大橋トリオが3月3日、15枚目のアルバム「NEW WORLD」をリリースした。
本作には映像作家・柿本ケンサクによるリモート短編映画プロジェクト「+81FILM」に書き下ろした「Butterfly」「Paradise」「Rise Above」、CMソング「Favorite Rendezvous」「何処かの街の君へ」、上白石萌音をゲストボーカルに迎えた「ミルクとシュガー duet with 上白石萌音」など9曲を収録。映画で使用されたバージョンにて「Rise Above」の歌唱を務めたTHE CHARM PARK、同じく「Paradise」を歌ったMichael Kanekoに加えて、神谷洵平、武嶋聡ら仲間たちとともに、ますます洗練された大橋トリオ流ポップミュージックが奏でられている。今回は大橋の単独インタビューに加え、「ミルクとシュガー」レコーディング直後に行った大橋&上白石へのインタビューをお届けする。
取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 須田卓馬(P1、2)
イントロはピアノのポロンポロンで
──昨年はツアー「ohashiTrio HALL TOUR 2020~This is music too~」がほとんど中止になってしまったり(※大阪、東京のみ振替公演を実施)大変な1年だったと思いますが、どう過ごされましたか?
音楽はもう正直やってなかったですね(笑)。何やってたんだろうな……機材をちょっと見直したり、D.I.Y.にハマってみたりとか。それぐらいです。
──気持ち的にコロナ禍に影響を受けたところはありますか?
もともと出不精な部分があるので、家にいることはそんなに苦ではなかったです。たまに車で人のいない場所をうろちょろしてました。この時期に「時間があったから曲がいっぱいできました」とか「ずっと制作してました」とかいう人も多いと思うんですけど、僕は完全に真逆ですね。
──音楽を作る気にならなかった?
ならなかったですね。それより、先の不安みたいなものが大きかったように思います。
──そんな中でも昨年4月に楽曲「EMERALD」のリモートセッション映像を公開されたり、柿本ケンサクさんの短編映画プロジェクト「+81FILM」に曲を提供されたりと、発信は精力的でしたね。
サントリーの「Favorite Rendezvous」、江崎グリコの「何処かの街の君へ」とか、CMタイアップもありましたしね。だからすでに5曲完成していたんですよ、今回のアルバムは。残り4、5曲でよくて、いつもより作業量は少なかったんですけど、ドラム録音にハマりだしちゃって(笑)。「ドラムを自宅でちゃんと録れるようにしたいな」と思って機材をそろえて、ジャズ用のドラムセットも1つ買って、音作りとマイクのセッティングに時間を費やしてました。今回のレコーディングでマイクは4本しか使ってないんですけど、置きどころとかドラムを叩く強さを変えてみたりして、どうしたらいい音で鳴るかをひたすら調整してましたね。あとからあんまりいじれないので。
──めちゃくちゃ凝りそうですね。
1回やり出すとね。中でも「ミルクとシュガー duet with 上白石萌音」のドラム録音が楽しすぎて。「ここぞ」というものにしたい気持ちがあったし、音作りや音録りをずーっとやってましたね。
──楽しそうな音、していましたよ。「ミルクとシュガー」で使われていたリズムはなんですか? ちょっとマーチっぽい感じで。
確かにマーチの要素もありますね。拍の頭にスネアの音を入れたりしているんですよ。EDMとかでたまに使われるパターンですけど、「アコースティックな感じの曲でそういうのをやったらどうかな」とひらめいたから、試してみたら「あ、これだ!」と。それがめちゃくちゃ楽しすぎたんです。
──すごくカッコいいと思います。自信作じゃないですか?
自信作です。先日(上白石)萌音ちゃんと一緒にインタビューしていただきましたけど(※P3に掲載)、そのとき参考用に用意していたデモ音源はまだ彼女の声は入ってなくて、ストリングスとかホーンズも仮のやつでしたよね。
──そうです。完成版を聴いて音の膨らみに感動しました。
イントロも最後の最後に無理やり付けて(笑)、面白い曲になったと思ってます。
──前作「This is music too」に収められた「LOTUS」もそんな感じでしたよね。
そうでした(笑)。取って付けたようなイントロがね。
──いやいや、面白かったです。デモ音源の段階ではイントロなしでしたが、アルバムの1曲目がいきなり歌から始まるのも……みたいな判断で加えたんですか?
制作中、そういう意見がやっぱり多くて。ドラマーの神谷(洵平)とかチャームくん(THE CHARM PARK)がミックスの仕上げのとき、うちに来てくれたんですよ。「イントロをどうするか悩んでるんだけど」って言ったら2人に「ピアノでポロンポロンとかでいいんじゃないですか?」と言われまして(笑)。「ピアノでポロンポロンって、そんな大したことはできないしな」と思いながら弾いてたら、神谷が「その感じで、このプラグインエフェクトを挿したら面白いんじゃないですか?」って言い出して、使ってみたらめっちゃアナログな、テープがちょっと伸びた感じのサウンドになったんです。弾いてるだけで楽しくて、「これだ!」と思って付けました。
──あの音色はプラグインエフェクトだったんですね。
テープシミュレーターって言ったかな。どのぐらい古い音色にするか、ツマミで調整できるんですよ。
考え続けたオリジナリティを確立
──「自信作じゃないですか?」と言いましたが、「ミルクとシュガー」に限らず今作は「あのアーティストのあの曲の感じ」「あの時代のあのジャンルっぽい」みたいなリファレンスを特定しにくい、すごくユニークな大橋トリオサウンドみたいなものを感じますね。
お! すごい。うれしいですね。ここにきてやっと自分の形が完成したっていう(笑)。
──いやいや、ここにきてやっと僕が気づいただけだと思います。
ずっと「オリジナリティってなんだろう」と思って試行錯誤してきたから。今回ももちろんそうなんですけど、1曲目の「ミルクとシュガー」に関しては、これまでの集大成と言っても過言ではないくらい、自分の中ではパンチを効かせられたかなって思います。
──それはどういった意味合いで?
アレンジや曲のトリッキーさ、間奏の流れとか。自分の持っている行きすぎた音楽性と、J-POPのバランスが見事に取れたなと。
──上白石さんとのハモりも含めて、歌の割り方もとても繊細に作られている感じがします。加えてハモり中心の進行から一転し、サビはユニゾンで入ってくるインパクトがすごいんですよね。あとは間奏もそうだし……とにかく、この曲の魅力を挙げていったら止まらないぐらい、すっごくいい曲だと思います!
めっちゃくちゃうれしい!(笑) やっぱり自分が満を持して「完成しました!」と言える曲に対して、そんなふうに語ってもらえるのは一番ありがたいですね。
映像に合わせて作られた楽曲群
──さっき「リファレンスを特定しにくい曲が多い」と言いましたが、2曲目の「Favorite Rendezvous」は比較的イメージが明確ですね。1950年代の映画の主題歌みたいなムードというか。
「Favorite Rendezvous」は僕も出演したサントリー「フレシネ」のCM用に書き下ろした曲なんですけど、映像の方向性から「ジャズしかないな」と思って、自然とああなった感じですね。
──一方、5曲目の「Paradise」はそれこそ特定のジャンルを挙げにくい曲で。僕は聴きながら「ブラスロックっぽい?」とメモしたのですが。
カッキー(柿本ケンサク)が作った映画の中で、あるバレエダンサーに触発されて踊ってみる人物が出てくるんですけど、その人が練習するシーンで流れる曲が「Paradise」です。これも映像に合わせた曲で、自分の中で思い浮かんだイメージはあんまり反映しなかったかもしれないですね。カッキーがくれた参考音源はもうちょいアッパーでイケイケな曲だったんですけど、「『ロッキー』みたいにしたろかな」と思って(笑)。猛特訓してスキルアップしていく、みたいなシーンだから。ベタ中のベタだけど、ホーンセクションを入れたら思いっきり「ロッキー」のテーマソングみたいになりました。
──チャームさんの英詞もいいですね。大橋さんの発音もきれいでした。
英語の発音はチャームくんに本当に厳しく見てもらってますからね。
──「Butterfly」の“kaleidoscope”の発音が素晴らしかったです。
(笑)。初めて「kaleidoscope」って言いましたよ。彼の歌詞って、全部僕のイメージ通りに言葉を当てはめてくれるんですよ。すっごくありがたいですね。信頼関係があるから任せているので。
──CMや「+81FILM」との関係もあるのかもしれませんが、全体に映画的なイメージの強い曲が多いと思いました。
なるほど。英語詞の曲はまさにそうですし、「何処かの街の君へ」もグリコのCMに書き下ろしたものなので、映像に合うような作り方をしてますね。あと、「LION」にはストリングスをけっこう盛大に入れてます。映画音楽が好きなんですよ。昔ながらのわかりやすい映画音楽っていうか、ジョン・ウィリアムズが制作した「E.T.」のサウンドトラックとか、ストリングスがオクターブのユニゾンで大メロディを奏でて、感情をわしづかみにされる……みたいな曲が好みなんです。「LION」や「ミルクとシュガー」にもそういう部分を用意してますし、前作「This is music too」の収録曲「LIFE」とかも同じ手法で作ってます。あんまり意識はしてないけど、そういう気持ちが表れてるのかなと思いますね。
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「ミルクとシュガー」「LION」ができるまで