「ルパン三世」との出会い
──「ルパン三世」の音楽を担当することになったのは?
石立さんのドラマのプロデューサーだった日本テレビの吉川斌さんがアニメ班に移って「ルパン三世」を担当することになったんだ。よみうりテレビでやった最初のテレビシリーズ(1971年放送)が終わったこともあり、日テレ系でやるときにルパンのキャラクターを少し変えることになってね。原作者モンキー・パンチさんの考えていたダーティでちょっとハードなルパンに、おっちょこちょいでちょっとスケベ、それにコミカルな要素も取り入れていくことに。そして初めは「アニメを専門的にやってる人に頼もうかと思ってたけど、一か八かで大野にした」って吉川さんに任されて。
──「ルパン三世のテーマ」は当時のアニメでは珍しいインストゥルメンタルでした。
歌で作ってって言われなかったからね(笑)。ルパンは大人でも楽しめる内容だから、ちょっと背伸びしてカッコいい音楽でいこうってことでね。You & Explosion Bandっていうのは日本テレビ音楽でやるときに使う名前なんだけど、これはファーストコール(真っ先に声をかける腕利き)のミュージシャンを集めて構成されてるから。そういう意味でもそれまでの7年間、作曲や編曲を学んで、なおかつCM音楽の仕事でスタジオミュージシャンといっぱい仕事してきたことがものすごく有意義だったと思う。一番いいときに「ルパン三世」の仕事が来たからね。
──放送開始から半年後に歌詞が付きましたね。
あれはレコード会社から「そろそろ新しいシングルを出したいから歌詞を付けてボーカルバージョンにしよう」って言われたことがきっかけなんだ(歌唱:ピート・マック・ジュニア)。とは言え、歌用に作ってないから音域が2オクターブ近くある曲だし、大変だったよ。本当に彼はよく歌ったと思うよ(笑)。「ルパン三世 PART2」は3年放送されたから、その後も「ルパン三世のテーマ」はニューバージョンに更新されていった。
──1979年バージョンではシンセサイザーが効果的に使われていました。
そうだね。シンセが最も新しい楽器だったからね。あの頃のアナログシンセは今でも大好きだよ。テーマメロやってるオーバーハイムの4ボイスは太い音してたなぁ。あっそうそう、ついでに1980年のフルバンドバージョンは、実は僕が言い出したことじゃないからね。吉川さんの上司で、小坂敬さんというプロデューサーに「こうなったらフルバンドでいっちゃおうか」って言われて「えっ、ジャズやっちゃっていいの!?」みたいな(笑)。小坂さんも吉川さんも昔からジャズ好きだったんだ。それもあって僕を選んでくれたのもあるね。小坂さんは「火曜サスペンス劇場」(1981~2005年)の生みの親なんだけど、僕はその前身になる「火曜日の女」シリーズ(1969~72年)、「土曜日の女」シリーズ(1973~74年)の音楽をやってたから、よく知ってたんだ。
──「ルパン三世 PART2」の放送が開始された当時はテレビ以外にも「犬神家の一族」(1976年)、「人間の証明」(1977年)など映画音楽も手がけられて、多忙を極めていたのではないでしょうか。
ほんと、よく生きてたなってぐらい仕事してたね(笑)。ものすごい数のCMの仕事をやりながら「ルパン」やって、「人間の証明」やって、翌年のドラマ「大追跡」(1978年)やって。
──映画音楽の仕事はいかがでしたか?
僕は昔から日本の映画の劇伴に不満があって。どんなに有名な作品でも音楽の印象が薄いなと感じていたわけ。映画の場合、あの当時大事なのは映像であって音楽は二の次。監督さん以下すべての人が音楽の重要さに気が付いていなくて、ロケが延びたらそのぶん音楽費が減るとか。これじゃ音楽家もやる気がしないだろうなって感じの音に僕はずっと聴こえてたんだ。そういう思いがあったから、最初にやった「犬神家の一族」(1976年)では印象に残るロマンチックでメロディックな音楽を書いたんだけど、市川崑監督はメロディックな音楽より現代音楽的なアプローチを求めていて、苦労した。たぶん市川監督はメロディックな音楽より、無機的なちょっとSE的な音楽が好きだったんだろうね。逆に監督が変わるとこうも違うのかって思ったのが、松田優作さん主演の「最も危険な遊戯」(1978年)から始まる「遊戯シリーズ」。製作の東映セントラルはスタッフがほとんど日活出身の人で、石立鉄男ドラマを作ってたユニオン映画も日活で撮ってたから知り合いが多かったの。監督の村川透さんもよく知ってる人だから「好きにやって」って言われて。映写を観て、その場でひらめいた音を作る感じだったけど、すごく楽しかった。「人間の証明」も監督の佐藤純彌さんは「すべてお任せします」だったね。あれはアメリカのシーンが多いから音楽は書きやすかったよ。
大野雄二サウンドができるまで
──「ルパン三世 PART 4」の舞台はイタリアでしたが、そもそもルパンの音楽はマカロニ・ウェスタン(1960~70年代に世界中でブームになったイタリア製の西部劇)をお手本にしたそうですね。
ああいう、イタリア人がアメリカを意識して作った低予算のB級アクションが大好きなんだ。アメリカ映画的な音だけど、作ってるのはイタリア人だからハリウッドとはちょっとテイストが違う。同じヨーロッパでもプライドの高いフランス人はちょっとアンチアメリカだから、どことなくシャンソン的な独自のものがあるじゃない? イタリア人は躊躇なくアメリカ寄りにいっちゃう。「こっちのほうがカッコいいじゃん?」って(笑)。西部劇以外でも6人の男と1人の女が銀行から金塊を盗み出す「黄金の七人」(1965年)とかね。あれは設定がオシャレで、主演のロッサナ・ポデスタがいろんな服を着て七変化で出てくるわけ。しかも1965年の時点でカラーコンタクト入れてんだよ? あの作品はけっこうルパンに影響を与えてるんじゃないかな。ロッサナ・ボデスタが不二子で、銀行強盗を指揮する教授がルパン。そしてまた、アルマンド・トロヴァヨーリの音楽がすばらしい!
──同じイタリア人でも「荒野の用心棒」(1964年)の巨匠エンニオ・モリコーネと、アルマンド・トロヴァヨーリはタイプが違う気がします。
モリコーネは作曲の専門家だしなぜか自分を消せる名人なの。だから聴いても1作1作全部違うわけ。正体を現さない。だけど、トロヴァヨーリはどれを聴いてもトロヴァヨーリなんだよね(笑)。そこがすばらしくって、もう大好き! 僕もどうやっても自分が出ちゃう人間だから。それにトロヴァヨーリはジャズピアニストでもあるし、僕と似てるんだと思うね。
──大野さんの音楽は一聴して“大野さんの音だ!”とわかる独特なものですが、どのようにして生まれたんでしょう?
CM音楽をやることになって何が困ったかっていうと、自分にポップスを書く能力が一切なかったこと。それまで僕はジャズほど高尚な音楽はないと思って生きていたから、ビートルズすら同じ時代にちゃんと聴いていなくてね。それで「こりゃちゃんと情報を得なきゃダメだ」と思って、レコード屋にイヤというほど通ってポップスのレコードを片っ端から買ったのね。アメリカ、イギリス、フランスのもの。さらにイタリア、スペインのもの。当時、表参道にメロディハウス、骨董通りにパイド・パイパー・ハウスっていう専門店があって、気になるものがあったら全部取っといてもらって、買いまくったの。当時よく言われたのが「こんなに買ってよく聴けますね?」(笑)。あの頃はとにかく家に帰ると片っ端からレコードを聴いてた。だんだんうまくなってくると聴き方のコツがわかってくるわけ。レコードに針を落として、8秒聴いてダメなら次に行くとかね。
──8秒で判断ですか!
それで気になるものがあれば、横に出しとくの。それを時間があるときもうちょっとよく聴く。要するに予選通過だね(笑)。そうやって世界の音楽を聴いていくと、だんだんアメリカの音楽がつまんなくなってくるの。もちろんポップスの作り方はうまいし、間口も広いんだけど、イギリスのほうがちょっと辛口。フランスはアンチ英語だからシャンソンの匂いがするし、イタリアはカンツォーネの感じがして、また全然違うわけ。あとブラジルの音楽もこれまたすごい。僕、ブラジル音楽のディープなところはソニア・ローザに教えてもらった。
──ソニアさんとはアルバム「SAMBA AMOUR」(1978年)や「フェアリー・ナイト」(「ルパン三世 PartIII」エンディングテーマ)など、長年にわたって一緒にお仕事されていますね。
僕は彼女が日本に来て10日目ぐらいに会ってるから。1968~69年頃だから、まだ日本にボサノバが入ってきて間もない頃だね。銀座にJUNKってジャズの店があって、そこにソニアが来てたんだ。で、オーナーに「雄ちゃん、ちょっと伴奏してやってくんない?」って言われたんだけど、彼女はポルトガル語しかできないし、ギターもチューニングが半音低いの。だから勘で弾くしかない。そうやって身振り手振りでやってるうちに意気投合したんだ。
──そうした蓄積があるからこそ「ルパン三世のテーマ」もこれだけ豊潤なバリエーションが生み出せるんですね。ちなみに最近の音楽で刺激を受けることはありますか?
どっちかって言うと、もう死んじゃった昔の人の音のほうが刺激を受けるかな。あとは音楽以外のところからだね。僕はメジャーリーグやバスケットボールが大好きなんだけど、ファインプレーを見たときの「すごい!」って感情をすぐ音楽に翻訳したくなっちゃうわけ。そうやって興奮させてもらうと、やる気につながるよね。
「ジャズって楽しく聴いていいもんなんだな」と思ってもらえたら
──最後に今後の予定についても伺わせてください。まずは14年ぶりの著書(「大野雄二とジャズ(仮)」)が出版されるそうですね。
これまでの僕の音楽人生とジャズについて書いたものだね。それとLupintic Sixメンバーの座談会が面白いよ。本当に酒飲みながらやったもんだから、だんだん話題が過激になっていって、しまいには「市原さんちょっと黙ってください!」って若手メンバーがベテランメンバーをイジってるから(笑)。
──さらに4月13、14日には「犬神家の一族」「人間の証明」「野生の証明」の映画音楽を生演奏する「角川映画シネマコンサート」が東京国際フォーラムで開催されます。
これにはLupintic Six、Fujikochansのメンバーにブラス、ストリングス、ハープ、木管、ダルシマー、琵琶などを加えた総勢50人ぐらいのオーケストラで、“大野雄二とSUKE-KIYOオーケストラ”として出演するんだ。最初「スケキヨのお面被ってやろうか?」とか言ってたけど、誰だかわかんないし、窒息しちゃうからそれは止めとこうかな(笑)。
──スペシャルトークゲストの石坂浩二さんとは縁が深いですね。
慶應高校からの同級生だからね。僕は大学時代はジャズにのめり込んでいたから、芸能人になった彼のことはしばらくわからなかったの。明治のCM音楽をやってるとき、彼がナレーションの仕事をしていて、初めて石坂浩二さんだと知ったんだ。それがきっかけで1970年代頭に東芝から彼が朗読して、僕が音楽を付けたアルバムが3枚出てる(「音楽と幻想」第1~3集)。
──そして、ルパンファンにとって一番の朗報が4月に日本テレビ、Huluほかにてスタートする「ルパン三世」新シリーズです。今回は現代のフランスが舞台ということで、どんな音になるんでしょう?
今回は僕なりに考えたかなりアバウトなフランスだね。フランス=シャンソン=アコーディオン=パリみたいな。前回の情熱的なイタリアとも違う、ちょっとニヒルでクールな音を意識した。もちろん今回もファーストコールのミュージシャンに参加してもらっているよ。
──オンエアを楽しみにしております。大野さんは2009年にLUPINTICレーベルを設立して以来“ジャズは難しいものでなく、カッコよくて楽しいもの”であることを広く伝えようとしていますね。
段差が高いと入りにくいからね。最初は低い段差にして、わかんなくてもわかんないなりに面白いよってところから始めなきゃダメ。とりあえず僕らのバンドを聴いてもらって、なるほど、ジャズって楽しく聴いていいもんなんだなと思ってもらえたら。それでもっと知りたい人は、どんどん深いところに行ってくれればいいっていうことなんだよね。
──2018年も忙しくなりそうですね。
そうだね。また突然アルバムを作りたくなったりするかもしれないし(笑)。乞うご期待ってところだね!
- THE BEST COMPILATION of LUPIN THE THIRD「LUPIN! LUPIN!! LUPINISSIMO!!!」
- 2017年12月6日発売 / VAP
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初回限定盤 [CD+DVD]
5500円 / VPCG-80692 -
通常盤 [CD]
2700円 / VPCG-83524
- CD収録曲
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- THEME FROM LUPIN III 2015 / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015~ITALIAN BLUE ver. / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- ルパン三世のテーマ~2012 Another Page Ver~ / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- ルパン三世のテーマ~peace ver. feat. 詩織 / Yuji Ohno & Lupintic Six
- THEME FROM LUPIN III~2013 WITH CONAN ENDING ver. / YUJI OHNO
- THEME FROM LUPIN III 2015~EROTICA / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015~FUNKY & WILD / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015(ALONE) / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015(ンパッパラッパー) / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III ~2013 WITH CONAN ver. / YUJI OHNO
- THEME FROM LUPIN III[2013 cool ver.] / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- THEME FROM LUPIN III 2015~TEQUILA / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015~WHISTLE & CEMBALO ver. / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN THE THIRD '89(Lupintic Five Version) / Yuji Ohno & Lupintic Five
- ルパン三世のテーマ ~なんちゃってバロック・ヴァージョン~ / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- ルパン三世のテーマ / Fujikochans
- THEME FROM LUPIN III 2016 / Yuji Ohno & Lupintic Six
- 初回限定盤DVD収録内容
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ルパン三世コンサート~LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2017~ 2017.5.14(Sun)at東京キネマ倶楽部
- OPENING THEME
- BUONO!! BUONO!!(BUONISSIMO)
- Fujikochansのテーマ
- ルパン三世のテーマ ~introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends ver.~
- ラブ・スコール feat. 佐々木詩織
- ちゃんと言わなきゃ愛さない
- 炎のたからもの feat. 佐々木久美
- TORNADO 2017
- シークレット・デザイアー feat. 佐々木詩織
- SUPER HERO~peace ver. feat. TIGER
- ミスティ・トワイライト feat. 佐々木久美
- ショコラみたいなキスをして feat. TIGER
- 銭形マーチ ~introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends ver.~
- ルパン三世 愛のテーマ
- THEME FROM LUPIN III 2016
- ENDING THEME
- MEMORY OF SMILE ~piano solo~
- サンバ・テンペラード
-MUSIC VIDEO-
- THEME FROM LUPIN III 2016
- BUONO!! BUONO!!(BUONISSIMO)
- 大野雄二「大野雄二とジャズ(仮)」
- 2018年3月16日発売 / DU BOOKS
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単行本
2484円
- アニメ「ルパン三世 PART 5」
- 2018年4月に日本テレビにて放送&Huluほかにて配信スタート
公演情報
- Yuji Ohno & Lupintic Six
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- 2018年2月10日(土)東京都 東久留米市立生涯学習センター
- 2018年3月10日(土)茨城県 常陸太田市民交流センター
- 2018年3月13日(火)大阪府 Billboard Live OSAKA
- 2018年3月15日(木)東京都 Billboard Live TOKYO
- 角川映画 シネマ・コンサート
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- 2018年4月13日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2018年4月14日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
※大野雄二と“SUKE-KIYO”オーケストラ として出演
- 大野雄二(オオノユウジ)
- 静岡県出身のジャズピアニスト。大学生卒業直後に結成したトリオを解散すると、作曲家としてCM音楽や「犬神家の一族」「人間の証明」といった映画やテレビの音楽を手がけるようになる。1977年にテレビアニメ「ルパン三世」の主題歌として「ルパン三世のテーマ」を制作。以降40年にわたり、同作品のテーマ曲の原型として使用されている。2000年代に入るとプレイヤーとしての活動も精力的に行い、大野雄二トリオ、Yuji Ohno & Lupintic Five、Yuji Ohno & Lupintic Sixなどさまざまな形態で活動している。2017年には3作のオリジナルアルバムをリリース。さらに2018年4月から放送の新TVシリーズ「ルパン三世 PART5」の音楽を担当するなど、その勢いはとどまることを知らない。