沼倉愛美が10月31日に4thシングル「Desires」をリリースした。
シングルにはアニメ「CONCEPTION」のオープニングテーマである表題曲をはじめ、カップリング曲「I Love You」「What You Want」を収録。テイストは違えど、いずれも恋愛をテーマに据えた楽曲に仕上げられた。音楽ナタリー初登場となる今回は、声優とアーティストの二足のわらじで活躍する沼倉が、本作のエピソードはもちろん、これまでのアーティスト活動や自身の歌声について謙虚な姿勢で語った。
取材・文 / 須藤輝
人生で一番、人間を好きになった
──沼倉さんは2016年11月にソロアーティストとしてデビューされましたが、この2年間を振り返ってみて、何かしら変化はありましたか?
やっぱり心持ちが一番変わったかなって思いますね。もともと声優として活動していて、人前で歌うお仕事もたくさん経験させてもらって、それはすごく楽しいしやりがいも感じていたんです。ただ、そのときは「いかにキャラクターらしく歌うか」とか、歌を通して表現することに力を注いでいたと言うか、そこに命をかけていて。その状態からいきなり「沼倉愛美」として、自分で自分を表現するってなったときに、「自分には何もないな」って感じたんですね。
──アーティスト活動に対して否定的だったわけではないですよね?
もちろんやってみたいと思って始めたことではあるんですけど、いざやってみると「本当にこの歌声が自分の歌声なんだろうか?」と悩み始めて。そうすると、どんどんドツボにハマっていくと言うか、迷路をさまよいながらずっと答えを探しているような感覚に陥ってしまい……。そもそも私は、自分のことが好きと言うよりは、周りの人たちが私のことを認めてくれるから「自分も捨てたもんじゃないかな」って思えるタイプで。
──わりと普段から自己評価が低い?
そう。だから最初は「これでいいのかな?」の繰り返しだったんですけど、去年の8月に1stライブツアーをやりまして。そのときもまだ迷いながらだったし、胸を張って「いいものです」って言えるステージにできるか不安もあったんです。でも、集まってくださったお客さんや力を貸してくださったスタッフさんと一緒にツアーを完遂できたことで、自分のやってきたことが間違ってなかったって思えたんです。そこでやっと「もっとできるかも」とか「これをやってみたらどうだろう?」っていう欲みたいなものが次々と湧いてくるようになって。それまでも「どうやったらみんなも自分も面白がれるものを作れるのかな?」っていうことは考えていたつもりだったんですけど、より前を向いてもの作りに臨めるようなりましたね。
──他媒体のインタビューで拝読したのですが、そのツアーの前にリリースされた1stアルバム「My LIVE」(2017年6月発売)の楽曲制作において、沼倉さんは作家陣に対して唯一「前向きな曲を」とだけリクエストを出されたとおっしゃっていましたね。
そうですね。「My LIVE」を作って、なんとなく自分のスタイルが見えてきてたんですけど、ライブの場で歌うことでより実感を伴うものになったと言うか。そこで私のことを応援してくださる方たちの表情や声、熱量を肌で感じて、なおかつ私を支えてくれているたくさんのスタッフさんの存在に改めて気付くことができて。たぶん今までの人生で一番、人間を好きになったかもしれません(笑)。
──別に人間嫌いだったわけじゃないですよね?(笑)
はい(笑)。より人が好きになって、そういうふうに思える自分も好きだなって。やっぱり去年の夏にいろんな経験がぎゅっと濃縮されていて、それを経た結果、以前とは目を向ける場所が変わりましたね。前は足元を、自分の付けた足跡を見て「これで合ってるかな?」って確認しながら進む感じだったんですけど、今はもう進む先をちゃんと見られるようになりました。
「沼倉愛美」として歌うとき
──沼倉さんはもともとアニメの世界で、「THE IDOLM@STER」の我那覇響や、「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」発のユニットであるTridentのメンバーとして、いわゆるキャラソンをたくさん歌われてきました。キャラソンを歌うときと、沼倉愛美名義で歌うときの差はありますか?
最初は、その差をどうやってつけたらいいのわからなくて。自分として歌うとき、例えば「こういうニュアンスつけたからキャラっぽくなるかな?」とか「明るい曲だから響っぽく聞こえちゃうかな?」って悩むこともあったんですけど、今は「そう聞こえたっていいよね」ぐらいの気持ちで、何も考えなくなりました。
──私は私だし、と。
そうそう。だって、響として歌っているときの気持ちとは明らかに違いますから。そうやって「私は誰かを演じながら歌っているわけじゃない」ってちゃんと言えるようになって、逆にキャラクターソングのときは以前にも増してそのキャラクターとして歌うことに命をかけられるようになったと言うか「今、私はこの子になってる」っていう感覚が強くなったような気がしていて。それはいい影響なんじゃないかなって思ってます。
──何も考えずに歌えるようになったのも、夏のライブあたりからですか?
うーん……どうでしょう。1stアルバムを作るとき、リード曲の「My LIVE」の作詞を自分でしたんですね。そこで、先ほどもお話に出た通り収録曲はすべて前向きな曲にしたかったので、自分の思い通りにならなかったりふてくされたりすることもたくさんあるけど「あなたの選択は概ね正解です」っていう歌詞を書いたんです。
──自分の人生を全肯定はしないけれど、かと言ってそんなに悪いものでもない。
そうですそうです。それを自分の言葉で書けたと言うか、必ずしもきれいではない部分も言葉にして、そのまま歌で表現できたことで、自分の歌というものができあがった感じはしましたね。
ガツンとしたのを作りたい
──では、ニューシングルについて伺います。沼倉さんは現在に至るまで、シングルの表題曲やアルバムのリード曲ではバンドサウンドを打ち出したロック色の強い曲を歌われてきました。今回の表題曲「Desires」はそこにデジタルサウンドを交え、よりヘビーでアグレッシブな曲になりましたね。
「攻めてるなあ」って私も思いました。この1つ前に出した3rdシングルの「彩 -color-」(2018年6月発売)が、サウンドとしてはそれまでの流れを汲んでいるんですけど、パッケージとしてすごく優しくてしなやかな、女性らしい1枚になったんです。で、プロデューサーと「次はガツンとしたのを作りたい」という話をしていて、それを表現する1つの手段としてミュージックビデオで振り付けを取り入れる、要はダンスを視野に入れてできあがったのが「Desires」で。ただ、想像以上に音のインパクトが強くて、「この音に負けない動きをしないと意味がなくなっちゃうな」と、自分のパフォーマンスに対するハードルが上がったと感じましたね。
──そのお話ぶりですと、パフォーマンス=ダンスのハードルが上がったと解釈できますが、歌唱表現のハードルが上がったとは感じなかったということですか?
うーん……そうですね。「Desires」は歌詞も感情的なので、それをきちんと表現できなければ曲の魅力を100%伝えられないとは思ったんですけど、「ちゃんとできるかな……」というよりは「いろいろ試したいな」という気持ちが勝っていた気がします。この曲は「CONCEPTION」というアニメの主題歌なのですが、監督さんは「主題歌であることを気にしすぎなくて大丈夫です。曲のクオリティを上げることを優先してください」と言ってくださったんです。でも、作品のシナリオを読ませていただいたとき、曲名も「Desires」だし、ちょっとセクシーな要素を入れられたらいいなと思って。なので「彩 -color-」で表現した女性らしさと、従来の攻撃的なサウンドのいいとこ取りじゃないですけど、そのために自分はよりよい素材を提供することに集中しました。
──その作業って、具体的に言葉にできます?
まず今回のシングルは、これは私にとって初めてのことだったんですけど、「Desires」も含めて3曲とも恋愛をテーマにした歌なんです。特に「Desires」の歌詞には、例えば求めてるけど手に入らないものがあって、一方でそれを自分が手に入れてしまっていいのだろうかっていう葛藤もありつつ、いやそれでもほしくて……みたいに心が揺れ動くさまが描かれていて。そうやっていろんな感情がぐるぐる渦巻いている中で、例えば2番Aメロの「どんなにどんなにどんなに 追いかけても」のあたりは心情的にもすっと入っていけたし、落ちサビの「繋いだ掌から 伝わる想いはDesires」には今言ったセクシーさみたいなものが垣間見られたんですね。歌詞の中にそういうポイントを見つけながら、女性ならではの情念みたいなものをより強く滲ませる感じでしょうか。
──沼倉さんはデビュー曲の「叫べ」(2016年11月発売)からご自身で作詞をなさっていましたが、今回は全曲作詞家さんにお任せしていますね。
そうなんです。自分で作詞をするのも好きなんですけど、ただやっぱり「Desires」の歌詞は私からは出てこなかったはずなので、お任せしてよかったです。
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声優のお仕事とちょっと似てる、職人的な感覚
- 沼倉愛美「Desires」
- 2018年10月31日発売 / FlyingDog
-
初回限定盤 [CD+DVD]
1944円 / VTZL-149 -
通常盤 [CD]
1404円 / VTCL-35290
- CD収録曲
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- Desires
- I Love You
- What You Want
- Desires Instrumental ver.
- I Love You Instrumental ver.
- What You Want Instrumental ver.
- 初回限定盤DVD収録内容
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- Desires Music Clip
- Desires Making Movie
- 沼倉愛美(ヌマクラマナミ)
- 神奈川県生まれの声優 / アーティスト。アニメ「THE IDOLM@STER」で我那覇響、アニメ「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」でタカオを演じ注目を浴びる。2016年11月に、シングル「叫べ」でアーティストデビューを果たし、2017年2月に2ndシングル「Climber's High!」、6月に1stアルバム「My LIVE」をリリースした。同年8月には初のワンマンツアー「沼倉愛美 1st LIVE TOUR 『My LIVE』」を成功に収め、その後2018年6月に3rdシングル「彩 -color-」を発表。10月31日に4thシングル「Desires」をリリースした。11月に神奈川・横浜アリーナで開催される「ANIMAX MUSIX 2018 YOKOHAMA supported byひかりTV」、12月に台湾・国立台湾大学 体育館で行われる「リスアニ!LIVE TAIWAN 2018」と、ライブイベントへの出演を控えている。