なことに、この曲が書けたときのことはあまり覚えてないんですよ。ある種のゾーンに入っていたんじゃないかなあ。自分は父親ではないし、結婚もしていないので、子供のことを思う気持ちが本当の意味でわかっていないと思って。僕はシングルマザーで育ったから、親父に自分が生まれたときのことを聞くこともできなくて、子供がいる友達にとにかく話を聞いたんです。「親父になるってどんな感じやったん?」「子供が生まれたときはどんな気持ちやった?」みたいに。そうやって手当たり次第に友達に聞いたことからインスピレーションが湧いて、僕にはない気持ちを想像しながら書いたのが「ふしぎなふしぎな生きもの」なんです。自分の部屋に引きこもってデモを聴いたとき「なんかすごい曲ができたな」と気付いて。劇場版のポケモンのメインテーマとして本当に恥ずかしくないものができたという自負が生まれたんですよね。

──自分で表現したいものを形にすることで手応えを感じるアーティストのほうが多いと思うんです。でも体育さんは、自分の中にない感情をいろんな方のヒアリングを通して書き上げて、そこに一番の手応えを感じたんですね。

岡崎体育 もしかしたら自分1人で完結する曲ではないからかもしれないですね。この曲は僕だけの力じゃなくて、僕の友人、監督、そして「ポケットモンスター」という作品の力があって生まれた曲だと思うので。1人で曲を書いていたら到達しない点数を、みんなの力を借りて叩き出せた感覚があるんです。なんて言うか、全国の父ちゃんを書いた曲だなと思っています。

矢嶋 僕にも子供がいるので、この「ふしぎなふしぎな生きもの」にはものすごく共感しました。子供って体が小さくて軽いんだけどずっと抱っこしてると重いし、わがままを言うし、すぐ泣くけどすぐ笑ったりもする。悪魔でありながら天使でもある存在、みたいな感覚なんですよね(笑)。僕自身がそうなんですけど、きっと世の中のお父さんは子供が生まれたことで人生観がものすごく変わったと思うんです。映画内でも描かれていることですが、自分よりも大事なものができる強さ、みたいなことは現実でもたくさんあるんだろうなと思って。こういう話を体育さんにさせてもらったのをよく覚えています。

岡崎体育 いい曲が書けて、さらにトータス松本さんのボーカルが入って完成した曲だと思っています。僕のイメージの中で「父ちゃん」をしっかり歌ってくれる方がトータス松本さんだったので。

矢嶋哲生

矢嶋 親が聴いて感動する曲なのは間違いないんですが、この曲を家で聴いているときに、子供がつられて「父ちゃんだ」って歌ったんですよね。別に繰り返し聴かせていたわけでもないのに。そのとき、この曲は子供にも刺さる曲なんだと思って。それこそ、この曲を流す以上、僕は本編で滑れないなと思いました(笑)。この曲に込められた熱いメッセージを本編で何倍もよくするために、ひたすらコンテを描いて、直して、描いて、直してを繰り返しました。

岡崎体育 もうね、プレッシャーのかけ合いなんですよ。僕は僕で、監督から「親ってなんだろう」という今作のテーマを聞いて、中途半端な曲は書けないと思っていましたし。

矢嶋 ははは(笑)。相乗効果ですね。

──先ほど「『劇場版ポケットモンスター ココ』はエクストリームな作品だ」という話が出ましたが、僕は「ポケットモンスター」というシリーズで「父性」を描くことにエクストリームを感じたんです。アニメ内でサトシの父親が描かれることがあまりないんですよね。

矢嶋 そう。サトシの父親って、テレビシリーズ通しても出てこないんです。ただ、今回の映画を作るにあたってはサトシの父親に触れないわけにはいかないなと思って、今回の映画ではそこにちょっとだけ踏み込んでいます。これは僕の想像に過ぎないんですが、きっとサトシの父親も息子に何か大事なことを伝えていて、それがサトシという人間の中に生きているんだと思っていて。どのように描かれているかは、映画を観て皆さんで確かめてほしいですね。