ナタリー PowerPush - THE NOVEMBERS

現実と虚構の壁「Fourth wall」を壊すとき

虚構と現実を隔てる壁を壊して

──「Forth wall」というアルバムタイトルはどういう意味なんですか?

例えばマンガの登場人物が読者に対して話しかけるとか、演劇で急に演者がお客さんをいじりだすとか、そういう虚構と現実を行き来してしまう瞬間のことを「Fourth wallが壊れる瞬間」って言うそうなんです。

──つまりFourth wallは虚構と現実を隔てる壁だと。

そう考えると「GIFT」っていう曲で、僕は初めてそれを壊したと思ってるんですね。スピーカーの向こうの相手に「届いてるかい?」って質問したりとか。そうやって壁が壊れる瞬間があるんだなって、そんなことを考えてた矢先に、その状況を指す言葉が存在していて「Fourth wall=第4の壁」って呼ばれてるって知ったんです。で、それがすごく大事なモチーフになった。

──言葉で定義されたことでテーマがさらに明確になったわけですね。

だからこの作品には“僕とあなた”が登場しないんです。映画の中、舞台の上、マンガの中で行われていることをただ見せつける、突きつけるっていう構造にしたかった。この作品の中にFourth wallが壊れないまま存在し続けて、「Dream of Venus」で終わるっていうのが、そもそも描いてた完成形だったんです。

──説明するとアルバムのラストとなる6曲目の前半に「Dream of Venus」があり、6曲目の後半に「children」があって、曲としては1曲になっているという。でも最初は「children」はなかったんですね。

小林祐介(Vo, G)

そうです。Fourth wallが存在する世界のまま終わろうと思ってたんですけど何か腑に落ちなかったんですよ。「Dream of Venus」の途中に出てくるキラキラっていうチャイムはさっきも言いましたけど、要はエンドロールが始まった瞬間で。エンドロールって「あ、これは映画だったんだ」って気付いて現実に帰るための装置じゃないですか。そういうものが自分の作品には必要なんだって気付いたんですよね。この音楽を聴く前と聴いたあとはちょっと何かが違っていて、それがいい変化だったらいいなっていうつもりでやってる。そう考えて「children」の歌詞を新たに書き始めたんです。

──「children」でいきなり穏やかな空気に変わりますよね。

「Dream of Venus」と歌のメロディもリズムセクションもギターのアルペジオも一緒なんですけど、ほんのちょっとした違いだけでこんなに雰囲気が変わるっていう、楽曲のコントラストがきれいだなって。

──それで1曲の中に「I」と「II」という形で「Dream of Venus」と「children」が存在してるんですね。

うん、でも「children」で言いたかったのは「現実の世の中に帰っていきなさい」ってことだけではないんです。映画が終わったあとにいろんな人が劇場から出ていくことを想像するというか。いろんな人が存在していて、いろんな価値観があって、自分もその中のひとつで、それぞれの真理を持ってひしめき合いながら生きている。日常に戻るときに、そういうことをちょっと想像してもらえたらいいなって思うんですよね。

ブンブンとラルクがロールモデル

──ところで小林さんは先日Charaさんのライブにギターで参加しましたよね。長年Charaさんのファンだと公言していた小林さんが「GIFT」を彼女に贈ったことがきっかけだそうですが、まさに有言実行の結果と言いますか。

「こうなったらいいな」って言ってるだけじゃダメなんで。思ってることと言ってることとやってることが一致して、初めてスタートラインに立てる。そこに他人が加担してくれて、それを誰かに届けてくれて、初めて実現するんだなって。そのことを実感してますね。Charaさんと共演したり、acid androidやdipでギターを弾いたり、誰かがライブで共演しようって言ってくれたりするのは、自分でつかみとったっていう自信もありつつ、ご褒美みたいな気持ちもあるんです。思ってること、言ってること、やってることがブレなかったことに対するご褒美。

──THE NOVEMBERSというバンドは今すごく自由に見えますね。両極端な作品を続けて出していることからも感じます。

そうなんです。人の期待に応えようっていう心意気さえあれば、相手の予想をどう裏切ったっていいって思うんです。自由にやり続けて、自分にしかできないことを探して、それでファンの人たちをこっち側に連れてくるぐらいのほうが楽しいよなって単純に思うんですよね。ブンブン(BOOM BOOM SATELITES)とか観てるといつもそう思う。

──Twitterでも彼らの新作「EMBRACE」を絶賛してましたよね。

「守りに入るぐらいなら音楽やめる」って中野(雅之)さんは言ってて、そういう態度を音楽に出してくるじゃないですか。前作の「TO THE LOVELESS」出したとき「こんな完璧なもの出しちゃったらもう終わるしかないんじゃないか?」と思ったぐらいなんですけど、でも「EMBRACE」では「HELTER SKELTER」のカバーやってたりとか、またワクワクさせられて「すさまじいなあ」と思いました。川島(道行)さんが病気になったときでも「やるぜ!」ってムードを見せつけてきたし。ひとつの理想ですね。僕、日本だとBOOM BOOM SATELITESとL'Arc-en-Cielがロールモデルなんですよね。

──それまでの自分たちを凌駕していくのは自分たちしかいないっていう覚悟があって、しかもそれをやるときにちょっと茶目っ気が見えるというか。

そうなんですよね。「これやったら面白いだろう」とか「これやったら自分が興奮する」とか、そういうことがモチベーションになってる気がするし、そこにいろんな人を巻き込むだけの魅力があるから実現していくっていう。だから僕らもただいい音楽作れて、知る人ぞ知るってとこで終わっちゃうんじゃなく、もっとたくさんの人に知ってもらった上で嫌いとか好きって状況になったら一番うれしいですね。だから誤解や偏見をそのまま楽しめるような広がり方が実現できたらいいなって思います。

──じゃあいつでもどこでも出る用意はあるぜってことで。

いやもう、ホントに。お楽しみはこれからだってつもりでやってますから(笑)。

「Fourth wall」/ 2013年5月15日発売 / 1890円 / DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT / UKDZ-0145
収録曲
1.
Krishna
2.
dogma
3.
primal
4.
Fiedel
5.
Observer effect
6-I.
Dream of Venus
6-II.
children
THE NOVEMBERS(ざのーべんばーず)

小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2005年から活動をスタートさせ、2007年11月にミニアルバム「THE NOVEMBERS」でデビュー。ライブやリリースを重ねるごとに、そのオルタナティブなサウンドと立ち位置を極め、独自の存在感を見せつける。2012年3月には台湾のロックフェス「MEGAPORT FES 2012」に出演し、同年5月にはファッションブランドLAD MUSICIANのコレクションショーでライブを行うなど、幅広いフィールドで活動している。同年11月に「GIFT」、2013年5月に「Fourth wall」を発表。