大橋トリオ|オリジナリティさらに確立、これが“大橋トリオの音楽”

「ミルクとシュガー」「LION」ができるまで

──「LION」に言及されたのは我が意を得た気持ちがします。というのはアルバムのハイライトが2つあると思っていて、1つは「ミルクとシュガー」、もう1つが後半の「LION」だなと。

大橋トリオ

「LION」は8分の6拍子なんですけど、この拍子で作るとちょっと叙情的というか、それこそ映像が思い浮かぶ、物語みたいな曲になるんです。ハチロクは自分の中で定番化してるので「またか」と思いつつ、別のアプローチのメロディが浮かんだので、入れちゃいました。去年萌音ちゃんが発表したアルバム「note」に楽曲提供させてもらったとき、渡した曲が「Little Birds」と「LION」で、そこから彼女は「Little Birds」を選んでくれたんですよ。死ぬほど悩んだそうですけど(笑)。

──そうだったんですね。

「じゃあ『LION』は自分の作品に使いますね」と話してたんですけど、今回のアルバムで萌音ちゃんにデュエットをお願いしたとき、「ミルクとシュガー」はまだ作ってなくて。「当然デュエットするのは『LION』なのかな、萌音ちゃんも泣く泣く手放したらしいし……」とぼんやり構想していたんですけど、2人で歌うことを考えたら「普通に気に入ってる曲ではあるけど、アルバムのフックにはならないな」と思って、なんとか「ミルクとシュガー」を絞り出したんです。そういう経緯があるので、結果オーライなんじゃないですかね。

──めちゃくちゃオーライでしょう。急きょ絞り出した曲が集大成になったのもすごいし、とりわけ強く印象に残った曲がどちらも萌音さん絡みだったのも面白い。

「LION」はあんな壮大なアレンジではなく、もっとシンプルでしたけどね。

どうしても「月の真ん中で」って歌いたくて

──大橋さんは過去のインタビューで「毎回ハードルを設定して、それを越えるようにしている」とおっしゃっていましたけど……。

そんなこと言いましたっけ?(笑)

──それが前作「This is music too」のときは「サックスソロを恐れない」だったんですが、「NEW WORLD」ではめちゃくちゃサックスが活躍していますよね。認識が変わったのかなって思いました。

結果そうですね。「それで良いんじゃない」にサックスソロを入れてますけど、たけぽん(武嶋聡)に「もうベタベタなやつちょうだい」ってお願いして。もう一切恐れてないし、むしろカッコいいと思ってます。ケイティ・ペリーの曲にケニー・Gが参加したことがあったじゃないですか(※2011年発表の「Last Friday Night (T.G.I.F.)」)。あれでイメージが変わったというか、「ああ、こういう解釈あるんだ」と感じたんです。あとは、やっぱり武嶋聡という人間が面白いんですよ。レキシのライブでセーラー服を着て、髪をポニーテールにしてたり(笑)。なんでもありだし、いろんな楽器ができるし、すっごいギリギリのタイミングで「これ譜面に起こして」って頼んでもひと晩で仕上げてくれるし。イヤな顔1つしないで期待にすべて応えてくれる。だから彼をフィーチャーしたい気持ちはありましたね。たけぽんがいるからやろうか、みたいな。

──「月の真ん中で」では小さい音でチッチッチッチッ……とずーっと8分をキープする音が聴こえますが、あれは何で鳴らしているんですか?

Una Cordaっていう、単弦のピアノの音をシミュレートした音源です。弦をつま弾く音に聴こえるんですよ。ここではシンセ的な意味合いで入れてます。実はこの曲で唯一、「月の真ん中で」だけが自分で思いついた言葉なんですよ。作詞してもらうときは全部「ラララ」で歌ってるんですけど、ここだけ「月の真ん中で」って歌って渡しました。どうしてもその言葉が言いたくて(笑)。

──ハマりがよかった?

そうです、そうです。なんか「ララー、ララーララーララー、つきのまんなかーで」と言っちゃったんですよ。そうしたらもう「これは『月の真ん中で』しかないな」と。今まで同じようなことが何回かあったんですけどね。

──無意識に出てきちゃったものって、得てして正解だったりしますよね。

と、僕は思ってます。まあ、よく出てきちゃう言葉っていうのもあるんですけどね(笑)。英詞を想定して「ラララ」で歌ってるときにけっこうあるんですよ。だからこれまで発表してきた楽曲は、似た英詞が多かったと思います。

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情熱をもって取り組むのは当然。でも“妥協”というブレーキも大事

──とことん突き詰めることもあれば、偶発的に生まれるものを大事にすることもある。そのバランスはどう取っていますか?

そうですね……やっぱり曲に対する思い入れで順位付けして、そこから妥協のポイントを調整してるかもしれないですね。こないだラジオ(2021年2月20日放送のJ-WAVE「ROPPONGI PASSION PIT」)で「大橋トリオさんにとって情熱とはなんですか?」と聞かれて、「情熱はあって当たり前。最終的には妥協するくらいがちょうどよい」って答えたんですよ。こだわりすぎるとキリがないし、妥協しなきゃいけないポイントっていくつかあるじゃないですか。期日とか、自分のスキルとか。「これ以上やっても、もう伸びないな」ってポイントを見極めて、ちゃんと自分で“妥協”というブレーキをかけるのが大事だと。もちろん全部こだわり切りたいんですけど、自分の性格的に1年でアルバム1枚、時間があってもそれ以上費やすことはできないし、やっぱりインプットの機会も欲しいので。そういう妥協点はいくつかありますよね。

──限界ありきで、できる範囲でベストを尽くすということですね。

そうですね。だから納得するようにしてます。だけど納得しすぎると次の作品への活力がなくなるから、「もっとやれたな」みたいな部分はあってもいいんじゃないかなって思いますね。その課題をちゃんと次に解決できるかどうかはまた別の話なんですけど。次の作品に取りかかるとき、前作のことって忘れてるし(笑)。自分の中で今回の落としどころをどこにするか、どう納得するかってことですね。今もまさにその最中ですよ。

──その過程においてライブが大事なんでしょうね。

そう。あと、こうしてインタビューでいろいろ意見を聞いたり、自分でしゃべることもかなり重要です。「あ、そうだったんだ」って発見できることも多い。だからすごくありがたいですよ、毎回。じっくり「NEW WORLD」の話をするのも今日が最初ですし。

──前回のインタビューでおっしゃっていた「オリジナリティはないとダメ」という話が僕はすごく好きなんですが(参照:大橋トリオ「This is music too」インタビュー)、「NEW WORLD」はその考え方を体現した曲が多いと思います。

おお、うれしいです。まあでも、その理由はあんまり考えてないから……ですかね。これまでの作品で何回もやってきた表現は、「NEW WORLD」でもいっぱい盛り込まれていると思うんですけど、その中で自分らしさが少しずつ磨かれてきたというか、明確になってきた部分はあるのかもしれないです。流行りの音楽は聴くけど、「何か吸収してやろう」と思って聴くことは一切ないですし。ごくたまに「このピアノの音色いいな」とか、ありますけどね。あとは強く影響を受ける音楽が出てこないっていうのもある。僕の中では今のところ「ドーン!」って衝撃を受ける曲はそこまでないし、あっても困るし(笑)。

──素人耳ですけど「ミルクとシュガー」と「LION」を筆頭に、アルバム15枚目にして“大橋トリオの音楽”がどんどん確立されてきたんじゃないかという気がするんですよね。

萌音ちゃんも参加してくれて本当によかったですね(笑)。ありがたいです。