とにかく立ち上がれと自分に言い続けて
──3曲目の「かかってこいよ」がアルバムのリード曲になっていますが、これがテレビアニメ「メガロボクス」のエンディングテーマという、これまたすごいコラボですよね。
そうですね(笑)。「笑ゥせえるすまん」も復活版でしたけど、50周年を迎えた「あしたのジョー」の再生という形での「メガロボクス」にエンディングテーマで参加させてもらいました。この脚本もすごくのめり込んで読ませていただいたし、曲にたくさんの思いを込めさせてもらいました。
──今回のアルバムの中でも特に強く刺さる曲だと思います。SNSを通じて誰かのことを簡単に傷付けることができる今の世の中に対する違和感を歌われていますね。
携帯などがなかった時代、仲間外れにあったりケンカをしたり、直接相手に汚い言葉を投げかけて「こんなこと言っちゃった」って思うこととか、相手がそれで傷付いて泣くとか。そこで「相手が泣いてもこれは言わなきゃいけなかったんだ」とか「これは言っちゃいけなかった」と自分の心で感じることとか。なんかそういう、目の前に当たり前にあったことが今はSNSという形で……もちろんSNSには私自身も助けられていることはたくさんありますし、意見を言い合うのはすごくいいんですけど、見えない相手と簡単に傷付け合えるという側面については、これから自分が子供を生んだときに心配になるなとも思います。この曲は直接言い合ったり、自分で責任を持って言葉を発するべきだと思って書いた曲です。
──タイトルにもなっている「かかってこいよ」というフレーズはすぐに思い浮かんだものですか?
はい。自分ではあまり言わない言葉だけど、「メガロボクス」の血を流しながら戦う姿って今のアニメではあまりない、すごくリアルな情景ですし。自分がいろんなものにブレたり負けそうになったりすることがいっぱいあるんですけど、でもやっぱりこの場所で音楽をやることに関しては絶対にブレたくないと思ったときに、例え弱っちくても「かかってこいよ」という精神でやっていきたいという気持ちがあったので、真っ先に出てきた言葉です。
──しかもこれ、自分自身に言ってる言葉ですよね。
そうです。誰かにと言うより結局は自分に。負けそうになってもとにかく立ち上がれと自分に言い続けて、自分を奮い立たせる曲です。過去にリリースした「YAMABIKO」という曲があって、それも自分を奮い立たせる曲でしたが、それとはまた違うタイプの自分を鼓舞する曲ができました。
──今の便利になった世の中に対して疑問を投げかけるという意味では「新聞」という曲にも通じるメッセージがありますよね。待ち合わせに誰かが遅れたら駅の伝言板へ、なんて歌詞もありますけど。駅の伝言板って今でもあるんですかね?
どうなんでしょうね(笑)。でも今の若い方の間で「写ルンです」が流行ったりしてるのを見ると、若い方もひと手間かけることは嫌いなわけじゃないと思うし、そういう人間同士のコミュニケーションの大切さは誰が若い方に伝えるかと言うと「私たちしかいないんだろうな」と思って書いた曲です。
──大人になるとだんだん若い世代に自分たち世代の思いを発することに対して「どう思われるかな」ってためらう部分もあると思うんですけど。すごく勇気を持って伝えてらっしゃるのがすてきだと思います。
若い方に伝えるのってホントに難しいんだろうなと思いつつ。でも、まずは若い方に「これってカッコイイんだ」って気付いてもらうことが大事で。「Nakamura、そうだよね!」っていう共感が広がって行ったらいいなと思うので、今、学校などでもライブをさせてもらえるような動きを少しずつしています。そこでライブを観てもらって何か感じてもらえることがあったらうれしいです。
──「新聞」は音作りにも温かさを感じますが、サウンド面ではどうですか?
すごくシンプルなことを歌ってる曲なので、音もなるべくシンプルに。弦の音を入れたり、あとはパソコンでキーボードを打つ音を入れたり、新聞をめくる音とか、日常生活の音を詰め込みました。いつも歌詞に合った音を入れるようにしています。
初めて「若い方に聴いてもらえたら」と
──そして「教室」の歌詞はかつて自己中心的だった自分を自分で変えていったという実体験が元になっているそうですが。それはいつ頃の経験なんですか?
小学生から中学生にかけて、私は本当に自己中で“ザ・性格悪い人”みたいな感じでした(笑)。すごく気分屋で、みんなで何かをやるときも「そういう気分じゃない」とか言って。相手のことを考えず自分の気分だけで行動していたし、友達と一緒にトイレに行くこととかも本当に嫌で。しかも心の中で思ってるだけではなくて「なんでそういうことするんだろう」とか「別に行きたくないし」とか口に出したりしてたんです。クラスメイト全員を敵に回すようなことをしていたし、仲間外れにされて当たり前の性格をしていたんです。それが続いてずっと教室に1人きりみたいな状況になって、「この感じで中学3年間ってキツイなあ」と思って、そこから自己中心的な性格を封印して、みんなといざこざを起こさないように「そうだねー」とか言いながら過ごしていました。
──どうしてそこまで自分を変えられたんでしょう。
その頃、周りでも世の中的にもいじめが流行り始めて。うちの親もそういうことを心配していたので、自分も「なんとかこの状況を変えたい、自分を変えるべきなんだ」と素直に思ったんです。そこからは女の子の友達にトイレに誘われたら行きたくなくても行くようにして。そうすることで嫌われなくなりましたけど、今度は意見が言えない大人になっちゃって。
──でも、もともとは自分の意見を強く持っている子だったんですよね。
思春期に自分を抑え込み過ぎちゃったから抑えることが当たり前になって、社会人になったときに自分の意見が言えず流れに流されちゃうようになったりして。だけどこうして音楽のお仕事をさせてもらう中で、中高生と触れ合う機会をもらって「自分もそうだったなあ」って気付くことも多かったんですね。なので、もし過去の私と同じように悩んでいる方がいたら、どこかで伝わればいいなと。私の歌は基本“自分のための歌”なんですが、「教室」は初めて「若い方に聴いてもらえたらうれしいな」と思いながら書いた曲です。
──Emiさんは「教室で起こることが世界の全てで」ということをまさに体感して、自分自身の在り方さえも変えてしまった。
ホントにそうですね。思い悩んでプチッとキレてしまったり自分の命を断ってしまったり、そんな選択肢しかなくなるほど追い詰められている人に「教室」を聴いてもらえたら。私が自分を抑え込んだのもある意味、生きるためだったし、そういう時期があったからこそ今こうして自分の中の葛藤から曲が生まれてるんだと思うんです。あのときの自分の判断があったからこそ今の自分がある、それでいいんですけど、どうか最悪な方向にだけは行かずにどこか広い目線を持ってもらえたらと思います。
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自分自身を貫けばよかったんだな
- NakamuraEmi「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5」
- 2018年3月21日発売 / 日本コロムビア
-
初回限定盤 [CD]
2916円 / COCP-40289 -
通常盤 [CD]
2916円 / COCP-40297※初回限定盤が終了次第、通常盤に切り替わります。
-
アナログ盤 [アナログ]
4320円 / COJA-9330
- CD収録曲
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- Don't (Album mix)
- N
- かかってこいよ
- 新聞
- 波を待つのさ
- 星なんて言わず
- 教室
- モチベーション
- アナログ盤収録曲
-
SIDE A
- Don't (Album mix)
- N
- かかってこいよ
- 新聞
SIDE B
- 波を待つのさ
- 星なんて言わず
- 教室
- モチベーション
ライブ情報
- NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5 ~Release Tour 2018~
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2人編成公演(NakamuraEmi、カワムラヒロシ)
- 2018年5月2日(水)群馬県 高崎clubFLEEZ
- 2018年5月3日(木・祝)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
- 2018年5月9日(水)石川県 金沢21世紀美術館シアター21
- 2018年5月10日(木)新潟県 ジョイアミーア
- 2018年5月13日(日)高知県 X-pt.
- 2018年5月15日(火)京都府 磔磔
- 2018年5月16日(水)兵庫県 チキンジョージ
- 2018年5月18日(金)熊本県 熊本B.9 V2
- 2018年5月19日(土)長崎県 DRUM Be-7
- 2018年5月22日(火)岐阜県 岐阜club-G
- 2018年5月23日(水)三重県 M'AXA
- 2018年5月26日(土)広島県 Live Juke
- 2018年5月27日(日)岡山県 DESPERADO
- 2018年5月30日(水)福島県 郡山CLUB #9
- 2018年5月31日(木)宮城県 仙台MACANA
- 2018年6月2日(土)北海道 函館あうん堂ホール
- 2018年6月3日(日)北海道 cube garden
バンド編成公演
- 2018年6月22日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2018年6月23日(土)香川県 DIME
- 2018年6月27日(水)東京都 EX THEATER ROPPONGI
- 2018年6月30日(土)大阪府 BIGCAT
- 2018年7月1日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- NakamuraEmi(ナカムラエミ)
- 1982年生まれ、神奈川県厚木市出身。2007年に中村絵美としてアーティスト活動を開始。2011年頃、カフェやライブハウスで歌う中で出会ったヒップホップやジャズに影響を受けて、歌とフロウを行き来する現在の独特な歌唱スタイルを確立。NakamuraEmiとして新たに音楽活動を始める。2012年10月にシングル「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.1」をリリース。翌年にはミニアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.2」を発表する。2014年7月にはAugusta Campにオープニングアクトとして出演。2015年にはミニアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.3」をリリースし、7月に行われたライブでオフィスオーガスタへの所属と日本コロムビアからのメジャーデビューを発表した。1月20日にデビュー作となる1stアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST」をリリース。2017年3月に2ndアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4」を発表し、5月にはテレビアニメ「笑ゥせぇるすまんNEW」の主題歌「Don't」を担当する。2018年3月に3rdアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5」を発売し、5月からは今作のリリースを記念した全国ツアーを実施する。