ナタリー PowerPush - NICO Touches the Walls
手をたたけ! 体を張れ!? NICO流サマーアンセムの舞台裏
楽しそうだったから全員即決だった
──そんなストレートでポップな楽曲の世界は、PVでも表現されています。全員がワイヤーでつるされて動き回るというかなり楽しいことになってますが。
光村 いやあ、あれは撮影中にメンバーの素が出ましたね。カッコつけてない僕らが一番出た映像というか。普通はバンドマンって楽器を持ったら、カッコよく見えるもんなんですけど、楽器を持っていても面白くなっちゃってるという。
──(笑)。宙づりになるというアイデアはどこから生まれたんですか?
光村 監督の関和亮さんが持ってきたんですよね。「曲のイメージに合わせて、今回ちょっと飛んでみるのはどう?」って言われて、楽しそうだったからぜひ!みたいな。
坂倉 PVを作るときって、この曲に一番合う画はなにかって一生懸命考えるんですよ。いろいろ案が上がったんだけど、全員つられたい願望が強くて、満場一致で決定した(笑)。
──今回もですが、皆さんPVでかなり体を張ってますよね。「Broken Youth」では水浸しになり、「妄想隊員A」ではタックルされたり飛び蹴りされたり、「Diver」では水に潜ったり。カッコいいところよりは、面白さに焦点が当たってる気がしますが……。
光村 全然OKですね。面白い作品のほうが観てて楽しいだろうし。むしろじっと楽器を持ってカメラの前に立って、お客さんがいない状況でカッコつけて歌うほうが恥ずかしい。普段の自分たちのノリを出して、喜んでもらえるなら大歓迎です。
古村 実際の俺らって、どうやったら面白いことできるかとか、くだらないことばっかり考えてるもんね。
宙づりは当分いいです!
──撮影はどれくらいかかったんですか?
坂倉 朝9時に集合して、終わったのが翌朝の4時とか。だから合計19時間くらいかな。
──そのうち宙に浮いてる時間はどれくらい?
光村 8割くらいつられてましたね。
──またつられてみたいですか?
全員 当分いいです!
──笑顔にあふれた映像だから、てっきり楽しかったのかと。
光村 いや、最初の4時間くらいは楽しかったんですよ。ワイヤーでつるされて飛ぶなんて経験めったにできないし。でもどんどんハーネスが体に食い込んで、今までのPV撮影とは違う過酷さを味わうことになって。しかも最後のサビのシーンを夜中の2時くらいに撮ってたんだけど、そこで監督が天井から下がってる紙テープの量を減らしたいって言い出して。それを減らすためにスタッフさんが動いたんだけど、その間ワイヤーの取り外しが大変だから僕らはずっとつられっぱなし。
対馬 そしたら限界に達した坂倉の表情がどんどん変わって。
坂倉 カメラが回りはじめたらちゃんと笑顔になったじゃん!
光村 いや切り替わってなかったって(笑)。ただ世界的にみても、ワイヤーで十何時間つられ続けるってなかなかないらしいんですよね。普通はみんな6時間くらいで根をあげるみたいで。専門のスタッフが僕らの辛そうな顔を見て励ましてくれるんですけど、「長時間つられててすごい!」ってばっかりで逆に不安になりましたよ。
対馬 DVDのメイキング映像では、そのがんばってる感を残したかったんだけど、編集で削られちゃって。専門スタッフの証言とか収録したかったな。
体を張りまくった撮影現場
──このPVの見どころをアピールするとしたらどんなところですか?
光村 自慢じゃないんですけど、僕のワイヤーアクションのうまさですかね(笑)。床すれすれまで倒れ込んで、腹筋を使って顔だけ上げて歌うシーンがあったんですけど、ほかのメンバーに比べてうまく倒れられたなって。
古村 あれは確かにすごかった! 足の指と腹筋に力を入れないと、後ろに下がっていっちゃうんだよね。俺はガムテープでつま先を止めてたからなあ。
対馬 俺は一瞬だけ逆さになるシーンに注目してもらいたいですね。ホントは逆さになっちゃいけないタイプのワイヤーだったらしいんですけど、楽しすぎて調子に乗って。あとでスタッフに怒られましたけど。
坂倉 断然笑顔ですね、俺の場合。最初と最後の笑顔の種類が違うんですよ。曲の流れに沿って撮影したので、最初に飛んでいるときの笑顔は素なんですけど、最後は必死の笑顔で。その見比べを楽しんでもらいたいですね。
対馬 (小声で)そこはあんまり推さないほうがいいと思うけど……。
──(笑)。古村さんはいかがですか?
古村 今のところ誰にも言われてないし、気付いてないと思うんだけど。俺も逆さになってるんですよ。対馬君がやってるのを見たらやりたくなっちゃってね。
光村 ホントはNGだったのに、果敢に挑戦して。本当に人の話を聞かない人たちだねえ、君たち(笑)。
坂倉 ちなみに俺もそーっとやってるんだな。
他の全員 やるなよ!
PVはアーティストの世界観をダイレクトに伝えるもの
──自分たちにとってPVはどんな位置付けのものですか?
光村 曲で一番伝えたいメッセージを凝縮した、僕らと監督さんの共同作品ですね。今回は曲の持ってる楽しさを映像に落とし込みたかったんで、こんな映像になりましたけど、「Broken Youth」では鬱屈した思いをぶち壊すっていうメッセージを水で表して。「Diver」の場合は息苦しい思いを、水中に潜ることで伝えたし。
──PVはバンドにとって必要不可欠なもの?
光村 ええ。目に見えない音楽を、映像で表現することってすごく面白いことだと思うんですよね。自分たちの音楽が映像を喚起して、それがPVになるわけだから。ホントはすべての曲に対して作品を作ってみたいくらいなんですよ。
坂倉 PVを観ると、そのアーティストの世界観や雰囲気がダイレクトに伝わってくるじゃないですか。だからすごく大事なツールだと思うし、どんな曲でもNICOらしい映像が作れればいいなと思ってます。
──NICOの場合、映像にもビジュアルもこだわりがありますよね。メンバーが顔を出している作品も多いですし。
光村 でも、曲の大事な部分や伝えたい思いさえ伝われば、顔は出さなくてもいいと思ってるんですよ。曲によりけりだと思ってるし、いつかは自分たちの姿が出てこない映像を撮るかもしれない。だけど今回の「手をたたけ」は等身大の部分が出てる曲だから、それを視覚的にも表現したくて。PVもアーティスト写真も、曲に呼ばれる形で楽しくてカッコいいものに仕上がったと思います。
──今後作ってみたいPVのアイデアってありますか?
光村 うーん。具体的にはないんですけど、関監督に会うと次は何をするかってことばっかり話してるんですよね。どんな映像にするか、じゃないんですよ。
──今回の撮影をこなしたことで、なんでもできるって思われたのでは?
全員 そんなことないですよ!
光村 まあ、体を張りやすい曲を書かなきゃいけないのかなとは思いますけど。
対馬 どんなジャンルの曲だよ(笑)。
NICO Touches the Walls
(にこたっちずざうぉーるず)
2004年4月に光村龍哉(Vo, G)、古村大介(G)、坂倉心悟(B)の3人で結成。同年7月に対馬祥太郎(Dr)が加入し、現在の編成となる。2005年から渋谷と千葉・柏を中心にライブ活動をスタートさせる。2006年2月に初のミニアルバム「Walls Is Beginning」をインディーズレーベルから発表。その後「SUMMER SONIC」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」などの夏フェスやライブイベントへの出演を経て、2007年11月にミニアルバム「How are you?」でメジャーデビューを果たす。2008年9月に1stフルアルバム「Who are you?」、2009年11月に2ndフルアルバム「オーロラ」をリリース。2010年3月には初の日本武道館ワンマンライブを開催し成功を収める。2011年4月には3rdアルバム「PASSENGER」を発表し、ロックバンドとしての新境地を提示。エネルギッシュなライブパフォーマンスに定評があり、多くのリスナーを魅了している。