「『劇場版ポケットモンスター ココ』テーマソング集」特集 岡崎体育×矢嶋哲生対談|ポケモン世代クリエイター2人がすべての親子に贈る、愛とメッセージを詰め込んだ6つのテーマソング

すべての母性を盛り込んだ「ただいまとおかえり」

──「ふしぎなふしぎな生きもの」が父性の曲ならば、映画のエンディングテーマである「ただいまとおかえり」は母性の曲だと感じました。

岡崎体育 メインテーマ曲である「ふしぎなふしぎな生きもの」とのコントラストを表現したくて、対照的な曲として母性を描いたのが「ただいまとおかえり」という曲です。ボーカルは木村カエラさんにお願いしていて、僕のイメージでカエラさんは「ママ」でもあり、「母ちゃん」でもあり、「お母さん」でもある。いろんな母性を兼ね備えた方、というイメージがあって。そういうすべての母性を盛り込んだのが「ただいまとおかえり」という曲です。

矢嶋 エンディングテーマに関してはそこまで要望を伝えてなくて、自由に作ってもらったんです。強いて言えば、映画を観終わった親子が「あのあとどうなったんだろうね」みたいな会話を映画館でしてもらえるような温かい空気感の曲にしてほしいな、と伝えたくらい。

──木村カエラさんのコメントに「岡崎くんは男の人なのにすごいね!」と書かれていました。体育さんはどのような気持ちで“母性の曲”を書いたんでしょうか?

岡崎体育 母子家庭で育ったのもあるし、去年まで30年近く母親とずっと暮らしてきたので、母の気持ちに関してはなんとなく自分の体験から想像しながら書けました。こんなとき、もし母親ならどんなことを考えるのかなとか、ウチの母親ならこう思うかもしれない、とか。

矢嶋 親子という関係でも、直接伝えにくい言葉とか感情とかってあると思うんです。例えば「いつもありがとう」とか、直接は言いにくいじゃないですか(笑)。でも歌ならそういう感情を直接、ちゃんと伝えられるなと思って。「ただいまとおかえり」はそういう感情を親子で共有できる素敵な曲だなと思いました。

岡崎体育 試写会で木村カエラさんの歌を聴きながらエンドロールを眺めていたとき、テーマ曲のクレジットが流れてきたんですけど、見事に全部の曲に岡崎体育の名前が入っているんですよね。それを観て「俺、がんばったなあ」としみじみ思いました(笑)。

矢嶋 6曲もありがとうございました。体育さんがいてくれて本当によかったです。

岡崎体育 今年1年間の思い出の中で、一番大きいものが「劇場版ポケットモンスター ココ」のテーマソングを担当したことだったんです。「ただいまとおかえり」とか「ふしぎなふしぎな生きもの」とかを書いて、自分の中でひと皮剥けた感覚もあったんですよね。これまでの僕の曲では、奇をてらった歌詞とか、語感だけで意味をまったく持たない歌詞を書くことが多くて。でも監督から授かったこの映画の音楽では、ちゃんと言葉を紡いで子供たちにメッセージを伝えないといけないと感じて。だから今回書いた歌詞はどれもすごくストレートなものなんです。この映画を通して僕自身もすごく成長させてもらいました。ミュージシャンとしてこの映画に関われて本当によかった。

“ポケモン愛”の集大成

──ボーナストラックには体育さんがこれまで手がけてきたテレビシリーズのテーマ曲が4曲収録されます。今振り返ってテレビシリーズのテーマソングをどう感じますか?

岡崎体育 僕は「サン&ムーン」というシリーズで4曲書かせてもらったんですけど、当時は自分のキャリアの中で子供に向けてメッセージソングを書くことがすごく新鮮で。だから僕がポケモンを好きになった当時と同じようなワクワクする気持ちを持ってほしくて、思い付くままに書いてみたのが「ポーズ」だったんです。その後、「また次もどうですか?」というオファーが続いて、気付けば4曲も(笑)。テレビで流れるアニメのテーマ曲で、僕は何を伝えたらいいんだろう、みたいに考えながら書いたのがボーナストラックに収録されている4曲です。今改めて聴き返してみると、両手を広げた状態で書いている感じがあって、初々しく感じますね。

──テレビシリーズのテーマソングではポケモン関連の言葉がちりばめられていましたが、映画のテーマ曲では普遍的な言葉が多いというか、ポケモンの用語が一切出てこない曲ばかりです。

岡崎体育

岡崎体育 テレビシリーズでも映画でも子供たちに寄り添わなければいけないとは考えていたんですが、映画では親の世代にも寄り添う必要があって、必ずしもポケモンに寄せすぎる必要はないかもしれないと考えたんです。映画では「ポケモンを観て育ってきた自分から何か伝えられることはないか」ということがテーマだったので、今の子供たちが観ているポケモンに寄り添う必要はないかもしれないと思って。自分が今まで感じてきたことを伝えられればそれでいいなと思ったので、あえて寄せにいくことをせず、曲単体としても成立する曲になったのかなと。テレビシリーズのテーマ曲と映画のテーマ曲、両方を並べて聴くことで自分の成長を感じることもできるので、4年間ポケモンと一緒に歩きながら音楽を作らせてもらってうれしいなと改めて思いました。

矢嶋 資料に書かれている通り、まさに「ポケモン愛の集大成」なんですね。

岡崎体育 そうなんですけど……「集大成」って、今後ポケモンに関わらせてもらえないみたいな書き方じゃないですか! このキャッチピーがレコ屋の店頭に書かれたら、みんなが「あ、岡崎体育は今後ポケモンと仕事せえへんのや」と思われてしまわないか心配で……僕としてはポケモンの音楽をこれからも作っていきたいので、今後もよろしくお願いします!

大人になっても“不思議な生き物”

──ちょっと漠然とした質問ですが、体育さんと矢嶋監督にとって「ポケモン」というコンテンツはどんな存在ですか?

岡崎体育 僕が子供の頃、「ポケットモンスター」のキャッチコピーが「この星の不思議な不思議な生き物」だったんです。アニメが始まる冒頭とかでそのコピーが流れるんですが、子供のときはポケモンのことを本当に不思議な生き物だと感じていて。それが大人になったらわかるようになるのかな、と思っていたんですが、ポケモンの仕事をするようになって思うのは、子供の頃以上に“不思議な不思議な生き物”かもしれない、ということなんです。ポケモンに携わることで、今までの人生になかった不思議な経験をもたらしてくれたし。今の僕にとってもポケモンは、“ふしぎなふしぎな生きもの”ですね。

矢嶋 僕にとって「ポケモン」は、コミュニケーションツールの1つですね。僕が小学生の頃にゲームが流行して、友達とケーブルをつないで交換したり、対戦したりしていたんですが、実は僕のおばあちゃんがポケモン好きで一緒にやっていたんです。それこそ「どっちが先に進化させるか」みたいに競い合って(笑)。

岡崎体育 それすごい!

矢嶋 おばあちゃんは「ボケ防止だ!」と言って夢中になってました。そうやって世代を越えてコミュニケーションになるものって世の中そこまで多くないと思うんですよ。でもポケモンは世代だけではなくて国境も越えて愛されていて、世界中の人と対戦もできるし、一緒に映像を楽しむことができる。ポケモンはいろんな人をつなぐコミュニケーションの1つだと僕は感じています。

左から岡崎体育、矢嶋哲生。