曽我部さんとは仲良くなっちゃいけないと思ってた
──そして「未知なるファンク feat. 曽我部恵一」。NONA REEVESと曽我部さんの交流はいつ頃からあるんですか?
西寺 知り合ったのは大学生のときなんで、かなり前なんです。ちょうどBlurとOasisがケンカしている頃(1995年前後)なんだけど、下北沢のライブハウスに後のPENPALS、pre-school、WINOあたりのメンバーが出始めて、その先輩格としてサニーデイ・サービスやElectric Glass Balloonがいて。僕もある種の憧れを持っていたんだけど、曽我部さんとは仲良くなっちゃいけないと思ってたんです。ちょっとキャラが被るというか、僕も曽我部さんも地方から出て来て「東京でやってやる」という野心を持っていたし、サニーデイに影響を受けて、はっぴいえんどみたいな感じでやってもダメだなって。新宿のタワーレコードでサニーデイの「恋におちたら」(1996年)を試聴したとき崩れ落ちそうになったんですよ、あまりにもよすぎて。ホントに天才だと思ったし、今だにアレを超える試聴体験はないですね。その後はなるべく聴かないようにしていたから、あんまり知らなかったんですよね、サニーデイの曲は。
──影響を受けるのはマズイと。
西寺 そうそう。曽我部さんと普通に会って話をするようになったのは、ここ10年くらいですから。2010年には復活された小沢健二さんのライブを観に仙台まで一緒に行ったし、最高祭(2017年3月に赤坂BLITZで行われた「赤坂ノーナ最高祭!!!」第一夜)にも出演してもらいました。
奥田 サニーデイが去年出した「DANCE TO YOU」っていうアルバムもすごくよかったじゃないですか。あのアルバムを聴いて「今なら混じれる」というか、波長が合ってきた気がして。
西寺 グルーヴィなアルバムだからね。「未知なるファンク」は曽我部さんが作ってくれた原型を僕とノーナで広げたんです。
奥田 レコーディングもすごかったですね。ボーカル録りも一発目から最高で。
小松 すごく男らしいボーカルだし、「曽我部さんの歌だな」としか言いようがないんですよ。「郷太の歌とうまく混じるのかな?」と思ってたけど、ライブっぽい録り方でやったらうまくいきましたね。
西寺 「コーラスを入れないで、ボーカル1本にしよう」とか、いろいろ意見もくれて。基本的にはノーナの演奏を信頼して、任せてくれたんですよ。たぶん楽しんでくれたんじゃないかな。
お互いに20年のキャリアがあるからできたコラボ
──さらに原田郁子さんを招いたバラード「記憶の破片」も。これも素晴らしい曲ですね。
西寺 郁子ちゃんも彼女が十代の頃から知ってるんだけど、曽我部さんとの関係にちょっと近いと言うか、しばらく連絡を取ってなかったんです。ネットのニュースで動向を知るくらいのレベルだったんだけど、アルバムの会議で「この曲は女性シンガーとのデュエットがいいんじゃないか」という意見が出て。いろいろ考えたものの、そのときはすぐに思い浮かばなかったんですよ。でも、ソロシンガー以外のボーカリストまで広げて考えたら、すぐに「郁子ちゃんがいい」と思って。彼女はクラムボンでのバンドのイメージが強いから、最初は名前が出てこなかった。で、彼女のスケジュールを確認したらノーナのアルバム締め切りギリギリのタイミングなら数日間空いている。それで「やりたい!」ってことになったんです。だから全然郁子ちゃんの責任ではないんだけど、「この曲が間に合わなかったら、アルバムが出ない」ってことになってしまって(笑)。
奥田 プレッシャーを与えてしまいました(笑)。しかもこの曲、シンプルなハモリじゃないですよ。メインのメロディがどっちなのかわからなくなるくらい入り組んでいて。
小松 でも、歌はやっぱりすごかったです。曽我部さんと同じで、歌った瞬間にしっかり顔が見えると言うか。
西寺 さらに歌詞も一緒に書いてもらったんですよ。郁子ちゃんが「歌詞も書きたい」って言ってくれて、彼女がノート1冊に書きためた言葉から、僕が「記憶の破片」っていうワードを見つけたんです。すごい集中力だったし、自分だけでは行けない領域まで行けた感覚がありますね。
小松 お互いに20年のキャリアがあるからできたことだと思いますね。昔だったらやれなかったと思う。
西寺 うん。「記憶の破片」が最後のレコーディングだったんだけど、完成の日にはスタジオに10人以上集まって。たくさんの人が関わった「MISSION」というアルバムの制作を象徴していたと思いますね。
単にやりたいことをやるだけではなくて、やるべきことがあるんじゃないか
──「MISSION」というタイトルについては?
西寺 いくつか理由があるんですよね。まず、今年の春に早稲田大学のエクステンションセンターで80年代のポップシーンに関する講師をやったんです。そのときに「こういうことを話したり書いたりするのも自分の任務かも」と思って。あとはやっぱりバンドのことですね。バンドがなくても小松、奥田はプレイヤーやアレンジャーとして生きていけたと思うし、僕も一生懸命がんばれば音楽の仕事で成功できた自信があって。でも、こうやってNONA REEVESというバンドで活動できているのは相当ラッキーだと思うんです。そこにはきっと何かしらの任務、使命があるんじゃないかなって。そこから「MISSION」という言葉を思い付いたんですけど、調べてみるともともとはキリスト教の用語なんですよね。ミサを終えた人が、どんな困難があっても遠くまで教えを伝えにいくことを指していて。
──大切な教えをほかの人に伝道するという意味なんですね。
西寺 アルバムを作るときも、単にやりたいことをやるだけではなくて、やるべきことがあるんじゃないかと思って。それは洋楽と邦楽の架け橋になることかもしれないし、上の世代と下の世代をつなぐことかもしれないし。もう一度メジャーで出せるというチャンスを与えてもらったんだから、いいと思う音楽をちゃんと提案したいんですよね。「MISSION」には天職という意味もあるんですよ。小松を見てると「この人にとってドラムは天職やな」って思うし。
小松 (笑)。
西寺 それは音楽のことだけではないんですよね。「記憶の破片」で「なすべきことは ほらこんなにも多い」と書いてるんだけど、仕事だったり子育てだったり、やるべきことが増えてくる世代ですから、僕らは。誰でも日々の暮らしの中で、なすべきこと、ミッションがあるんじゃないかなと。
奥田 私利私欲とか自己満足の対極にある言葉ですよね、「MISSON」は。
小松 今回のアルバムは関わってくれた人も多いし、「みんなで結果を出しましょう」というミッションもあるし。
奥田 「MISSION」というと厳かな印象もあるけど、ジャケットのデザインが全然違うのもいいですよね。
──イラストレーターのさくらいはじめさんが描いたジャケット、めちゃくちゃポップでカワイイですよね。
西寺 そうなんですよ。僕が大阪でプリンスのイベントでDJしてるときに、さくらいさんがお客さんとして遊びに来て、イラストを渡してくれて。アルバムのジャケットをイラストにするというアイデアをくれたのはワーナーの若いA&Rなんだけど、「そういえばピッタリのイラストレーターがいる」と思い出したんです。イラストはブックレットにも使わせてもらっていて、作品集みたいになってます。配信やストリーミングサービスがメインになってますけど、CDも手に取ってもらいたいので。
──2017年を代表するアルバムの1つになると思うし、ぜひ売れてほしいです。
西寺 それはもう、聴いてくださる皆さんのミッションにしていただいて(笑)。
奥田 みんなに知ってほしいですからね、もちろん。
西寺 うん。長く売れてほしいという気持ちもあるし。
小松 いいアルバムができたので、ここからクッと上げていきたいですね。
- NONA REEVES「MISSION」
- 2017年10月25日発売 / Warner Music Japan
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[CD]
3240円 / WPCL-12781
- 収録曲
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- ヴァンパイア・ブギーナイツ
- Sweet Survivor
- Danger Lover feat. いつか(Charisma.com)
- NEW FUNK
- NOVEMBER
- 未知なるファンク feat. 曽我部恵一(サニーデイ・サービス)
- 大逆転
- 麗しのブロンディ
- 記憶の破片 feat. 原田郁子(clammbon)
- O-V-E-R-H-E-A-T
- Glory Sunset
- NONA REEVES全国ツアー
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- 2017年10月28日(土)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE ※SOLD OUT!!
- 2017年10月29日(日)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE ※SOLD OUT!!
- 2017年11月3日(金・祝)福岡県 DRUM SON
- 2017年11月11日(土)愛知県 ell.FITS ALL
- 2017年11月12日(日)大阪府 Music Club JANUS
- 2017年11月18日(土)北海道 Sound Lab mole
- NONA REEVES デビュー20周年記念渋谷ノーナ最高祭!!! 第三夜
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2017年11月25日(土)東京都 TSUTAYA O-EAST
出演者NONA REEVES / クラムボン - ノーナとHiPPY CHRiSTMAS 2017
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- 2017年12月9日(土)大阪府 Music Club JANUS
- 2017年12月17日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- NONA REEVES / ノーナ・リーヴス
- 西寺郷太(Vo)、奥田健介(G, Key)、小松シゲル(Dr)の3人からなるポップソウルバンド。1995年に結成し、1997年11月に「GOLF ep.」でメジャーデビュー。初期はギターポップ色の強い楽曲を得意としていたが、1999年のメジャー2ndアルバム「Friday Night」を機にディスコソウル的なサウンドを追求しはじめる。その後も精力的に活動を続け、コンスタントに作品を発表。ポップでカラフルなメロディと洗練されたアレンジによって、国内で他に類を見ない独自の立ち位置を確立する。西寺は文筆家としても活動し、80'sポップスの解説をはじめとする多くの書籍を執筆。さらにメンバーは3人とも他アーティストのプロデュースや楽曲提供、ライブ参加など多岐にわたって活躍中。2017年3月にメジャーデビュー20周年を記念したベストアルバム「POP'N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES」、10月に20周年記念作品第2弾となるオリジナルアルバム「MISSION」をリリースした。