ナタリー PowerPush - THE NOVEMBERS

現実と虚構の壁「Fourth wall」を壊すとき

世の中に悪態をつくことに興味がない

──その冷静な表現ゆえかもしれませんが、今回の歌詞には一人称が登場しませんね。

あ、先に言ってもらえた(笑)。そうですね。今回もう内的独白のための歌詞は必要ない気がしたんです。「自分が誰かに何かを届けたい」っていう気持ちは「GIFT」で言い尽くしてしまったんで。

──そこで歌詞自体も「GIFT」と真逆にしようとは思わなかった?

例えば断絶を歌うとかそういうことですか?

──そうそう。社会に警鐘を鳴らすとか。

小林祐介(Vo, G)

あー、僕、世の中に警鐘を鳴らすとか悪態をつくとか、そういうパンク的な精神がまったくなくてですね。ロックンローラー的な態度にまったく興味がない。っていうのに自分で気付いたから。何かに悪態つくのってお人好しというか優しい証拠だなと。

──感情的だし。

うん。そういうことをやりたくなるときもきっと来ると思うけど、今回はどこまでも冷静でいたかった。怒ってるのになぜか目だけは冷静だとか、そういう“ねじれ”みたいなものを描きたかったっていうのはありますね。

──だから歌詞に一人称が登場しないんですね。

「GIFT」が「今、僕があなたにここで伝えるよ」って作品だったとしたら、「Fourth wall」は今でなくてもここでなくても、あなたじゃなくても、言ってしまえば自分じゃなくてもいい。どこでも誰でも、つまり遍在してることについて歌ってる状況にしたかったんです、歌詞に関しては。

「GIFT」と「Fourth wall」は合わせ鏡

──作品を通してのコンセプトみたいなものはありましたか? 1曲目の「Krishna」からしてホラー調ですけど(笑)。

環境音とか入ってるし。1曲目は映画に例えるとタイトルが出てくるときのイメージですかね。で、ラストの「children」でチャイムがキラキラって鳴ってエンドロール。そういう構造を意識しました。

──それは最初から?

曲が出揃って作業してるときに、“合わせ鏡”ってモチーフが自分の中で出てきて。「GIFT」を鏡に映したら反対になる。そういう感覚を曲の並びだったり、歌詞のモチーフや音楽的な構造に忍ばせていったんです。2曲目の「dogma」は向こう(「GIFT」)でいうと6曲目の「GIFT」(曲名)なんですよ。「GIFT」の中で「まだまだこれから」っていう歌詞のあとは歌ってなくて。で、結局どうなの?っていうことについて「dogma」で「これから起こるすべてはお前のせいだし、お前の勝ち取ったものだし、自分で行き着いたところだ。だから引き受けなさい」っていうようなことを歌ってる。

──面白いですね。

だから1曲1曲照らしあわせていくといろいろあるんですよ。「primal」には「Slogan」の歌詞の英訳をわざわざ使ってたり。

「Fourth wall」/ 2013年5月15日発売 / 1890円 / DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT / UKDZ-0145
収録曲
1.
Krishna
2.
dogma
3.
primal
4.
Fiedel
5.
Observer effect
6-I.
Dream of Venus
6-II.
children
THE NOVEMBERS(ざのーべんばーず)

小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2005年から活動をスタートさせ、2007年11月にミニアルバム「THE NOVEMBERS」でデビュー。ライブやリリースを重ねるごとに、そのオルタナティブなサウンドと立ち位置を極め、独自の存在感を見せつける。2012年3月には台湾のロックフェス「MEGAPORT FES 2012」に出演し、同年5月にはファッションブランドLAD MUSICIANのコレクションショーでライブを行うなど、幅広いフィールドで活動している。同年11月に「GIFT」、2013年5月に「Fourth wall」を発表。