アニメ「ルパン三世」の主題曲「ルパン三世のテーマ」の誕生40周年を記念したコンピレーションアルバム「THE BEST COMPILATION of LUPIN THE THIRD『LUPIN! LUPIN!! LUPINISSIMO!!!』」が昨年12月にリリースされた。
「ルパン三世のテーマ」は大野雄二が手がけた楽曲で、これまでに幾度となく多数のアーティストによってアレンジ、カバーされ、広く親しまれている。2015~16年放送のテレビアニメ「ルパン三世 PART 4」で使用されたバージョンが中核を担う今作では、大野が初めて「ルパン三世」の音楽を手がけた際に用いていた名義・You & Explosion Bandや、大野が現在主軸を置いて活動中のバンドYuji Ohno & Lupintic Sixとその前身バンドYuji Ohno & Lupintic Five、女性コーラスを担当する大野プロデュースのユニットFujikochansといったさまざまな形態で演奏された同曲を楽しむことができる。
今作のリリースおよび、大野が音楽を担当する「ルパン三世」のテレビアニメ新シリーズ(「ルパン三世 PART 5」)が4月に日本テレビやHuluほかにてスタートすることを記念して、音楽ナタリーでは大野本人にインタビューを実施。「ルパン三世」との出会い、さまざまなCM音楽や劇伴に携わっていく中での苦悩や喜びなどを語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦 インタビュー撮影 / 佐藤類
全部同じ曲のアルバムなんて大バカ野郎しかやらない
──「ルパン三世のテーマ」誕生40周年を記念してコンピレーションアルバム「THE BEST COMPILATION of LUPIN THE THIRD『LUPIN! LUPIN!! LUPINISSIMO!!!』」がリリースされました。同じ作曲者による同一曲を集めたアルバムは世界でも珍しいですね。
大バカ野郎しかやらない企画だよね(笑)。全部同じ曲なんだから。でもこの企画もなんだかんだでもう3回目なんだ。
──2007年発売の「THE BEST COMPILATION of LUPIN THE THIRD『LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!!』」、2012年の「BOSS ANIME~MORE LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!!~」に続いて、今回は2012年以降新たに誕生したバージョンが17曲収録されているんですね。
このアルバムタイトルは言葉遊びだね。2015年にYuji Ohno & Lupintic Fiveで「BUONO!! BUONO!!」ってアルバムを出して、それが去年Yuji Ohno & Lupintic Sixで「BUONO!! BUONO!!(BUONISSIMO)」(アルバム「RED ROSES FOR THE KILLER」収録)という曲になって。だから安易だけど今回は“ISSIMO”(音楽用語で「きわめて~」という意味)を付けちゃった(笑)。
さまざまな形態でルパン音楽を届ける近年
──「ルパン三世 PART 4」では数十年ぶりに「You & Explosion Band」の名義が使用されたことも話題になりました。さらに今作では「Yuji Ohno & Lupintic Five」、2016年にメンバーを一新した「Yuji Ohno & Lupintic Six」、女性コーラスグループ「Fujikochans」によるバリエーションが存分に楽しめます。こうしたアレンジの多彩さは近年の精力的なライブ活動の影響もあるんでしょうか?
多少はあると思うよ。ライブを重ねていくと「この感じ、今度アレンジに使ってみようかな」みたいなことを考える場面もあるしね。
──やっぱりライブは大野さんにとって大切なものなんですね。では、そもそもライブをまたやりだすきっかけみたいなことがあったんですか?
うん、それがあったの。あるとき、昔の仲間から「年1回でもいいからまた一緒にトリオでやってくれないかなあ」って言われて。ずっと断ってたんだけど、1回やってみたらこれがめちゃくちゃ楽しかったわけ。ずっとやってなかったから、すごく下手だったけどね。でもお客さんの反応もダイレクトだし、何も考えないでガンガン弾けるしね。スタジオで弾くときはかなりクールに弾くから……ライブは間違えてもそのときのノリでOKになっちゃうから楽しいんだよ(笑)。
──ライブならではのだいご味ですね。
そうだね。ただ、最初のうちはルパンの曲は封印してたんだ。あくまでいちジャズピアニストとしてやってるからスタンダードナンバーと自分のオリジナルだけで。ところが「1曲ぐらいルパン弾いてくれ」ってお客さんの声があまりに多いもんだから、いつしか2曲、3曲とルパンナンバーを入れるようになっていって(笑)。その頃、たまたまルパンのテレビスペシャルに僕がキャラクターとして出演する場面があったの。そこで流れる「ラブ・スコール」のジャズバージョンをレコーディングしたことで、だんだんルパンのサントラの延長線的なジャズのアルバムもやるようになっていったんだ。
──1999年にスタートした大野雄二トリオの「LUPIN THE THIRD『JAZZ』」シリーズですね。
そうそう。でね、トリオでルパンナンバーをやるようになって、そのうちに「ここにギター、テナーサックス、トランペットを加えたら、ルパンのもっと派手な部分も表現できるな」と思って組んだのがLupintic Five。やっぱり楽しいし若返るね。みんなうまいし伸びしろもあるしさ。
──2006年にリリースされたYuji Ohno & Lupintic Five名義の1作目「LUPIN THE THIRD 『JAZZ』the 10th~New Flight~」では、ジャズとフュージョンが融合したダイナミックな演奏が展開されました。
それからどんどん活動の幅も広がり、2016年にはYuji Ohno & Lupintic Sixになって(大野[Piano]、市原康[Dr]、ミッチー長岡[B]、松島啓之[Tp]、鈴木央紹[Sax]、和泉聡志[G]、宮川純[H, Org])。今は本当に幸せだよ。今までで最高のバンドです。
──今回の「LUPIN! LUPIN!! LUPINISSIMO!!!」限定盤の付属DVDには、昨年5月に東京キネマ倶楽部で行われた「ルパン三世コンサート~LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2017~」の模様がフル収録されています。スタンディングライブならではのグルーヴはもちろん、 抜群のコーラスワークが魅力のFujikochansによるボーカル曲「ラブ・スコール」や「炎のたからもの」ではゴージャスかつしっとりと聴かせてくれますね。
いいでしょ? ここ数年ライブで例の「Lupin the Third~!」って歌ってもらってる女性コーラスグループFujikochansをデビューさせたら面白いかなと思って、去年Fujikochans名義のアルバム(「introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends」)を作ったわけ。佐々木久美、その娘の佐々木詩織、TIGER、そして最近稲泉りんちゃんというボーカルも加わって、ライブではその中から3人で回してる感じだね。最高の女性コーラスグループだと思うよ。
CM音楽や劇伴制作で得たもの
──誕生から40年経っても新たなアレンジが生まれ続けている「ルパン三世のテーマ」ですが、ここに至るまでには大野さんがCM音楽や劇伴を数多く手がけたことが大いに役立ったそうですね。
そうだね。僕はもともとジャズピアニストだったわけ。それがなぜかだんだん日本のジャズシーンに嫌気を感じ出してピアニストを辞めちゃうんだ。そして1970年頃から本格的に作曲の仕事をするようになったんだけど、とは言え急に作曲家になりますったってすぐに使ってもらえるわけじゃないから、最初はアレンジャーから始めた。外国の映画音楽を編曲して、外国のオーケストラの名前でアルバム出したりして……まあ全員日本人がやってるんだけどさ(笑)。そうしているうちにCMの仕事も入るようになって、そこでまず叩き込まれたのが「音楽面だけの能書きたれるな」ということ。一番偉いのはスポンサーなんだから、音楽的にどうこう言ったって言い訳にならない。これはジャズしかやってなかった者としては目からうろこだった。そんなこんなで仕事してるうちに、「この前、大野というヤツとやったらけっこうよかったよ」「じゃあ、うちでも1回使ってみようか」てな感じでトントン拍子に仕事がくるようになっていったんだ。ただし、年に2、3本リテイクが続いたらもうその相手とは一生仕事来なくなるから。そのぐらいシビアな世界だったよ。
──実力主義ですね。
あと打ち合わせがいかに大事かを学んだね。最初に「こういうことをしてくれ」って並べられたものを守って書くのが作家なわけ。ただ、その“行間”を読まないとダメ。的のド真ん中に当てるんじゃなく、ちょっとだけ外すことが大事なんだ。
──ちょっとだけ外すとは?
的の真ん中に正確に当たったものは意外性がないから「よかったね」で終わりだけど、ちょっと外したものを書いていくと「思ってたものとは違うけど合ってんじゃん。すごくいいね」になるわけ。そのためには行間を読んでヒントを探すんだ。クライアントが望んでいるものと同じ価値があって、なおかつ違う音楽の種類ってなんだろうって。そういうものをある程度書き続けていくと「すごくいいね」に変わってくる。
──なるほど!
CMって何が来るかわかんない世界で「来週までに演歌書いてくれ」とか「クラシック書いてくれ」って言われたら専門じゃなくても書けなきゃいけない。これは失敗談だけど、昔カレーのCM音楽を頼まれたとき、「インドふうに」と言われたのですぐレコード屋に走ってインド音楽をいっぱい買って研究して作ったら「こういうんじゃないよ。シタール(インド発祥の弦楽器)がビヨーンって1発鳴ってればいいんだ」って言われて。日本人に売ろうとしてるんだから、日本人が思い浮かべるであろう「○○っぽい音」でよかったってわけ。そういうのがすごい勉強になったね。例えば中華ふうに作ってくれって言われたら、銅鑼1発鳴らしたり、中国っぽいフレーズ「♪チャカチャカチャンチャンチャンチャンチャン」が正解になることもあるんだよ(笑)。
──劇伴の仕事はいかがでしょう?
テレビの劇伴をやり出したのも1970年頃だね。最初はちょっと変わったNHKのディレクターが無名の僕を使ってくれたんだけど、今考えると劇伴としてはいかがなもんかって音楽を書いてた気がする。ちゃんとやれるようになったのは日本テレビで石立鉄男さん主演のホームドラマ(「雑居時代」「水もれ甲介」など)をやる頃からだね。後に「ルパン三世」でも組むことになる鈴木清司さんという選曲屋と一緒に仕事をやるようになってから、格段に仕事はやりやすくなったんだ。石立さんのドラマの音楽は当時よくあるホームドラマのテイストとは一味違った、ちょっと洋楽的でモダンにしたんだ。一応日本独特の四畳半的な部分も心得ては作ってるけどね。当時のテレビは視聴率さえそこそこあれば、ある種の冒険も許されていた。
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「ルパン三世」との出会い
- THE BEST COMPILATION of LUPIN THE THIRD「LUPIN! LUPIN!! LUPINISSIMO!!!」
- 2017年12月6日発売 / VAP
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初回限定盤 [CD+DVD]
5500円 / VPCG-80692 -
通常盤 [CD]
2700円 / VPCG-83524
- CD収録曲
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- THEME FROM LUPIN III 2015 / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015~ITALIAN BLUE ver. / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- ルパン三世のテーマ~2012 Another Page Ver~ / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- ルパン三世のテーマ~peace ver. feat. 詩織 / Yuji Ohno & Lupintic Six
- THEME FROM LUPIN III~2013 WITH CONAN ENDING ver. / YUJI OHNO
- THEME FROM LUPIN III 2015~EROTICA / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015~FUNKY & WILD / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015(ALONE) / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015(ンパッパラッパー) / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III ~2013 WITH CONAN ver. / YUJI OHNO
- THEME FROM LUPIN III[2013 cool ver.] / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- THEME FROM LUPIN III 2015~TEQUILA / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN III 2015~WHISTLE & CEMBALO ver. / You & Explosion Band
- THEME FROM LUPIN THE THIRD '89(Lupintic Five Version) / Yuji Ohno & Lupintic Five
- ルパン三世のテーマ ~なんちゃってバロック・ヴァージョン~ / Yuji Ohno & Lupintic Five with Friends
- ルパン三世のテーマ / Fujikochans
- THEME FROM LUPIN III 2016 / Yuji Ohno & Lupintic Six
- 初回限定盤DVD収録内容
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ルパン三世コンサート~LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2017~ 2017.5.14(Sun)at東京キネマ倶楽部
- OPENING THEME
- BUONO!! BUONO!!(BUONISSIMO)
- Fujikochansのテーマ
- ルパン三世のテーマ ~introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends ver.~
- ラブ・スコール feat. 佐々木詩織
- ちゃんと言わなきゃ愛さない
- 炎のたからもの feat. 佐々木久美
- TORNADO 2017
- シークレット・デザイアー feat. 佐々木詩織
- SUPER HERO~peace ver. feat. TIGER
- ミスティ・トワイライト feat. 佐々木久美
- ショコラみたいなキスをして feat. TIGER
- 銭形マーチ ~introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends ver.~
- ルパン三世 愛のテーマ
- THEME FROM LUPIN III 2016
- ENDING THEME
- MEMORY OF SMILE ~piano solo~
- サンバ・テンペラード
-MUSIC VIDEO-
- THEME FROM LUPIN III 2016
- BUONO!! BUONO!!(BUONISSIMO)
- 大野雄二「大野雄二とジャズ(仮)」
- 2018年3月16日発売 / DU BOOKS
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単行本
2484円
- アニメ「ルパン三世 PART 5」
- 2018年4月に日本テレビにて放送&Huluほかにて配信スタート
公演情報
- Yuji Ohno & Lupintic Six
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- 2018年2月10日(土)東京都 東久留米市立生涯学習センター
- 2018年3月10日(土)茨城県 常陸太田市民交流センター
- 2018年3月13日(火)大阪府 Billboard Live OSAKA
- 2018年3月15日(木)東京都 Billboard Live TOKYO
- 角川映画 シネマ・コンサート
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- 2018年4月13日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2018年4月14日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
※大野雄二と“SUKE-KIYO”オーケストラ として出演
- 大野雄二(オオノユウジ)
- 静岡県出身のジャズピアニスト。大学生卒業直後に結成したトリオを解散すると、作曲家としてCM音楽や「犬神家の一族」「人間の証明」といった映画やテレビの音楽を手がけるようになる。1977年にテレビアニメ「ルパン三世」の主題歌として「ルパン三世のテーマ」を制作。以降40年にわたり、同作品のテーマ曲の原型として使用されている。2000年代に入るとプレイヤーとしての活動も精力的に行い、大野雄二トリオ、Yuji Ohno & Lupintic Five、Yuji Ohno & Lupintic Sixなどさまざまな形態で活動している。2017年には3作のオリジナルアルバムをリリース。さらに2018年4月から放送の新TVシリーズ「ルパン三世 PART5」の音楽を担当するなど、その勢いはとどまることを知らない。