坂倉 これは完成まで一番苦労したね。
古村 「OYSTER -EP-」の制作時からあって、メンバー全員が気に入ってたんだけど……。
光村 完成するまで2年くらいかかった(笑)。自分たちの中では“人力ダンサブル”な一面を出そうと意識して作りました。5分くらいのバージョンもあったんですけど、ハウス的な要素を取り入れようとすると同じフレーズをループさせる必要が出てきて、やればやるほどダレてきて。で、気付けば2分50秒くらいになったという。
──アルバムの中で一番ギターロック的なアプローチを出した曲という印象がありました。
光村 ああ。本来、シンセで鳴らすべきフレーズをギターの音をいくつも重ねて作ってますね。自分たちとしてはとても今っぽい曲だなと思ってます。
──タイトルを見たときに3分の曲なのかな?と思ったんですが、蓋を開けてみたら違いました。
光村 そう、これは「なんで3分じゃなきゃいけないの?」という曲なんです。よく「名曲は3分台」って言われてるのがきっかけで、自分にとっての3分の価値ってなんだろうなと考え始めて。それで意外と3分あればなんでもできるなと気付いたんです。「もうあと3分しかない!」と思ってる人がいる一方で、「まだ3分あると思ってる俺」みたいな。かなり明るい曲調ですけど、この曲を通して“3分の価値”を考えてもらえたらと思って作りました。
──なるほど。
光村 まあ、とにかく坂倉がですね、ライブの開演まで3分しかないっていうタイミングでトイレに行き始めるのが俺は気になってて。
坂倉 3分前だけじゃないですよ。15分前にもいくし……ルーチンなんですよ。
対馬 わははは(笑)。
古村 そう言ってるみっちゃんは、新幹線の停車時間が3分あったら立ち食い蕎麦を食べにいくからね。
光村 3分あれば、名古屋駅のホームのきしめんが食べられる!
坂倉 人の数だけ「3分」があるという曲です(笑)。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 これは4月18日のACO Touches the Wallsの福岡公演のライブ音源ですね。本当はスタジオでちゃんと多重コーラスを入れて録る予定だったんだけどレコーディングが間に合わず……とうとうカレキーズ(古村、坂倉、対馬によるコーラス隊の総称)に出てきてもらうことになり、結果的に「カレキーズのテーマ3」みたいな仕上がりになってしまいました(笑)。
──これはとてもしっとりしたラブバラードですね。「ulala?」とは違う方向で、アルバムの中で異彩を放ってます。
光村 今回のアルバムにはもともとあまり横ノリの曲を入れないようにしようというルールがあって、「別腹?」も当初はOasisの「Champagne Supernova」的なスケール感のある音だったんです。でも全体の並びを見たときにどうもしっくりこないという話になって。思い付いたのがミディアムテンポのバラードのアレンジだったので、メンバーにがんばってプレイしてもらいました。横ノリの曲はなしというルールを破って作りましたね。
──タイトルが「別腹?」だし、いいんじゃないでしょうか。
対馬 あ、その理由はいいですね。
古村 確かにアルバムの中でも“別腹”的な曲だわ(笑)。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 これはアレンジも“別腹”ですね。本来、ACO Touches the Wallsとしてはボサノヴァは禁じ手なんですけど、その禁じ手を使ってる。
対馬 アコースティックバージョンをボサノヴァにアレンジにするって定番だし、やりやすいから。
光村 何も考えずにやってるとすぐボサノヴァになっちゃうんですよ。でも、この曲は別腹ってことでお許しを(笑)。
──この曲はストリングスが肝ですね。
光村 この曲もいろんなバージョンがあって、ポップで軽やかなアレンジもあったんです。ただ、イントロやAメロはブラックミュージック寄りで、そこはUKのファンクロックの要素を出したかったので、そこに引っ張られていったら収集がつかなくなって結果的にクレイジーなことになっちゃった。浅野くんも最初は「ストリングスはなしだったらなしでいいです」とか言ってたのに、バイオリンを入れ始めたのをきっかけに、いつの間にかビオラも買ってきて弾いてるし。
──ストリングスを筆頭にとにかく要素が多いですよね。展開も激しいし、壮大なロックオペラのような。
古村 一切引き算しなかった結果ですね。
対馬 盛り盛りのサウンドです。
光村 さらにマスタリング前日にコーラスを足して。スタッフにはめちゃくちゃ怒られましたけど(笑)。悪あがきで録ったコーラスも聴いてほしい。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 NICO版とは逆にすごくシンプルにしました。もともとさわやかなメロディだったから、明るい気持ちで作ったらどうだろうと思ってアレンジしましたね。でも、俺ららしいというか、どうしてもおしゃれなアレンジにならない(笑)。泥臭くやんちゃなサウンドになりました。
光村 「18?」がアルバムの表番長なら、裏番長的な曲がこの曲ですね。今回のアルバムに入っている曲の中で、メンバーに一番自信を持って聴かせていたのは「bless you?」だったんです。
対馬 俺もアルバムの代名詞的な新曲だと思います。メロディやサウンドが描く景色に、今のNICOのモードが表現されている。そういう意味で全員一致でいいと思ったし。
光村 あと、最後に入れた理由が一番新しい曲だったからなんです。だから聴き終わったときに、俺らのモードが一番伝わるというか。
──スケール感のあるサウンドも印象的でしたが、結論めいたことがない歌詞も印象的でした。そういう意味で「QUIZMASTER」という作品を象徴しているところもある。
光村 うん。そうですね。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 これは浅野くんと2人で録った音源です。NICO版は堂々とした音なんですけど、ACO版はアプローチを変えて。自分の声も楽器の1つだと思って歌い方を変えています。それがすごくはっきり出てるので比較してみると面白いんじゃないかな。歌ってるときのイメージは、ロンドンの街の片隅。まあ、ここまでヘナヘナな歌い方をしたテイクはこれまでなかったと思いますので、そこも聴きどころです(笑)。
パーソナルな一面を凝縮した
──完成したアルバムを総括するとどうですか?
光村 この3年の活動を集約できた作品という感じです。アルバムリリースと同時期にツアーが終わっちゃうので、聴いたうえでライブを観たいという人もいるかもしれないけど。ただ、これだけライブが重要視されているご時世に反して、「QUIZMASTER」に関しては作品でしか残せない音を表現できたと思ってます。かなりパーソナルな気持ちを詰め込んだので、そこを楽しんでもらうのも乙なんじゃないかな。
──ところで今年はバンド結成15周年ですね。
対馬 そうらしいです。
──デビュー10周年のときもそうでしたが、NICOはあんまりアニバーサリーを祝うタイプのバンドではないですよね。
古村 自分たちとしては、「あ、そうだったかな?」くらいなんです。
光村 あんまり年で節目を感じない。むしろアルバム1枚作り終えたときのほうが節目感があるんです。それに毎回アニバーサリーを祝ってたらおめでたい曲しか並ばないじゃない? 「それでいいの?」っていうことを“QUIZMASTER”の俺としては世の中に問いたい(笑)。
──相変わらず一筋縄ではいかないようで……それがNICO Touches the Wallsらしいといえばらしいですが。
光村 今後もこんな感じだと思います(笑)。
ツアー情報
- NICO Touches the Walls TOUR "MACHIGAISAGASHI '19" -QUIZMASTER-
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2019年6月8日(土)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
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2019年6月9日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
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2019年6月8日(土)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
ACO Touches the Wallsバージョン解説
対馬 イントロから「コンドルは飛んでいく」のイメージで作ったサウンドですね。
光村 それを象徴する冒頭の音は、鍵盤リコーダーみたいな形のアンデスという楽器の音です。実はアコースティックアレンジで曲を作るようになった5、6年前に買って、どこかで使えるんじゃないかと思ってたんだけど、どうやってもアホっぽい音になっちゃって。お目見えすることがなかった。今回は無理して使った結果、NICOバージョンと比較すると、かなりほのぼのしたアレンジになりました(笑)。