音楽ナタリー PowerPush - 小倉唯

待望の1stアルバムを手に語る“イチゴのジャム”の作り方

ギャンブリングなアルバムメイキング

──その「私らしさ」って具体的に言葉にできたりします?

うーん……。「小倉唯はこういう人」って言い切れはしないですね。いざ歌ってみたり、お芝居をしてみたりして初めて「あっ、私こういうこともできたんだ」って自分の振り幅や伸びしろに気付くことも多いので。だから選曲やアレンジについての提案はインスピレーション勝負。ある意味賭けでもありました(笑)。

──1stアルバムでギャンブルって勇気ありますねえ(笑)。

小倉唯

あはははは(笑)。でも「Strawberry JAM」っていうタイトルと「小倉唯らしさが詰まっていながらも、いろんな表情を持ってもいるアルバムを作ろう」ということは最初から決めていたので。「いつだってCall Me!」みたいな1980年代アイドル的というか“The 王道アイドル”っぽい曲や、チャイニーズっぽい「A Lovely Tea Break」みたいな、これまで歌ってこなかった曲も歌ってみたくて。だから「こういうふうに歌えたら面白いな」っていう期待や、「こう歌えるかも」っていう可能性に賭けてみました(笑)。

──で、期待や可能性という、言うなれば不確定要素だけを手に勝負に勝ってみせた、と。

ありがとうございます(笑)。でも実は判断材料は期待や可能性だけじゃなくて。曲自体もそうですし、テンポやキーもスタッフさんみんなで話し合って決めたものですから。女性であって歌い手である私と、男性の方やリスナーさんとでは感じ方が違うはずだから、別の視点からの意見を聞いて「そっちのほうがいいな」って思えたら、そっちに賭けるようにしていたんです(笑)。

私が楽しむためにみんなの声を聞くワガママ

──そこまで制作にコミットしているんなら、ご自身の意見を強く押し出すこともできますよね? そもそも“小倉唯の”アルバムなんだし。

でも1人でなんでも決めてしまうと方向性が偏っちゃう気がしていて。例えばアルバムには写真集が付くんですけど、そこに私が好きな写真だけ並べてしまっていたらきっとすごく一辺倒な内容になったはずですし。

──小倉さんが見せたい小倉さんの姿と、みんなが見たい小倉さんの姿って実はちょっと違っていたりするのかもしれないですしね。

だったら私が見せたい表情も載っていれば、皆さんが見たい表情も載っている。いろんな私が載ってる写真集にしたほうが面白いですよね(笑)。なのでスタッフさんの「これ、いいね」には絶対に耳を傾けるようにはしてました。そうやってたくさんの方に楽しんでいただけるものを作ったほうが私自身もうれしいですから。

──確かにアルバムや写真集をリリースする以上、みんなに「いいね」「素敵だね」って言ってもらえたほうが小倉さん自身も幸せですもんね。

だから、ちょっと矛盾した言い方になっちゃうんですけど「私が好きなものを作るために皆さんの意見を聞きたい」っていうワガママを言わせてもらった感じなんです(笑)。

勝てなくてもがんばった人に寄り添うロックチューン

──ご自身が思うにアルバム収録曲のうち一番チャレンジャブルだった曲ってどれですか?

一番わかりやすく振り幅を見せられたのは「Get over」かなあ。デビューシングルの「Raise」とわりと近い曲調だとは思うんですけど、あの曲以来ああいうカッコいい系の曲は歌ってきてなかったので。

──確かに“小倉唯楽曲”と言われてまず思い付くのは、突然「断捨離」なんてフレーズが飛び込んでくる「PON de Fighting!」や、デジタル感の強いトラックに乗せて女の子の日常や恋愛模様を歌う「Baby Sweet Berry Love」みたいな、明るくてポップな楽曲なんですよね。

しかも「Get over」は「Raise」とも違いますし。「Raise」は「カンピオーネ!(~まつろわぬ神々と神殺しの魔王~)」のエンディングテーマだったので、バトル色の強いアニメにも寄り添った内容になっていて。でも「Get over」はメッセージソング。結局何かを成し遂げられはしなかったけど、それでもがんばっていた人のことを否定せずに応援するっていう、深いというか、ちょっと複雑なことを歌っている曲で。成し遂げられなかった、勝てなかったからちょっと切ないんだけど明るく寄り添う。そういう複雑で、でも前向きな思いをロックに乗せてちゃんと伝えようとしたのは我ながら挑戦だったなって思ってます。

1stアルバム「Strawberry JAM」 / 2015年3月25日発売 / キングレコード
CD+Blu-ray / 3996円 / KIZC-276~7
CD+DVD / 3996円 / KIZC-278~9
通常盤 [CD] / 3024円 / KICS-3174
CD収録曲
  1. FUN FUN MERRY JAM
    [作詞:中原徹也 / 作曲:ARM(IOSYS) / 編曲:大久保薫]
  2. Charming Do!
    [作詞:磯谷佳江 / 作曲・編曲:奥井康介]
  3. いつだってCall Me!
    [作詞:松井五郎 / 作曲:板垣祐介 / 編曲:菊谷知樹]
  4. A Lovely Tea Break
    [作詞:大森祥子 / 作曲:CHI-MEY / 編曲:大久保友裕]
  5. PON de Fighting!
    [作詞:大森祥子 / 作曲・編曲:大久保薫]
  6. Get over
    [作詞:松井五郎 / 作曲:小野貴光 / 編曲:山口朗彦]
  7. Raise(album ver.)
    [作詞:只野菜摘 / 作曲:俊龍 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  8. シュガーハートエイク
    [作詞:こだまさおり / 作曲:小野貴光 / 編曲:山崎寛子]
  9. Tinkling Smile
    [作詞:磯谷佳江 / 作曲:小野貴光 / 編曲:大久保薫]
  10. Happy Strawberry
    [作詞:山口朗彦、中原徹也 / 作曲・編曲:山口朗彦]
  11. Baby Sweet Berry Love
    [作詞:山崎寛子 / 作曲:俊龍 / 編曲:Sizuk]
  12. Sing-a-ling-a-Harmony
    [作詞:こだまさおり / 作曲:俊龍 / 編曲:大久保薫]
Blu-ray / DVD 収録内容
  • Happy Strawberry(MUSIC VIDEO)
  • Raise(MUSIC VIDEO)
  • Baby Sweet Berry Love(MUSIC VIDEO)
  • Charming Do!(MUSIC VIDEO)
  • Tinkling Smile(MUSIC VIDEO)
  • Making of Strawberry JAM
小倉唯(オグラユイ)

1995年群馬県生まれの声優、アーティスト。2009年に14歳で声優デビューし、2011年「神様のメモ帳」のアリス役、「ロウきゅーぶ!」の袴田ひなた役で大きな注目を集め、以来、毎シーズン放映のアニメの主要キャラを演じるように。また2010年に石原夏織と結成したユニット・ゆいかおりでメジャーデビューを果たし、2011年には「ロウきゅーぶ!」の出演声優ユニット・RO-KYU-BU!で歌った楽曲の数々がスマッシュヒットを記録するなど、声優業と並行して積極的に音楽活動も展開している。2012年にはシングル「Raise」でソロデビュー。2014年8月リリースのアニメ「ヤマノススメ セカンドシーズン」のエンディングテーマ「Tinkling Smile」まで、4枚のシングルを発表しており、2015年3月には1stフルアルバム「Strawberry JAM」をリリースする。