NakamuraEmiがメジャー3作目となるニューアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5」を3月21日にリリースする。

ヒップホップに出会ったことが今の音楽スタイルを確立するきっかけだったと言う彼女の歌は、鋭い言葉が透明感のある声で伸びやかに放たれる。その言葉は外側よりも内側、つまり自分自身に向けられているものだが、リスナーの胸の内にも届く熱さを持っている。今作にはメジャーデビュー後の環境の変化の中、幾多の出会いによって生まれた楽曲が収録された。このインタビューでは、テレビアニメやCMなどに向けた楽曲の書き下ろしなど新たなことに挑戦しながらもブレることがない、その信念についても聞いた。

取材・文 / 上野三樹　撮影 / moco.（kilioffice）

少しだけ広く、客観的に世界を見て

──メジャーデビューから2年、アルバムは3枚目のリリースですね。音楽活動が本格化する前は会社勤めをされていたということですが、それはどのくらいの期間だったんですか。

20歳から32、3歳まで会社を転々としたり、バイトしたり、いろいろしていました。二十代後半までは「メジャーデビューしたい！」とか、よくわからず言っていて、音楽をやるために仕事をする、という感じだったんですけど。三十代手前でヒップホップと出会って自分の生ぬるさに気付いてから、音楽は趣味にして「まずは仕事をがんばろう」となったので。仕事に対してちゃんと向き合ったのは三十代になってからなんです。

──仕事に対するモチベーションが変わったときにご自身の夢も動き出した感じだったんですか。

そうですね。仕事をメインでがんばるようになってから、書く歌詞が変わってきて。でも当時の自分は「結婚したい」という気持ちがあって、相手もいたし、だから音楽はホントに趣味でと考えていたんですけど、結局はフラれちゃったこともあって何をしたらいいかわからないという状況で。そのときに今のプロデューサーのカワムラヒロシさんがヘコんでる自分をいろんな地方に連れ出して、ライブをさせてくださったんです。そういうことを続けていく中で今のマネージャーさんに出会わせてもらって。その出会いがなかったらこの世界に飛び込もうと思えていなかったですね。

──メジャーデビュー後は環境も変わったと思うんですけど、歌うことのテーマは変わりましたか。

変わりました。最初の1、2年は音楽業界のスケジュールや流れに自分が追い付くこと、1つひとつをこなすことに精一杯だったので何も考える余裕はなくて。新しい環境の中でとにかく自分がブレないように活動していたのが最初の1年。2年目になってからは周りの人がいる中で自分が見られる立場であることを感じるようになって、今回のアルバムの歌詞が少しずつできてきた感じです。今までは会社の組織の中で「自分はダメだな」と思う感じだったけど、私はもう会社の人でもなくなったし、でもまだ音楽業界にもなじめていなくて。そのなんでもない自分が、初めましての方にとにかく出会ってきた2年間だったので、その中で少しだけ広く、客観的に世界を見たという初めての経験が今回のアルバムにはたくさん入っています。

応援歌なんてとんでもなかった

──1曲目「Don't」はテレビアニメ「笑ゥせぇるすまんNEW」のオープニングテーマとして書き下ろされたそうですが。

はい、初めて書き下ろしに挑戦しました。「笑ゥせぇるすまん」にどこか私らしさがないと書けないなと思っていたんですが、アニメの世界観と自分の言いたいことが共通していたので、自分らしいお仕事ができてありがたかったです。アニメの中で喪黒（福造）さんが「ドーン!!」とやる大人って、満たされすぎてどんどん欲望があふれ出したり、自分ばっかりで周りが見えなくなっちゃったりしている人。大人になるほどずる賢くなったり欲深くなるところが自分にもあるし「そのままでいいのか？」って問い正すために曲を書いていたりするので、「訴えかけるところが一緒だな」と思いました。アニメのスタッフの方々も私の活動をすごく応援してくださったので、初めてのタイアップでしたが温かい環境でやらせてもらえたなと思います。

──2曲目の「N」はパラアスリート、走り幅跳びの中西麻耶選手との出会いから生まれた曲ということですが。彼女との出会いはどういう経験でしたか。

去年、一番の大きな出会いと言うぐらいの経験でした。私は幼稚園の先生をやっていた時期があって、そのときに障害のある子供のお母さんと話したりしてその大変さをわかっていたからこそ「どう接したらいいのかな」と思っていたんですけど……中西さんはそんなどころじゃない、いろんなものを乗り越えた、すごく大きなキャパを持った女性で。誰よりも明るくて、本当の自分を持っている強さがあって、周りの人が一気に引き込まれていく。自分の弱さを乗り越えてきた人の明るさと強さを出会ってすぐに感じました。障害がどうとかって考える前に、まずこの人が何を考えているのか知りたかったし、こうやって健常者がすごく生きやすい日本で「どうやって生きていくか」を考えている人を目の前にしたときに、もっと障害を持っている人たちが当たり前に生きられる世の中にしなくちゃいけないなと感じました。「障害を持つ方が曲を聴いてどう思うか」とか最初はすごく考えちゃったんですけど、まずは自分がどう思ったかを書こうと思うようになりました。

──冒頭から「あなたの応援歌を書くつもりだったなんて 百万年早いことがすぐわかった」と歌詞にありますが、すごく正直な体験を書かれているからこそ、Emiさんの思いがまっすぐに伝わってきます。

ありがとうございます。ホントに応援歌なんてとんでもなかったですね、こっちが応援されて帰ってきました（笑）。NHKの番組でお会いするきっかけをいただいて私がインタビューをする側だったんですけど。1時間半くらいゆっくり話させてもらって、あとはお昼ごはんを一緒に食べに行ったんです。それからは彼女が東京に来るときに一緒に飲みに行ったりさせてもらっています。前回の大会のときにはこの「N」を聴いてくれて、銅メダルを取って、そのときの話を私にしてくれる、そんないい友達ができました。