──さてここからは1曲ずつ皆さんに解説をお願いできればと思います。まずはオープニングを飾る「18?」から。
坂倉 この曲はみっちゃん(光村)が懐刀のように大切に抱えていた記憶があるね。
光村 自分たちがこの3年間で目指したものを具現化したような曲です。俺が最初にみんなに渡したデモからあまり大きく変わってない。そしてアコギとビートとコーラスが軸になっているから、フルくん(古村)を一番困らせた曲でもある。
古村 デモ段階のアコギと歌だけで十分カッコよかったから、俺が100%の力でギターを弾くと曲の方向性としては違うものになってしまう。ギターを重ねたり、いくつかパターンを作ったんだけど、最終的にはビートに寄った曲になりました。
光村 こういう音像の曲をやりたいという話をしていたときに、フルくんが苦戦することはわかっていたんです。だからフルくんが悩んでいる間に、俺が大量にコーラスを録って。
対馬 今までとは逆で、ギターの居場所がどんどんなくなっていった(笑)。
光村 この曲ではロックバンドの持つ“人力”の部分を表現したくて。今は同期もあるし、機材も増えたし、バンドもいろんな音が出せるようになってると思うんです。それでも声は一番強い楽器だし、替えが利かないものだという認識がある。例えばコーラスを誰がやるかによって曲の印象が変わりますよね? 自分たちにしか作れない音を、声を軸に作りたい気持ちがあったんです。最初はアルバムの1曲目でいいのかな?と思ってたけど、結果的にアルバムを象徴する曲になったと思います。
──歌詞は対馬さんとの共作です。この曲に限らず、今回のアルバムの歌詞は韻を踏んだものが多いですよね。どれも言葉の乗せ方やリズム感が面白かったです。
光村 めちゃくちゃ大変でしたけど、こだわりましたね。例えば「18?」はゴスペル調のノリなので、そもそも日本語が合わないんです。だから日本語を聞き取りやすいメロディに変えたり、いくつかパターンを試したんですけど、結局最初のメロに戻ったというエピソードがあります。
対馬 「どうして夢を見るの?」というのが一番のテーマで、逆にそれを歌ってしまったあとの言葉が出てこなくてみっちゃんは悩んでましたね。そこで、俺の目線で客観的に手を加えて。「こういうふうにみっちゃんが歌ったら響くと思う」と意見を出しながら、2人で作っていきました。
光村 今回のアルバムの歌詞は、俺が10歩くらい進んでしまったところを対馬くんが7歩くらい戻すみたいな感じでした。
光村 2年前のツアーでも披露していた曲ですね。
坂倉 今回のツアーでも披露してるんだけど、「あ、あの曲だ」とピンときてる人もいたな。
古村 でも、ギターもドラムもアップデートしたので、よりカッコよくなってると思います。それと「TWISTER -EP-」の匂いが少し残ってる曲だよね。
坂倉 アルバムの中では一番パワーがある曲なんですよ。今回のアルバムの曲はほぼ同時進行で制作していったんですけど、「特にこの曲の破壊力はすごいね」とか言いながら録ってました。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
古村 ACO版になるとかなりサウンドが軽くなってます。聴きどころはバンドバージョンとのギャップです。
対馬 派手ではないけどスリリングさを出すことを一番のテーマにしてたね。
光村 これまで何度も自分たちの曲をアコースティックでアレンジしてきましたけど、過去最大級に音数が少ないんです。リフがメインの曲だからとことん音数が減らせるというのもあって、極限まで減らしました。
──「マカロニッ?」は坂倉さんのベースが軸の曲ですね。
坂倉 これは弾くのが大変でした……ウォーキングベースを弾いてるんですけど、テンポが速いし、体になじませていかないとうまく弾けなくて。普段、ウォーキングベースを弾くときは考えながら弾いてるのに、この曲については考えてたら置いていかれてしまうので毎日必死で練習してました。
光村 最初は全然違うアプローチだったんですけど、どこかで聴いたことがあるような感じだったんです。そこで「サイコビリーにしたらどうか」というアイデアを試してみたら、そこから曲調がガラッと変わっちゃった。2ビートの曲は「THE BUNGY」からやっていたし、なじみはありますから。NICO流サイコビリーの最新形というか。
古村 アルバムの中で一番ジェットコースター感があるね。
光村 まあ、ジェットコースター感のある曲は俺たちの十八番だと思ってるんだけど、聴いてる人たちを振り回すどころか、振り落としていくんじゃないかと不安になるレベルです。
──歌詞は「18?」に続いて光村さんと対馬さんの共作です。
対馬 勢いがある曲調だから、シンプルに、だけど今まで使ったことのない突き抜けるような言葉を使うことを意識して。そのうえで自分なりに世の中に対する疑問みたいなものも盛り込みました。歌メロのリフレインが多かったので、うまくハマる言葉選びが難しかったです。
光村 ノリ勝負みたいな部分があったね。こういう曲だから、対馬くんがあらかた作ってくれた歌詞に対して、対馬くんがふざけきれないところを俺がふざけるみたいな感じだった。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 歌と演奏を一緒に録ったんですけど、テンポも速いし、歌も早口だし、大変でした。ただオケと歌を別に録ると、スリルとか演奏してる楽しさがリセットされる感じがあるんです。で、一緒に録ることで独特のスリルと質感が音に出る。なんでこんな歌い方しちゃったんだろうっていうのもあるけど……とにかくハイスピード。歌の“速弾き”みたいな曲ですね。
──これは今までのNICOにはなかったタイプの曲ですね。80年代のダンスミュージック寄りのアプローチと、いなたい音色が新鮮でした。
光村 こういうリズムの曲があってもいいなと思って作った記憶があります。ただ当初は、アルバムの収録曲も決まってないし完成は後回しになるだろうなと思っていたんです。でも、アコギと歌だけのデモを3人に聴かせたときに「これいいじゃん」と言われて。
坂倉 なんか光ってたんだよ。
古村 パワフルだったり力強い曲が多かったから、ちょっと抜けた感じがいいなと。みっちゃんの今の歌の表情にも合ってたし。
光村 あとは東洋感というのがキーワードとしてありましたね。アジアンテイストの曲ってやってこなかったし、取り入れたら面白そうだなと。ただ作っていく中でディスコっぽい要素が強くなって、イメージしてた東洋の香りが消え始めたから「ギターソロだけは頼む!」ってフルくんに投げたんです。細野(晴臣)さんの「泰安洋行」を聴いてみて!とか言ってね。
古村 そこに対するみっちゃんのこだわりは強かったね。東洋感が足りないとか、ニュアンスが違うとか言われていろいろ考えたなあ。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 これはベースと歌をメインにして作りました。今までベースと歌で作る曲はあまりなかったのでけっこうスリリングでした。あとは最初に出だしの音数を少なくしたいという話をして、なんとなくスタジオで口でパーカッションのように音を出してたんです。
古村 これレコーディングしたの深夜だったよね……。
光村 そう。アレンジの方向性が決まってきたところで、スタジオに持ち込んでいたグロッケンのフレームをフルくんが叩き出して、「場所によって音が違う!」とか言い始めたんです。その音をそのまま採用したり。
古村 深夜のテンションじゃなかったらあんなところ叩いてない。
光村 普通のテンションだったら作れなかった深夜ノリの音になってると思います。
光村 アルバム中一番陽気で、ノリがいい曲です。
古村 “対馬印”の歌詞も特徴だね。
光村 俺のモードが「18?」や「bless you?」、「2nd SOUL?」で表現されているようにディープな気持ちだったから、あっけらかんとした歌詞を書ける気分にまったくならず。
対馬 俺が明るい部分を担ったというか。曲調が楽しいのでそれに引っ張られました。もともとみっちゃんが鼻歌で「なんちゃらガール」って歌ってて、その響きが面白かったんです。そこで自分にとっての女の子に対する疑問……具体的には「なんで女の子はいつもダイエットしているのか」というのが浮かんで。それをひと言でまとめたのが「サラダノンオイリーガール?」です!
光村 最初、「こんな感じどう?」ってメールが来たときに、こりゃあ俺には作れないなと(笑)。対馬くんがポップでいてくれてよかったなと思いました。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 今回のアルバムはラテン系のアレンジをACOバージョンでやりたいと思ってたんですけど、結果的に名残が残ったのがこの曲くらい。スタジオで浅野くんにピアノを弾いてもらった瞬間にグッと華やかな感じになったのでよかったです。締めの「ウー! ハッ!」という掛け声は対馬くんが入れてくれました。そこを含めて聴きどころです。
ACO Touches the Wallsバージョン解説
光村 The Beatlesの「Twist and Shout」のように、ジョン・レノンばりの声で歌ってます。もう連チャンで歌入れしていたので声がガラガラで。改めて聴いたけど、この声は二度と出せないですね。そういう意味では再現不可能な歌声が聴きどころかな。