沼倉愛美|11の私で描く“アイ”の世界

声優アーティストの沼倉愛美が2ndアルバム「アイ」を2月20日にリリースした。

2016年11月のアーティストデビューから2年3カ月を経て完成した今作では、ときに感情的に、ときに穏やかに、沼倉のさまざまな側面が11編の楽曲を通じて描かれている。私を表す“I”、彼女が感じる“愛”、彼女の名前に含まれる“愛”……いくつかの含みを感じさせる「アイ」という名の作品に、どのような思いが込められているのか。アーティスト活動3年目に突入した沼倉に話を聞いた。

取材・文 / 臼杵成晃

ふと浮かんだ「ありのまま」な風景を形に

──アルバムは既発のシングル曲とそのカップリングもまとめて新曲は数曲だけ、というパターンもよくありますが、沼倉さんは1stアルバム(2017年6月発売「My LIVE」)も今作もカップリング曲を入れず、新曲盛りだくさんですね。

沼倉愛美

正直もうちょっと新曲は少なくていいよね、って私は思いましたけど(笑)。

──(笑)。全11曲中9曲が録り下ろしの新曲です。ではこれはプロデューサーのこだわりで?

はい。カップリングは入れずに全部で10曲以上は入れようと。2ndアルバムを作ることはけっこう前から決まっていて、「次のアルバムはどういう内容にするのがベストかな」と考えてました。

──どんなアイデアを?

具体的な話はまだない頃から、「どうしよう?」と聞かれたら自分から発信できるように準備は進めていました。制作に向けて本格的に動き出したのは去年の夏頃かな。アルバムについて考えていたら、このジャケット写真になったようなシンプルなビジュアルが浮かんだんです。薄着で、なんなら下着でもいいと思っていたんですけど、なんと言うのか……「ありのまま」な風景がふっと浮かんで。そこから、そのビジュアルにふさわしくなるようコンセプトを詰めていきました。

──へえ、ビジュアル先行なんですね。

そうなんです。いろんな考えがあった中の1つに、さまざまな角度から私という人間を切り取って、これがすべてではないにせよ「今の私の中身です」と言える、アルバム全曲で「これが沼倉愛美ですよ」と言えるようなアルバムにするという案があって。なのでアルバムの新曲は全部、私のほうで1曲ずつテーマを設定して、作家さんにそれを伝えて曲を書いてもらうお願いをしました。アルバムの表題曲は自分で歌詞を書いて、それがアルバムタイトルにもなって、ツアーのタイトルにもなる、ということは事前に決まっていて。だから考えることが多すぎて(笑)。でもそこで全体のコンセプトが見えたので、次はタイトルをどうしようと。表題曲で全体の流れが決まるので、いろんな意味を込めて、カタカナで「アイ」にしました。歌詞もそこから書き始めて。

──まずはタイトルありきで全体像を考えていったと。

「アイ」は表題曲だからもちろんアルバムのテーマを象徴するものにしたいと思っていたんですけど、ほかの楽曲も含めて、アルバム全体で“私”を表現したいと考えて。とは言え、十数曲で「これが私のすべてです」と言い切れるものにするのは難しいとわかっていたので、テーマを考えるときは感情とかでカテゴリ分けして……シングルの「Desires」と「彩 -color-」は入ることが決まっていたので、まずこの2曲のポジションを決めて、そこから全方位でいろんな見方ができる、私という人間をいろんな角度から見られるようなテーマを考えていきました。「私ってなんだろう?」というよりも「まだ見せていない部分はどこかな」みたいな。

一人称の世界から“君”に向けた世界へ

──今のお話を聞いてアルバム全体を考えると、なるほどバランスの取れた表現だと感じますけど、前情報のないまっさらな状態で、1曲目から順に聴き進めていくと、今は何事もすごくポジティブな方向に向かっているのかなと感じたんですね。途中までは(笑)。後半様子が変わってきて、最終的にズーンとくる、みたいな。

えへへへ(笑)。そうですね。

──ではここから1曲ずつ順に、それぞれのテーマを紐解きつつ話を聞かせてください。1曲目の「Benvenuti」はサウンドも歌詞もアルバムの幕開けにふさわしい、駆け抜けるようなさわやかな曲ですね。1曲目に置くことを前提に作ったのかなと思うほど。

そうなんです。曲順も自分で決めさせていただいたんですけど、この曲は最初から1曲目に決めていました。この「Benvenuti」というタイトルは、以前ファンクラブイベントでお客さんに決めてもらったものなんですよ。「Benvenuti」はイタリア語で「ようこそ」という意味で、テーマとしては「始まり」。ライブの1曲目に歌うことを考えて作ってもらいました。自分でも驚くほどキラッキラした曲で(笑)、今までになかった曲だし、聴けば聴くほど好きになって。この「始まり」というテーマをどう自分なりに表現しようか、この幕開け感をどう歌詞にしていこうかと考えていきました。

──この曲も作詞は沼倉さんですね。

これまで書いてきた歌詞は一人称で自分について歌うものばかりだったけど、この曲はがんばっている人、夢を追っている人など新しい世界へ向かう“君”へ「ようこそ」と告げる歌詞にしようと思って書きました。

──2曲目の「This Kiss」はハウスっぽいダンストラックなんだけど、ベースの演奏などにファンクのような要素があって、最後はビートのみになったりと音響的にも面白い曲ですね。前回のインタビューで「ダンスナンバーは好きだけど表現するには引き出しが足りない」とおっしゃっていましたけど、この曲はいかがですか?

曲を作ってくれたTAKU INOUEさんは昔からのお友達で、この曲は唯一、私から作家さんを指定してお願いしたんです。テーマとしては「ときめき」「妄想」「ハッピー」みたいな感じだったんですけど、アルバム全体の中でどちらかというとかわいらしい部分を担う曲として考えていたんです。だから自分の中ではあまりダンスナンバーという意識はなくて、ノリのよさやちょっとエモい流れみたいなものが表現したかったので、ハウス系、クラブ系の高揚感のある曲というイメージなんです。

──「こういうサウンドが欲しい」ではなく「こういう感情を表現する曲が欲しい」という発注なんですね。

そうなんですよ。今回は「こういう曲がいい」というお願いはしていなくて、言葉でイメージだけを投げたので、「そうそう」と思うものもあれば、自分では想像していなかった意外な音が上がってきたこともあったし、「ごめんなさい、これだけはちょっとイメージに合わないので」と作り直してもらったものもあります。全部自分のイメージの範囲で作ったら、すごく幅の狭い作品になってしまうと思うんですね。作家さんにはある程度自由にイメージを膨らませてもらったほうが、いい作品になるんじゃないかなって。

沼倉愛美「アイ」
2019年2月20日発売 / FlyingDog
沼倉愛美「アイ」初回限定盤

初回限定盤 [CD+Blu-ray]
3780円 / VTZL-155

Amazon.co.jp

沼倉愛美「アイ」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / VTCL-60482

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CD収録曲
  1. Benvenuti[作詞:沼倉愛美 / 作曲:白戸佑輔 / 編曲:前口渉]
  2. This Kiss[作詞 : MCTC / 作曲・編曲:TAKU INOUE]
  3. 彩 -color-[作詞:沼倉愛美 / 作曲:WEST GROUND / 編曲:ZAI-ON]
  4. 魔法 [作詞:ZAI-ON / 作曲・編曲:堀江晶太]
  5. グッバイ[作詞:小久保祐希 / 作曲:小久保祐希、Kohei Yokono / 編曲:Kohei Yokono]
  6. Don't back [作詞:松原さらり / 作曲:内藤英雅 / 編曲:中野領太]
  7. Desires[作詞・作曲:ZAI-ON / 編曲:WEST GROUND]
  8. 夜と遠心力 [作詞:國土佳音 / 作曲・編曲:小山寿]
  9. まどろみ[作詞:Giz'Mo(Jam9) / 作曲:ArmySlick、Giz'Mo(Jam9) / 編曲:ArmySlick]
  10. SWAY[作詞:Haggy Rock / 作曲:原田アツシ]
  11. アイ[作詞:沼倉愛美 / 作曲:高橋亮人 / 編曲:WEST GROUND、高橋亮人]
初回限定盤付属Blu-ray収録内容
  • 「彩 -color-」Music Video
  • 「Desires」Music Video
  • 「アイ」Music Video
  • 「アイ」Making Movie
沼倉愛美(ヌマクラマナミ)
神奈川県生まれの声優 / アーティスト。アニメ「THE IDOLM@STER」で我那覇響、アニメ「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」でタカオを演じ注目を浴びる。2016年11月に、シングル「叫べ」でアーティストデビューを果たし、2017年2月に2ndシングル「Climber's High!」、6月に1stアルバム「My LIVE」をリリース。同年8月には初のワンマンツアー「沼倉愛美 1st LIVE TOUR 『My LIVE』」を成功に収めた。2019年2月に2ndアルバム「アイ」を発表。4月に東名阪3都市および台湾・台北を回る2ndツアー「アイ」を行う。