にしな「日々散漫」インタビュー|音楽や世界、そして自分自身と向き合って生まれた21曲 (2/2)

もしも私がアフロビートで歌ったら

──あと「婀娜婀娜」や「in your eyes」も歌の幅が広がったことを実感しました。

自分の家で歌を録ることが増えたからかもしれないです。「婀娜婀娜」はサビの後ろに変な音をいっぱい入れたり、巻き舌で歌ったり、合いの手を入れては聴いて、入れては聴いてという作業を繰り返す中で、これまでとは違うアプローチを目指していきました。

──「婀娜婀娜」はYaffleさんのアレンジですが、ラテンっぽくて面白いです。

「私がアフロビートで歌ったらどうなるんだろう」という気持ちがずっとあったので、Yaffleさんに「アフロビートをやってみたいんですよね」とお伝えしたらスタジオで一緒にたたきを作ってくれて。それを持ち帰って完成させました。

にしな

──トラックはアフロビート調ですけど、タイトルや歌詞は和のテイストが強いですよね。

意識したわけではないですが、このビートに自分が言葉を乗せるとしたらこうだな、というイメージを表現したら自然とそうなったんです。この曲のタイトルが今回のアルバムの曲の中で一番悩みました。歌詞の中にはタイトルにできる言葉はないと思ったけど、かと言ってほかに「これだ」という言葉も見つけられなくて。美しい様を意味する言葉を探している中で、「婀娜やか(あだやか)」という言葉を見つけて、字面はちょっと恐ろしそうなのに、美しくて妖艶という意味が私のこの曲に対するイメージと一致すると思いました。アルバムの曲名を並べたときにインパクトが欲しいと思ったので、2個並べて「婀娜婀娜」にしたんです。

──歌詞には「歌舞伎町」というワードも出てきますが、浮かんだ景色はあったんですかね?

カオスですよね(笑)。ビートのノリ感を重視して、語感のハマり方を大切に書いていきました。「歌舞伎町」も音としてのハマりがよくて選んだけど、あのいろんな人が入り混じって混沌としている空間はこの曲に通ずる世界観だと思いました。音先行で書いていって、そのあとに世界観を整えていきましたね。

アルバムの中でトライしたこと

──ご自身にとって今回のアルバムで一番のトライはなんだったと思いますか?

「婀娜婀娜」のサビの後ろで変な合いの手を入れたり、ボーカルエフェクトをかけて声質をざらつかせたり、歌の面でトライ&エラーすることが増えましたね。自分の声にプラスの要素を加えるアプローチが多くなった気がします。あと、自分ひとりで録った歌も増えました。1年前くらいから、自分で録ってみる期間がしばらく続いて、最近またスタジオに戻ったりしています。なのでこのアルバムは自分で録ったものとスタジオで録ったものが入り混じってますし、曲によっては両方をつなぎ合わせたものもあります。

──自分で録ることで曲の向き合い方に何か変化はあったんでしょうか?

自分で録るといくらでも歌い込めちゃうんですよね。人目も時間も気にしないし、よりリラックスして歌える。その空気感のほうが合う曲もあって、スタジオ以上に自分の声を聴いては歌って聴いては歌ってという作業を繰り返すので、こういう音を鳴らしたいというイメージには近付いていくと思います。

──「わをん」のアグレッシブな歌のアプローチも、だからこそ生まれたわけですね。

そうですね。何も気にせず1人で金切り声で歌ってましたから(笑)。

にしな

──DISC 2の1曲目に収録されている「今日も今日とて remix」は、Instagramのブランドキャンペーン「これもなにかのきっかけ」に合わせて書き下ろした15秒の音源がもとになっているそうで。

「今日も今日とて」をアルバムに入れることになったとき、曲の尺を伸ばしてフルバージョンを制作する話もあったんですが、自分としては15秒で完結させるために作った曲だったので、ただ伸ばすのは違うかなと。前からリミックスには興味があったし、アルバムでチャレンジしたいと思ったのでリミックスバージョンを作ることにしました。誰にリミックスしてもらうかを考えたとき、以前「U+」(2021年リリースの配信シングル)という曲でご一緒して、今も仲よくさせてもらっているPARKGOLFさんなら絶対素敵なものができると思ってお願いしました。DISC 2の1曲目がハマると思ったので、それをお伝えしたうえで「あとは好きにやってください」と。

──歌詞は、いろんなことがどうでもいいと書いたあとに「ラブリーデイ エブリーデイ 謳歌中‼」というフレーズで締めくくられていて。この曲にもまたどこか達観した全肯定ぶりを感じました。

この曲は自分が女子高生だった頃を思い返しながら書きました。「怒られたー!」とか言いながら宿題をやったり、部活のために急いだり、泣いてたと思ったら急に笑うみたいな時期だったなって。いろいろあったし、わちゃわちゃしてたけど楽しかったよねっていう。渦中はいっぱいいっぱいだったかもしれないけど、振り返ったら「楽しかったな」という気持ちがあるからこそ書けたのかもしれないです。

難しいことを考えるより楽しくやろう

──その次の「クランベリージャムをかけて」では、クランベリージャムをいろいろなもののメタファーにしているのが面白かったです。

この曲を書いた時期は犬と一緒に目を光らせたアーティスト写真を撮りたいという願望があって、いろいろ調べていたら、フラッシュで目が赤く光る現象を「クランベリーアイ」と呼ぶことを知ったんです。そこからクランベリージャムの曲を作りました。

──その次が「plum」で。

「クランベリージャムをかけて」に引っ張られてますよね(笑)。小さい頃にプラムを食べて、「種のそばが酸っぱい!」って反応をしたら、「これがおいしいのよ」と言われて戸惑った記憶を思い出しながら書きました。

──お話を伺っていると、本当にそのときそのときに浮かんだことを自由に曲に反映させているんですね。

本当そうですね。遊びながら作ったような曲が多いです。

──デビュー当初は「こういうふうに見られたい」という意識が強くあったと以前おっしゃっていましたが、そういったしがらみから解放されて、より楽しく曲作りができるようになったんですかね。

そうですね。活動を始めたばかりの頃は右も左もわからなくて、レコーディングをすること自体初めてでしたし、自分が出したものがどういうふうに見られるか、もしくは自分という世界観をどうやって作っていかなきゃいけないかっていうことをすごく考えてたんですが、悩んだところでそもそも私はあまり器用じゃないということを思い出して(笑)。難しいことをたくさん考えるより、楽しくやろうっていう気持ちになっていきました。それはある意味、これからも曲を作っていくぞという決意なのかもしれないです。どうせ作っていくんだから、今思ってることを好きに書いてみちゃおうっていう。遊び半分でもいいんじゃないかなという軽やかさが今の自分には合ってますね。

にしな

──軽やかに自由度高く曲を作っているけれど、ほかに目を向けられる余裕が生まれたことで、歌詞の視点がとても広くなっていますよね。そこにはご自身の変化がそのまま出ていると思いますか?

そうですね。でも逆に「私、今苦しいです」のような、恋愛の渦中みたいな曲って10代や20代前半のときのほうが生々しく書けてた気がするんです。今もそういうアプローチの曲を書きたいですし、過去の自分への憧れがあります。歩いてきた結果、見える範囲が増えていったのはいいことだと思ってますが、過去の自分から学ぶこともやり続けたいなと。大人になってからは、つらい出来事があったとしても、どんどん器用に隠せるようになってきてる気がしてて。つらいときはそのままつらい曲を書きたいですし、そういう曲を聴くのは好きなので、生々しい曲も書きたいですね。

──どうなったらそういう生々しい曲が生まれてくると思いますか?

うーん。今のモードとはギアチェンジをして、そういう曲を書く前提で書いてみてもいいかもしれないですね。

──生々しい曲も楽しみにしています。

ありがとうございます。がんばります(笑)。

──3月29日にこのアルバムを携えたツアー「にしな ツアー2026『日々散漫』」が始まります。どんなツアーにしたいと思っていますか?

こんなに新曲がある状態で挑むライブはとてもひさしぶりなので、もちろん緊張はしますが、せっかく観に来てくださる方と同じ空間にいられるので、一緒に楽しい時間を過ごせたらいいなって思います。曲たちも一緒に育てられたらうれしいです。どうやってライブで歌うか試行錯誤する曲もありますし。音を共有して結果的に素晴らしい日になったらいいなって。

公演情報

にしな ツアー2026「日々散漫」

  • 2026年3月29日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2026年4月4日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2026年4月5日(日)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2026年4月12日(日)北海道 Zepp Sapporo
  • 2026年4月18日(土)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2026年5月14日(木)東京都 Spotify O-EAST(※追加公演)
  • 2026年5月23日(土)宮城県 Rensa
  • 2026年5月30日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2026年6月6日(土)石川県 REDSUN
  • 2026年6月13日(土)香川県 高松オリーブホール
  • 2026年6月20日(土)熊本県 熊本B.9 V1

プロフィール

にしな

1998年生まれ、東京都出身。優しくもはかなく、中毒性のある歌声で注目される。「ランデブー」「真白」「夜間飛行」など、2020年10月から6カ月連続で配信限定楽曲をリリースし、「スペースシャワー列伝」が注目の新人を選出する「SPACE SHOWER RETSUDEN NEW FORCE」やSpotifyのニューカマープレイリスト「RADAR:Early Noise 2021」に選ばれた。2021年4月に1stアルバム「odds and ends」でワーナーミュージック・ジャパンからメジャーデビュー。2022年7月には2ndアルバム「1999」を発表した。2025年2月にNHKドラマ「リラの花咲くけものみち」の主題歌「つくし」を発表し、6月にワンマンツアー「MUSICK 2」を開催。2026年3月に約3年半ぶりのアルバム「日々散漫」をリリースした。

衣装協力
ニット(20540円) / MINJIENA
リング(4730円)、ネックレス(6180円) / NFF(HANA Korea
パンツ(14251円) / MILLO WOMEN(HANA SHOWROOM
その他 スタイリスト私物